「愚直な努力」で成し遂げた3度のIPO
株式会社ショーケース・ティービー
取締役管理本部長 佐々木義孝

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■雪景色がはぐくんだ(?)「企業参謀」の夢

Q:北海道のご出身だとか。

A:はい。北海道の留萌(るもい)というところで。とにかく、「東京に行きたい」という気持ちが強くて、高校2年ぐらいから猛勉強しました。それほど成績が良い生徒ではなかったのですが、なんとか浪人せずに明治大学に進学して上京しました。

Q:それほど強い、「東京に行きたい!」という思いはどこから。

A:いろいろなチャンス、可能性がある場所だから見聞を広めたい……というのは、半分本気、半分建前で、一番の強い動機は、雪が嫌いだったからです。(笑)

Q:雪、ですか。

A:北海道に雪が多いことは、みなさんご存じだと思うのですが、日本海側の留萌はとくに雪が多い時域で、11月の頭からもう根雪が積もっちゃうくらい。多い年だと、ゴールデンウィークになっても校庭に雪が積もってるんですよ、想像できます? 7カ月、ひたすら雪かきを続ける毎日ですがもう、本当にイヤでイヤで! 僕は野球が好きだったので、GWになってもまだグラウンドが使えないという、それもつらかったですね。

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Q:苦難の18年間だったわけですね。

A:だから、「とにかく、ここから出たい!」と(笑)。でも、東京に行って見聞を広めたいというのも本当ですよ。なにしろ、当時大好きな野球もプロレスも、間近で見られる機会がたくさんありますし(笑)、それに、本当に漠然とですが、当時から今の働き方に近い未来を思い描いていましたから。商学部ですし、会計に強くなって企業の参謀的な立場になるのがいいな、とか。

Q:それは、だいぶ早いですね。

A:何ででしょう。やはり、実家が自営業だったことが大きいかもしれませんね。決して上手くいっていたわけではなく、どちらかというとカツカツで、親からはずっと「公務員になれ、安定した仕事に就け」と言われてました。その影響で、「だとしたら、会計の勉強をして…」などと自然と考えるようになって。「できれば組織のトップにはなってみたいけれど、ナンバーワンよりは2番手、3番手の方が向いているし、おもしろいかな」とか。あくまで漠然とでしたけどね。

Q:ただ、そうおっしゃる割には、案外波瀾万丈の人生を歩んでこられたとか。

A:そうですね。一番の問題は、受け身過ぎたことでしょうか。大学時代、国税専門官といういわゆる“マルサ”を目指す形で公務員になろうと勉強はしていたんです。でも、どこかに「どうせ、親に言われたことから」という反発心に近い気持ちがあったり、かといって、「反発したところで他にやりたいことがあるの?」と言われればそうでもなかったり、すべてがなんとなくだったから、就職がらみの試験にはぜんぶ落ちてしまったんです。当然と言えば当然なんですが、社会に出る最初の段階で躓いてしまったんです。

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Q:それで、どうされたんですか。

A:とにかく、実家に帰るという選択肢はないので、1年遅れで就職活動をして、バッテリーフォークリフトを開発した会社に営業職で入社しました。最初のうちは、「営業で社会の厳しさを知る!」とか「人間力を高める!」とか、まぁ、肩に力も入っていたのですが、残念ながらそれほどおもしろい仕事ではなく(笑)。しかも、2〜3年したところで、山一証券や拓銀、長銀もつぶれた、あの金融危機がやってきて、「会社にしがみついてちゃダメだ。やっぱり(会計士の)資格を取って独立しよう!」なんて思って、後先考えず辞めちゃったんです。若気の至り以外の何者でもないですよね…。結局、1年もしないうちに貯金も早々に底をつき、あと、腰のヘルニアを悪化させて勉強どころじゃなくなってしまって、また就職活動。このときに、母校の就職課から「第二新卒でもいいというベンチャー企業があるんだけど」と紹介されて、初のベンチャーで経営企画室所属となるわけです。

■IPOの成功で人生も運命も大きく変わった

Q:プロフィールでは、バッテリーフォークリフトの会社(日本輸送機/現・ニチユ三菱フォークリフト)の後はプロパストになっていますが、他にもご経験なさっているんですね。

A:プロパスト(佐々木さんが最初にIPOした不動産ディベロッパー)にたどり着く前に、実はベンチャーを3社ほど経験していまして。非常に長いんですよ、僕、今に至るまでの道のりが。業種もコンタクトレンズの小売りだとか、ICチップだとか、不動産ベンチャーだとか。漠然と描いていた「企業の参謀」に近づくために、とにかくIPOのスキルと実績を付けたいと思ってもがいていたんですが、結局3社ともダメだった。どの会社も「株式上場を目指す」といいながら、途中でうやむやになったり。挙げ句、パワハラされたり、倉庫業務に回されたり、会社が粉飾やインサイダーまがいのことをしていて地検に入られたり……。どれがどの会社とは言いませんけれど、この期間は一番つらかったです。

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Q:その紆余曲折を経て、ついにプロパストでIPO。

A:1年9カ月ぐらいかけて初めて上場できたんですよね。ここで運命が大きく変わりました。「ひとつの成功でこんなに変わるんだ!」と、驚くくらい。直前まで、完全に自信をなくしていたんですよ、僕。「本当は、ルーティンワークしか出来ない人間なんじゃないか?」なんて。そのとき、ハローワークでたまたま見かけたのが、プロパストの“上場準備経営企画室長”だったんです。

Q:ハローワークからだったんですね。まさに運命的ですね。

A:上場直後からすごかったですね。外資系証券からもどんどん電話がかかってきて。「IPOするとバリューがあがるんだ」という強い実感が持てました。チャンスや人脈も、こちらが積極的に動けばどんどん出来ていく。そこからは、今まで足踏みしていた分を取り返す意味でも、本当に自分のバリューを高めるためにだけ、ひたすら頑張った感じです。

Q:ご自身で一番変わったと思ったのはどんなところでしたか。

A:自信です。実績ができたことで出来ることや人脈が増えていって、失っていた自信が裏付けのある、しっかりとした自信へと変わりました。

■1,2度の失敗であきらめるのは自信過剰

Q:とはいえ、プロパストで成功するまでに挫折経験を何度かされていますよね。それでも立ち向かっていった佐々木さんのモチベーションって、どこに源があるんでしょう。

A:もともとは、悲観的で後ろ向きな性格ですよ。でも、それじゃダメだなと思ってるし、やっぱり自分を高め続けたいという欲求がどこかしらにあるんです。苦難に遭ってもくじけずに成功を目指すことが、人格向上につながると思っているからかもしれません。

Q:“人格向上”をさせたいと思うのはなぜですか。

A:なんででしょう。みなさん、当たり前に持っている気持ちだと思うんですが、違いますか?

Q:少なからずあるとは思いますが、20代の頃の佐々木さんのように上手くいかないことが続いたら、心が折れてしまう人の方が多い気がします。

A:僕は、親が自分に対して否定的で、「おまえなんかダメなやつだ」とずっと言われてきたので、そこに対する反発心は根底にあるかもしれません。

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Q:見返してやりたいという。

A:そうですね、認められたいという気持ち。一方で、「そうだよな、自分には才能とか潜在能力とかないもんな」という気持ちもあって、僕なんかはもう、人の2倍、3倍、10倍ぐらい粘らないと成功なんて出来ないと思っているんです。いっぱい失敗して、失敗から少しずつ学んで。でも、それが僕にとっての普通。確かに、つらくて辞めたいと思うところまで行きましたが、逆に1,2回の失敗であきらめるのは、心が弱いんじゃなく自己過信が過ぎているからじゃないかと思うんです。過大評価しているから、出来なかったときのショックが大きいんじゃないの、という。

Q:耳が痛い話ですが、言い換えれば自分を客観視できているかということでもありますね。

A:そうですね。マネジメントするうえで、僕も客観性は一番に心がけています。自分の思い通りに部下を動かすマネジメントスタイルもあるでしょうが、僕は能力がない分、みなさんの力を借りないと成し遂げられない。だから指示を出すというより、目的を共有してそれぞれに裁量を持って動いてもらうかたちです。最後に責任を取ればいいわけなので、自分は。松下幸之助さんも稲盛和夫さんも同じことを言っていますよね。

Q:振り返ってみると、IPOが出来た会社、出来なかった会社、何が違いましたか。

A:ひとつ大きいのは「社長の思い」ですね。本気度というか。「何が何でも上場する」というがむしゃらな気持ちがあるかどうかは、単純だけれど本当に大切だと思います。例えば、僕が関わってきた上場を果たした会社では、主幹事証券さんとのミーティングに、社長も必ず出席してました。実務レベルの会議なのに、ちゃんとスケジュールを合わせるんです。やむなく欠席する場合も必ず出席者から細かに報告を受けて。そういう細かなところに、本気度がでるんじゃないでしょうか。業績が良ければ上場できるというものではないんですよね。

Q:なるほど。

A:あと、今まではオーナーとして思い通りの経営ができていても、上場するとさまざまな制約が発生する。そこを我慢できるか出来ないかも重要です。そこは、CFOの働きかけも大きいかもしれませんね。いかに「上場優先で、ここは我慢しましょう、社長」みたいなことが言えるかどうか。そして、それを聞き入れてもらえるほど信用されているかどうかでしょうか。信用されてましたもん。上場したところでは、どの会社でも(笑)。

Q:これまで上場された会社のその後を差し支えない範囲で教えていただけますか。

A:実は、これまで関わった3社はすべて、上場申請期及びその翌期に業績予想の下方修正をしたことがなくて、ショーケース・ティービーは第2四半期で上方修正して、最後も上方修正、プロパストも上方修正ですね。トランザクションは上方修正とまでは行きませんでしたが、ほぼ予想通りの業績で着地しています。

Q:素晴らしいですね。

A:すいません。ちょっと自慢みたいになってしまって(笑)。僕は結構慎重で、予実管理とかをものすごくしっかりやる方なんです。大風呂敷を広げておいて、上場したとたんに下方修正といったことは絶対にやりたくない。そうじゃない、社長のための上場ではないよねということで、株主の皆さんに申し訳ない結果にならないように突き詰めます。

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■CFOにとっての顧客は“お客さま”と“現場のメンバー”

Q:佐々木さんにとってCFOとはどういうものなんでしょう、役割的な意味でも。

A:かっこよく言うと、「会社の経営戦略を具象化する最大のサポート役」でしょうか。目標と現実のギャップを測って、必要な課題や戦略を描く。それが経営ボードの役割ですが、そこから経営の重要リソースである「ヒト・モノ・カネ・情報」を調達するのがCFO、そのリソースを使用するのがCOO。理想を言うなら、CFOがCFOだけで終わるのではなく、COOも担えるCFOになりたいですね。

Q:これからCFOを目指す人にアドバイスはありますか。今後の上場を目指している企業もたくさんありますし、若手だけじゃなく、そういう会社で働くCFOの方にもひと言。

A:よく「経営者視点を持て」って言いますよね。それは本当にそうだし、自分も過去のインタビューで言っています。でもこれ、当たり前のようでいてちゃんと出来る人は少ないんですよ、「自分の上には社長がいる」と思ってしまうから。そうじゃないんです、経営者視点というのは、“経営ボードの視点”ではなく “社長の視点”でものを見るということ。その視点で、会社に求められていることを考えて動くと、ぜんぜん違ってくるんです。
良くないなと思うのは、自分の権限を逸脱しないCFO(笑)。「資金を調達してくればいい」「資産管理が出来ていればいい」というのは、もう、僕的にはCFOじゃない。事業というのは顧客ありき。CFOもお客さんの方を向かないとダメだなと思うんです。

Q:それが、先ほどの「絶対下方修正しない」ということにつながるんですね。

A:ただ、お金を払ってくれるお客さんだけが“顧客”ではないと僕は思っています。現場のメンバー、それもCFOにとっては大事な“顧客”ではないでしょうか。管理者というだけで、偉そうにしている人も少なくないですが、それでは絶対ダメだと思います。常に現場に対する「おもてなし」の気持ちを持って、どうしたら働きやすくなるのか考えることも重要な役目ではないでしょうか。———といった話を書籍にしたためましたので、ぜひご一読いただければと(笑)。

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