「泣くほど本気出してないんです」 スマートエデュケーション CTO 谷川裕之

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学生時代にグラフィックデザイナーを目指してカナダに留学。その後、SI企業に就職しプログラマーの道へ。ネットベンチャーを経て、フリーランスエンジニアとして活動。

モバイル向けSNS開発、ソーシャルゲーム開発や、ソーシャルゲームプラットフォームの開発に携わる。

現在は、スマートエデュケーションにてCTOに従事。

Q:谷川さんのこれまでのご経歴を教えて下さい。

 僕はもともとはデザイナー志望だったんです。子供の時からいうと、すごく絵が好きで、小学校の頃は漫画家を目指してたんです。よく、僕がやってたのは、コミック1巻を、丸コピーするっていうのを、写経みたいな感じで。

 ドラゴンボールとかのキャラクターを完璧に描いたりして、小学校とか中学校では、周りの皆から僕は絵が上手い人、みたいな。そこからの流れで、デザイナーとかなりたいなっていうのがあって。大学生の時に、中村勇吾さんって世界的に有名なFlashのデザイナーさんにすごい憧れてたんです。インタラクティブなアニメーションを、広告とかで使ってたりして。それで僕も何となく、Webとデザインというのをキーワードにして大学生の時はやってきたんですけど。

 それで、デザイナー志望で就職活動をしたんですが、でもあんまり上手くいかなくて。デザインの大学でもないですし。でもこの頃って、SEの大量募集が結構ある時代で、何となく受けた会社が受かって、そこに行く事になり、プログラミングをやってみたら、結構合ってたっていうか。もともとデザインやりながら、Flashのプログラミング的な事をやってたりしたので、Webで何か作っていくのが面白いなっていうのがあったんですけど。そういうのから今に至る、みたいな感じです。 

 最初に入った、SEの会社って結構大きくて、自分でプログラミングが出来るのは、若手の2年ぐらいで、そこから先は皆、みんなマネジメント側に移るんです。でも、僕が普段インターネットで得ている情報では、世の中では若い人達がどんどんネットベンチャーで活躍していて、自分もやっぱりコンシューマ向けのWebサービスをやりたいなっていう気持ちが大きくなって。それで、小さなベンチャー企業に移りました。

 

Q:小さなベンチャーでの経験をもとに、5人で新しい会社を立ち上げた経緯は?

 私個人はフリーランスだったので、面白い話があればすぐに乗り移れる状況でした。ちょうどガラケーからスマホへシフトしているタイミングで、僕以外の他のメンバーは、スマホの領域で何か新しいことにトライしようと考えていて、教育というキーワードに着目して起業しようとしていました。そこでたまたま話を聞く機会があったので、一緒にやることになったという感じです。

 

Q:最初は、何するかは決まっていなかったんですか?

 「教育」というのは決まっていたのですが、今のように子供向けアプリ、ではありませんでした。その頃は、iOSのランキングを見ても、英語学習のアプリが多くて、大人向けのTOEICの学習みたいなアプリが儲かっているような流れだったんで、それをやろうかと。

 

Q:そこから知育に転換したのはどうしてですか?

 当初、3チームあったんですけど、2チームが大人向け教育みたいな、1チームは新しい会社なんで、新しいチャレンジしようみたいな感じで、そこで知育をやろうという感じになって。

 今まで、ガラケー向けに作っていたコンテンツは、自分の子供はガラケーのコンテンツなんか全然使ってくれないんですよね。ただ、スマホになった瞬間に、スマホ自体を触りたいし、コンテンツも使いたいし、勝手にアプリを入れて遊んでたりする。それを見た時に、子供向け教育やりたいなということになりました。

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Q:谷川さんにとって、CTOの役割って何だと思いますか。

 結構、色んな人が、色んな定義をすると思うんですけど、僕はその会社のステージによって大分違うかなと思っています。最初の創業の時は、CTOというより、単純にエンジニアとして、リードディベロッパーとして自ら開発しますし、技術的な事を決定することはありますが、規模が大きな会社のCTOがやっている事とは少し違います。今はメンバーが増えたので、組織を作るとか、文化作りというか、そういう所に重きをおいたりしています。

 会社のステージによって役割も内容も色々変わっていくし、技術的な要素もその時々で常に変わっていくので、CTOをそれを常に考えている人、かな。CTOがいないと、技術的な事を常に捉えて考えている人はあまりいないので、そういう「血」をずっと会社に流している役割なのかなと思っています。

 

Q:CTOは技術という「血」を会社に流す人なんですね。

 そうですね。地道にみんなの意識を変えたり、仕組みを作る活動をしていくということをやらないと、うちのようにエンジニア以外の人も多い会社だと、ものを作っていく上で成長はないように思います。

 知育アプリって実は技術的な部分がとても重要だったりするのですが、うちの創業者メンバーでエンジニア出身は僕だけなんです。だから、その部分では、僕がしっかりしていかないといけないのかな、と。CTOは「技術的な想い」とか「血」とか、少なくとも技術的な面で会社にいい影響を与える役割だと思っています。

 

Q:今、目指しているものは?

 いつからか忘れましたけど、「世界を目指す」っていうのは、かなり昔からキーワードとしてあります。例えば、インスタグラムが僕の中ではロールモデルのひとつなのですが、少ない人数で沢山の人が毎日使ってくれるようなものを作る、というのが目標ですね。

 今やっている知育アプリにもつながる話なのですが・・・、普通にゲームとかやっても、世界に出るのは難しいなと思っていて、知育をやったら可能性はある、と。他にもやっている人はそんなに多くないし、やる価値はあるかも知れない。しかも、日本は少子化ですし、それを見ても、「世界を目指す」というのは必然的に目標に出てくるんです。

 

Q:「少ない人数で」というのは、何かこだわりがあるんですか?

 大きな人数だと、大きな仕事出来るって、普通かなと思うんです。でも、小さな人数で大きな事成し遂げるって、結構、今の時代でやっと出来るような、ITの時代になってやっと出来るというか。

 あと、エゴ的な部分ですが、注目された時に違いますよね。沢山のメンバーの中での歯車ではなくて、少ない人数で成し遂げた時は一人一人の貢献度が大きいですよね。それがやりがい、というところもポイントかも知れないですね。

  

Q:エンジニアとして、伝えたい事ってありますか。

  伝えたい事・・・。これまで僕はその都度、気が向いた事をやってきたんです。でもその時は、コンプレックスがあって、自分の中ではっきりとやりたい事がなくて、フラフラフラフラと都度、やりたい事やってるみたいな。でも、後々考えると、全部つながってきていて。昔、デザイナーやりたいなとか思っていたのも、結局はスマートエデュケーションが始まった時に僕がデザイナーやって作ったりとかもしたので、つながっていますし。エンジニアでありデザインの事も、多少は分かるみたいな事って、結構強味だったりとかして。それまでは、全然そういう気づきはなかったんですけど。小さな会社に入ったこととか、自分に合っている環境に入って初めて、色んな事がつながったりとかして。

 伝えたいこととしては、色々回り道のようなことをやることもあるかもしれないけども、中長期的には色々なものがつながっていくよってことですかね。そして、すぐに結果を求めないで今を地道にやっていくというのは大切だということです。あとは、「自分の意思に正直に生きていく」というのが大事かなと思います。そこで、失敗しても納得出来ますからね、自分としては。

 流されてやるよりは、自分の思いに沿った方がいいですよね。それはそれですごく難しいことでもあると思うんですけど。

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Q:やりたい事がなくて悩んでいた時期があったんですね。

 というか、やりたい事はいっぱいあって、突き詰めていくものがどれかわからないのに悩んだ時期はありました。

 時代的なものだと思うんですけど・・・、その頃、就職氷河期といっても、ネットも出てきて、情報も沢山手に入るし、選択肢はめちゃくちゃあるんです。情報も知らなければ知らないで済む話で、知らない公務員になって、それで生きていくっていうのもあったんでしょうけど。僕はコンピューターが好きで、ネットが好きだったんで、下手に情報いっぱい持っていて、色んな人の成功体験の例みたいなのをよく見ていたから、やる前から余計に悩んじゃいました。

 若い人もそうですけど、意識の高い学生の方って、色んないい大人を沢山見てきて、成功モデルをたくさん見てきて迷う。入っちゃえばいいのに、一社目をどこにするのかに気をつかったりして。やりたい事いっぱいあったけど、自分の中で自信を持ってこれだって言うのはなかったんですよね。

 

Q:今はどうですか。

 今もないですね。悩んだりはしないですが。

 

Q:そうは言っても、本当にない人よりは、凄いエネルギーがありますよね。それは何でしょうか。

 多分、ハングリー精神みたいなものだと思います。

 自分が理想としている20%までしか、達成出来ないんですね。常に満たされないものがあるというか、いくら自分が力出しても、結果は20%しか出来ないですし、本気も出せないんですね。

『プロフェッショナル』で見たんですけど、イチローが首位打者取れなかった時の話で。ギリギリ2位になったことが決まって、守備についた時に泣いてたんですよね。それ、凄いなと思って。

泣くほど、僕は本気出してないっていう、コンプレックスみたいなのありますね。

 「泣くほど、本気出してない」って書かれたら嫌ですね。(笑)

 

Q将来エンジニアになりたい人、CTOを目指している人に、メッセージを。

 個人的にはエンジニアになりたい人で素養がある人は、勝手にエンジニアになってしまうと思います。なので、エンジニアになりたいと思っていて、まだ手を動かせてない人は行動したほうがいいでしょうし、なにか動機がないと手を動かせないというのは今の時代でエンジニアをやるのは厳しい感じはします。

 CTOに関して、そのポジションは目指すものか分からないですが、単なる役割で、会社によっても役割が違うと思うので、まずはそこを見定めるのが重要だと思います。

 弊社だと採用的な観点や、開発のクオリティを上げる観点等からCTOというポジションが必要だということになってますし、その役割をたまたま僕がやっているというだけです。

 なんとなくエンジニアとして優れた人をCTOと考える風潮もあるかと思いますが、エンジニアで技術を突き詰めていきたいんだったら、CTOはやらないほうがいい。ずっとコーディングしているようなパソコン少年をやってたが方いいと思います。僕はパソコン少年を支える仕事をしたいという気持ちがあるので、CTOという役割をやっている感じです。

 個人的にはタイミングよく巡ってきた機会なので、なにか良い変化があるといいなと思いやっていますけど、CTOは目指すものではないと思いますね。

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