「COOとしてCEOと一生を共にする覚悟を持つべし」
株式会社ウィルゲート 専務取締役
吉岡 諒

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■略歴

1986年岡山県生まれ。
慶応義塾大学経済学部出身。
小学校の頃からの幼馴染であり、現株式会社ウィルゲート代表の小島と共に18歳でネットビジネスを開始して、2006年に同社を設立。
設立間もなく組織の内部崩壊によって倒産危機に陥るが、それを乗り越えて同社を業界トップクラスの企業へと導く。
当時は、たった一人で100社の既存クライアントに対応しつつ新規開拓も行っていた。
累計2,800を超える企業にWebマーケティングノウハウの伝授と技術支援を行った実績をもち、現在はコンテンツマーケティング事業部、および事業戦略室の責任者を務める。
ヒト・モノ・カネ、本当になにもないゼロから、圧倒的な情熱と行動力で事業・組織を創りあげた。

Q:小島さん(小島梨揮/株式会社ウィルゲート代表取締役)とは幼少期からのお付き合いだそうですね。

そうですね。小島と私はともに岡山県出身で、小学1年生からの親友です。本当に仲が良く、週の半分は彼の家に泊まっていました。印象に残っている思い出は、小学4年生のときに一緒に始めたドッジボールです。小島がキャプテン、私が副キャプテンを務め、チームで日本一をめざしていました。今振り返ると、すでにお互いの立ち位置が決まっていたのでしょうね。
小学校、中学校をともに過ごし、小島は上京して慶應義塾高校に、私は地元の高校に進学し、2人とも慶應大学経済学部に進みました。私は勉強で精一杯でしたが、小島はエスカレーターで大学に入れることがほぼ確定していたので、高校生ながら将来について思案していたようです。2年生の時点で起業することを決意し、「大学に入ったら一緒にビジネスをやろう」と誘われました。そして、卒業式の3日後から小島の家に半ば強引に連れ込まれ(笑)2人で起業の準備を始めたんです。
当時は本当に大変でしたね。上京初日に当時としてはスペックの良いノートパソコンを渡され、全額を要求されました(笑)そこで頼みの綱のお年玉貯金が半分以上なくなり、さらにHTML、CSS、Perl、PHPのプログラミングの本を積まれて「1週間くらいでマスターしてくれ」と言われたんです。私はパソコンに関しては電源の入れ方もわからないくらいの初心者だったので、本当にゼロからのスタートという感じでした。

Q:技術の習得にはどれくらいの時間がかかりましたか?

1週間で一通りのことはできるようになりました。最初に取り組んだのはホームページ制作ですね。当時はSNSもそこまで流行っていなかったので、地元の友達が集まる社交の場をオンライン上に作ることにしたんです。そこにアクセス解析やアクセスカウンターも設置してコミュニティの活性化を図りました。
翌週からは、小島が起業前に修業をしたいということで、レディースアパレルブランドのEコマースを始めることにしました。これには小島も相当気合いを入れており、当時としては珍しいショッピングカート機能付きのECサイトを完成させたのには驚きましたね。まずは海外から日本未発売の人気ブランドの服を買い付け、私はマーケティング担当としてリスティングを打ったり、メルマガを配信したりしていました。この頃にはAdobe FireworksやIllustratorも使えるようになったので、最初の1ヶ月弱で身につけたスキルで今日まで生きてきた感じです。

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Q:初めての試みであるEコマースは、どのくらいのビジネスに成長したのでしょうか。

立ち上げから半年後には、月商300万円くらいのビジネスになっていました。
ただ、事業が大きくなるにつれて在庫も増えていく事業モデルで、次第に自宅では在庫が抱えきれなくなっていきました。
また、利益率も低くキャッシュフロー的にも課題があったので今後のことを考えると、事業として大きくすることは難しいと判断し、7ヶ月ほどでEコマースは止めることにしました。
 

Q:ウィルゲートの中核事業として、Webマーケティング事業を選ばれたのはなぜですか?

背景には自分達の苦労があります。当時は広告費を払えるほどの余裕がなかったので、私達は労力をかければ効果を出せるSEOに注力していました。あとはなけなしの予算でリスティングを打ち、自分達でどうにか運用していたんです。社会人経験はもちろん、私はアルバイトもしたことがなかったので、本当に探り探りの状態でした。誰かに相談したくても、大手広告代理店には予算を伝えただけで冷たくあしらわれることもありましたし、信用してお金を払っても、結局は騙されて終わることもありました。
我々も若かったとはいえ、中学生から携帯電話を持っていて、パソコンにも強い世代です。若者がこれだけ苦労するのであれば、年齢層の高い中小企業の経営者やWeb担当者がネットビジネスで悩んでいることは想像に難くありません。私達はそういう人達を支援するために、Webマーケティングに取り組むことにしました。そして2006年6月、大学2年生の時にウィルゲートを立ち上げたんです。
 
Q:創業当時のエピソードがあればお聞かせください。

最初はやはり、若さゆえの苦労がありました。Webマーケティングを始めてはみたものの、当時の私達はテレアポの仕方すら分かりませんでした。ですからまずは、インターネット上のビジネスマッチングサイトに出ていたホームページ制作の案件を受注していました。見積書や契約書の知識もなかったので、それは大変でしたね(笑)
ただ、制作業務は費用に見合わない要望が多く、すぐに限界を感じました。そして始めたのが、マーケティング代行です。いい商品を持っている人から商材を仕入れ、私達がSEOやリスティングを行うという事業ですね。制作は自分達が手を動かさないと儲かりませんが、マーケティングは広告が人を連れて来てくれます。この事業は軌道に乗り、1年も経たないうちに月商が1,000万円を超えました。さらにエンジェル投資家の方々から5,000万円ほど出資していただけることになり、実に好調でしたね.

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Q:滑り出しは好調だったようですが、なぜ赤字経営になってしまったのでしょうか。

原因は完全に私達にあります。事業拡大に向けて一気に30人ほど採用したのですが、ほぼレジュメだけで判断していたんです。華々しい経歴の人は即採用し、それなりのポジションも用意しました。ただ、当時のウィルゲートには経営理念がなかったわけではないのですが、経営理念を歪めるくらいなら会社経営をやらないほうが良いとまで強く思えてなく、目先の収益を上げることを優先してしまっていました。何のために働くのか、何を大切にしているのかを伝えずに大量採用したことで、芯の通らない組織になってしまいました。結果的には人は増えたものの売上が上がらず、毎月700万円の営業赤字、2期目には数千万円の赤字経営になってしまったんです。
社内には陰口が蔓延し、私が歩いているとWindowsを閉じる人もいました。仕事中にチャットで会社の悪口を言い合ったり、顧客情報を外部に持ち出したり、ヘッドハンティング会社に社員の情報を横流ししたりと、本当にひどい状態でした。
採用した方々は、前職で素晴らしい成果を出していたプロフェッショナルばかりでした。経営理念、営業資料、会社概要すらないような状態では、反感を抱くのは当然のことだと思います。ほどなく30人中20人が退職し、投資していただいた5,000万円も底をついてしまいました。
そんな状況ですから投資家の方々とも諍いが起こり、株式をすべて倍額で買い戻すことになりました。小島と私が個人借金をして1億円で買い戻し、残りのお金から社員の給料を捻出していましたが、それでも追い付かずに親戚や家族を頼ったこともあります。
もはや倒産寸前という状況下で、小島は1人ですべてを背負おうとしていました。「借金も含めて全責任を負う。お前まで不幸な人生に付き合う必要はないし、ノーリスクで抜けていい」とまで言ってくれたんです。しかし、現場を見ていた私にも相当の責任があります。話し合った結果、それまでの株式比率を変更して対外的に小島がトップであることを明らかにし、借金も株式比率に応じて分けることにしました。もし追加の借金が必要になれば自分が小島の連帯保証人になると約束し、一緒にピンチを乗り切ることを決めました。さらにその頃小島が知り合った方が私達の苦しい状況を理解した上で資金を援助して救済して下さって、倒産を回避できたんです。

 
Q:20人が退職されたということですが、逆に10人は会社に残る道を選ばれたということですね。

おっしゃる通りです。彼らはただ純粋に、メンバーのために頑張りたいと言ってくれました。本当に、感謝してもしきれない思いです。
今お話ししたように、当時のウィルゲートは辞めない方が不思議なくらいの状況でした。ただ、それでも頑張ってくれた人もいました。中でも、当時の営業部長のことは心に残っています。彼は他社で高待遇の内定が出ており、奥様が出産を控えていたにも関わらず、「小島さんと吉岡さんについていきたい」と入社してくれました。きっと、ご家族は「大手にいい給料で内定が出ていたのに」というお気持ちだったと思います。その後会社の業績が一気に悪くなり、生まれたばかりの娘さんや家族のために彼は退職を決意しました。「本当は営業部長である自分が皆の給料を稼がなくてはいけないのに」と泣きながら謝ってくださり、本当に胸が痛かったです。彼は何も悪くありませんし、実際に素晴らしい成果を出していました。そういう方々の人生をマイナスに巻き込んでしまった分、残ってくれた10人は絶対に守り抜こうと決意しました。

 
Q:その後、どのようにして経営再建を遂げたのでしょうか。 

残ったメンバー全員で営業をして、3ヶ月で黒転しました。何とか持ち直したところで、最初に取り組んだのはクレドの策定です。一緒に働きたい人材像や組織の理想像を明らかにして、「WinG」というクレドを定めました。
「WinG」は「和の心」「義の心」「信の心」を3本柱にしており、ステークホルダーから愛され、賞賛され、お客様、株主、社員やそのご家族など、ウィルゲートに関わるすべての人を幸せにできる会社にしたいという願いが込められています。そこに共感できることを採用の最優先事項とし、スキルよりも思いを重視して人を採用するようにしたところ、退職が激減しました。新卒採用も追い風となって一気に成長することができ、思いの大切さを実感しています。

 
Q:思いを浸透させるために工夫されたことはありますか?

浸透よりも共感が重要だと考えているので、採用の段階で人間性を慎重に見極めています。これは、クレドの策定以来ずっと続けていることですね。やはり面接でも、その方の人柄に関する質問をすることが多いです。例えば「和の心」は相手を優先して行動することなので、「最近周りの人を喜ばせるようなことはしましたか?」と聞きます。利他的な人は、そういったエピソードがどんどん出てくるんです。
面接での回答は実に興味深いです。「今までの人生で何が一番嬉しかったですか?」と聞くと、過去の自分の栄光をひたすら語る人もいれば、周りの人と一緒に成し遂げたことや、人に喜んでもらえたことを語る人もいます。その方の人となりがわかるまで掘り下げていき、「この人となら理想の会社を作れる」と思える人を採用します。どんなに素晴らしい経歴の方が来ても、人間性が合わないと感じたら採用することはありません。過去の失敗を教訓に、クレドを活かした採用を行っています。

 
Q:会社の成長に伴い、COOとしての役割は変化しましたか?

そうですね。変化のきっかけとしては、幹部層ができたことが大きいと思います。100人規模になってからは社歴が長いメンバーが昇格し、部署ごとに部長と課長を置くようになりました。彼らとは週1ペースでミーティングを行い、数字の達成状況や事業課題について話し合っています。
以前はプレイングマネージャーとして業務全般に携わっていましたが、現在はコンテンツマーケティング事業部と新規事業の事業戦略室を担当しています。幹部層が各部署のマネジメントをしてくれる分、私の役割はシンプルになりましたね。最近は開発室と事業部に少し距離感があったので、出向という形で開発のメンバーを事業部に呼び、90人ほどのメンバーを見ています。小島は経営企画業務に集中しているので、現場担当、経営担当がはっきりと分けられている感じです。
これは私の持論ですが、CEOとCOOの「役割意識」は重要です。例えばCEOがテクノロジーに強いのであれば、他の部分を補うのがCOOの役割だと思います。お互いの強みを活かし、信頼しあって補完し合える関係が理想ですね。

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Q:ウィルゲートにおいて、吉岡さんの「強み」は何だと思いますか?

一つはCEOとの信頼関係、会社への愛と責任感だと思います。共同経営の場合、CEOとCOOが仲違いをしてどちらかが辞めるということはベンチャーあるあるだと思います。私はCEOの小島に全幅の信頼を置いてますし、何があっても会社を守る、死ぬまでウィルゲートにコミットする気概でやっています。
2つ目は創業時に自身で事業を立ち上げて様々な役割を経験してきた分、カバー範囲は広いですね。人事もやりますし、営業に関しては新規顧客の獲得、既存顧客のコンサルティングも行えます。SEOの技術的な話やインターネット広告の運用についても熟知していますし、新しいこともどんどん吸収してキャッチアップしています。仕事を通していろいろな経営者の方にお会いしていると、技術、営業、人事、財務など凄い方々がたくさんいらっしゃっていつも刺激を受けています。ジェネラリストであることはCOOとして強みになりますが、各分野のノウハウをスペシャリストの域まで高められるよう、努力を重ねていきたいです。

 
Q:ありがとうございました。最後に、COOを志す方に向けてメッセージをお願いいたします。

 私の考えでは、COOには必須スキルはありません。大切なのは、会社の成長に必要なことを苦手意識を持つことなく、全てやることです。先ほど「役割意識」のお話をしましたが、CEOとの住み分けさえ出来れば、COOの役割は様々だと思っています。私の場合、小島が経営業務に100%集中出来るように事業面は自分が全責任を負うようにしています。
また、COOはCEOより現場に近いのでCEOのビジョンや想いをメンバーにわかりやすい言葉に変換して伝え続ける役割を担う必要があります。全社に対してはリーダーシップを、CEOに対してフォロワーシップを発揮しなければなりません。CEOよりCOOのほうが現場に近い分大変なことが多いと思います。それでも一生一緒にやりたい、何があっても支えたいと思うことができるCEOと共に会社を経営されることをオススメ致します。そう思えなければ、COOは長くは務まらないと思います。

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