ビジネス×クリエイティブ

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営業利益・昨対比379% 経常利益・昨対比290% 当期純利益・昨対比365%

「映像を見せてお金を取るのはもう時代遅れ。その先に多くのビジネスチャンスがある。」と語る株式会社ディー・エル・イー(DLE)代表取締役・椎木隆太氏。DLEはビジネスとクリエイティブを軸に、ファスト・エンタテインメント事業を展開し、2014年3月、映像エンターテインメント業界では10年ぶりとなる上場会社(東京証券取引所マザーズ)になった。

 


 

Q. 新卒でソニーさんに入社されて10年勤め、そこから起業されたんですよね。何かきっかけがあったんですか?

 

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 何かで起業したいという思いは、小さい頃からありました。ただ、社会人になってから、そのネタがなかなか見つからなかったんです。

ソニーに入社して、特に当時は盛田さん(ソニー創業者・盛田昭夫氏)が最高に輝いていた時期でもあって、僕もその憧れの起業家の下で学べば、数年以内に何かネタか自信かやり方が、絶対に何か見つかるに違いない、という期待もありました。でもそこがソニーマジックで(笑)、5年経っても楽しくてエキサイティングな仕事がたくさんあって、自身も成長もしているのですが、気がつけば「あれ、ネタは見つかってないよな」という感じでした。
 僕はそれまで海外支社での5年も含め、ずっとハードウェアに携わっていました。ソニーは当時、ハードウェアとソフトウェアの両輪で展開しており、僕は支社長までやったところで、ハードはもう全部見たので卒業してもよいかなと思い、今度はソフトに転向してネタを見つけたいと思いました。そこでエンターテイメント系のソフトを色々と調べていたところ、アニメーションに出会って、こんなに超属人的で、こんな適当なビジネスがあるのか、って衝撃を受けたんです。

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Q. ハードウェアの製造・販売とは全然違う世界なんですね。

 ハードはいわば団体戦なんです。今関わっている人達の努力や苦労だけでなく、それまでの多くの先人達の積み重ねがあってやっとここまで来ているんだ、という思いをそれぞれが持ちながら動いています。僕が支社長だった時も、自分は前線に立っているけれど、一人で何でも突破できるわけではなくて、皆さんの協力あっての前線なんだ、という意識で仕事をしていました。

 だから、エンターテインメントの世界を知って驚きました。人と人の繋がりだけで全てが動く世界というか、その人が亡くなったらもう終わり、みたいなプロジェクトがいっぱいあるわけです。こんなにゆるい基盤の上に成り立っていて、おい大丈夫なのかこの産業は、と(笑)。

 そして、それを見たときに、もしかして起業のネタはこれではないかと直感しました。
ソニーという看板がなくても勝負できる、いわゆる「人」に力とか信頼が来る業界で、ヒューマンtoヒューマンのビジネスを興すのって何てチャレンジしがいがあるんだろう、と。しかも、やはり起業しようにも、いきなり100人で起業できるわけではないですから、少人数で省コストで起業というのにふさわしいなと思って、これはすごい感激したんですよね。
加えて、アニメーションって超世界ブランドで、日本から起業して仕掛けるには非常にいい材料で、僕みたいな海外畑でやっている人にとっては非常にやりやすい。少人数で海外にチャレンジできる、しかも先人たちが作ってくれたブランド力がある。

 特に日本のアニメ産業は、アニメに対する愛情はいっぱいあるけれども、ロジックがないみたいな業界なので、ここにビジネスマインドを持った、ちゃんとロジックと右脳をバランスよく使える人が入ってきたら、これは相当勝てる業界だなというのは、直感的に思ったんですよね。

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Q. アニメ産業は、作品に対して愛情が深すぎてうまくいかないことが多いのですか。

 そうですね。そこに関しては、僕達が正しくて、その人達が間違っているとは思っていません。そういうのもアリだけれども、ただ、やはり多くの人の人生を抱えている企業としてはやはりちょっと危険だ、という思いは持ってますね。とはいっても、愛情があるからこそ成功できるケースもいっぱいありますし、あるいは愛情がなければ成功できないこともいっぱいある。ただ、愛情があるがゆえに失敗するケースももっといっぱいあるので、そこはどこまでバランスをうまく取れるのかがポイントだと思います。その愛情をいっぱい持ちながら、ビジネスマインドを例えば8:2で持つのが成功しやすいと思う方もいらっしゃいますが、10:0だったら成功しないよ、と僕は思いますし。僕達の場合は5:5で、ビジネスとクリエイティブをやっていくのがベストバランスだと思っています。


Q. 最初はプロデュース業務から始まったとのことですが、その後に自社でIP(Intellectual Property : 知的財産権)を持つ方針に転換されたのですか。

 はい、当初は自分たちで権利を持たずに、玩具メーカーのプロデュース業務などをしていました。しかし、プロデュース機能を担ったといっても、こちらは発注して頂く立場なので、常に営業をして仕事をもらわないといけません。それではどんどん受身の態勢になるし、レバレッジも全然効かないという点で限界を感じて・・・。ではエンターテインメント業界の一番のマウントポジションってどこだろうと考えたときに、それはやはり権利元だということに行き着きました。

 それで、自社でスタジオを作って、同時に権利オーナーにもなって、それを世界に発信していく、というビジネスモデルを追求しようとなったときに、IPに関して色々と調べてみたんです。たとえば、漫画業界では、権利は漫画家さんに帰属するので、出版社が何か仕掛けようと思っても、都度漫画家さんにお伺いを立てなくてはいけない。これではスピード感は望めないし、権利を都合するために常に東奔西走しなくてはなりません。そうすると、漫画家さんと組むのは得策ではないな、と。一方、アニメ業界には、社内に作家を抱えて制作し、権利は会社に帰属するという習慣がもともとありました。ただ、アニメの制作には多大なコストがかかるので、気軽に作品をリリースすることはできないのですが。
漫画のように、鉛筆と紙があればできるくらいの気軽さでIPができて、しかも会社にその権利が帰属するという、何かその仕組みを考えたいと思いました。そして、本当にオープンなものを作るには、アニメ業界でもなく、漫画業界でもなく、やはり別軸の業界を新たに作る必要があるだろうと考えたんです。

 そこで目をつけたのがFlashアニメだったんです。コストもかからず、しかもクリエイティブな才能が、ネットでポツンポツンと出だした、いわゆるウェブアニメのクリエイターを使ったFlashアニメの市場を作るというのが、世界に勝負できるフォーマットじゃないかなと。

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Q 権利者としては著作権をきっちり守らせたいとか、制作者としてはこのようには使われたくない、という思いもありますよね。

 そうですね。でも僕達の場合は、やはりアニメを見てもらって、知ってもらって、やっと勝負ができるというビジネスモデルなんですよね。つまりは、海賊版でさえもありがたいと思うぐらいのマインドを持っているんです。当時YouTubeで僕達のアニメが載った頃は、YouTube上に放送されたものが載るとDVDは売れなくなるし、TVでの再配信も価値が下がってしまうだろうとか色々言われました。実際、YouTubeに映像を載せたまま放っておく会社や人ってすごく少なかったんですよね。今でこそ、プロモーションなどで色々な使われ方をしていますけれど、僕たちは当時から、Youtubeにどんどんアップして、どんどん見てくれと。ただでもいいから見て欲しい。それこそ、海賊版でも見て欲しい。僕達のビジネスモデルは、映像エンターテインメント会社でありながら、映像自体でお金を取ろうとしていくのは、時代遅れだと判断していましたから。

 映像はただでもいいから見せて、その認知度を利用して、企業のキャラクターに使ってもらおうとか、あるいはそのキャラクターがついた商品が欲しくなるとか、を狙っています。だから、できるだけ多くの人に見てもらいたいし、正規だろうが違法だろうが全然OKという考えなんです。

 むしろ勝手に宣伝してくれて、十分に温まった市場に商品が投入できるのですから。イベントをやったら人も入ります。映像だけでお金を取ろうとして、そういうものを刈り取る機能がない場合は、見せたら損だと思うんでしょうね。認知度を高めて、やっと何かが始まるというのが、僕達の意識だったので、そういった意味では、ネット時代にふさわしいビジネスモデルとも言えますよね。

 


Q. 経営陣の方々の役割やバランスはどのようになっていますか?

 そこにも、とてもこだわりを持っています。軸は2本。ビジネスとクリエイティブが強い会社を作ろうとしています。ビジネスを作っていくのはプロデューサーである僕がトップになって、もう一つの軸としてのクリエイティブは小野(取締役CCO:Chief Creative Officer)が担当しています。

それから、非常に数字にもこだわりを持った会社であるべし、というところで、公認会計士である川島(取締役CFO)がいます。プロデューサーはどちらかというと、どうやってこの盛り上がりを作るかとか、仕掛けを作るかという側面から数字を見ることが多いのですが、それよりさらにエキスパートに、市場動向や上場にあたっての数字などをみてくれています。
さらに僕たちは海外進出への強いこだわりと、映像業界に限らず他業界にもチャレンジしていくという意味で、海外の玩具会社で今やマルチなエンターテインメント会社であるハズブロからの、出資と役員の出向を頂いています。
 そういった意味でも、経営陣の配置には、社内のトライアングルと社外の2つの注力ポイントが上手く反映できていると思っています。

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Q. 上場されて、業績予想も300%達成見込みとのことですが、その要因はどこにあるとお考えですか?

 要因は、何ですかね。皆が頑張ったからでしょうね(笑)

 ただ、いいタイミングが揃った感じはしますね。スマートフォンがものすごい勢いでシェアを上げて、皆があらゆるコンテンツをスマートフォンで見るようになりました。出先でもどこでも。テキストコンテンツ、映像コンテンツ、写真、いわゆるキャラクターなどなど色んな物が、人々のありとあらゆるライフスタイルのシーンに差し込まれるようになりましたね。特に動画コンテンツ、さらにその中でも、スキマ時間に見るようなショートコンテンツが活躍できる度合いがかなり増えてきました。

 また、企業にも、TV・ラジオ・雑誌・新聞だけでなく、インターネットを通して、できるだけ多くの潜在顧客の方とのコミュニケーションを図りたいというニーズが高まっています。さらには、そのコミュニケーションを促進する役割を、キャラクターにお願いしようとか、動画にお願いしようという動きが増え、自治体ですら地域活性をするうえで、ゆるキャラが大活躍しているほど既に一般的になってきています。今キャラクターニーズはどどん高まっています。
企業側のキャラクターアレルギー、あるいはアニメーションアレルギーも大分払拭されて、ハードルが急激に下がった気がしますね。少し前までは、CMを作るのにタレントでなくてキャラクターで大丈夫なの?という空気があったのですが、キャラも重要なプロモーション手法だよね、みたいな認識が一般的に広まった感じがします。
そういうものが全て相まって、企業がコミュニケーション活動の中で、ネットを使って、キャラクターを使ってという、我々が一番得意としているところのニーズが広まったという感じがしますね。あと、ちょうどそこに『鷹の爪』(フラッシュアニメ『秘密結社 鷹の爪』http://鷹の爪.jp/)の認知度がいい感じで来たので、お声が掛かりやすくなっているという、そこだと思いますね。

 


Q. 今後の抱負をお聞かせ頂けますか。

僕たちは、映像エンターテインメントと、キャラクタービジネスにおいては、約10年ぶりに上場した会社になります。映像エンターテインメント業界というと一般的には、例えば親の立場からすると子供たちに「その業界はブラックだし大変だし、食えない人がたくさんいるし」みたいな印象を持たれている業界なんですよね。実際にこの10年で、誰も上場できなかったという状況にもそれは現れていると思います。

 一方で僕は、映像エンターテインメントは世界にチャレンジできる商材であるし、成長もまだまだしていく、特にネットでの動画展開などは、今後どれだけ右肩上がりになるかわからないというぐらい、非常に成長著しいマーケットだと思っています。にも関わらず、やはりそういうブラックな印象を持たれていますので、僕達が上場することによって、映像エンターテインメントでもちゃんとビジネスマインドを持った人なら、こんな成長出来る会社作れるんだとか、安定した物を作れるんだ、とわかって欲しいですね。ひいては、やっぱり日本の映像エンターテインメントって凄いという輝きを取り戻し、ヒトとカネと注目を取り戻したいと思っています。少なくとも上場した僕たちは、こういうことを責任をもってやっていかなければいけないと思いますね。

 

 

 

 

 

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