Amazon、楽天 、アスクル、スタートトゥデイ・・・勝敗を分ける”物流革命”の変遷

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通販やECをいかに成功に結び付けるかは、倉庫業務を軸とした“物流”がカギを握る。
アマゾンをはじめ楽天やアスクル、家電量販店などはそれぞれ戦略と工夫を凝らし、迅速で正確な物流オペレーションを手がけることで、顧客満足度向上と収益拡大につなげている。
各社が即時配送や当日配送といったリードタイム短縮施策で凌ぎを削る中、その取り組みを紹介しながら、通販・ECの勝者となるために必須な“物流の革新ポイント”について考えてみたい。

INDEX
■有料会員向けサービスを加速させるアマゾンの狙い
■“最短20分”の迅速配送で都内を攻める楽天
■「当日配送」「深夜配送」で凌ぎを削る家電量販店
■アスクルやスタートトゥデイが競って物流拠点を拡張
■勝ち組に必須な進化する物流センター設備と新たな打ち手

 

有料会員向けサービスを加速させるアマゾンの狙い

アマゾンは2007年に開始した年会費3900円の有料会員サービス「アマゾンプライム」に、今年6月から月400円の月額制サービスを導入した。いずれも登録後30日は無料で試すことが可能で、月額制の導入によりさらに入会のハードルを下げる狙いがある。プライム会員にはさまざまな特典があるが、中でも「プライムナウ」は受注から最短一時間以内に配送するスピード配送サービスで、会員は無料で利用できる。同サービスには2015年から着手しており、短時間の配送オペレーションに必須な専用物流センターを設けて運用する。

当日配送や翌日配送などの迅速配送は、日用品の購入ニーズを狙ったネット通販の重要な顧客サービスとして数年前から競争が加速してきた。アマゾンは「プライムナウ」に対応する物流拠点を都内4カ所と大阪・横浜の計6カ所に開設し、サービス対象エリアを会員が多い東京、千葉、神奈川、大阪、兵庫などに広げている。午前8時から深夜12時までの指定時間に注文後1時間以内に配送する「1時間以内便」と、同じ指定時間の2時間単位の配送時間を選べる「2時間便」を展開。プライム会員は特典として配送料無料で利用できる。

「プライムナウ」の開始に当たり、アマゾンは既存の物流センターとは別に地域密着型の小規模なセンターを複数設置したという。注文は専用アプリを通じて受けており、1時間以内便の受注があると倉庫内にアナウンスが流れ、スタッフは即刻出荷の準備に着手。素早くピッキングして専用袋に入れ、荷物量によってはバイクも利用する。これまでの注文や売れ筋のデータをもとに倉庫内には効率的に商品が配置され、迅速集荷ができるようなっている。

「プライムナウ」のスピード配送網を活用し、今年4月には同ルートを活用した生鮮食品販売「アマゾンフレッシュ」にも乗り出した。プライム会員限定のサービスで、プライム会費に加えて月額500円を徴収する。ただ1回の注文額が6000円を超えないと配送料も別途かかるため、プライム会員にとってはメリットが薄かった。そこで6月から関東圏で、やはりプライム会員のみに月額利用料無料、1回の注文額2500円以上なら配送料無料という生鮮食品の直販サービスを開始。アマゾンが野菜や果物、総菜などの生鮮食品を直販するのは初めての試みで、「プライムナウ」の売り上げ拡大につなげたい考えだ。

その背景には、年会費を払ってでも質の高いサービスを受けたいと考えるロイヤル&ヘビーユーザーを他社に先駆けて確保し、囲い込みたいとの狙いがある。年会費を払う以上アマゾンの利用率が増えるのは当然であり、競合他社の利用率は自動的に下がっていく。アマゾンは「プライム会員」の国内会員数を公表していないが、すでに開始から10年が経っていることもあり、300万人近いのではないかと推定される。年会費だけでも一定収入になることから、今後も「プライムナウ」拠点となる物流センターへの投資を続けることは確実だ。
 

“最短20分”の迅速配送で都内を攻める楽天

楽天も2015年に着手した“最短20分”の短時間配送サービス「楽びん!」で、日用品EC市場に攻勢をかける。現在は港区など都内6区で24時間体勢にて展開しており、順次エリア拡大していく計画だ。位置情報などをもとにした独自開発システムを通じ、商品を最も早く届けられる配送車に自動的に配送指示を出すことにより、分単位の配送を可能にした。注文は2000円以上で、配送料は無料となる。

商品はコンビニやドラッグストアで扱うような日用品、酒類、飲み物、菓子などの約450点。保冷機能も備えた複数の1トン用バンに商品を積み、エリア内を巡回させている。注文をスマートフォンアプリで受けてから注文先に向かい、配送予定時間を15分刻みで知らせる仕組みだ。配送車が物流センター代わりともいえ、在庫がない場合は最寄りのセンターに立ち寄るが、その所要時間も含めてシステムが的確な配送車と正確な時間を割り出せるようになっている。対象エリア内には時間に敏感なIT企業などが多いこともあり、エリア近隣の飲食店やカフェの出前サービスが含まれていることも大きな特徴といえる。

楽天は日用品・医薬品を扱うECドラッグ企業を次々に買収し、同マーケットでのトップシェア獲得を目指している。ただ、過去には債務超過に陥った子会社の楽天物流を吸収合併するなど、アマゾンに比べると物流センター事業は必ずしもうまく回っているとは言い難い。当日正午までに注文した商品を翌日中に届ける配送サービス「あす楽」も手がけているが、ショップによって対応が異なるため対応に追われるケースもあるようだ。「楽びん!」の伸びに期待がかかるが、顧客単価や配送ランニングコスト面で収益は厳しいとの見方もある。
 

「当日配送」「深夜配送」で凌ぎを削る家電量販店

実店舗を持つ家電量販店も、店舗配送網をさらにブラッシュアップしてECの配送需要に対応している。ヨドバシカメラのECサイト「ヨドバシ・ドット・コム」では昨年9月から、都内を中心エリアとし最短2時間半で配送する「ヨドバシエクストリーム」に着手。家電以外にも日用品や飲料などを扱うが、エクストリーム便を使っても商品1個から配送料無料とサービス度が高い。

エクストリーム便の導入に当たっては、各店舗と物流拠点である川崎センターに加え、都内13カ所に配送拠点を整備した。配送業者をいっさい使わず、約300台の車両を用意し自社で配送することが大きな特徴といえる。川崎センターの拡張も手がけるなど物流インフラへの投資にも積極的で、商品点数の拡充や迅速・効率的な集荷体勢を目指す。都内に続き、関西や東海でもエクストリーム便に対応できるセンター構築を進めていくとみられる。

ビックカメラも、15時までのネット注文商品を当日中に届ける「当日お届けサービス」を昨年12月に都内で開始した。深夜12時までに注文すれば翌日中に届くうえ、深夜12時までの時間指定受け取りにも対応する。最短30分で届ける店舗用自社サービス「ビック超速便」と合わせ、迅速性と利便性を顧客にアピールしている。
 

アスクルやスタートトゥデイが競って物流拠点を拡張

迅速配送陣の先頭を走っていたアスクルは、今年2月に起きた物流センターの大規模火災で大打撃を受けた。しかし、その被害を跳ね返すべく、大阪と埼玉に大規模な物流センターを開設し挽回を図る。中でも埼玉の新拠点は主力事業のBtoB業務と切り離し、個人向け日用品ECサイト「ロハコ」専用のセンターとして稼働する。夜に集中する受注を踏まえ早朝からまとめて作業できるように運営手法を変えたり、個人注文では同一カテゴリー商品の併売率が高いことを考慮し商品の配置やスタッフの導線などを新たに設計した。仕分けソーターなど倉庫内で使うマテハン設備も充実させ、個人向けの集荷作業効率を高めていく。

さらに今年7月からは配送迅速化施策として、既存の1時間刻み時間指定サービスに早朝帯指定分の翌日配送を導入した。これまで午前6時~8時の時間帯指定については午後6時までの受注で翌々日配送だったが、最短で翌日の早朝に届ける。また8月には「玄関扉前」や「車庫」などの4カ所から事前に指定された場所に荷物を置き、配送員がモバイルでそれを撮影して顧客に確認してもらう「置き配」も開始した。早朝でも配送員と顔を合わせずに済むことが、顧客に支持されるとみられる。

ファッションECモール「ゾゾタウン」を運営するスタートトゥデイもプライベートブランドを開発中ということもあり、今後商品規模の大幅な増加を見込む。そのため、さらなる出荷量拡充と迅速配送を目指し、来年秋をめどに現在の物流センター「ZOZOベース」を2倍規模まで拡張する計画だ。

既存の千葉県習志野市拠点に加え、今年7月にまずは同印西市に商品保管をメインとする新たな物流拠点を設けた。さらに来秋の本格稼働を目指し、茨城県つくば市に大規模な物流センターを開設する計画で、すでに8月から新築工事が始まっている。これらの拡張により、物流拠点規模は合計25万平方メートルとなる見込みで、中長期の商品取扱高目標である5000億円にまで対応可能となりそうだ。多品種・小ロットなど自社の特徴に合った物流システムを社内で構築し、センターも自前で運営。商品の撮影スタジオも併設するなど、早い時期から迅速的・効率的な物流業務に注力している。
 

勝ち組に必須な進化する物流センター設備と新たな打ち手

配送時間の短縮化やキメ細かいサービス向上により、消費者のEC活用は今後一層加速するとみられる。受注量増加に向けた迅速配送を実現させるためには、センター増床だけでなく、効率的かつ正確性が高いマテハン設備の導入などオペレーション機能の最適化も不可欠だ。さらに作業ロボットの活用といったAI技術やIoTの積極的な導入など新たな打ち手を実践することが、進化する物流センター構築のカギとなる。また各社の事例でも紹介したように、今後威力を発揮しそうなのがスマートフォンで、配送時間や商品配置場所の情報提供に向け顧客接点の必須ツールとなることは間違いない。

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ABOUTこの記事をかいた人

渡辺 友絵

渡辺友絵(わたなべともえ) 通販研究所代表。 業界紙新聞社に長く在籍し、通信販売・EC専門紙の編集長を務める。その後一般社団法人・通販エキスパート協会を立ち上げ、「通販エキスパート検定試験」を運営する。現在は通販・EC業界の記事・コラムの執筆や各種セミナー講師、企画・コーディネート業務などに従事。著書やテレビ出演なども多数。