現代人のキャリアは「捨てたもの勝ち」

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普段から、働くことについて色々書いているためか、転職相談をよく受ける。

誤解を招かないために申し上げておくと、私は転職のプロではないし、相談者にアドバイスできるような立場でもない。
実際は単純に、お互いの利害関係が無いので「正直なところが聞ける」と相談されるのだろう。

だが、多くの方の転職に関する相談を聞いているうち、一つだけ「真理だな」と思えることがある。
それは「現代人のキャリアは『捨てたもの勝ち』」という事実である。

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例えば、ここに一人の社会人がいるとする。
仮にAさんとしよう。

彼はそれなりの高学歴だ。
就職活動もそこそこ頑張り、東証一部上場のいわゆる大企業に入った。

Aさんが入社した会社は比較的クラシカルな国内大手だったため、最初の3年は見習いとして、「降ってくる仕事を忠実にこなせるかどうか」が問われる。

「人をゆっくり育てる」という土壌もあり、血気盛んだったAさんは大企業のヒエラルキーの中に徐々に組み込まれ、組織の中での処世術も身につけていった。

喜ばしいことに、入社以来、給料は一定の割合で上がり続けていたため、この時点では学生時代の同期に比べ、Aさんはかなり高い水準の給与を得ていた。

一方で、Aさんと好対照を成すのがBさんだ。
Bさんは大手に入社せず、5年前から急成長しているスタートアップ企業を選択した。

Bさんは「ゆっくりと育てられる」という環境にはなかった。

スタートアップ、ベンチャー、中小、外資といった環境では
「スキルは教わるものではなく、実践して身につける」
「できるやつにはどんどん任せる、任せざるをえない」
という状況が普通だ。

こういった厳しい環境では、脱落者も多い一方で、とんでもなく成長する人もいる。

Bさんは運良く、非常に仕事のできる上司に付いたため、恐ろしい勢いで仕事ができるようになった。
また、早い段階で会社の「幹部」として働くようになり、20代でマネジメントにも関わるようになった。

20代のうちに「超ハードな環境」を生き延びたBさんのような人物は、大企業でゆっくりと仕事をやっていた人に比べて、圧倒的に早く成長する。

しかしBさんの給料はさほど上がらなかった。
創業社長と一部の役員は非常に高額の所得を得ていたが、Bさんにそれは回ってこなかった。

さて、このような状況のなか、いよいよ30歳を迎えようというときに、AさんとBさんは考えた。
「このままずっとこの会社に居るべきなのだろうか?」と。

Aさんは「世間を見ておくことも重要だ」と判断し、情報収集も兼ねて、転職活動を始めた。
だが、いざ転職活動をしてみると、すぐに失望した。
当初、考えていたよりも自分の実力が世間で評価されないのである。

在籍している会社にはそれなりのネームバリューがあるのは事実だ。
しかし、自分が入りたい会社のレベルからすると「普通」レベルのため、それほどAさんには優位性はない。

例えかなり高めの年収を提示をされる企業があっても、実力主義の外資や営業色の濃い企業ばかりで、成功の保証はない。

これでは転職という「リスク」を取る意味がないと思い、Aさんは結局、転職を真剣に考えることをやめた。

一方、Bさんは在籍していた会社にそれほどのネームバリューは無かったが、これまで積み上げた実績がある程度評価された。

特に、給与面は「評価されている」と感じる。
もともと得ていた給与水準がそれほど高くないこともあり、Bさんは「どの会社に行っても、評価が上がる」という状態だった。

彼はチャレンジすることに慣れていたので、「高い目標を掲げている会社」を選び、さらなる高みを目指すことにした。

どうせ今の会社にいても、大躍進は望めない。
チャレンジさえ出来れば、今の職を失っても構わない、とBさんは考えていた。

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そして、5年が経過し、AさんBさんは共に35歳になった。

Aさんは相変わらず、ゆっくりと仕事をしている。
それほど競争を求められることもない。

また、給料も伸びは悪くなったが、それでも学生時代の同期と比べればそこそこ良い給料だ。
うまくすれば、この会社で出世できるかもしれない、という期待もある。

Aさんの頭から「転職」はすっかり消えていた。

一方、Bさんは新しい職場で苦戦していた。

成果を追求するBさんではあったが、残念ながら新しい上司と折が合わず、人間関係のトラブルに悩むことも多かった。

客観的に見れば転職は「失敗」したかもしれない。

だがBさんは、後悔はしていなかった。
新しい業界で、新しいチャレンジに取り組む中で、彼の実力は格段に向上していたからだ。

次々と変化する人間関係のなかで、「合わない人とどう付き合うか」についても、彼は学習していた。

そして35歳を迎えたとき、Bさんは二度目の転職を決心した。

たまたま誘いがかかった、別の業界でBさんは自分を試してみようとしたのだった。
「ぬるい環境を捨て、リスクを取らなければ成長はしない」と、Bさんは考えていた。

*****

更に5年後、Aさん、Bさんはついに40歳になった。

残念ながらAさんはこれ以上の昇進は無理なようだった。
上司がヘマをして、左遷されてしまったのである。
影響はその下にいたAさんにも及んだ。
ライバルと目される人物が昇進し、Aさんの昇進の目はなくなった。

Aさんは悟った。
「もうこれ以上、この会社にいても給料は上がらないし、昇進することもない。」

彼にとって自らのキャリアの終点を受け入れることは難しかったが、彼はまだ希望を持っていた。
「まあ、俺だったら大体のところは転職できるだろう」

ところが、転職エージェントから聞かされた言葉は、冷たいものだった。

「まずは、年収ダウンを前提に考えてください。入社後にきちんと成果を出せば、必ず評価してもらえ、最終的には今の会社にいるよりも多くの給与を望める会社です。」

Aさんは、最低限今の給与を維持したい、と食い下がったが、エージェントの言うことは変わらなかった。

「Aさん、現実を見てください。あなたは今、給料をもらいすぎているんです。」

Aさんのキャリアはここで終了した。
あとは定年までの20年、長い「下積み」が待つばかりだ。

一方でBさんは、二度目の転職が功を奏した。

成果を出し続けてきた姿勢と、複数の業界にまたがる経験が評価され、極めて有望なプロジェクトの一員として活躍することができたのだ。

大きな成果を出したBさんは、成長途上にある会社の幹部に抜擢された。
給与も大きく向上した。
そして、ついにAさんの年収に並んだ。

Bさんのところにはヘッドハンティング会社がコンタクトしてくるようになった。
また、知り合いの経営者からも「一緒にやらないか」と、声がかかるようになった。

Bさんのキャリアはここから始まった。
長い「下積み」が終わり、40歳から好きなこと、情熱を傾けられることを始めることができる。

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AさんとBさんのキャリア、どちらが良いだろうか。
もちろんAさんのキャリアが良いという方も、Bさんが良いという方も居るだろう。

だが2017年現在、キャリアの「可能性」という観点から見れば、Bさんのキャリアの可能性は広がり、Aさんのキャリアの可能性は狭まっていく。

そして常に「選択肢の多い人間は強者」であり、「選択肢の少ない人間は弱者」である。

Bさんはもともと恵まれない待遇だったこともあり、常に選択肢を増やすチャレンジをし続けた。
今までの成功や体験にしがみつかず、「新しいところで結果を出せば良い」と果敢に古い体験を捨てた。
その活動は、現代では「チャレンジをしてきた」とみなされる。

逆にAさんは元々が高待遇だったため、自分の待遇を捨てることができなかった。
そして現代では、40歳を超えて転職経験のない人は「チャレンジをしてきた」とは見られない。

結局のところ、「キャリアを築く」というのは、古いものを捨て、新しいチャレンジに身を投じたという実績を積み上げることにほかならない。

現代のキャリアは、一社に「勤め上げる」ことによって得られるものではなく、転職を前提としなければならない。
つまり、高待遇の人ほど「捨てる」ことを意識しなければ、逆転されてしまう世界なのだ。

現代人のキャリアは「捨てたもの勝ち」。
これは、新卒で良い会社に入れた人ほど、強く意識しなければならないことである。

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