経営者が必ず間違える創業期の人材採用 ― スタートアップにはスタートアップの採用を【連続起業家シリーズ #5】

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― ベンチャー・スタートアップを経営するにあたり、「人」の問題は常について回る。
フェーズにより違いはあるものの、経営者の仕事は「ビジョンを描くこと」、「資金を持ってくること」、そして「人を採用すること」と言われる通り、事業成長と人材採用は切っても切り離せない。
今回は創業期における人材採用のコツと重要性を複数回の事業立ち上げ経験のある正田氏に伺った。

【連続起業家シリーズ バックナンバー】
#1:連続起業家のすすめ ― シリアルアントレプレナーとは何者か?
#2:会社を売って旅に出よう ― 起業家なんて誰でもなれる
#3:起業のリスクはほとんどが考え過ぎ ― 事業をはじめるリスクについて考えてみる
#4:事業計画と資金調達のルール ― 教科書に載っていないTips
#5:経営者が必ず間違える創業期の人材採用 ― スタートアップにはスタートアップの採用を
#6:サクッと起業してサクッと売却する ― 人生に「シリアルアントレプレナー」という選択を

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INDEX
■問題は人ではなく「仕組み」
■もっとも採用の難しい職種は「営業」
■「自称スペシャリスト」、「理解していない分野の人」は雇わない
■採用の狙い目は「外注先」


問題は人ではなく「仕組み」

人を採用するのは難しいことだ。会社経営の悩みの大半は「人」に関するものだといっていい。
しかし、あなたが起業をするのが初めてなのだとしたら、まず人は簡単には入ってこないのがあたりまえだと思っておいたほうがいい。

立ち上げたばかり最初は「縁故採用」。
採用の方法はこれしかない。
身の回りにいる人、知り合った人を口説いていくのだ。

僕が15歳で最初の会社を立ち上げたときは苦労した。「大人」の知り合いがいなかったからだ。
仕事で成人した人と知り合うたびに「うちの会社に入ってもらえませんか?」と採用オファーを出しまくっていた。
僕の妻もかつて会社を立ち上げたが、初めての社員は自分の妹と従姉妹だった。

起業当初の採用とはそんなものである。
だから会社立ち上げ時の幹部メンバーが同族に偏りがちなのも仕方のないことなのかもしれない。
創業期は採用ノウハウもないし、どんな基準で人を採ればいいかわらかないため、どうしても身近にいる信頼の置ける人に頼るしかないのだ。

さらに、最初に入ってくる人が優秀な人材とは限らない。どちらかというと、それとは正反対の人が入ってくる確率のほうが高い。
ベンチャー企業で働きたいという志ややる気がある人は、世の中では圧倒的に少数派だからだ。

しかしそれでも会社を回していかなければならないのだから、どんな人材が来てくれるかの心配をするより、
そういう人でも仕事をうまく回していける仕組みづくりに頭を使ったほうがいい。

立ち上げ時に人を採用しづらいことを認識せず、また自社のビジョンを経営者自身がはっきり認識しないまま誰彼かまわず採用してしまうと、
後で困ったことになる。身の丈に合わず所帯を大きくしてしまうと利益が出ていないのに出費だけが膨らむことにもなりかねない。
経営者は孤独なものだ。最初は人が入って来なくとも、人恋しくても、すべてを自分でやる意気込みで黙々と仕事をしよう。

もっとも採用の難しい職種は「営業」

僕も会社経営を始めて16年経つが、正直、一、二度の面接だけで相手がどんな人かを見抜くのは難しいと感じている。
「正田社長の本を読んだんです。ぜひ働かせてください!」と一見やる気のありそうな張り切った若者をインターンで入れても、
一カ月で辞められるなんてことはざらにある。

面接以外にも接点を増やして相手を見てみないと、なかなかその人柄まではわからない。
そのため、今では自社のセミナーやコミュニティーに参加してもらっている。
採用候補の人材には企業文化を知ってもらう場を用意し、接点を増やしたほうがいい。そのほうがお互いにとってハッピーな採用になるのではないかと考えている。

もっとも採用の難しい職種は「営業」だ。
とくにいい営業担当を採用したいのなら、中途採用では厳しいことを認識して欲しい。営業に関しては自社で育てていくほうが効率がいい。
中途で入社してくる人はだいたいが経験者だ。すでに前職での成功体験があると、前職での成功パターンににしがみつきやすい。
しかし前職が同じ業種、類似商品を扱って居るとは限らない。業種がまったく異なる会社だと、新しい会社で良い営業担当になれるかはますます微妙なところだ。

また、立ち上げたばかりのベンチャー企業だと、そもそもどのような営業形態を取るか、どのような仕組みをつくるかから考えなければならない。
それを中途採用の、異業種出身の営業経験者にまかせるのは彼にとっても荷が重いはずだ。
そうなると誰が営業をしなければならないのか。
それは「社長」だ。
つまり、あなたである。

結局、立ち上げたばかりの会社では社長が営業の最前線に出るしかない。
営業が一番うまいのが社長であるというパターンが多いのも、ここに理由がある。
社長は、とくに立ち上げ当初は、社内で営業担当が育つ仕組みをつくりつつ、自分が前面に出て営業をすることが求められる。
営業担当者が育つ仕組みがきちんとできていないと、キャッシュを稼ぐことが難しくなる。
営業の仕組み、営業担当者を育てる仕組みづくりは立ち上げ時の大切な仕事の一つだ。

あなたの会社がtoB向けの事業なのか、toC向けの事業なのかという点も、営業に大きく関わってくる。
toC向けはそれほどでもないが、toB向けの事業なら優れた営業担当者の存在は事業の成長に必須の条件となる。
自社の商材に対する理解を高め、法人営業して回る優れた営業マンがいなければ業界でシェアを高めていくことは難しいだろう。

「自称スペシャリスト」、「理解していない分野の人」は雇わない

「やってはいけない採用」というものが2つある。
1つめは「自称スペシャリスト」だ。僕の経験から言うと、自称経験者は会社の立ち上げ期に縁故採用で入社してこようとするパターンが多い。
「自称スペシャリスト」とは、「この分野に精通しています」「即戦力になれます」「仕入先をたくさん知っています」
と押し付けがましいほど自己申告して入社してくる人のことである。
初めての起業ではこちらも心細いため、こういう人が現れるとつい頼りたくなってしまう。
過去に自分とそれほど強いつながりがなくとも、「こいつとは一生の付き合いになるかもしれない」などと思い込んでしまいたくなるものだ。
しかしこういう輩は絶対に採用してはならない。
こうした人物は経験者扱いで入社させる場合が多のだが、給料が割高な割にはたいした働きはしない。
僕も「自称スペシャリスト」を採用したせいで過去に大変な目に遭っている。
縁故採用で雇い入れた自称経験者の幹部候補にクーデターを起こされたのだ。
ある日出社すると、役員数名と初対面のコンサルタントを名乗る人物から呼び出され、
社長退任とすべての株を譲渡することを説得された。すべて自称経験者の彼が裏で計画したことだった。
こうした過ちをおかさないためにも、人を採用する場合は「業務ありき」で募集をかけ、きちんと選考して雇うべきである。
更に、どうしても雇いたい場合は業務委託などから慎重に関係をはじめ、相手をよく見極める期間を持つことをおすすめする。

また、もう一つのやってはいけない採用は、「あなたが理解していない分野の人間を雇う」ことである。
たとえば「自分は営業は得意だけど経理が苦手だから、経理に強い人間を入れよう」と考えて人を採用することなどだ。
これはだめな意思決定の見本である。

採用の際の正しい意思決定とは、自分の得意な分野、理解できている分野の人間から採用することである。
あなたが営業が得意なら、まずは営業部門の人材を採用する。営業担当者に仕事を教え込んでいくと、やがて彼がひとり立ちする。
あなたの営業面での仕事が少し軽くなったら、その余力で苦手な経理部門を勉強する。
経理のことがだいたい理解できたら、経理部門の人材を採用する。
それが正しい意思決定である。

自分のわからない分野をそのままにしていて、売れる会社なんてつくれるわけがない。
どんなに心細くても、自分の理解している業務の範囲内で人を採用することが大切だ。
経営者は孤独なものである。とくに立ち上げの頃は自分で何でも勉強してやってみなければならない。
焦っておかしな人を雇ってしまうと、取り戻すのに会社をめちゃくちゃにされるよりはマシだ。

採用の狙い目は「外注先」

僕も採用に関してはいまだに迷うこともあるし、勉強中だが、幾つかわかったこともある。
その中でおすすめしたいのが、良い「外注先」を見つけることだ。
「外注先が採用に何の関係があるのか」とお思いの読者もいるだろう。しかし、じつは外注先は、隠れた良い人材の宝庫なのである。
会社の立ち上げ時に良い仕事をしてくれる外注先を開拓しておくと、自社を担当してくれていた人間が転職のタイミングでこちらに来てくれる可能性があるのだ。

たとえば今、僕の会社の常勤監査役を務める人物は約10年前の取引先の担当者である。
弁護士資格をもつ監査役も、過去に2回、通算で数年にわたる裁判をともに戦った「戦友」である。

何度かプロジェクトをともにした間柄だからこそ、相手の能力や仕事ぶり、人柄も熟知している。
どこの誰だかわからない人をたった一、二度の面接で判断して採るより、ずっとリスクは低い。

会社の立ち上げ時にはいい外注先を増やしていく。妥協して人を採用せず、優れた外注先に相応の対価を払い、しっかり仕事をしてもらう。
そしてタイミングが合えば採用する。
外注するより社内でやったほうが確実にコストが抑えられるというタイミングを見計らってようやく採用するぐらいでいい。
これは最も成功率の高い採用方法だと思っている。

※今回の記事は正田氏へのインタビューをもとに、ライター側で編集を加えたものとなります。

 

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ABOUTこの記事をかいた人

正田 圭

正田 圭(まさだ・けい) 1986年奈良県出身。15歳でインターネット関連事業会社を起業。インターネット事業を売却後、M&Aサービスを展開。事業再生の計画策定や企業価値評価業務に従事。2011年にTIGALA株式会社設立、代表取締役就任。テクノロジーを用いてストラクチャードファイナンスや企業グループ内再編等の投資銀行サービスを提供。著書に『ファイナンスこそが最強の意思決定術である』『ビジネスの世界で戦うのならファイナンスから始めなさい』『15歳で起業したぼくが社長になって学んだこと』(いずれもCCCメディアハウス)がある。