ECサイト「ゾゾタウン」、ひとり勝ちの秘密

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―「世界中をカッコよく、世界中に笑顔を」をキャッチフレーズに、アパレルのEC通販サイト「ゾゾタウン」で独走するスタートトゥデイ。2017年3月期業績は売上高が前期比40%増、営業利益が同48%増という驚異的な増収増益となった。百貨店をはじめとした“ファッション業界絶不調”とは対照的に独走を続ける背景を分析し、ひとり勝ちを形成するその戦略に迫る。

■INDEX
■「若年層の消費離れ」という社会現象を打破した仕組みと要因
■「物流を制する者が通販・ECを制する」という揺るぎない事実
■自分たちに合ったシステム構築を「自ら考える」という視点こそ強み
■不調な事業や案件に素早く見切りをつける思い切りのよさ
■「服を売ることを楽しむ」というシンプルな経営理念が牽引する今後の伸びしろと課題

「若年層の消費離れ」という社会現象を打破した仕組みと要因

非正規雇用者の増加もあって「若者の消費離れ」が取り沙汰される中、「ゾゾタウン」はなぜこの世代に浸透・指示され破格の成長を続けているのだろうか。その背景としてまず挙げられるのが、入念に絞り込んだターゲット層に的確なアプローチを行うという戦略だ。

「ゾゾタウン」のターゲット層は明確で、20~30代の男女。平均年齢は32.8歳となる。ファッション感度が高いECサイトで男女双方を対象とするものは珍しく、男性比率が三分の一を占めている。もともとは“服好き”な創業者の前澤友作社長が自分の好みに合ったメンズ服をネットで販売したことから始まったため、まずは男性客を獲得。その後も女性向けと違ってファッション好きな男性向けサイトは少ないことが、「ゾゾタウン」が引き続き男性に支持される要因となっている。

現在、「ゾゾタウン」は954店・3928ブランドを取り扱い、1日に約2900点の新着商品が届く。まさにトレンドを先取りする形でF1層・M1層のファッションリーダーへアプローチしている。次々に生み出されるサービスやツールもターゲット層をにらんだもので、中でもスマートフォン世代を取り込むフックとしてリリースしたのがファッションコーディネートSNSアプリ「WEAR」だ。

画像:WEAR

コーディネート画像を投稿したり、着用アイテムを多彩な条件から検索できるアプリで、モデルや著名人もオフィシャルユーザーとして多数参加(※1)。世界各地でも展開しており、900万のダウンロード数を誇る。投稿者のコーディネートを参考に商品を購入できるため、“試着できない”というECのハードル低下にもつながっている。

※1・・・高橋愛、鈴木えみ、船山久美子、マギーなど多くの芸能人、モデルが登録

「WEAR」の導入は2013年だが、ちょうどその頃からスマートフォンが強力かつメジャーなツールとして急速に拡大。ほぼ同時期に「ゾゾタウン」のデバイス別出荷率でスマートフォンがパソコンを抜き、逆転する形となった。現在の出荷率ではスマートフォンが77.5%を占めており、まさにターゲット世代とスマートフォン戦略が合致した格好だ。

ファッションに敏感な若年層は気に入った服を購入しても飽きやすく、新しい服がまた欲しくなるという傾向がある。その特性を狙って始めたのが服の買い取りサービスやブランド古着のセレクトショップ運営といった二次流通事業で、「ゾゾタウン」をベースに「循環式」のファッションEC事業を構築。「循環式」で動く金額は、スタートトゥデイグループ全体を潤すことになる。

「物流を制する者が通販・ECを制する」という揺るぎない事実

「ゾゾタウン」の今の成功は、間違いなく物流にある。4万坪にわたる完全自社完結型の物流センターと、それを正確にオペレーションする独自の物流システムがカギを握る。4000近いブランドを常時扱うが、入荷と同時に物流センター内のスタジオで新商品を撮影し、即時にサイトにアップするといった迅速な体制を整える。そのためにセンター内にはスタジオが設けられ、カメラマンとモデルが常駐。サイトで見やすいように統一された撮影・レイアウトのノウハウを駆使し、各ブランドの多種多様な服の画像をアップする。この仕組みがあるからこそ、1日に2900点も届く新商品を効率よく回転させることが可能となる。

通販・EC各社が競う「即日配送サービス」も、この物流センターのオペレーションがあってこそといえよう。同センター構築時には、出荷の作業効率を高めるための大型仕分け機やピッキング機器といったマテハン機械をはじめ、商品保管用什器などの設備投資に数十億円を投入。その後もブランド数や新着商品数の増加に伴い順次追加や刷新に対する投資を実施しており、今期も物流センターの拡張を予定する。
こういった作業効率を高める迅速性と、課題解決に取り組むための柔軟性を取り入れた完全自社主導型の物流センター運営が功を奏し、競合他社がなかなか真似できない「即日配送サービス」の実現につなげている。

自分たちに合ったシステム構築を「自ら考える」という視点こそ強み

ネット通販のオペレーションには優れたシステム構築が不可欠だが、「ゾゾタウン」の強みは経営陣を筆頭にシステム構築・運用に携わるメンバーが自分の頭を使って考えているという点だ。企業が大きくなればシステム構築の丸投げ外注が当たり前になるが、同社は物流システムもCRMシステムも経営陣が自ら考えたフローをベースに構築している。前澤社長は創立前に手がけていた海外レコード販売の携帯サイトを自ら作るなどシステムに詳しく、その後すぐに引き継いで担当となったシステムを熟知する取締役が、今も「ゾゾタウン」に必須な視点でのシステム構築を続けている。

最も重きを置いているのは長期的な視点を持って取り組むということで、一時的な効率の良さや目先のメリットではなく、常に将来を見据えたシステム開発を前提としている。会社の成長に伴いサイトや物流の規模が拡大しサービスが多岐にわたっても、初めからそれを見込んだうえで取り組んでいれば大きな壁でも乗り越えられる、という考え方を貫いてきた。外部委託では実現が難しい「自社の業務にシステムの方を合わせていく」との方針に基づき、現在も一部を除いてほぼ内製対応する。

1年半前には、「ゾゾタウン」および「WEAR」のシステム開発・運用やCRMなど新規技術の導入を行う新会社「スタートトゥデイ工務店」を設立。グループ内のエンジニアやデザイナーなど制作に携わるすべての技術者が集結し、先進技術を駆使してさらなる技術力向上を目指している。「技術者=職人」という考え方に基づき工務店と名付けたとしており、プロ集団として一層の活躍が期待されている。

不調な事業や案件に素早く見切りをつける思い切りのよさ

ニュースリリースや会見で広く発表した内容を中止したり収束させることはなかなか難しいが、スタートトゥデイは意に介さない。たとえば「送料無料」をうたったすぐ後であっても、やはり採算がとれないと思えばただちに有料へと変更。そこで浮いた資金を迅速に新たな事業に投資する。

2015年末に参入した、ファッションアイテムのフリーマーケット事業についても同じことがいえる。「WEAR」を活用し一般消費者が手軽に古着を出品できるCtoC事業「ゾゾフリマ」を導入するも、わずか1年数ヶ月後に撤退を決めサービス終了を発表した。知名度の高さや固定客の多さ、「WEAR」というツールの利便性から期待されていたが、フリマ事業の先駆者であるメルカリの強さは揺るがなかったようだ。

画像:ZOZOフリマ

ただ、メルカリ牙城を崩せないと知るやいなや、外部からはまだ惜しいという声もある中で、事業中止を素早く決定した。
こういった迅速的な対応力が、赤字部門を生み出さない武器となっている。ちなみに「気づいているけど、仕方ないは我が社では通用しない」とはシステム担当取締役の弁で、数字が示す真実を素通りするという考え方はスタートトゥデイではありえない。

「服を売ることを楽しむ」というシンプルな経営理念が牽引する今後の伸びしろと課題

「ゾゾタウン」は人気ブランドをサイトに集め、それらブランドを目的に服好きなユーザーが集まった。会員となったユーザーを目当てに、さらに人気ブランドが集まるという仕組みを構築。軸となる「商品」「サイト」「物流」「集客」の仕組みをうまく回したことにより、今日の成功がある。

「好きなことを楽しみながらとことん続けたら結果的にビジネスになった」とは前沢社長の言葉。「1日6時間勤務」や「基本給・ボーナス一律化」など、人事・待遇面でも上場企業らしからぬアイデアを思いつく。注目されるのは、今期中の発表を予定しているプライベートブランド事業だ。まずは好きな服を売り、その後プラットフォームを構築したが、もはやそれだけでは飽き足らず、ついに自分たちが作りたい服を生み出すというフェーズに踏み込む。

もちろん課題もある。通常では利益率が数%程度とされるファッションEC業界で、「ゾゾタウン」は数十%という驚異的な数字を達成してきた。自社で在庫を持たない受託販売形式がほとんどだったことが背景にあるが、プライベートブランドであれば在庫を抱えざるを得ないだろう。そうなった時、果たしてこれまでのような高い利益率を維持できるのだろうか。売り上げについても、4000近いブランドとの競合や差別化という面で、どういった設計図を描いていくのか。これら課題をいかに解決しさらに伸びしろを広げていく戦略なのか、興味は尽きず、業界の期待値はとても高い。

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ABOUTこの記事をかいた人

渡辺 友絵

渡辺友絵(わたなべともえ) 通販研究所代表。 業界紙新聞社に長く在籍し、通信販売・EC専門紙の編集長を務める。その後一般社団法人・通販エキスパート協会を立ち上げ、「通販エキスパート検定試験」を運営する。現在は通販・EC業界の記事・コラムの執筆や各種セミナー講師、企画・コーディネート業務などに従事。著書やテレビ出演なども多数。