楽しく幸せに働く当社のスタイルを世界のロールモデルに

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■リード
IT/Web業界に特化した転職情報サイト『Green』。AI(人工知能)を活用し、利用者に最適なビジネスパーソンをマッチングする『yenta』など。ITベンチャーとして数々のヒットコンテンツを手がける同社。成功の裏には、従来の組織構造とはまったく異なる環境があった。なぜ、そのような組織にしようとしたのか。また今後のビジョンなどを、代表取締役 CEO 新居佳英氏に聞いた。

■略歴
1974年生まれ、東京都出身。シングルマザーの家庭で育つも小学校から私立・桐朋学園に入学。同学園で高校卒業まで学び、当時から経営者になることを夢見る。上智大学に進むとイベントサークル事業などでビジネスを開始。卒業後は草創期のインテリジェンスに入社、ベンチャー気質ならびにビジネスパーソンとしての基礎を鍛える。入社3年目に同グループ会社の社長として本格的に経営のステージに。その後2003年10月にI&G Partnersを設立し独立。14年7月にアトラエに社名変更。16年6月、東証マザーズに上場を果たした。

 

サービスの価値に徹底的にこだわる

――御社は2011年以降、右肩上がりで業績を伸ばされています。特に、ここ数年は売上高が150%前後の伸びを見せている。ずばり、好調の要因をお聞かせ願えますか。

短期的に何か特別なことをしたわけではありません。ユーザーはもちろん、従業員の知人や家族にも自信を持って提供できるサービスの構築を一番に考え、地道にコツコツと開発を続けてきた結果だと捉えています。これは当社の全メンバーに浸透している考えですが、目先の売上を追うようなことはしません。またそのようなビジネスにもまったく興味がありません。

――日々のたゆまぬ努力の結果が、150%の成長理由というわけですね。そしてその牽引役が、御社のメーン事業である「Green」だと。

「Green」の特徴は、それまでキャリアアドバイザーや転職支援エージェントに頼っていた転職活動を、ネット上で簡便に行える点です。データベースを構築し、求職者と求人企業がスムーズにマッチングできる画期的なプラットホームを構築しました。

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リーマンショックで挫折を経験

――世の中のサービスの多くがネット化していった時期に生まれた、まさに成長性のあるサービスです。

ありがとうございます。ただ、サービスの浸透には数年かかるだろう、と考えていました。そこで私のキャリアのベースである人材紹介ビジネスも同時に手がけ、そちらで得た利益をGreenに投入し、会社全体の経営を進めていきました。

Greenが誕生したのは2006年頃です。その後数年、同ビジネスは順調に成長し、いよいよ本格的に広がりを見せるだろうと期待していた矢先に、リーマンショックが起きました。業績は悪化、会社を去っていくメンバーがいたり、こちらから退職を促す決断に迫られるなど、経営者としては眠れない日々が続きました。

――挫折を経験されたわけですね。しかし新居社長はその後、会社を立て直された。そのあたりの手腕をお聞かせください。

人材紹介事業から手を引き、Green一本に絞りました。同時に、営業会社という看板を捨て、インターネットビジネスを手がけるテクノロジーカンパニーとして、再スタートを切りました。

自分としては、第二創業的な感覚でした。すると、次第に優秀なエンジニアが入社してくるなど、変化が見られました。スーツを着るメンバーはいなくなり、オフィスの雰囲気にも変化が見られました。おかげさまで2011年以降は増収増益という状況です。

カフェのようなオフィスでリラックスしながら仕事を

――こちらのオフィスは木のぬくもりを感じる、まるでカフェのような空間です。社員は皆ラフなスタイルで、伸び伸びとお仕事をされている。

私は以前から、いわゆる日本の会社組織にありがちな、ルールや常識に疑問を持っていました。たとえば真夏にスーツを着てネクタイをしめた状態で、本来のパフォーマンスが発揮できるでしょうか。私はそうは思いません。もっと言えば、エアコンの温度を下げすぎることで、まわりのメンバーの生産性までも奪ってしまう。落ち着いた雰囲気の中、リラックスした服装で仕事をした方が、はるかに効率的にビジネスを進められると私は考えています。
もう1つ、これは創業時に掲げた理念ですが、メンバー全員が楽しく仕事をしながら幸せになれる組織をつくろうと思いました。人は働くために生きているわけではありません。幸せになるために生きている――。私の考えの根幹です。

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上司・部下の肩書が存在しないフラットな組織

――なるほど。ところで会社の雰囲気だけでなく、組織構成でも特徴があると聞いています。

今の話の続きになりますが、組織構成においても、従来の常識を気にしていません。当社ではエンジニアや営業といった分け方はしていますが、部長などの肩書はなし。当然、上司・部下という関係性も存在しません。マネジャーなどの管理ポジションもなし。従来の組織のように職位や年収の高い人が権限を持ちリーダーシップをとる、ヒエラルキー構造は当社にはありません。全メンバーがフラットな関係です。

――全社員フラットな関係性が、新居社長の理想とする組織だと。もう少し詳しくお聞かせ願えますか。

目標を達成するためにプロフェッショナルが集まり、一人ひとりが力を発揮しながら、皆で協力し合う組織です。プロのスポーツチームやオーケストラをイメージすると、わかりやすいかと思います。たとえばサッカー。本田圭佑選手というネームバリューのある選手はいますが、彼は自分が目立ちたいために、ピッチに立っているわけではありませんよね。チームを勝利に導くために、プレーしている。特に代表チームであれば、思いは強いでしょう。

同じくキャプテンの長谷部選手は、キャプテンシーという彼が持つ強みを活かし、チームに貢献している。ディフェンスやキーパーも同じ。一人ひとりが自分の強みを活かすことで、チームの勝利に貢献しているのです。これが、私の理想とする組織です。

――なるほど。ただそのような組織構成をビジネスに当てはめた場合、実際にプロジェクトなどのような流れで進んでいくのでしょう。

新しいプロジェクトは、半月に一度の全体ミーティングやメンバー用の交流サイトで発案されます。もちろん全メンバーに、発案の権利があります。プロジェクトが認められると、進行に必要なスキルを持つメンバーが加わる、というフローです。大抵の場合、発案者がプロジェクトリーダーとなります。

――つまり御社では、プロジェクトごとにリーダーが変わると。そして上司はいない。それで、うまくチームが機能するものなのでしょうか?

サッカーを見てください。練習をさぼったり、試合中にいい加減なプレーする者がいたら、監督が怒る前にチームメイトが注意しますよね。レベルが高い環境であればあるほど、そこには先輩・後輩も関係ない。逆に努力しているが思ったような結果が出ていない仲間がいたら、チームメイトが手を差し伸べるはずです。

全社員が会社の株式を保有することで経営者の意識を持つ

――ところで、御社のような組織の在り方は、どこかで学ばれたのですか?

最近注目されている「サーバントリーダーシップ」に、考えは近いかと思います。さらに当社では、このようなフラットな組織構造であることをより明確にするために、全社員が会社の株式を持つ「リストリクテッドストック」制度を導入しています。社員の評価も全社員で行うため、メンバー一人ひとりがチーム(会社)を引っ張っているリーダー(経営者)という感覚で、仕事に臨めています。

――そのほか楽しく仕事を進める上で工夫されている取り組みなどはございますか。

勤務時間や場所の管理を、メンバー一人ひとりに任せています。朝が弱いエンジニアは、無理して朝早くから出社する必要はありません。自分のパフォーマンスが最大限発揮できる時間帯に、がんばってくれればいい。子育てしながら働く女性も同じです。幼い子が家で1人で母親の帰りを待っている中、母親は朝早くから夜遅くまで会社で働いている。そこに幸せがあるとは思えませんし、パフォーマンスが発揮できるとも思いません。

――いわゆる一般的な会社組織は、これまでのルールや先入観にとらわれ過ぎていると?

私はそう思います。実際、当社では10名の女性が働いていますが、半数の5名が子育てをしながらの勤務です。1日4時間×週3日という働き方の者もいますし、自宅で仕事をしている者もいる。職場に子供を連れてきても構いません。学校が終わった子供が、母親の働いている会社に帰って来るという光景も、当社ならではだと思います。

子供に限らず、仕事のパフォーマンスが上がるのであれば、ペットを連れてきても問題ありません。私たちが目指しているのはチームでの勝利ですから、そのプラスになることであれば、私はもちろん、他のメンバーが何か言うことはありません。

 

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当社の組織モデルが世界に広がるのが目標

――御社は2016年6月に上場を果たされました。上場の前後で変化はありましたか?

特にありませんでした。もちろん世間からの見方や、新しい方々とお付き合いするようにはなりました。しかし、特に事業ベースの部分では、何か上場のために無理をした、ということはありません。以前と変わらず、冒頭にも話しましたが、お客様に最上のサービスをという思いで、日々の開発をコツコツと続けています。

――それでは最後に、今後の展望や夢をお聞かせください。

先に紹介した創業時に掲げた理念は、創業から10年が経ち「世界中の人々を魅了する会社に」と表現を変えました。もちろん根幹の思いは全く変わっていません。私たちが実践し、結果の出ている組織構造やビジネスの進め方を、世界中の人々や企業に知ってもらいたい、と考えています。

――実現すれば世界中のビジネスパーソンが御社のように楽しく幸せに、仕事に向かえる環境が実現するわけですね。

ええ。そんな世界を、私たちは夢見ています。ハーバード大学やスタンフォード大学といった超一流のビジネススクールの教授が当社に興味を持ち、研究対象にしてもらいたい。そして論文や書籍などにまとめていただき、世界中に広まる。これが、今私たちが思い描いている、目指すべきゴールです。

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