ゲームからVRヘ。 時代の最先端を走り続けるCOOの新たな挑戦。 – 株式会社ダズル 取締役COO 出口雅也氏

株式会社ダズル 取締役COO 出口雅也氏
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■略歴

2010年慶應義塾大学商学部卒業後、同年株式会社オープンドア入社。自社SNS向けブラウザソーシャルゲームの立ち上げにたずさわり、ソーシャルゲーム立ち上げの基礎を学ぶ。その後、KLab株式会社入社。iOS、Android、Mobage向けのRPGゲームを約2年担当し、ディレクター、プロデューサーを歴任。2014年7月株式会社バンク・オブ・イノベーションにてスマートフォンゲーム4ラインを統括するSAP事業部長を務める。2015年5月株式会社ダズルへ入社し、同社取締役COOとして事業、広報、採用を統括。現在は特に同社のメイン事業であるVR事業に注力している。

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「VRといえばダズル」という確固たるブランドの構築を目指す

――御社は2015年からVR(ヴァーチャル・リアリティ)の旗手として時代の最先端を走り、市場を開拓し続けておられます。出口さんご自身はゲーム業界でのご経験が長かったとうかがっていますが、まずはダズル入社までと、VR事業を手がけるようになるまでの流れを教えていただけますか。

僕はとにかく「新しいもの好き」なんです。その上、人と違うことをやりたいという気持ちも人一倍強い性格です。大学3年の頃だったでしょうか、ちょうど就職活動をしていた時期にiPhone3GSが発売され、今後コンテンツ領域が飛躍的に伸びていく予感を持ちました。そこで就職先に選んだのが当時モバイルコンテンツ事業に注力していたオープンドアです。
ダズルに移るまで3社で経験を積みましたが、ずっとゲーム事業にたずさわってきました。オープンドアでは自社で運営していた携帯向けSNSサイト用のゲームをつくる仕事をしていました。KLabではネイティブゲームの先駆けともいえる戦国RPG「真・戦国バスター」のプロジェクトをまかされます。KLabにはプランナーとして入社し、最終的にはマネージャーも経験しました。バンク・オブ・イノベーションではスマートフォンゲーム4ラインを統括する事業部長としてキャリアを積みました。

――ゲーム畑一筋だったわけですね。

ところが僕はあまのじゃくでもあって。皆がスマートフォンゲームに力を入れ出し歯車が回ってくると、次の成長領域が気になるようになってきたんです。今思えば、まだ誰も手を出していない領域で何かしたいという思いがあったんでしょうね。他社コンテンツも含め、多くのスマートフォンゲームが生み出されて市場が活気づいていく中で、スマートフォンゲームの次にくるであろう成長産業領域で仕事がしたいと思うようになりました。
そんな考えをもちながらダズルに入社したのですが、代表の山田(ダズル代表取締役CEO山田泰央)も僕も次の新規事業としてVRを考えていることがわかったんです。僕自身は2015年にあるVR関連の研究開発の機会を得まして、そこで初めてVRを体験しました。文字入力の方法も確立されていないなど課題は多かったものの、その時のユーザー体験は今でも忘れられないですね。VRはゲームなどのエンターテイメント領域にとどまらない価値を秘めていると確信もしました。2015年も終わりにさしかかった頃、役員たちで話し合い、弊社もVR事業に参入することになったのです。

――新卒の頃から出口さんご自身が最先端を追い求めてこられたわけですね。そして現在もその軸はぶれていらっしゃらない。現在、ダズルのCOOとしてのメインミッションは何でしょうか。

メインミッションは3つあります。1つめは何といってもVR事業です。COOとしてゲーム事業にも勿論責任はありますが、VRを弊社の収益の柱として育て上げるのが自分に課せられた最大のミッションだと考えています。
2つめは「VRといえばダズル」と社会に認識していただけるブランディングを行うことです。VRをブームで終わらせることのないよう、社会を劇的に変える価値を提供し続けます。弊社のサービスを普及させることで、世の中に貢献し、弊社ブランドを確立させたいですね。
3つめは中長期でダズルが成長し続けていくための人材採用に注力することです。この3つを実現すべく、VRをメインとした事業領域と広報領域、採用領域を統括するのが現在の僕の仕事です。

――採用において出口さんが特に大切にされていることはありますか。

ダズルが求める人物像と、転職者の方とのマッチングです。僕が関わっているのはビジネスサイドの人材採用ですが、エンジニアであれデザイナーであれ、どんな職種でも「ポジティブで粘り強く仕事ができる」点を重視しています。その点は、CEOの山田やエンジニア採用の中心となっているCTOともすり合わせをしている部分ですね。そうは言っても、ダズルの考えや事業に共感してご入社いただきたいと考えているので、あくまで双方にとって良いマッチングかどうかは大切にしています。
また、社としては今後VR色をより強く打ち出していきたいですね。VRという新たな事業領域に加え、働きやすく、やりたいことにチャレンジしやすい環境が整っていること、本人の希望や適性に合わせたジョブチェンジにも柔軟に対応していること等、ダズルの特徴もよりアピールしていきたいと考えています。

――組織づくりで目指す理想像はありますか。

組織においては、メンバーが正直な意見をちゃんと言い合えるかどうかが大事ですね。よくあるのが、「本当はこっちがいいと思っているんだけれど、空気が悪くなるから言ええない」という状況です。多少空気が悪くなったとしても、自分としてはどんどん言っていくべきだと思っています。お互いの人柄や性格がしっかり分かり合えている関係性であれば、結果的に良い意見交換に繋がるからです。そういう組織にはまだまだ到達していないので、今後じっくり取り組んでいきたいと思っています。

――代表はエンジニア出身とうかがいましたが、出口さんとの役割分担はどうなっているのでしょうか。

単純にいえば山田が「ソト」、僕が「ナカ」、というイメージでしょうか。彼はエンジニア出身ですが人と話したり飲んだりが好きな社交的な性格で、外回りが多い。人の意見はしっかり聞くし、納得すれば柔軟に受け入れるため、人に好かれるのが強みだと思います。
そんな彼のビジョンをどう実現するか、具体的に考えるのが僕の役割です。たとえばVRならどんな商品を作るか、開発手順や予算をどう組むか。山田の頭の中を翻訳し、社員全員が理解し共有できるビジョンに落とし込む。僕には山田のように突出した得意分野はないのですが、それなりに何でもそこそこできる。だからうまくいくのかもしれません。

――お互いの強みを支え、弱点を補い合う強固なタッグですね。

役割分担ができているから相性はいいと思います。ぶつかることもままありますが、いつものことですから後腐れはありません。ダズル3

 

国内ミドルウェア市場で先行すべく、資金調達も活用して市場を拡大する

――御社の強みであるVR事業についてさらに詳しくうかがいます。御社は現在、VR業界でどのようなポジションを目指していらっしゃいますか。

VRの市場をソフトウェア、ミドルウェア、ハードウェアの3つに分けるなら、弊社はミドルウェアを主軸と考えています。一般消費者にVRのデバイスが行き渡ったとはまだまだ言えないのが現状です。そのため、コンテンツやtoB向けシステムを開発する企業様、そのクライアント様に向けたデータ分析のサービスを提供しています。

――VRのユーザーではなく、その提供側をターゲットとしているのですね。

そのとおりです。弊社は2017年3月1日にVRプロダクト向けの分析ツール「AccessiVR(アクセシブル)」のクローズドβ版をローンチしたばかりです。先行する他社のVR分析ツールとの差別化を図り、人気のVRアトラクション施設への導入を想定した機能も備えています。

――具体的にどのようなサービスなのでしょうか。

VRプロダクトの運用計画とその実行、データ取得と分析、それを踏まえた改善を総合的に支援するものです。ユーザー数や利用時間、利用頻度といったデータだけでなく、VRならではの視点データやインプットデバイス利用データも取得することができますし、メタデータやビジュアライズ化によってユーザーの利便性を高めました。Oculus Rift、Gear VR、HTC Viveなどのマルチデバイス、Unity5やUnreal Engine4などのマルチエンジンに対応するほか、スマートフォン向けのVRコンテンツにも対応しています。2017年夏をめどに正式版も出す予定で、年内には大幅なアップデートも計画しています。

――分析サービスだけでなく、VRプロダクトの開発もされていますね。

はい。オリジナルのVRプロダクトやゲームの開発も手がけてきましたし、受託案件もご依頼いただいています。これまでに自社でVRのゲームを5タイトルリリースしていますが、これだけの本数をローンチしている日本の会社はほとんどないと自負しています。
受託案件に関しては、自社プロダクトの制作で蓄積したノウハウや知見を提供できるというのが弊社の強みです。実際、今回のAccessiVRの開発自体にもかなり役立っています。また、受託案件は開発して終わりではなく、AccessiVRを活用したデータ分析もおこない、改善点までセットにしてご提供できるのも強みです。

――御社は昨年から今年にかけて総額約3.5億円の資金調達を実施されていますね。資金調達の目的はVR事業の拡大でしょうか。

まさにそうです。2017年にはAccessiVR正式版のリリースも控えているため、まずはこのサービスの拡大にパワーを注ごうと考えています。これを機に弊社のVR事業の業容拡大と知名度向上を加速させていきたいですね。
2016年は「VR元年」といわれました。まだ種まきができた程度で回収できるフェーズにはほど遠いのですが、VR関連のお声掛けが増えたのもまた確かです。今後はVR関連のハードの普及にいっそう拍車がかかるでしょう。ここで他社に先行されてしまうと、後から逆転するのはなかなか難しい。VRへの追い風が吹く今、足元を固めたいと考えており、そのために総額3.5億円の資金調達も行いました。具体的には開発とプロモーション、VR関連の人材採用に力を入れていく予定です。
また海外進出、とくにアジア進出も視野に入れています。北米に類似の分析サービスを提供する企業が数社ありますが、地の利を生かしてアジア地域をいち早く押さえたいと考えています。ダズル2

他人と違う視点やポジショニングで活路を見出せることもある

――今後、出口さんやダズルはVRのある未来をどのように描いておられますか。

弊社ではVRを「新しいプラットフォーム」ととらえています。短期的にはパソコンと同じように企業のビジネス用として普及するでしょう。VRを使って仕事をする、あるいはVRの中で仕事をするなどの用途が生まれるかもしれません。中長期で考えれば、VRがテレビに取って代わったり、スマートフォンのように一人一台所持する時代が来たりするかもしれない。VRは私たちの生活に不可欠な存在として普及・浸透していく、というのが僕の予想です。

――そんな時代にあって、御社が目指す方向性とは何でしょうか。

VRを軸にさまざまなサービスを展開する会社を目指します。VRやARなど、次世代のテクノロジーをいち早く押さえて展開できるよう、常にアンテナを張りめぐらせチャレンジしていきたいと思います。
VR事業のメインターゲットをミドルウェアに絞っているのは、toCで戦うための基盤づくりの意味もあります。ゲーム事業は当たり外れがあるので、それだけで勝負する会社になってしまうとリスクが大きい。これからはコンテンツ一本勝負ではなく、着実に蓄積され、発展していくものづくりに軸足を移したいと考えています。僕もダズルの一員として、世の中を革新的に変えていくものをつくっていく。それが目標です。
僕は世の中を劇的に便利に変えてくれるものに惹かれるし、感動するんです。最近ならAmazonでの買い物時に宅配などのさまざまな特典が受けられる「Amazonプライム」、家計簿や資産管理を自動でおこなうアプリで知られる「マネーフォワード」などがそうです。

――それほどまでに出口さんが新しいものを追い求めるのはなぜでしょうか。

飽き性なのと集中力がないからかもしれません。いったん火がついたらすごい集中力を発揮するんですが、ある時点を超えると飽きてしまう。ゲームも、それこそ幼い頃なら親に怒られるまでやっていたのに、ある日突然やらなくなる。あれだけ課金したのにパッと止めてしまう。集中力はあるけど見切りも早いと思います。

――そうした出口さんご自身の性格が、会社にも新陳代謝を働かせて新しいことに挑戦していく空気を生み出しているのかもしれないですね。最後に、読者であるビジネスパーソンや若い世代へ向けてのメッセージをお願いします。

自分はこれまで、他人と違う視点やポジショニングを意識して動くことで活路を見出してきました。例えばKLabでは、皆が新規タイトルの立ち上げをやりたがった場面で、運用業務に強みをもとうと決めました。競争が少なくキャリアアップし易いと考えたからです。
結果として僕がリーダーとなり、運用やマネジメントのキャリアを積めたことがありました。自分の強みを活かす場を追い求めるのも大事ですが、時に「逆張り」を意識することで行き詰まりを打開できることもあるんじゃないかと思うのです。

――違う視点をもつことで開けてくるキャリアもあると。それによって組織全体を客観的に見ることができ、自身の多能化につなげられる場合もあるわけですね。

そうですね。うまくいかない場合もあるかと思いますが、流れが来たときは皆に先んじて良い波に乗れる可能性が高まります。とったリスク分しかリターンは返ってこないのです。
最先端に敏感な一部の人だけが注目しているけれど、世間はまだその可能性に気づいていないという時期にリスクを取るイメージでしょうか。どこまでだったらリスクを取れるか、常に見極めながら仕事にあたっています。

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ABOUTこの記事をかいた人

樋田 和正

樋田 和正(とよだ かずまさ) 長野県出身。大学卒業後、バーデンダーを経て、2014年BNGパートナーズに参画し、コンサルティング事業部にてマネージャーとしてIT系スタートアップを中心に多数のCxO採用に携わった後、2017年メディア戦略室長就任。執行役員 メディア戦略室長 / エグゼクティブキャリア総研編集長を経験。2018年同社退職。