「キャリアとはConnecting the dots.」
株式会社エウレカ
執行役員CTO 兼 VP of Engineering 石橋準也

エウレカ11Q:まず、石橋さんの生い立ちをお聞かせください。

僕は大阪に生まれ、6歳の時に北海道に引っ越しました。父親が自営業を営んでおり、新しい商売をする時は必ず拠点を移していたんです。道内でも徐々に北上し、最終的には稚内という日本最北端の地に辿り着きました(笑)

その後、建築の道に進むべく大学に進学するために上京しました。なるべく親に負担をかけたくないという思いもあったため、大学へ行きながら働ける場所を探していたところ、兄が勤めていた東京の会社に入れてもらえることになり、大学生兼社会人の一歩目をふみだしたという形です。

Q:そちらが1社目のXavelグループですね。

そうです。Xavelは当時フィーチャーフォンのポータルサイトでNo.1だった「girlswalker.com」を運営しその流れで「東京ガールズコレクション」などのリアルイベントも企画・実行していた会社で、とても注目されているベンチャー企業でした。そのグループ会社でWeb開発をしていたところ、兄からPHPを勧められたんです。フィーチャーフォンではJSが動かないため、マークアックプエンジニアはHTMLとCSSくらいしか使えないような時代です。プログラミングの知識が一切ない状態で、サーバーサイドに飛び込みました。

生まれて初めてのプログラミングは、とにかく面白かったです。文字を打ちこむことでものがつくられ、それが動くことが本当に新鮮でした。「こんなに楽しい世界があるのか」と夢中になり、そのお陰でキャッチアップは早くて、1~2ヶ月でWebシステムの開発に必要となる一通りのことはできるようになりました。

 

Q:その後、大学を中退された背景を伺ってもよろしいでしょうか。

建築方面に限界を感じていたことがベースにあります。実は、僕はとあるテレビ番組に出演している匠と呼ばれる建築士に憧れたという単純な動機で建築学科に入りました(笑)ただ、匠と呼ばれるような意匠系の建築士になれるのは、建築学科出身の中でもほんの一握りの人間です。建築の勉強は楽しかったですが、自分がめざすラインにはとても到達できないだろうと感じていました。

それに、当時はWebやIT界隈が非常に活気づいている時。2005年には「Web2.0」という言葉が生まれ、2006年にはGoogle社のエリック・シュミットがクラウドコンピューティングに言及たタイミングです。そういう状況でしたので、人生を賭けることに迷いはありませんでしたね。プログラミング能力には自信があったので、「エンジニアとしてなら絶対に成功できる」と確信していました。

中退を決意したのは、大学2年生の夏休みの時です。ずっと会社で仕事をしていたのですが、その時に「建築よりもITの方が楽しいな」と改めて思いました。そこから準備をして3年生の初めに中退し、正式に入社しました。

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Q:入社後はどのようなプロダクトに携わりましたか?

数多くのプロダクトに携わりましたがフィーチャーフォンの全盛期だったため、キャリア公式サイトの開発が多かったです。例えば、顔認識技術を使った占いなどですね。当時は今ほどWeb上の情報もありませんでしたし、オープンソースのライブラリも充実していませんでしたので全て1から作っていました。常に会社にいるようになったので一部の案件でPMも任され、プログラミング以外の仕事にも携わるようになりましたね。

ただ、僕はもともと情報系を専攻していたわけではないので、基礎が欠けていたんです。ソフトウェア開発工学やコンピューターサイエンスといった基礎ですね。そういった基礎やPMの方法論を知らないと、技術的により深いレベルに到達するのにも新しい技術へのキャッチアップにも時間がかかりますし、また他のエンジニアを動かすこともできません。そこで、IPAの応用情報技術者試験の勉強を始めました。目的は資格取得ではなく、すべてを理解することです。満点を取れるレベルをめざし、半年ほどかけてみっちりと学びました。朝3~4時に起きて7時くらいまで勉強してから会社に行き、22時頃に帰る生活でしたから、かなりストイックでしたね。それ以外にも基礎を身につけるために足りないスキルは網羅的に洗いだして徹底的につぶしていきましたが、当時学んだことは、今でも非常に役立っています。

 

Q:石橋さんは、目標を明確にして、着々と実行していくタイプなのですね。

そうですね。その時々の目標が、キャリアの流れを作っています。まずXavelグループにいた頃は、CTOになることが大きな目標でした。当時の僕は、技術力さえあればCTOになれると思っていたので、最初の4年間はひたすら技術力を磨いていたんです。ただ、いくら技術力が優れていても、ビジネスそのものには貢献できません。そのことに気づいてビジネス経験が積める会社に転職することを決めました。それが2社目のT-Gardenですね。ビジネス経験の強いエンジニアと言うと当時の自分のイメージではCIO的人材で、まずはCIOを目指して自社で運営する事業のビジネス・インフラ(物流/CS/システム)の刷新・統合を行いました。またその後自社Webサービスのプロデューサーを務める機会があり、その中でビジネスの面白さを知り、「自分で起業してみたい」という新たな目標が生まれました。そうなると、ビジネスだけではなく経営の力も必要になってきます。そこで、経営を学ぶことができる可能性があり、その過程で技術力やビジネス力をもっと伸ばせる会社を探し、エウレカに辿り着いたんです。

 

Q:エウレカ入社までの経緯をお聞かせください。

前職でプロデューサーを務めた自社サービスは、最後には収益化の目処をつけられたものの、そこまでにかなり時間がかかり、メンバーのモチベーションにも大きく影響が出ている時期もありました。事業が伸びていれば、少々つらいことがあってもそれすら楽しめるはずです。しかし、停滞している事業をずっとやり続けることほど、辛いことはありませんよね。ビジネスの0-1フェーズでは死にものぐるいで収益化することが重要ですが、大前提として、ビジネスモデル自体にセンスがないと収益化は見込めませんし、ぎりぎり収益化出来たとしてもその次の1-10フェーズでのスケールは見込めません。自分には、ビジネスモデルを作るスキルが圧倒的に足りなかったんです。

そのことを痛感していた頃、たまたま転職サイトでエウレカの求人情報に目が留まりました。「PHPがめちゃくちゃできるエンジニアを募集中!」という感じの書き口で、会社として尖っていそうで、興味を惹かれたことを覚えています。そこで話を聞きに行ったのが最初のきっかけです。

僕が求めていたのは、圧倒的に伸びるビジネスモデルを構築し、そのビジネスを正しく成長させられる会社です。赤坂(赤坂優/株式会社エウレカCEO)と話してみて、エウレカはそこにピッタリと当てはまる会社だと感じました。赤坂はビジネスモデルを構築するのも得意ですし、圧倒的なスピードで成長させる手腕もあります。実際に「pairs」も順調に拡大していくのが目に見えていましたし、ここでなら多くのことを学べると確信し、ジョインすることを決めました。

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Q:エウレカでご活躍されている今、石橋さんはどのような目標を掲げられているのでしょうか。

 「pairs」を文化にしたいです。アメリカでは、3組に1組の夫婦がインターネットを通して出会ったというデータが出ています。それを象徴するかのように、サンフランシスコの街頭では某ハイブランドのコスメの広告や某世界的アパレル・メーカーの広告に並んでオンラインデーティングサービスの広告が同じ枠で出ていました。日本では考えられないですよね。「これが文化になるということか」と実感し、日本でもオンラインデーティングを根づかせたいと強く思いました。

日本でいわゆる「出会い系」が敬遠されるのは、フィーチャーフォン時代のネガティブなイメージに起因していますが、。「pairs」ではマッチングの実績を増やしつつブランディングに注力し、ネガティブなイメージを払拭「出会い系」ではなく「オンラインデーティング」としての文化を確立していきたいですね。

そのブランディングの一環として、「pairs」のサイト上では「幸せレポート」と題して交際報告や結婚報告を掲載しています。最近では、お子さんが生まれたという報告もありますね。昔であれば「出会い系」がきっかけで結婚したとは公言できなかったと思いますが、徐々にそれが普通になってきている印象を受けます。オンラインデーティングを通して幸せになれる人が増えるよう、今後も工夫を重ねていきたいですね。

 

Q:「pairs」の開発環境を具体的に伺いたいです。

まずインフラでは、AWSをフル活用しています。DynamoDBやRedshift、SQS/SNS/SESなど、一通りのコンポーネントは使っていますね。一部ではGoogle(Cloud Platform)のBigQueryも使っており、CDNにはアカマイを導入しスタートアップ業界有数の膨大なトラフィックを捌く体制を整えています。社内の情報共有ツールは複数あり、Slack、Yammer、Qiita:Team、Confluenceを使い分けている状態です。Slackは基本的にはチャットですから、多くのことを情報共有するとすぐに流れてしまうんですよね。ですから、フロー型でありながらも留めておきたい情報はYammerに、本当に重要なストック型の情報はQiita:TeamやConfluenceに置いています。情報の重要度や粒度によって、ツールを使い分けているイメージですね。言語に関しては、エウレカのサーバーサイドはもともとPHPでしたが、「pairs」のサーバーサイドではGo言語でフルスクラッチをしています。WebのフロントエンドにはTypeScriptでAngularJSを採用していたり、Immutable Infrastructureを構築していたりと、技術的には結構攻めていると思います。

 

Q:ツールを導入するタイミングや、選定基準などはございますか?

導入を検討するのは、コミュニケーション面に問題が発生した時です。情報共有漏れや、セキュリティ上の問題ですね。当初はすべてFacebookグループでやっていましたが、常にリスクが付きまとうのでSlackに移行しました。ただ、今度はあまりにも情報が流れるのが早すぎたため、Yammerと併用することにしたのです。そうやって問題発生ベースで変えてきていますね。

また、僕が技術戦略を考える時には半年後を見るようにしています。半年後にユーザーが求めるサービスのクオリティや、社内で求められる開発スピードなどを予想し、今の環境ではサービスがスケールし続けられないと判断した場合は何らかの対策をします。Go言語の採用がその1つですね。元々「pairs」は既存のコードが今後の成長に即していない状況であったため、フルスクラッチが必要でした。そこで、最適な言語を考え始めたんです。半年後に開発スピードと組織力を保つためには、より優秀な人材を入れなくてはいけません。システムとしての安定性やレスポンス速度も上げなければいけない。そうなると色々な意味でPHPは適しませんし、このタイミングでRubyを積極的に取り入れる必要性も感じませんでした。いろいろと考えた結果、静的型付きコンパイル言語であるGo言語やScalaが候補に挙がってきました。ただ、Scalaはコンパイル速度が遅いというデメリットがあります。そこで、ちょうど人気に火が点きそうなGo言語を選びました。ただ、何が正しいかをその時点で読み切るのは難しくリスクもありましたが、そのリスクを織り込んだ上で意思決定をしました。

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Q:優秀な人材の獲得に向け、どのような採用基準と評価基準を設けているのでしょうか。

まずは、エンジニアとしてのベースがあるかどうかを重視しています。コンピューターサイエンスの基礎や、ソフトウェア開発工学の知識ですね。もちろん大学で学んでいてもいいですし、僕のように独学で勉強してもいいと思います。その上で、大規模サービス開発の経験やモダンな技術への興味・関心・キャッチアップなどを見ています。

もう1つは、エウレカとのカルチャーフィットです。これには2つ視点があって、1つはエウレカの社員としてのマインド、もう1つはエウレカのエンジニアとしてのマインドがあります。前者はGo Beyond(向上心)、Becoming a Founder(責任感)、All for All(仲間への愛情)の3つから成り立ち、さらにそれぞれを満たす要件を細分化して定義しています。後者は明文化されていませんが、例えば技術が純粋に好きか、それでいて技術を目的ではなく手段として捉えられるか、モノを作ることよりも使われることに喜びを感じるか、などです。組織は大規模化すると多様性が必要になりますが、ただただ多様性のある人を取るだけでは組織は崩壊します。多様性を保ちつつも、ベースのマインドを共有出来る人を採用し、常にそのマインドを意識する仕組みを作ることで、普段のコミュニケーションと意思決定をより円滑に回せるようになります。

 また、評価制度に関しては、四半期に一度面談を行っています。そこで活用されるのが「面談シート」です。そこには「専門スキル」と「3つのマインドでカテゴライズされたビジネス・スキル」に加えてマネジメントラインの人には「マネジメント・スキル」という3つの指標があります。それぞれの指標に細かい要件が定義されていて、さらにその要件に対してスコアがついています。非常に透明性の高い評価ですし、各要件に対してテキストでかなり細かくフィードバックされるので、納得感のある評価制度にはなっているかと思います。

 

Q:ありがとうございました。最後に、今後の活躍をめざすエンジニアに向けてメッセージをお願いいたします。

常に目標を明確にし、そこに対してスタンスを広く持ちましょう。エンジニアはキャリアに応じていろいろな仕事を任せられると思いますが、好き嫌いをせずにやってみるのが大事です。スタート時点での自分の判断軸が正しいかどうかはわかりませんし、やってみて初めて見えてくるものもあるはずです。ですから、とにかく何でもやってみることがキャリアアップに繋がるのではないでしょうか。

僕がエンジニアとして成長できたのは、数年後の目標を立てて、そこに向けて少しでも関連するかもと思ったり例え最初はそうは思わなくてもとりあえずどんな仕事でもやる姿勢、一度やったからには結果を出すことへのこだわり、そしてエンジニアリングへの情熱があったからだと思います。その積み重ねによって、まだまだ若輩者ではありますが、何とか今現在のキャリアを築くことができました。「Connecting the dots.」をめざし、ぜひ多くのことに真剣にチャレンジしてみてください。