Q.これまでの経歴を教えてください
1992年に大学を卒業後、総合商社のトーメン(現在の豊田通商)に入社し、8年間のうち2年間はシンガポールに駐在しました。その後独立系のベンチャーキャピタル(以下VC)に移り2年間投資の仕事をして、前職のみずほキャピタルに転職して13年以上。振り返るとVCにいた時期が一番長いですね。
もともと商社時代から、機械やプラントを東南アジア全域に輸出したり、プロジェクトへの投資をミッションとしていたのですが、日本企業の海外展開、海外進出をサポートできること、資金提供から経営まで深く関与できることが面白そうだったので、VCに移りました。
前職のみずほキャピタルでは投資担当者としてベンチャー企業への投資をしていました。テラスカイとは2008年に投資をしてからの縁になり、現職についたのは今年の9月からになります。今年の4月末にテラスカイが上場して、これで私の役割は終わったかなと思っていたのですが、会社としてさらにもう一段上を目指すので一緒にやりませんかというお話をいただきました。そばでずっとテラスカイの成長を見させていただいた私としては、ぜひやらせてくださいとお返事をさせていただき、今に至ります。
Q.クラウドサービスが出始めた2008年にテラスカイに投資した理由を教えてください。
VCというのは、投資する業界の成長が確実でないところに投資判断をしていくことが多いんです。この時も、日本でクラウドを使ったシステム構築が進むには時間がかかるだろうという予測で、実際にそうでしたが、クラウド業界で伸びる可能性のある会社を何社か回って比較し、その中でテラスカイはいけそうだという判断をしました。また、佐藤社長がIBMやセールスフォース・ドットコム社での経験を経て独立されたというのも決め手のひとつですね。彼の個人的な経歴、実績を見ていけると判断しました。
Q.投資を判断するときの基準は?
投資をするときの判断基準は大きく3つあります。ひとつめは経営者や経営陣が本当にやりきれそうかを見ます。社長が中心ですけれど、社長だけでなく、経営陣、チームとして上場まで、上場後もやりきるポテンシャルがあるかどうかを見させていただいています。2つめは市場規模。ある程度市場が拡大すると予想できること。3つめは会社として差別化できる技術や製品を持っていること、独自性ですね。
もちろん数字も見ます。ただ、大抵のベンチャーはそうですが、設立したばかりで数字は上がっていないことが多いので、会社の取引先に実際に話を聞きに行きます。例えばテラスカイのどこがいいのか、なぜテラスカイと取引きしているのですか?など。その会社に対するお客様の評価も投資判断のポイントとさせていただいています。また、みずほキャピタルのシステム会社としてみずほ情報総研というシステム会社があって、そこは今でもテラスカイのパートナーとしてやっていますが、当時の責任者の方にも話を聞いて投資判断の参考にしました。
Q.経営陣が本気でやりきるポテンシャルがあるかというのはどうやって見極めるのですか?
その経営者自身が今までやってこられたことと、起業するまでのストーリーに一貫性があるかどうかというのを見ます。この人はこういう思いがあって起業している、こういう思いでこの事業にかけている、そしてさらに将来、会社や世の中をどう変えていきたいかという思いに一貫性があるかどうか。そこに納得感がないと、我々もそうですし、将来上場したときの投資家が株を買ってくれない。だからそこは必ず見ますね。VCの最後の方は、その会社の社長と話すうちになんとなく直感でも感じるようになりました。
Q.最初の投資の時、もう1社VCが入られているようですが・・・
名前はひかえさせていただきます。(笑)大手のVCさんです。みずほキャピタルは、2008年と2012年の2回、テラスカイに投資しています。1回目のすぐあとにリーマンショックが起こり、その後の東日本大震災の影響もあって、かなり計画から乖離した実績値になったのですが、アメリカ進出するために必要な資金をどうしても調達しなければならず、当時のパートナーNTTソフトウェアさんと一緒に、投資してほしいという話になりました。みずほキャピタルとしてはなんとか出しましたが、もう1社さんは追加資金は出さないという結論を出されましたね。
Q.一般的なベンチャー企業ですと、もっとVCが入る気がするのですが・・・
佐藤社長が良い意味で慎重なのだと思います。あまり風呂敷広げて、高い株価でたくさん資金を集めて・・・という感じではなく、堅実に経営する中で結果的にそうなりました。他のVCからもアプローチは結構ありましたけど、必要な資金だけを調達していくということと、もちろんVCの持つ株式は最終的には売られてしまうので、事業会社からの調達を優先してやった方がいいのではないかと、私からもアドバイスさせていただきました。
製品開発だけをやっていくベンチャー企業であれば、立ち上げ初期に複数のVCから大量に増資して、一気に開発して赤字の期間をしのいでというのが一般的だと思いますが、テラスカイとしてはクラウドインテグレーション事業の売上が半分以上あるので、そこで出た利益や銀行融資もうまく使い、製品開発をしていくサイクルを堅実に回して、海外進出などの勝負に出るときだけVCから調達してきたということだと思います。
Q.監査法人はあずささんを選ばれていらっしゃいますが、どのような背景だったのでしょうか?
監査法人は大手のうちの1社であればいいと個人的に思っていますが、その中であずささんの担当の先生方との相性が良かったのだろうと思います。あとは担当の方が以前、クラウド関係の会社の担当をしていたことがあったそうで、業界に知見がありました。選ぶ基準としてはいろいろあるのでしょうが、最終的には積極的にやってくれそうか、相性が良いかどうかですね。
主幹事は何社かプレゼンしていただいて大和証券さんに決定しました。プレゼンしていただいた時にテラスカイに対する評価、期待値が高いなということが、最終的な決め手だったと思います。
Q.第三者的な立場から見た時の資本政策や、上場までの道のりについてどう思われますか?
VCで相当数の会社に投資をして、経営チームの月次会議などに参加させていただきましたが、その中でテラスカイが一番細かく、しっかりしているなという印象でした。週次や月次会議もそうですが予実管理の精度が高い。あとは、監査法人や主幹事証券会社の指導を受けながら上場までにやらなければならないことを着実にやっていかれたという印象です。上場自体はもう少し早くする予定だったので実際に時間はかかってしまったかもしれませんが、着実にやっていく能力がある会社だと思って見ていました。もちろん、上場の過程では直前になって不測の事態が起きそうになったこともありましたが、社内の管理部門の方々ががんばってなんとかくぐり抜けられました。
Q.振り返ってみて、もっとこうしておけばよかったと思う点はありますか?
特にないですね。ベストを尽くして上場はできる時になるべく早くやるというスタンスは、佐藤社長とも同じ考えだったと思います。もちろん思った通りにいかないのは常だと思います。計画もそうですしIPOマーケットにも波があるものなので。しいて言えば、株価に関しては、公募の株価と今の株価がかなり乖離しているので、証券会社との調整などはもう少しうまくやれたかもしれないという思いはありますね。
ちょうどテラスカイの上場前ですが、あるゲーム会社が上場直後に業績未達を発表して株価が下がるというショックが起きて、それ以降IPO市場が厳しく見られるようになりましたよね。ただゲームは不確実性が高いという中で、BtoBのクラウド事業は底堅いという市場の評価を受けられているのではないかと思っています。同時期に上場したBtoB企業も結構堅調ですし、やはりテラスカイが事業の核としているセールスフォース・ドットコム社の勢いがまだまだあるので、テラスカイ自体期待できるという評価を頂いているのだと思います。
Q.今回の上場ではどれくらいの資金調達をされたのですか?
調達は3億円強程度、必要最低限の金額だけ調達しました。それはやはりテラスカイの成長性や評価として公募価格はもっと高くてもいいはずという自信がありましたので、調達できる金額も最低限、経営陣もVCも売り出さず、売り出しゼロということになりました。
Q.今後もまた株式を使った資金調達をお考えですか?
そうですね。急速に事業が伸びていますので、必要に応じてやる可能性はあると思います。新製品や新サービスを次々にリリースしておりまして、今後事業展開する上での財務戦略的な意味でも、なるべく早いうちに東証一部も目指していきたいと思います。
Q.今回の資金の用途は?
主に人材採用です。事業が伸びていますので人が足りません。それから海外展開。9月に弊社のジェイソンが中心となって、アメリカで新製品「SuPICE」(スパイス)を発表しました。今回のスパイスという製品は米国で先行リリースして、次に日本でリリースというチャレンジングな形をとりました。セールスフォース社自体米国の会社で、セールスフォースのマーケットも一番大きいので、米国でスパイスを広く使ってもらい、フィードバックを受けて製品に生かしていく方法にチャレンジするという感じですね。
Q.その中での塚田さんのミッションは、一部上場するということなのでしょうか?
そうですね。IPOよりも一部に行くほうがハードルは高くないと思いますが、その役目もありますし、資金調達や、スカイ365やサーバーワークスのように投資をしていくということもありえます。
Q.CFOを目指す方へメッセージをお願い致します。
当たり前な話ですが、会社を経営しているのは経営者、経営陣です。VCは経営の思いや目標、ビジョンに共感してそれを達成できるようにあくまで側面支援するのだという気持ちで私はこれまでやってきました。そのスタンスは今も変わらず、会社の中に入って、より一層そのビジョンを達成するためにベストを尽くすこと。そういうことが好きであれば向いているのではないかと思います。
Q.塚田様が考える理想のCFO像とは?
社長、会社の志やビジョンを実現させるために、いろいろなカードを持っている人ということだと思います。カードというのは、経験や人脈、ノウハウなどですけど、多くあればある方が望ましいと思います。私もそんなにありませんのでがんばります。
Q.CFOを目指すにあたり、経験しておいた方がいいことはありますか?
CFOといっても、会社によってやることや領域は様々ですね。財務だけやればいいという場合もあれば、経理全般を担う場合も、採用から総務からなんでもやるという場合もあります。私の知り合いには上場会社のCFOが多いですが、かなり広範囲でいろいろな業務に携わっている方もいます。ただ中心になるのは財務経理になると思うので、ある程度金融の知識は必要ですかね。あと、CFOを目指すのであれば、大手上場会社の財務部門を経験しておくといいという話も聞きますね。大手上場企業の財務部門の経験というのは、ベンチャー企業では経験できないような金額、さまざまな調達手法を見られるなかなかできない貴重な経験ですから。私は商社のときには財務ではなく営業部門でしたが、ファイナンス知識で学ぶことは多かったです。
Q.VCで良かったことはありますか?
何よりも、自分が共感した経営者と、ひとつの目標である株式上場を共に迎えることができたときが最高でした。また投資検討で1000社くらいの会社の社長と会って、投資先の事業や経営のやり方、本当にいろいろと起こってくる問題への対応プロセスにかかわってきたことで、広い視野が持てたという部分も良かったことのひとつです。あとは、キャピタリストとしてのお付き合いから、現在上場しているベンチャー企業の優秀なCFOの方々とのネットワークができたことですね。何かわからないことがあった時に聞けるつながりがあるというのはとてもありがたいことです。