■略歴
慶應義塾大学在学中よりアスタミューゼ株式会社に参画。オープンイノベーション支援サービス「astamuse」を手掛ける他、大手人材紹介会社との提携事業を立ち上げ、サイトディレクションやWebマーケティングを担当。その後、株式会社アトコレを設立。代表取締役社長に就任。アート作品の解説まとめサイト「atokore」の立ち上げや、iPhoneアプリ開発などを行う。2012年、大学4年時に株式会社クラウドワークスに参画。執行役員に就任。2014年8月、同取締役に就任。2015年4月、同取締役副社長に就任。
「努力次第でなんとかなる」と思い、ビジネスの世界へ
■成田さんは若くして幅広くご活躍されていますが、どのような環境で育ってこられたのでしょうか?
出身は東京都の北区です。4歳年上の兄がおり、4人家族に生まれました。
子どもの頃はとにかくやんちゃでしたね。喧嘩もよくしました。手も出るし口も達者な少年だったと思います。一方でスポーツも大好きで、バスケットボール、剣道、卓球などに打ち込みました。
転機がおとずれたのは中学生のときです。中高一貫校だったのですが、入部したバスケ部がかなり特殊で、鬼のコーチのような、いわゆる昔ながらの古典的な指導をする先生がいました。そこで世代間のギャップを含めて、様々な人間としての在り方を学びました。
また、中学二年のときに父親が失踪してしまうという経験をしました。共働きだったのですが、突然、半分以上の収入がなくなり、片親になったことで私の人生も変わりました。離婚、自己破産、自宅の売却。さらに母親がノイローゼに。
その後、高校二年のときに母がストレスからくも膜下出血でたおれ、障害者となりました。両親がともにいない状態になり、その後は兄と二人で生活し、家事をはじめとするあらゆることを自分でやるようになりました。
そのような過程を経て、自分のなかで自立心が急速に芽生え、これはまずいということで色々な勉強をしはじめました。多角的な視点でインプットするだけでなく、物事をより広く深く考えるようになっていき、単純な勉強ではなく、哲学やアート、あるいは大学での授業に潜ったりして、自分自身を見直しつつ、学んでいましたね。
兄はとても優秀で、僕が高校二年生のときに東大に入り、大学院を経て、いまはアメリカで学者になっています。そんな兄がそばにいたこともあり、彼を模倣しても敵わないという思いから、ビジネスの道に進みました。
大学ではビジネスコンテストを行うサークルに所属し、そのサークルの先輩として、ユーグレナの出雲充さんやラクスルの松本恭攝さん、当時マッキンゼーにいたシリアルアントレプレナーの柴田陽さんらがいました。
その他にも、GEやLIXILの社長であった藤森義明さんや経営学者の米倉誠一郎さん、レオス・キャピタルワークスの藤野英人さんなど、刺激的な人たちと出会えたことは、その後の人生に大きな影響を与えました。
そういった経験から、大学1年の頃には、「いつか起業して、世界に通用するようなベンチャーをつくりたい」と思うようになりました。
■起業への意識は大学在学中に芽生えたのですね。交流していた起業家の方々からも刺激を受け、世界に通用するようなベンチャーをつくりたいと思うようになった。実現可能性についてはどのように考えていましたか?
正直、いけると思いました。学者やスポーツの世界よりも大分身近に感じられ、努力さえすれば一流の経営者になれると感じました。
経営は後天的に身に着けられる要素が大きく、それほど稀有な才能も必要ない。少なくとも自分は向いていると思いました。つまり、努力次第でなんとかなる、ということです。
当時からマイケル・ジョーダンやウサイン・ボルトと自分の間にあるギャップより、先輩経営者・起業家と自分とのギャップの方がはるかに小さく感じられたので、その感覚を大事にしています。
サークルが終わった大学2年時には、インターンとしてアスタミューゼ社に加わりました。4ヶ月ほどインターンとして働いていましたが、その後正社員になり月300~400時間ほど、正社員よりも働いていたと思います。
その後、学生起業を経験し、大学4年時にクラウドワークスに参画しています。インターンを経て、執行役員というかたちで入社しました。
■ご自身では、なぜそこまで頑張れるのだと分析されていますか?
あらゆる物事に対する取り組みへのエネルギーが、一般的な基準値より高いからだと思います。バスケでもビジネスでもそうですね。モチベーションが落ちるということもありません。
いわゆる「着火点」の違いだと思います。僕は何事に対しても着火しやすい性格なので、人より頑張れるのではないでしょうか。みんながおもしろいゲームやギャンブルに対して夢中になるのと同じです。対象がビジネスというだけで。
そもそもモチベーションは、その人が着火しているかどうかによって変わると思います。つまり、マネージメントの基本は、いかに着火点を用意してあげられるかどうかということ。ですので、相手がどうすれば着火するのかを考える必要があります。
その着火のためにあるのが、会社のミッションやビジョン、業績目標などです。それらの指標を活用し、その人が着火するようにコミュニケーションできれば、マネージメントはうまくいくと思います。温度感がズレることもありません。
いくら能力があっても、優秀でも、着火していなければモチベーションがあがりません。当然、取り組みに対する温度感も違ってくる。そのあたりに配慮して、採用活動もしなければなりません。
マネージメントの基本は仕事に対するスタンスとベーススキル
■クラウドワークスに入社した当時は、どのような業務を担当されていたのですか?
入社当時はまだサービスが1つしかなくて、組織もありませんでしたので、サービスをいかに伸ばすかということで、UXの改善からSEO、有料広告運用、大手企業とのアライアンスなどをメインに取り組んでいました。
サービス開始1年半後に法人のセールス部門であるエンタープライズ事業を立ち上げることになり、僕がそのトップに就きました。このあたりから、吉田との役割分担も明確になっていったかと思います。
現在では、プラットフォーム事業とエンタープライズ事業は私がみています。いわゆる事業の統括ですね。PLも見るし、広告の投資計画や組織コンセプトの設計、人員配置も考えます。
また、ほとんどの中途社員は僕より年齢が上ですが、特にマネージメントの難しさを感じたことはありません。そもそもマネージメントは年齢で行うものではなくもっとも大事なのは仕事に対するスタンス、ベースとなるスキル、そして経験値だと思っています。それが備わっていればマネージメントは可能という考えです。
たとえば、営業を統括するのであれば、前提として営業のスキルがあること。この点が欠けていればマネージメントはできません。逆に言えば、その点さえクリアしていれば、基本的には年齢に関係なくマネージメントの素養はあるということになります。
スキル以外の要素である仕事に対するスタンスや経験値についても、要はどれだけ勉強しているか、どれだけ努力しているかということに尽きます。その点、僕が他の人より劣っているということは無かったのかと思います。様々な先人の知恵を今も習得し続けていますし、当社の社員からも常に学び、必要に応じてどんどん変化・進化させています。その努力は常にしています。
■現状では、どのようなミッションを掲げていますか?
全社のPL達成、つまり業績的な目標達成、それを実現するうえでの事業戦略と組織戦略の立案、および実行。このあたりが、全体的な私のミッションです。
エンタープライズ事業の立ち上げの時は立ち上げに集中していましたが、現在では「クラウドワークス」というプラットフォームサービスと新規事業の「WoW!me(ワオミー)」という2つのプロダクトを中心にみています。
プロダクトを伸ばすための戦略や組織戦略などを考えながら、特にエンジニアリング・テクノロジーの側面から組織を活性化させるための方法を模索しています。
■既存のCtoCサービスも多数あるなか、このタイミングでWoW!me(ワオミー)をスタートされた理由についてはどのようにお考えですか?
競合他社の動きはあまり考慮していません。むしろ、当社が取りきれていないマーケットを取りに行く、というスタンスです。それが内製なのか、外部から買ってくるのか、パートナーを組むのかという選択肢の中で、もっとも合理的だったのが内製だっただけの話です。
そもそものマーケット規模から考えて、競合が数社いるぐらいで熾烈なパイの奪い合いになるほどのものではありません。開発体制もオペレーションも、これまでに蓄積された社内のリソースを生かせるという観点から参入しています。
バリューを共有することで社内をまとめていく
■創業メンバー4人のなかで、とくに社長の吉田さんとはどのようなコミュニケーションをとられていますか?
基本的な役割分担として、既存事業や新規事業、組織の内側に関しては僕がみています。一方、組織の外側、つまり外部との折衝やファイナンス、IRは吉田の管轄です。まとめると、内と外とで役割分担をしているイメージでしょうか。
そのうえで、コミュニケーションについては、「お互いがやっていることを、お互いに見える化しましょう」というスタンスで行っています。やっていることやその進捗を含めての情報共有ですね。基本的には何でもオープンです。
大きな方針としては、組織のビジョンと事業のビジョンがありますので、その点をふまえて、お互いの担当領域を決めて運営しています。
たとえば、これからどの市場を狙うのか、どのマーケットが残っているのか、どうやって攻めるのか。あるいは、どんな組織にしたいのかなどを共有し、重要な意思決定に際しては議論を行い、経営陣で決める。それぞれがお互いに提案し合って議論を深めています。
■成田さんから見て、吉田さんはどのような人ですか?
やはり、突破力や外交力が特出した人だと思います。
たとえば、彼が “「働く」を通して人々に笑顔を”というミッションと「働き方革命」というビジョンを打ち出し、社会に対して発信し続け、結果を残してきたからこそ、現在のクラウドワークスがある。
もちろん、サービスの視点が良かったということもあるし、執行力が高いメンバーがたくさん集まったということもあるとは思いますが、それもミッション・ビジョンと、我々の発信力がもたらしたものです。
そのような外に対する「伝える力」、外交や交渉力をふくめた「発信力・広報力」というのは、会社にとっての大きなバリューであり、吉田自身の圧倒的な強みであると思います。
■ビジョンの共有という意味で言えば、社内と社外で異なりますよね?
吉田が社外への発信に注力している一方、社内に関しては、マネージメント体制を整えるというかたちで僕が担当しています。
具体的には、「CWマネジメント3」というマネージメントバリューをつくり、そのバリューをもとに社内で議論をしています。
CWマネジメント3の中身としては、「ビジョナリー」「カダイハッケン&カイケツ」「メンバーアイ!」の3つで構成されています。
1つ目の「ビジョナリー」は組織ビジョンや、事業ビジョンをつくり、当該組織内に浸透させていくということです。。
2つ目の「カダイハッケン&カイケツ」は、日々の業務において高速PDCAを回し、課題があったら即対応する。行動計画をもとにした強い執行力を指します。
3つ目の「メンバーアイ」は、メンバー育成のコミットメントですね。メンバーの育成支援を行えているか、メンバーの成長を第一に考え、マネージメントを行えているか、という点です。
このCWマネジメントをもとに月に1回自己申告制で振り返り、マネージャー会議ではマネージャー陣で経験や事例を踏まえて議論するという環境を作っています。
「今月は何ができましたか?」「できなかったことは何ですか?」「なぜできなかったのですか?」「来月はどうしますか?」ということを、私も含めて全マネージャーに必ず振り返ることで、組織内の浸透を図ることができると思っています。
COOは「マネージメント・オブ・マネージメント」であるべき
■社会の動向やトレンドを加味して、今後はどのような方向性で事業を進めていこうと考えていますか?
やはり「働き方革命」というビジョンに基づき、労働マーケットの変革を推進していくつもりです。たとえば、eコマースは世の中の消費現場を大きく変えました。ものの消費(購買)を実店舗からオンラインにリプレイスすることで革命を起こしました。
労働マーケットも大きな変化の渦中にあります。リモートやダブルジョブなど、インターネットを通じて新しい働き方が誕生し、働き方革命が起きています。この革命を牽引していくのが我々の役目です。
革命のアプローチは2つで、1つは既存の労働市場のオンライン化。1つは職業の概念を広げていくことと考えています。
1つの既存の労働市場のオンライン化ですが、労働市場を「収入」のマーケットと考えれば、その規模は年間260兆円と超巨大です。その市場をいかにオンライン化できるか。いまは多くの人が企業に勤め、リアルな環境で収入を得ていますが、クラウドソーシングやフリーランスのような働き方の変化によって収入の得方も大きく変わります。それによって生き方も変わっていますよね。
画一的な価値観から、ある意味ローカルであり、ある意味多様な価値観が生まれてきているこの会社で、より利便性の高いプラットフォームを創っていくことが、我々の第一のミッションです。
また、2つ目としてお伝えした職業の概念を変えていくことも重要とみています。例えば「Uber」の誕生によってドライバーという働き方に大きな変化が生じています。「Airbnb」もそうですね。自分の家が収入源になり、これまでになかった「仕事」が生まれました。その点、我々のサービスであるWoW!me(ワオミー)も、「個人の得意がそのまま仕事になる」という世界観の醸成に寄与するのではないかと考え、提供しています。
そもそもの職に対する考え方そのものを変革していくことでマーケットを広げていく。そんな方向も考えていきたいと考えています。
■ありがとうございます。最後に、COOを目指されている方やCOOの最適化に悩まれている方へ、メッセージをお願いします。
もっとも大切なのは、それぞれのスキル、マインド、ナレッジをきちんと理解し、積み上げていくことだと思います。
営業社員なら営業スキルが必要ですし、プロダクトの担当者ならプロダクトをつくるスキルが必要、エンジニアならエンジニアスキルが欠かせません。そういった基本スキルを磨きつつ、マインドとナレッジを蓄積することが大事だと思います。
COOというのは、つまりは「マネージメント・オブ・マネージメント」です。さまざまなバックグラウンドを持った人材を束ね、経営するためには、単純なスキルだけでなく、強固なマインドセットやリーダーシップ、人間としての懐の深さも必要だと思います。そういったものを、いかに醸成できるかが大事ではないでしょうか。
業務を通じてより高次元な体験を積み上げ、結果を残し続け、人間としての器を高め続けられるということが、COOの必須要件だと感じています。