Q:これまでのご経歴から伺わせてください。
大学院を卒業後、アナリストを目指して証券会社に入社しました。しかし、ちょうど時代はITバブル。急成長するIT業界に興味が湧き、その渦中で働いてみたいと思って、証券会社を辞め、ガイアックスに入社しました。そこで出会ったのが古俣です。彼はその頃から将来起業すると言っていて、冗談で「起業したら雇ってほしい」と言っていたんです。その後、私はガイアックスを辞め、公認会計士の資格を取って監査法人で働いていました。そんなあるとき、道でばったり、ピクスタをつくったばかりの古俣に会ったんです。それをきっかけに、しばらく監査法人に在籍したまま、時々会計処理の相談に乗っていました。3年ほど経って古俣から「そろそろIPOするから手伝ってもらえないか」と頼まれ、いい機会だと考えてピクスタに入りました。
Q:決め手はなんだったのでしょうか。
やはり社風というか、会社の雰囲気がよくて、ここで働いたら楽しそうだと思ったんです。管理系の業務は極端な話、どんな企業であってもやることはさほど変わりません。。そうなると、社風や、一緒に仕事をしたいと思える人かどうかは、大きな要素だと思います。
Q:恩田さんがピクスタに入られた2011年に、ベンチャーキャピタル(VC)から資金調達されていますね。
その途中で入りました。ピクスタの最初の調達は2008年のリーマンショック後で、業態がプラットフォーマーですので、VCを見つけるのもなかなか大変だったと聞いています。
Q:恩田さんが資金調達の面で気をつけた点を教えてください。
調達方法は、会社のビジネスや資金フローによって変わります。弊社は、売上の入金よりも、仕入先であるクリエーターへの支払いが遅いため、一定の損益分岐点を超えると、資金的には回ります。キャッシュが安定しているので、必要な分を調達できればいいと考えていました。また、調達先もVCだけではなく、借り入れでもいいと思います。弊社も最初は借り入れも考えましたが、結果的にはVCにお願いすることになりました。
Q:主幹事証券は野村証券ですね。
はい。ビューコン(ビューティーコンテスト。主幹事証券の選定)を通して、どの証券会社さんとも良いコミュニケーションを取ることができたのですが、結果的には野村さんに決めました。選定の際に重視したのは、どのぐらい弊社の事業を理解していただいているかです。株価を付ける際、証券会社の営業の方のその先に株価を付ける方がいるので、まず営業の方に弊社を理解していただくことが重要だと考えました。一つ一つの段階で、その方々のニーズを満たしていくのは非常に難しかったですね。
Q:証券会社との交渉で、ほかに気づいたことはおありですか。
早めにこちらの期待値を伝えておくことです。弊社もそうですが、最近のベンチャーはVCが入っているところが多いですよね。VCは投資先が上場したところである程度の資金を回収しないといけません。VCも証券会社も、それぞれに思惑があるので、「株主さん、VCさんはこれくらいの時価総額が欲しいそうです」とか、期待値を伝えて、コンフリクトを避けることは重要だと感じました。
⚫オペレーションは使いやすさが大切
Q:ピクスタの内部統制を担当して苦労したのはどんなことですか
私が入社したとき、ルールや規程はまだまだ整っていませんでした。中には「稟議ってなんですか」という人もいたので、いきなり「稟議制度始めるのでお願いします」では済まないわけです。そこで「こういうために稟議は必要なんです」と説明していきました。整備にあたっては、管理側のやりやすさより、みんなに使いやすくカスタマイズするのが大変でした。
Q:以前、CFOの方から「内部統制を整備する段階で必ず問題が起きる」と聞いたことがありますが、御社ではいかがでしたか。
そこまで問題にはならなかったように思います。自分自身会計士としての経験があり、やり方に慣れていたこと、また長めに期間を設けてゆっくり進めたことがよかったのだと思います。また、上場のために必要ならば、という形で周囲も受け入れたので、むしろやりやすかったですね。
Q:今の取締役コーポレート本部長としての役割をどのようにお考えですか。
今は、経理、法務、総務、人事といったオペレーション周りを担当しています。また上場中はその準備、上場後はIRや資金調達のマネジメントをメインに、それらがちゃんと回っているかを確認しています。つまり、新しく何かを始めると、必ずその後ろで仕事が回るような仕組みを作ることですね。資金調達はスポットで起こるものですが、オペレーションはずっと続くものですので、仕組みをうまく作れるか作れないかは日々の業務に関わってきます。
Q:オペレーションを整備するときのポイントはなんですか。
まず、使う人が使いやすいことです。設計しやすさを優先したオペレーションは、後から見ると、しっかり使われていなかったり、使ってもミスが出ていたりします。作ったフローをみんながちゃんと使えるかどうかについては注意が必要です。特に、大きな仕組みの中では、フロントの人がやりやすいと感じるものと、バックエンドの人がやりやすいと感じるものが全然異なってきますので、うまく調整しなければなりません。だからこそ、私のようなコーディネートする立場が必要ですし、みんなが納得できるよう説明することを心掛けています。
Q:オペレーションを作った後はいかがですか。
見直しや手直しをしますが、その際に極力、私ではなく別の誰かを担当にして、一緒に見ながら、その人を育てることにしています。そのようにしてプロジェクトマネジメントできる人を増やしていきたいと考えています。
Q:そのときのポイントを教えてください。
前職の監査法人では、周りの人はだいたい同じというか、なんとなく考えていることが分かっていました。ベンチャーでは、考え方も価値観も異なる人ばかりですので、できるだけ相手の考え方に合わせて説明するよう心掛けています。少し難しくは感じますが、逆に面白いですね。想像しなかった答えが返ってきて、なんでこんな考え方するんだろうと思って聞いてみると、それがまた面白いんです。自分の考え方や思考が広がったのはベンチャーに来てよかったと思ったことですね。
Q:こうありたい、といった理想像を聞かせてください。
会社を成長させようという人たちの手助けをし、それによってその人も成長していくのが一番いいと思うんです。最初はそんなにスキルがなかったとしても、どんどん成長していく。大きな会社では上が詰まってる場合が多いと思いますが、弊社はそうではありません。人が成長していくのは一番うれしいことですし、会社にとってもいいことですし、働いてる人もハッピーになりますよね。
⚫日本から、アジアへ。
Q:今後はどこに注力して投資していく予定でしょうか。
一つは、やはりプロモーションですね。今はWebでのプロモーションが効率的だと考えているので、一定割合をSEM(Search Engine Marketing)に割いています。もう一つは、売上を上げるために、サイトをちゃんと作ってサービスを増やしていくためには開発系のリソースに投資が必要です。また、弊社は素材を仕入れて売る商売ですので、素材をより多く集めていくところに資金を使っていきたいと思っています。
Q:自社のポジショニングをどのようにお考えですか。
小売でいえば弊社は伊勢丹ではなく、ユニクロですね。安くて、品質の良いものをたくさんお届けする。海外の競合他社は日本のコンテンツが多くありません。特に人物写真素材は、風景に比べて誰でも撮れるものではないので、弊社の日本人コンテンツの豊富さは、競合他社との差別化につながっています。また、これを実現するために弊社では、クリエイター(撮影投稿者)が人物写真を撮影できる環境を整え、仕組み化しています。この弊社独自の仕組みがPIXTAの独自性と優位性を生み出し、素材を必要とする方々の利便性へとつながっています。
Q:海外へも進出されましたね。
ピクスタが現在ターゲットしているのはアジアです。2013年11月にシンガポールに子会社を、今年の7月には台湾に支店をつくりました。特に東アジアは人種、文化など親和性が高く、弊社が強みとして掲げている日本コンテンツがそのまま受け入れられています。また欧米素材ではなく、アジア素材に対する需要は年々増加していますので、まずは台湾を拠点に東アジアを中心とした販路拡大を目指します。同時に、地域に根ざしたローカルコンテンツを地道に集めて展開し、国内No.1からアジアNo.1へと飛躍したいと思っています。
⚫ベンチャーでは専門と変化を楽しむマインドを持とう
Q:これからCFOを目指す方へアドバイスをお願いします。
一つは、私だったら会計や管理周りは得意、といったように、人と違う専門領域があるといいと思います。ただ、それがあったからその先に行けるということではありません。会社にとって必要なスキルは、会社が成長していくにつれて変わっていきます。そのときに変化を楽しめるぐらいのマインドの人がいいと思いますね。
Q:「変化を楽しむ」とは、具体的にどういうことでしょうか。
特にベンチャー企業は決まった枠の中だけで仕事するわけではありません。こんな仕事もするのかということもたくさんあります。そこで「おっ、こう来たか」「やったことないけど、楽しそうだ」と思えないと、つらいかもしれません。よく大手から給料まで下げてきたのに、楽しくない仕事をしてしまう人がいますが、それはすごく残念だと思います。
Q:楽しめるかどうかを見極めるにはどうしたらいいでしょうか。
いきなり転職をしないほうがいいと思います。最近はSNSでいろんな方に知り合うことができるので、まず遊びにいって雰囲気を感じてみる。特にベンチャー企業では社長やマネジメントの雰囲気の影響が大きい。仕事は好きで転職したのに、社長と合わなかったとなると大変ですからね。
Q:確かに、社長と合わなくて転職する人は多いですね。
職位が上がれば上がるほど、社長と合うか合わないかは大きなポイントになってきます。給与などの条件も大切ですが、働いて楽しいか、楽しめるかどうかはさらに重要ではないでしょうか。
Q:これまで多くのベンチャー企業を見てこられたと思いますが、うまくいく会社の条件はなんでしょうか。
やはり社内が明るいことですね。大手は社長が誰になっても変わりませんが、ベンチャー企業は小さければ小さいほど、社長のカラーが出ます。またベンチャー企業には、いいときもあれば悪いときもあるものです。悪いときには、それなりの理由がないと人は残りません。その時、大事になるのが、社長の人柄や、社風なんだと思います。
Q:御社ではいかがですか。
弊社にも創業時からの社員がいますが、やはり社風や働きやすい環境があるのだと思います。だからといって、古参社員ににとって有利な仕組みがあるわけではありません。弊社も、以前部長職についていたが、成果が出せずに部長ではなくなった例もあります。そこは社歴ではなく、実力でシビアに見ています。
Q:では、降格してもいられる環境ということでしょうか。
弊社では部長が偉いという感じがないんです。誰も、部長とも、社長とも呼びません。役職はありますけれども、それはあくまでも役割です。古俣がよく「社長というのは役割です」と言うんです。「誰が言ったかではなく、何を言ったか」。そういうフラットな考えで、ちゃんと合理性があれば役職を問わず意見は通ります。この社風があるからかもしれないですね。