人事の役目は組織の中の「潤滑油」 
株式会社ゆめみ
総務人事部長 松田新吾

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Q:まずは、松田さんのご経歴についてお聞かせください。

 大学卒業後、営業職としてある会社に就職したんですが、どうも自分には合わないと感じ、入社して2週間で「辞めます」と切り出したんです。すると「総務人事に来てみませんか」と提案されました。新卒の身だったので総務人事と言われてもいまいちピンときませんでしたが、たった2週間で会社を辞めるというのも穏やかではないので「行きます」と答えたんです。それ以来ずっと総務人事をやっています。

 2社目の会社ではいいメンバーにも恵まれて、ずっとここで働こうと思っていたんですが、ある時、社長が会社を売ってしまったんです。するといろいろなファンドが入ってきて、社内が一変してしまいました。経費削減から始まり、さらに採用に関しては「強い者が残ればいいから全員合格にしてください」と言われまして。それなら自分がここにいる意味はないと思い、転職活動を始め、ゆめみという会社に出逢いました。当時社長だった深田と面談したときに、良いこともそうでないことも包み隠さずにとにかく色々なことを教えてくれまして、その人柄にすごく惹かれたんです。この人とだったら一緒に頑張っていけると思い、2006年にゆめみに入社しました。

Q:ゆめみに入社されて、最初に取り組んだのはどんなことでしたか?

 女性社員の採用です。ゆめみには当時50名ほどの社員がいたんですが、そのうち女性が5名位しかいなかったんですよ。会社に入った瞬間「暗い!」と思いました(笑)。今、70名の社員のうち、女性は25名にまで増えましたが、女性が増えるにつれて、社内の雰囲気もやはり徐々に明るくなっていきましたね。

 総務も新たに1名採用しました。当時は溜池山王にオフィスがあったんですが、240坪という広さで、しかもコの字型になっていまして。総務は大体入口の辺りにいますから、反対側にいる人を呼びに行くのが大変なんですよね。ですから、当時の採用の第一条件はパソコンができるか、資格を持っているかではなく、「走れるかどうか」でした(笑)。また、総務は受付も兼ねるので、その人次第で会社の第一印象が決まってしまいます。無遅刻・無欠勤でしっかりしていて、印象が良くて、走れる人、を探して採用しました。 

 

Q:採用の決め手と考えていらっしゃるポイントはありますか?

 一言で言うと、男性でも女性でも、「可愛げのある人」です。可愛げがあるというのはつまり、憎めない人ということ。その人が困ったとき、周りの人は「この人だったら助けてあげたい」と思えるんですよね。当社の採用はほとんどがエンジニアですが、一緒に働く以上はやはり仲間としてやっていきたいので、スキルよりも人柄を重視しています。あとはありきたりではありますが、自分が一緒に仕事をしたいと思えるかどうかですね。

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Q:社内制度にも力を入れていらっしゃるそうですね。

 そうですね。制度を作る上で第一に考えるのは、他の会社ではやっていないことをやる、ということです。他の会社で既にやっていることをマネても面白くないですから。福利厚生に関しても、単にお金をかければいいというものでもありません。そんなに経費をかけずに「それは面白いね」と言わせることを念頭に置いています。

 ゆめみは世間的にはまだまだ認知度の低い会社ですが、人事としては、いつか「ああ、あの面白い会社ね」と言われることがある意味ゴールです。でも単に話題性を狙ったものは好きではありません。いくら制度を作ったとしても、使われなければ意味がありませんので。我々人事はエンジニアではないので、制度という面からゴールを目指していきたいと考えています。

 社内制度として最初に考えたのは、「野菜支給制度」です。健康診断を受けたときに若い社員達の結果がボロボロだったらいやなので、健康をテーマに制度を作ることにしました。健康管理も仕事の一つですし。健康管理はまずはバランスが取れた食事から、ということで、毎月1回、契約農家から産地直送の新鮮な野菜を社員全員に配布しています。野菜支給制度をはじめるにあたって、社員全員が賛成してくれたわけではありませんでしたが、そんなことを言っていたら制度なんて作れませんよね。まずはやってみようということでスタートして、もう4年になります。「美味しかったよ」「自炊をするようになりました」という声を聞くと本当に嬉しいですね。

 そして、2013年には「ゆめみ+(プラス)」と題して、社内ゲーミフィケーションをスタートしました。その1つである「ゆめWalk」も健康をテーマにした制度です。社員一人ひとりが歩行距離を測ることができるウェアラブル端末を持ち、お遍路さんになぞらえて、どれだけ歩いたかを競います。実は、私はIT系の会社にいるにも関わらず、唯一の超アナログ人間でして(笑)。最初は紙の表を作って貼って、万歩計の数字を毎日集計して、一人一人の顔写真を結果に応じてずらしていったりしていたのですが、それを見かねたエンジニアが端末と連動したシステムを作ってくれたんです。みんな優しいんですよね。「さすがはIT」と感動しました(笑)。今は社員約70名中60名ほどが「ゆめWalk」に参加しています。

 当社の経営理念のひとつは「笑顔で全力投球」。社内制度というとやっつけ仕事になりがちですが、やるからには全力でやりたいですよね。「ゆめWalk」は私が言い出したこともあり、仕事に支障が出るギリギリまで頑張って歩き、1位を勝ち取りました(笑)。作るだけではなく全力でやるのが、私の制度作りの上でのこだわりですね。

 

Q:注目を集めた「逆面接」はどのような経緯で始まったんでしょうか。

 当社は2008年から新卒採用を始めたんですが、年々学生がパワーダウンしていて、人事としては物足りなくなってしまいまして。そこで、「どうすれば以前のように生き生きとした学生に会えるだろう」と新しい採用制度を考えた結果、逆面接が誕生しました。

 逆面接では、まずは学生に会社の履歴書をお渡しします。「株式会社ゆめみ 8歳」という感じですね(笑)それを見ながら、こちらに対して自由に質問をしてもらいます。そして、逆面接の極めつけは、合否を学生自身が決められるという点です。そこで当社に対して「合格」を出していただければ、次は役員による最終面接に進めるという流れになります。

 

Q:実際に逆面接を実施してみて、結果はいかがでしたか?

 全員が当社に対して「合格です」と答えました。当初は合否が半々くらいに分かれるだろうと思っていたので、ちょっと予想外でしたね。ただ、逆面接ではこちらからは一切質問しないので、完全にノーヒントのまま最終面接に進むわけです。最終面接は従来通り役員が行いますから、皆さん叩きのめされていましたね(笑)

 正直なところ、初めての試みなのでそこまでうまくはいかないだろうし、多分内定は出ないだろうとは思っていました。実際に、逆面接から採用に至った学生は一人もいません。ただ、ノーヒントな分、学生それぞれの個性が見えて面白かったですよ。会社のことを質問してくる学生もいれば、会社ではなく私のことを聞いてくる学生もいましたし、準備の度合いも人によって異なります。どんな人が来るかというのもすごく楽しみでしたし、結果的に会社の知名度も多少なりとも上がりましたから、結果的にやってよかったと思っています。

 逆面接はもともとその年度だけで終えるつもりだったんですが、その2年後くらいにちょっと改良した「逆面接2」も行いました。というのも、社内から「なんで逆面接をやめてしまったんですか?」という声が挙がり、起草者としてとても嬉しかったんです。どこを改良したかというと、面接官を私と女性社員の2人にして、どちらか選べるようにしました。そして、面接の権利を得るために必要なのが「逆エントリーシート」。当社から学生に質問するのではなく、学生から当社への質問を出してもらうというものです。「こんなことを聞いてくるのか」と思えるような面白い学生を待っていたんですが、蓋を開けてみるとありきたりな質問ばかりで、全員が逆エントリーシートの段階で落ちてしまいました。結局、昔のようにエネルギッシュな学生に出会うことはできず、とても残念でしたね。

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Q:学生の質が変わってきたのはなぜだと思いますか?

 「まずやってみる」という意識が薄れているからだと思います。昔はまずはやってみて、穴に落ちて、痛い思いをする。その痛さを覚えているから、二度と落ちないようにするという若者が多かったんですよね。今は「まず検索する」「まず本を読む」という人が多く、実際の経験が圧倒的に足りません。ですから、話すことに実感が伴っていないんです。

 「頑張ります」と言う学生は多いですが、言葉ではなく、頑張っている証拠を見せてほしいです。「今頑張っていて、こんな試作品を作りました」と見せてくれる学生と、ただ「頑張ります」というだけの学生なら、明らかに前者を採用しますよね。そこが大きな違いなんです。当社はモノづくりをする会社ですが、本当にモノづくりが好きであれば「土日は何をしていますか?」と聞いたときにカラオケなんて答えません。人事が求めているのはそんな答えではないんです。

 「やってみる」タイプの若者は、そうでない若者とは目の輝きが全然違います。そういう学生に出会いたいですね。

 

Q:組織の中での人事の役割についてどうお考えですか?

 自分が実際そういう役目を果たせているかはわからないですが、潤滑油の役割ですね。いかに皆が働きやすい土壌を作ってあげられるか、そこに尽きると思います。人間にはやはり相性というものがありますが、それを「この仕事はこの人にしかできないから」と留めてしまうと、いずれどちらかが辞めてしまうか、半分くらいの働きしかしなくなります。そのくらい環境というのは大事なんです。やはり企業である以上は売上を上げないといけないですし、シビアに見ないといけない部分もあります。

 しかし私は人事の人間ですから、利益ありきで人員配置を考えているわけではありません。人をうまく配置して、皆が気分良く働いたほうが結果的に売上も上がると考えています。ですから、どんな体調なのか、どんな精神状態なのか、ということが把握できるよう、常に社内には目を配っています。

 あとは、相談しやすい環境を整えることですね。もともと人事をやることになったら、皆が気軽に相談できるような場所を作りたいと考えていました。ですから、人事部に人を採用するときは特に、その気持ちに共感してくれる人を採用します。また、他人から相談を受ける立場の人間は、いろいろな経験を積んでいないと対応できません。

 本を読むばかりでなく、どれだけ実経験を積んでいるかが重要ですね。

 

Q:最後に、人事をめざす若者へのメッセージをお願いいたします。

 人事に必要なのは経験です。「人事制度」や「人事とは」と堅苦しく書いてある本を読むよりも、とにかくいろんな人と交流してください。そして、男性であればとにかく女性を口説くこと。性格、趣味、好きなものまで、一人として同じ女性はいませんよね。さまざまなタイプの女性を、あなたならどうやって口説きますか?ということです。自分はどうなのかというと何とも言えないですが(笑)多分、モテる男性は人事が上手いです。人の気持ちに敏感ですし、言葉の選び方やタイミングも絶妙ですよね。人の空気を読む力が、人事にとっては強い武器になります。人事をめざしたいのであればいろんな経験を積んで、どんなに相手とぶつかろうと口説くこと。それに尽きますね。まったくタメにならないかもしれないですが、参考にしていただければ幸いです(笑)

 

松田 新吾 プロフィール
好きな映画ジェイソン・ステイサム出演映画
好きな作家夏目漱石
座右の銘攻撃は最大の防御
趣味卓球、サッカー、バスケ、テニス、ゴルフ、釣り、ドラム、ピアノ、ギター、お酒、旅行