国内で法人向け固定通信、移動体通信、ブロードバンド、情報通信機器などの情報通信産業に特化してきた株式会社ビジョン。これまでに培ったノウハウとリソースを投入して、新たに海外向けモバイルWiFiレンタル事業を開始し急成長。経常利益を150%成長に導いた「インターネット×ヒューマン」の秘訣と今後の展望を聞いた。
■経歴
1969年 鹿児島県生まれ
1988年 私立鹿児島商工高等学校卒
1991年 某大手通信会社に入社後、すぐにトップセールスとなる
1995年 有限会社ビジョン創業
1996年 株式会社ビジョン改組
2012年 海外向けモバイルWiFiレンタルサービス「ビジョン グローバルWiFi」スタート
2015年 東京証券取引所マザーズに上場
富士山の見える場所で独立するまで
Q:まず起業までのお話からお聞かせください。
A:出身は鹿児島県で、学生時代はずっとサッカーをやっていました。高校最後の選手権で優勝することが最大の目標だったのですが、決勝戦で負け、サッカーを卒業することにしました。高校卒業後、地元で就職の面接を受け、40~50人の中から私だけ採用されたのですが起業したいという夢を貫くことにしました。鹿児島県下で1人しか採らない枠だったということもあり「来年以降、母校からの採用がなくなったらどうするんだ」と指摘も受けたのですが、19歳で東京へ出ました。
Q:その後、東京ではどうなさったんですか。
A:既に東京で起業していた小学校からの友人の家に住まわせてもらいながら、面接に行きました。私は起業をして頑張っている彼に凄く刺激を受けました。彼は、今で言うとSOHOのような感じで、超高層ビルの設計をやっていました。それに触発され、さらに起業意欲をかきたてられました。
Q:入社したのは光通信でしたね。
A:当時、情報通信分野では通信が自由化され、京セラの稲盛和夫さんが第二電電をつくったばかり。稲盛さんは同じ中学校の大先輩で、ずいぶん前にお会いしたこともありました。すごい方だということだけはわかっていました。東京から鹿児島にかける電話代はとても高く、これを安くできるサービスができるなんて素晴しいと思ったんです。
また、「通信」は、人と人のコミュニケーションであり、かたちは変わっても未来永劫に続く、新しい業界で可能性がある、そう思いました。いろいろ見た中にあったのが、第二電電の代理店だった光通信でした。まずよかったのは、同期10人のうち7人がいつか社長になると口にするほど志の高い人たちだったことですね。私もいつか起業をしようと思っていたわけですが、研修を受けた1週間で、日本経済はサラリーマンが支えていると考えるようになり、起業するにあたってもしっかりとした会社をつくろうと思いました。
Q:研修後はいかがでしたか。
A:一人で飛び込み営業に行きました。一日100件飛び込んで、話を聞いてくれる人はだいたい10人、契約をいただけそうな可能性のある人が5人ぐらい。新しいものを覚えるのは大変でしたが、四六時中、仕事漬けでも別に辛くはありませんでした。その後、そう時間はかからずに全国トップのセールスマンになりました。
Q:営業トップになってからは、その後どうなったのでしょうか。
A:役職が上がりました。プレーヤーから今度はチームを見ていくわけです。学生時代にやっていたサッカーもチームプレーでしたが、1人だけがうまくてもどうにもなりません。そこで全体を伸ばそうと、自分が話した内容を録音して皆で研修をしようといった取り組みをやったり、営業マニュアルを作り直したりしました。そこから、成果が出始め、大阪と名古屋の支店立ち上げを任され、西日本統括責任者、全国の統括責任者になりました。
Q:その後、独立の転機はどんなふうに訪れたのでしょうか。
A:次の昇進で経営幹部という段階の頃、直近の責任者たちには動揺しないように、いずれ独立するという話を事前にしていました。ある日、出張した帰りに新幹線に乗っていた際、富士山を見たんです。窓から壮大な姿を見ていたら、ここだ、今だ、と思いました。そのまま「新富士駅」で降り、不動産屋に行き、その日のうちに仮契約をして富士宮で会社をスタートさせました。
Q:最初は海外への通話を安くする事業から始めたそうですね。
A:日本に住む日系ブラジル人に安価な国際電話を紹介することでした。そのマーケットを大きく伸ばせる分野ではなかったですが、確り収益を上げることができ、得た資金を使って、新しいサービスをつくっていくほうに軸をうつしてきました。法人のインターネット活用が起きていることから、コールセンターと営業にインターネットという新しい武器を交えて、サービス展開したのが2004年のことでした。それから今まで、情報通信という軸はぶれずにやり続けてきました。
営業マンとコンシェルジュという仕組み
Q:御社の大きな特徴をあげるとすると、どんな点でしょうか。
A:お客様専用のコンシェルジュ(Customer Loyalty Team:以下CLT)をおいていることですね。コスト捻出が難しいと判断して、こういう代理店ビジネスをやっていてカスタマーサービスを持っている会社はあまりないように思います。
Q:どういった点に違いがあるのでしょうか。
A:通常だと、営業マンにお客様が帰属し、その営業マンが辞めたらそこで終了になることが多いんです。仮に一人の営業マンが1日3件、月間20日間で60件のお客様に訪問し、そのうち7割契約を頂けるとすると、月に約40件の契約を頂くことになりますよね。そうして、お客様の数が増えれば増えるほど、営業はそのフォローができなくなるわけです。そこで、弊社ではお客様専用のコンシェルジュであるCLTを置き、お客様をフォローする機能を持たせ、お客様と継続的に繋がっていく仕組みにしたんです。
Q:CLTを作ったのには何かきっかけがあったのでしょうか。
A:当時は、営業の中でもいい人材から順番に会社を辞めていったことです。たくさん契約を頂き、お客様のフォローをしていたら営業活動がスムーズにできなくなって成績が下がってしまう。それで辞めていく人がいたことや、そもそもお客様のフォローを十分にできないことから、CLTを作ることにしました。今では、お客様のさまざまな質問に対して、その場で対応できる人材をカスタマーセンターに揃えています。すると、お客様のほうから「今度、コピー機の相談にのって欲しい」「引っ越しするから変更手続きを教えて欲して」「来月、社員が増えるから、必要な準備してくれる?」といったように、いろいろなお話をいただけるようになりました。
Q:CLTの設置により営業の成績が上がってきたということでしょうか。
A:例えばコピー機の販売は、一般の代理店では1人当たり月間3台から4台ぐらいできればまあまあ優秀なのですが、弊社ではその3倍以上のパフォーマンスが出せます。弊社で1位になるということは、全販社入れても全国でナンバー1になるレベルです。
Q:どうしたらそこまで成果が上がるのでしょうか。
A:先に述べたように、営業とCLTを分けたことにより、効率がアップする、できる仕組みをつくったからです。営業マンのスキルに問題があるのか、それとも構造に問題があるのか。構造的に改革できるものは、社内もしくは現場でどんどん変えていきますし、営業力がつき受注できるなら教育で改革する。そして成功体験を増やすことによって成果を上げていく。そうやって、常に改善しています。
Q:研修についてはどのようにお考えですか。
A:社内研修は多いほうだと思います。新商品の勉強会では、このユーザーのニーズに合うとか、これぐらい販売できそうということはもちろん、どうやったらいちばん効率よく契約へ結び付けることができるのかといったことを話します。ただ、会社組織はいわば自立する人間が多いほうが強いと考えているので、どちらかというと、獲得ができない問題を獲得できるようにする仕組みや、ターゲティングできる構造に重きをおいています。また、弊社では、自部署の商品の契約をいただいたら、他部署の商品も紹介するということを徹底していて、そこも評価基準にしていますから、いろいろな商品を覚えなければなりません。そうして品質を重視しながら人と組織のボトムアップで作り上げてきているんです。
元営業による組織づくり
Q:営業の人とインターネット技術の人の考え方に違いが出る、という話をよく耳にします。
A:インターネットから学び得意とする人たちはインターネット中心にしかやらない、また営業の人たちは営業が弱くなるからインターネットはやりたくない。こういった問題は、普通の会社には混在していますが、私にはまったくそういう考えがありませんでした。ユーザーの目線からWebマーケティングを活用し、User Interface(ユーザインターフェース:以下UI)を作ることで多くのお客様の指示をいただくことができ、インターネットと営業を融合させたことによって、弊社の本当の意味の強さになったのだと考えています。
Q:強みにできたのには何か秘訣があるのでしょうか。
A:弊社のWebマーケティング担当は、ほとんどが営業出身者です。データサイエンティストやCRM(Customer Relationship Management、顧客関係管理)が得意といったような特殊技術や新しい技術などのWebの知識がある人たちは必要ですし、中途採用をしています。戦力として重要です。ですが、その各部門のトップは元営業であり、お客様のことも商品やサービスのこともよくわかっている人でやってもらいます。私たちに足りなかったのは、お客様に情報を伝える選択肢を、テレマーケティングだけに頼っていたことが問題で、そこにWebマーケティングを加え、営業と融合できたことが成長の要因だったと思います。
Q:営業に技術がプラスされたということですね。
A:Webマーケティング活用を追加したことになりますが、お客様のニーズや不安要素を解決していかなければいけないことに変わりはありません。キャッチコピーなのか、説明文章なのか、ビジュアルなのかの違いで、そのUIは、ほぼ営業に近しい。また弊社ではWebマーケティングだけでなく、経理も人事も営業現場のことが分かっている元営業が多いです。
Q:営業出身者が多いということは、マネジメントしやすいのではないでしょうか。
A:元営業で現場とコミュニケーションできる人が多くいるので、風通しはいいと思います。例えば、産休明けだから営業ではなく管理サイドに、また在宅ワークでもいいといったように、気軽に相談できることで、新しいスタイルを生み出せる組織になっています。
Q:それは組織づくりとして大事な視点ですね。
A:例えば、一時的に家族の介護とか、どうしても働けない事態が起きて、それで組織のパフォーマンスが落ちるようでは、弱いですよね。それをみんなでリカバリーできる体制や、どこにどう異動してもちゃんとやれるだけのベースができているか。また、誰かが辞めてしまっても、その穴を埋める人がいて、その人はそこで得たチャンスで伸びていこう、と意識を高められる組織かどうか。そういう意味で弊社は、いい循環ができていると思います。
労働集約ではなく知的生産で上がる収益構造
Q:御社の経常利益が150%成長まで伸ばせた要因をどのように分析していますか。
A:弊社の情報通信サービスは、ストック型のビジネスで、収益率も高くできる構造となっています。その上で、当社がこれまで伸ばしてこられたのは、いくつかの要因があります。
1つめは新しい事業です。4年前に「グローバルWiFi®」という世界200以上の国と地域で使えるWi-Fiルーターのレンタルサービスを自社サービスとして作ったことが、収益を大きく押し上げる基になりました。現在、このサービスの受注の半分近くはリピーターからの注文です。CRM活動を始めてから伸びが加速し積み上がりました。
2つめは一人当たりのパフォーマンスの高さです。稼ぐ力が3年前と比べるとすごく上がっています。現場でさまざまな課題を克服する力がついてきたからです。
3つめはデータを活かす力です。膨大な顧客のデータベースをセグメントしながらターゲットを明確にし、無駄なコストを掛けずに収益を上げる構造にしてきました。最初に形にするまではすごいパワーとコストをかけたんですけれども、それらが全体として機能し始めたことによって収益率が一気に上がり始めました。
Q:御社は2015年12月に上場しましたが、このタイミングには何か理由があったのでしょうか。
A:2012年に開始した「グローバルWiFi®」事業が2014年に通期黒字化する見通しとなり、いよいよ拡大させるブレークスルーポイントにきたと認識しました。全社的に労働集約ではなく知的生産性で収益を上げられる構造ができてきたこと、もっと伸ばせる、更に成長を加速できると感じ上場に踏み切りました。
Q:今後の展開についてお聞かせください。
A:成長著しい「グローバルWiFi®」を、さらに伸ばしていきます。現在、日本人の海外旅行者は1,621万人。訪日外国人旅行者は1,973万人で、2016年には2000万人超となることが確実ですし、この先更に増加していくでしょう。
また、目を世界に向けると、国境をまたぐ海外から海外のグローバル渡航者は12億人規模です。こんなにたくさんの方がインターネットにお困りになっている。「グローバルWiFi®」を提供する意義、機会がある巨大なマーケットが広がっています。引き続き、各国通信事業者との連携強化、空港カウンターの新規設置などで、「グローバルWiFi®」の利便性と品質向上を図っていき、アウトバウンド展開だけだはなく、インバウンド、海外での事業展開も加速をしていきます。
また、新しい取り組みとして「メディアサービス」に取り組みます。訪日外国人旅行者の中で購買力のある富裕層の多くは、団体ツアーではなくFIT(個人手配の海外旅行)ですが、国内企業がビジネス面で彼らにアプローチする手段はほとんどないというのが現状です。
当社では、訪日外国人旅行者向け「NINJA WiFi®」ブランドでモバイルWi-Fiルーターのレンタルを行っているため、FITの旅行者を事前に把握できる強みがあります。そして、国内企業・地方観光地への誘致情報をこれらの方に提供することも可能です。現在はクーポン券など紙ベースでのサービスを行っていますが、今後はデジタル化し、「NINJA WiFi®」とセットで提供することを考えています。
Q:では、御社の最終ゴールについてはどのようにお考えですか。
A:当社サービスをグローバルなブランドにしたいと思っています。ただそれは、数の論理というよりは、サービスそのものを「本当にいい」「一緒にやってよかった」と、いろいろな方から言っていただくことで、結果的に他の国へと広がっていくような流れになることを意識しています。
Q:最後に、起業したい方々へのメッセージをお願いします。
A:まず、どんな方にも起業家になるという選択肢を持っていてほしいですね。世の中に多く存在する矛盾を感じたとき、自分が解決したほうがいいと思えることがあったら、それは起業したほうがいい。また、起業にあたっては、どこかで何かをよくしていくという志を必ず持っていて下さい。自分たちの製品、サービス、取り組む分野、働いている仲間に誇りを持って欲しい。正義感を持っていないとせっかく起業してみても企業は成長しません。大義があるかどうかが重要です。
--ありがとうございました。
150%社長.com
~急成長企業のトップは何を考えているのか~インターネット×ヒューマンのハイブリッドセールスと独自通信サービスの提供で世界を目指す
株式会社ビジョン 代表取締役社長 佐野健一presented by BNGパートナーズ