プロテスト不合格と理不尽な経験を経て
Q:小さい頃は、どんなお子さんだったのでしょうか。
A:横浜出身で、プロ野球選手になりたくてずっと野球をやっていたのですが、たとえばチームのキャプテンを立候補してやるタイプですね。目立ちたがり屋で、自己顕示欲の強い、構ってほしい子でした。地元の公立中学校でも野球を続けていたのですが、中3で辰吉丈一郎というボクサーの試合を見て高校に入ったらボクシングをやろうと決めたんです。
Q:実際にボクシングを始めたんですか。
A:東京都の私立高校に入って、1年生でボクシングジムに通い始めました。にもかかわらず、行ったり行かなかったりしていたのですが、3年の最後になって本気でボクシングをやろうと決め、進学せずに毎日ジムに通うようになりました。そうしてプロテストを受けたんですけど、視力が悪くて落ちたんです。盲点でした。将来像もないまま、数字をつかんでおけばいいだろうという軽い気持ちで、簿記の専門学校に行きました。
Q:社会人生活はどのようにしてスタートしましたか。
A:2000年に地元のSIベンダー(システム構築を扱う企業)に就職しました。社長はもともとメーカーのトップ営業マンで、めちゃくちゃ厳しい人でした。会議で開いてないウーロン茶の缶投げるわ、怒鳴り散らすわで、嫌で嫌で仕方がありませんでした。今でもその社長の夢を見ることがあるくらいです。仕事は、オフィスが移転する時、床下の配線や外に出ていくまでのインターネット機器を扱っていましたので、オフィスに人のいない連休や正月に働かなければならず、毎日、朝の3時、4時まで休みなく働く日々でした。本当に理不尽な環境だったと思いますが、3年半ぐらいそこにいました。その当時は毎日、毎日辞めてやろうって思ってたんですが、今となってはとても良い経験だったと思いますし、当時の社長さんがおっしゃっていた言葉が今になって骨に沁みることがあります。ありがたかったですね。
Q:その後、転職されたんですね。
A:紙媒体の広告を約3年やりました。就職を扱う媒体だったのですが、もうその頃になると、はがきでエントリーする就職活動する学生なんてほぼいませんよね。それで、これからはインターネットをやらなきゃいけないと転職を決め、2006年の1月にアドウェイズに入りました。丸10年になります。
Q:入ってからはどんな業務からスタートしたのでしょうか。
A:モバイルの広告部隊の営業だったのですが、11月にPCの部門に異動になり、翌年7月にマネージャになりました。当時は、アドウェイズがすごく苦しい時代で、学生みたいな社員ばかりのチームで、私がマネージャに就任した次の月にチームの売り上げが半分になってしまったんです。そこから工夫を重ねてチーム力を高めながら、2年ぐらいで3倍まで戻しました。
Q:どういう取り組みをなさったんですか。
A:まず、やりたいことができる会社だとうたっておきながら、申し訳ないけれど、君たちの自己実現は後回しにさせてくれと断った上で、選択と集中で、アタックするお客さんのジャンルを絞ったんです。それまでは、雑多で、それぞれ興味がある所で営業を掛けていたのですが、弊社を必要としてくれるお客さんに営業体制を絞り、そこで数字を作るように体制を立て直しました。
Q:その時期に、何か変えたことはありましたか。
A:いつになったら売り上げが上がるのかもわからないから、給料もほとんど上がりませんし、サーバ1個買えない中で働いてもらわなければいけないので、コミュニケーションの量はすごく増やしましたね。私も当時の給料はめちゃくちゃ安かったです。今の新卒の初任給と同じくらいの金額しかありませんでした。
Q:なぜそこまでコミットできたのですか。
A:なんでなんでしょうね。今もそうですけど、まず働いているメンバーが好きというのがあって、彼らと何かを成し遂げたい、可能性はあると感じていました。本当に当時のメンバーがよかったんだと思います。
社員に愛されるより社員を愛する会社に
Q:その後はどうなさったんですか。
A:2011年の年明けに、今度はモバイル部門の責任者になりました。ところが、夏ぐらいに体を壊してしまって、2、3か月休んだんです。その間、なぜ自分はこんなことになってしまったのかを考えました。休んでいる家のベッドの上で、会社に人を入れ、育て、守る部署がないことに気づいたところで、『サイバーエージェント流 成長するしかけ』という本を読みました。本には、営業の責任者だった著者が人事部門を立ち上げた話が書かれているのですが、その人事を立ち上げようと言った時期と、弊社がそのとき抱えていた悩みがリンクしました。そこで、休み明けにうちの社長と喫茶店で人事の部署を作ろうという話しをして、2011年の9月に人事戦略室を立ち上げました。
Q:御社の人事制度にはどのような特徴がありますか。
A:異動を積極的にやっていますね。半期に1度の異動で、異動人数は10%まで、5年で全員がどこかに異動することを決めています。そうした取り組みもあって、今では異動を希望した社員のうち6、7割という確率で希望が通っています。
Q:異動に伴う見えないコストを踏まえた上で組織の活性化を図っているんですね。
A:そうですね。最初は無理にでも、そういう文化というか、異動癖を作ろうとしていました。最近では、辞めて外へ行かれるぐらいなら社内で回そうと、最近は現場のマネージャ同士が話し合いながら異動させる例が増えてきました。
Q:それは御社の「人儲け」「愛社員精神」というコピーともつながるのでしょうか。
A:これらのコピーができたきっかけは、愛社精神が強い他社の社員総会に当社の役員が参加させていただいたことがありまして、そこでキラキラした社員が大勢いることを目の当たりにしたことが大きなきっかけになっていると思います。それに影響を受けて当社を顧みた時に、会社の規模が大きくなると愛社精神を持っている社員がすごく少なくなってきたと感じたんですね。愛社精神を持ってもらうにはどうしたらいいのか話し合ううちに、社員に愛されるよりも社員を愛すべきではないかという話になったんです。そこで愛社員課という部署を作り、今では3か月に1回、家族、健康、仲間というキーワードで、社員に何かを提供する施策を打っています。
Q:それでも、社員1,000人に向けて社長の思いやビジョンを浸透させるのはかなり難しいのではないかと感じます。
A:実際、今はそこが悩みです。うまくできてないんですよね。半期に一度の社員総会で経営の意思をアウトプットしたり、3カ月に1回の全社会議で代表の意思を伝えたり、いろいろ試みてはいるんですけれども、まだまだですね。毎年新しい人が入ってきますし、もう少し工夫が必要です。
Q:新規事業の発案は、部署ごとにノルマなどがあるのでしょうか。
A:当社は年2回スタートアップ会議というビジネスコンテストを行っているんですが、その発案数というのを少し前まで部署ごとにノルマとして課していたことがありました。今は、全社から集めて一次審査を行い、残ったものを全役員の前でプレゼンすることにしています。そこまで持っていくには、新規領域の上席執行役員がみっちり付いて形にしていきますし、実行が決まった事業にも役員がしっかり付きます。
Q:通常業務に加えて新規事業をやろうという社員はいるものなのでしょうか。
A:最初は少なかったんですが、会議を通過して事業部になった例が出てきたんです。そうすると、ちょっと無理をしても出してみよう、という人が増えてきました。新規事業領域の上席執行役員がバックアップする体制ができたことで、社員にも方向性が見えてきたのだと思います。ただ、この取り組みも少し形を変えていく方針で現在、どうあれば現在のアドウェイズにとってベストの仕組みが取れるか検討しているところです。
いろいろな人がいろいろな働き方のできる組織が理想
Q:西久保さんは、どういう組織が理想だとお考えですか。
A:最近、女性のキャリアプランやライフプランを組み立てづらいと思っています。結局は、バリバリ仕事して、自己実現しつつ、いろいろな人に認めらて、給料も上がり、役職も付く仕事をしていたとしても、子どもというところにぶつかると考え直さなければならなくなります。弊社では、子どもが産まれたら時短で帰れる制度があるのですが、本当は5時に帰っても、必要とされて、自分がやりたいことがやれて、役職も付く、子どもを産んでも同じコースを歩めるのが一番の理想だと思うんです。そういう組織にしたいと思っています。いろいろな人がいろいろな働き方ができる、多様な人のライフスタイルや考え方によって働き方を提供する、そういう会社にしたいですね。
Q:人事の役割をどのようにお考えですか。
A:人事には、いろいろな人がいろいろな才能を発揮できる会社組織を作っていく役割があると思うんです。そのための仕組みづくり、異動人事、採用、昇降格や給与規定などやることはいろいろありますが、結局はそれで業績が上がるかどうかが問題です。業績に直結する人事を組むことができるか、また業績につながらないものはやらない判断もできなければならないと思います。そこを私も模索しています。
Q:では、マネジメントで気をつけていることを教えてください。
A:あまりヒエラルキーを自分の中で作らず、フラットに考えるようにしています。変な話、ため口をきいてくる10歳下の社員がいても私はあまり気にならないんですよね。私に対する態度や物言いはあまり重要ではないと思っていますし、むしろそういうものを言い合える関係性を作ろうと意識しています。まあ、あまり偉そうにならないということです。そもそも実際のところ大して偉くもないんですけど。
Q:新卒採用に関してはどのようにお考えですか。
A:新卒を受け入れ続けていると有りがちなのが、若い人がだんだん変わってきているように見てしまうことです。これは大きな間違いで、自分が生きているだけで成長している部分があるんですよ。物事の受け取り方だとか、考え方が受け入れている側の社員に変化があって、その差が広がっているだけで、実は新卒は大きく変わっていない。毎年新卒が入社すると「今年の新卒は甘い」って言う人が多くいますけど、いやいや、お前も同じようなもんだったからって。もしくはそれ以下だったからって(笑)。だから、そういう偏見って持たない方が良いと思うんですよね。前にテレビ番組で、もう何万年も前のエジプトの壁に象形文字に落書きがしてあって、「今どきの若い者は甘い」、って書いてあったというのを見たことがあります。だから、こういう思い出補正で自分たちの時代を美化していてしまうのって、人のクセなんじゃないかなと思うんですよね。悪癖ですよね。
Q:これから人事を目指す方々へのアドバイスをお願いします。
A:アドバイスってなんか恐縮ですね。。。(笑)新卒の内定式や内定者懇親会で会った人から「人事やりたいんです」と言われたり、入社1年目の社員に人事やりたい、異動したいと言われることがあります。その会社にもよりますが、営業だったりエンジニアだったりいわゆる「現場」で春夏秋冬を何回か経験しないとわからないものとか、人事として機能しないものがあるので、やはりまずは人事以外の業務を経験しておいたほうがいいと思います。少なくとも3年は。もう一つは、よい会社を迷わずまねすることですね。私が人事部門を立ち上げたとき、同業他社の先輩から許可を得色々なことをまねししていた時期があります。結できるものは積極的にまねしていい。そこから出てくるオリジナルというのがありますからね。なので、実はまだまだ逆にいろんな
方々からアドバイスが欲しいです。(笑)
Q:どんな人が人事に向いている、もしくは人事で活躍できるのでしょうか。
A:あんまり偉そうなこと言える様な立場でもないんですけど、変な話、営業ができる人ならなんでもできると思います。営業というのは、相手のニーズを読み取って、自分たちのできる範囲でお客さんに提案して0を1にしていく仕事です。自分が持っている資源を把握しながら、その中で最大のパフォーマンスを提供すると同時に、自分たちの持つ資源を膨らませていくわけですよね。そういった考え方はやはり営業の仕事で大きく培われましたから。すごく理不尽なことを言われることも含めて、お客さんが育ててくれるところもあるので、マインドセットという意味では本当に営業の経験が生きています。当然のことながら人事は、人が好きじゃないとだめでしょうね。
--ありがとうございました。
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株式会社アドウェイズ事業・人事戦略室 室長 西久保 剛presented by BNGパートナーズ