営業利益・昨対比351% 経常利益・昨対比357% 当期純利益・昨対比360%
インターネットが生まれた頃、広告モデルは成り立たないといわれていた。それが今や、VOYAGE GROUPのアドテクノロジー事業は、大きな柱の一つとなるまで成長を遂げている。特にSSP(サプライサイドプラットフォーム)に舵を切ったのは、メディアのマネタイズについて試行錯誤した結果だという。「ノウハウを外に出さずに自分たちだけで活用するやり方もありますが、他社に提供したら、ビジネスとしては競合しても、事業としてはより成長していけると考えました」と語る経営姿勢には、的確で地道な道のりが隠されていた。
■事業会社が17になるまで
Q: 宇佐美さんはトーマツコンサルティングにいらした後、一度、ベンチャーに転職してアクシブドットコムを設立されました。なぜ経営者になろうと思ったのですか。
なんとなくです(笑)。大学2年生の時、大学にコンピュータールームができて、そこでMosaicというブラウザーが使えたんです。それでインターネットに興味を持ちました。学生結婚して子どもがいたので、おそらく普通には就職できないから、自分で会社を創らないといけないなと思ったのをきっかけに、1999年にネット上で懸賞サイトを運営しました。
Q: 懸賞サイトにした理由は?
とにかく、たくさんの人に使ってもらえるサービスを作ろうと考えました。今でもそうですが、当時は特に、とにかくたくさんユーザーを集めるサービスがよいとされていて、ネットではいろんな会社がキャンペーンやプロモーションを行っていました。デジカメが当たる、パソコンが当たる、図書券が当たるといった情報を一つに集約して「このサイトに来ればキャンペーン情報がすべて手に入る」という形にしたんです。便利でお得なサービスならユーザーが自然と使ってくれるんじゃないか、と考えていました。1999〜2000年頃は、初めてインターネットをやる人ばかりでした。インターネットにつながったはいいけれど、何をしたらよいかわからない、みたいな人が多い中で、お金かかりません、プレゼント当たります、というサービスは、比較的ハードルが低かったんです。
Q: 今では、事業会社が17になりました。一つの事業をしっかり回す企業もあれば、多角化してポートフォリオを組む企業もあります。御社は後者ですが、そこに至った経緯をお聞かせください。
2006年くらいから日本でいわゆるWeb2.0という言葉が生まれました。どんどん新しいベンチャーが出てきて、新しいサービスができてきた時期です。一方で当時の我々は、ECナビを中心に事業を運営していたのですが、組織が大きくなって、スピード感を持って取り組みにくくなっていました。また、カカクコムに追いつき追い越そうと話していたのに、気づいたら、カカクコムとの差はどんどん開いていて、下からのスタートアップ企業もどんどん迫ってきていたんです(笑)。
インターネット環境が変わるタイミングは、新しいチャンスが生まれるタイミングでもあります。新しいチャンスをつかむために、より小さな組織でニーズを捉えてチャレンジの数を増やしていかないと難しい。そこで、組織体制の変更をし、新しい事業を生み出していく、というスタイルにしていきました。
Q: 2011年、ECナビから現在の社名に変えましたね。
はい。2006〜07年に事業部制にしてECナビ以外の事業を作っていきました。2010年はECナビの売上が半分になり、それ以外の事業の売上が伸びてきた時期です。サービス名が会社名であることのメリットよりもデメリットのほうが大きくなると考えて、サービス名と社名を切り離すことにしました。同じ時期にオフィスの内装を考える社内プロジェクトがあったのですが、そのプロジェクト名がVoyage(航海)だったんです。それでまあ、ピッタリだからということで社名もVOYAGEにしました(笑)。
Q: 少人数で一人当たりの生産性を高めて、そのモデルで回すネットベンチャーが多い中、御社がいわゆる労働集約の形を取る理由は?
弊社の事業モデルは労働集約ではありません。インターネット業界は3〜5年で一つの事業が寿命を迎えます。短期間でモデルをスクラップし、次の事業に替えていかなければなりません。そうなると、少人数で今ある事業だけを回していく形では、3〜5年はよくても、その事業がだめになった時に次のチャレンジがしづらくなるんです。ですので、時間軸の違う事業をいくつか持った上で常に新しく事業を作り続けていく必要があります。事業を作っていくこと自体が会社の一つのカルチャーとして根付いていく形にしないと、継続的には成長していけないと思っています。
Q: 新規事業はどのようにして立ち上げていますか。
年に2回、新規事業の社内コンテストを行っています。またVOYAGEラボという社内組織ですね。スマートフォンのアプリを作ってみたい人たちが通常業務の傍らで新しいサービスを作ってリリースしています。どちらもボトムアップに近いアプローチです。反対に、私や役員が、いろいろな業界の情報や変化を見て、この領域をやっていこうと役員主導で始めることもあります。
Q: お話からサイバーエージェントさんと類似した部分を感じます。
私自身、2005〜10年まで5年間、サイバーエージェント本体の役員をしていましたので、社内の仕組みはかなり参考にしています。一つは新卒採用です。採用にどれだけこだわるか。採用の際のリソースの突っ込み方は、非常に勉強になりました。もう一つはメッセージです。会社には、経営理念、スローガンなど、いろいろな形のメッセージがあります。それらをいかに伝わるものにするか。
例えばサイバーエージェントには、CA8といって役員の上限を定めて定期的に交代する仕組みや、2駅以内に住んだら家賃を支給するという2駅ルールがあります。役員会では、その中身をどうするかだけでなく、どうやって伝わる名前にするか、伝わるメッセージにするかを議論していました。どんなによい制度を作っても使われなければ意味がありません。またメッセージは言葉すれば伝わる、というものではありません。メッセージを感じられる場、ビジュアル、仕組みも含めて、多面的に用意していくことが必要です。ファシリティーだけでなく、ウェブサイトやノベルティなど、いろいろなところに想いを込めています。言葉ではないものも含めてメッセージだと考えているからです。この姿勢は、それまで私がやってきたやり方とは大きく違っていて、学んだことですね。
■成長率150%超を支えたもの
Q: メディア運営から広告運営に寄ったのはなぜですか。
SSP(サプライサイドプラットフォーム)に取りかかったのは、2008年くらいからです。最初は、今で言うSSPではありませんでした。検索エンジンをカスタマイズして各メディアに提供していました。そうすればユーザーもそのサイトの中で検索できますし、検索結果にはGoogleと同じように検索連動型広告が出るんですけれど、そこがレベニューシェアされてメディアにも売上が入る、という仕組みです。この仕組みは、自分たちがメディアを運営していく中で、どうやってメディアのマネタイズをしていくのか、どうやったら広告収益を増やしていけるかを試行錯誤し、蓄積されたものです。そのノウハウを外に出さずに自分たちだけで活用するやり方もありますが、他社に提供したら、ビジネスとしては競合しても、事業としてはより成長していけると考えました。自分たちでメディアの運営もしているので、メディアが感じる課題を踏まえたSSPを作ることができます。課題は、単にシステムを作って導入すればすべて解決される、というわけではありません。プラットフォームを作り、専用のメディアコンサルタントが要望や希望を聞く、その結果としてSSPがある、という考え方です。
Q: 前期比の成長率が151-152%。要因をどう分析していますか。
要因は2つあります。一つはタイミングがよかった。いわゆるアベノミクスによって広告主の出稿意欲も高まったという外部要因ですね。内部要因としては、2012年5月にMBOをしてサイバーエージェントグループから離れ、新たにファンドが株主となったことがあります。ファンドからは、事業内容を見直すようアドバイスがありました。それまで私は、この事業は5億、この事業は10億、事業を一つ増やすと10億増える、という足し算で会社の成長を考えていました。そうではなくて、メディアとアドテクノロジーという、もう少し大きな括りで事業を捉え直し、事業を掛け算していくことを考えて、まずKPIを変えました。まさに掛け算になるようなKPIを設定して、その後、KPIを指標にした目標を設定し、KPIをブレイクダウンして月次に引き直しして、それをチーム単位や個人単位に落とし込んで、それをPDCAで回していく。まあ、普通のことですよ(笑)。
Q: 人事評価制度については?
基本的には1年に2回、人事評価を行います。仕組みはごくシンプルですが、納得度をどう高めるかに重きを置いています。納得度を高めるには、結局、上司と部下がお互いにコミュニケーションするしかありません。目標設定をする前も、短期的な目標の話だけではなくて、個人のキャリアとしてどう考えているのかも含めたコミュニケーションをする。目標を設定する際も、月次、ウィークリー、進捗や状況の報告も同じです。コミュニケーションの有無が、結果として人事制度の納得度を高めると考えています。
Q: 入り口にあるエリア「AJITO」も、そうしたコミュニケーションの一環ですか。
もともと会社の中でコミュニケーションを活性化させたいと考えていました。所属部署の中のコミュニケーションだけではなく、部署、上下の区別のないコミュニケーションの場を会社の中に創りたかった。それは、男の子が作る秘密基地的な、気軽に集まってワイワイ、ガヤガヤ集まれるような場です。さらに、スティーブ・ジョブズの「海軍になるな、海賊になれ」という言葉から、海賊というコンセプトを加えてできたのがあのエリアです。
■「すごい」の実現をめざして
Q: メディア事業、アドテクノロジー事業、2つの柱のうち、今一番伸びているのは?
ここ1年で見てみると、メディアとアドテクの両方です。ユーザーの集客より、使ってもらうメディアの数を増やし、広告の配信数を伸ばしていきたいですね。来期に関しては20%成長できればいいなと思っています。
Q: アドテクの開発体制と営業体制、どちらに比重を置いていますか。
両方ですね。アドテクには60人くらいのスタッフがいます。基本的に営業職は新卒が多いです。今、新卒の比率が42-3%です。新卒採用を増やしていきたいのですが、かといって新卒だけにできるわけではありません。エンジニアだと、どうしても中途採用になりますね。採用は、より優秀な人をどう採用していくのかに尽きます。採用環境も変わってきている中で、大手企業に埋もれてしまわないように、手を変え品を変えやっていこうと思っています。
Q: 経営者としての志を伺わせてください。
正直、この事業をやりたいと思って会社を創ったというよりは、「何でもいいからすごいことをやりたい」と思って会社を創りました。その想いは経営理念の「SOUL360°スゴイ」という言葉にも盛り込んでいます。私にとっての出発点でもあり、創業の時の想いでもあります。創業時には売上100億を超えたらすごいなと思っていたのですが、実際に実現してしまうと、100億って全然すごくない(笑)。「すごい」という言葉は、計算された言葉ではないと思うんです。自分が予想したレベルのものが予想したレベルで出てきても、「すごい」という言葉にはなりません。予想や期待を超えてはじめて、思わず、出てくる言葉だと思うんです。そんなふうに期待を超えるくらいのことをやっていきたいですね。
Q: 最後に。どんな方に門戸を叩いてほしいですか。
会社の成長というのは、個人の成長が、事業の成長につながった結果として起きるものです。一緒に働く仲間には、まず、個人として成長したいという想いを持っていてほしい。また会社は今後も、新規事業に取り組んでいきます。それをやっていかなければ成長もありませんから。自分に自分で限界を作るのではなく、自分で自分の可能性を限定せずに、どんどん新しいことにチャレンジしていくことを楽しめる人たちと一緒に働きたいと考えています。