■略歴
東京都出身。事業を営む家で生まれ育つ。桐朋学園中・高等部、早稲田大学商学部経営コースを経て、大手外資系コンサルティング会社に入社。大手事業投資会社に移った後、データセクション(株)と共同で事業に携わった縁で、2009年同社に入社、取締役COOに就任する。グループ会社の取締役などを兼務し現在に至る。
専門書を読みCOOの役割を確認
■COO職に就く前に林さんが考えていた、同ポジションのイメージや役割をまずはお聞かせください。
林氏:COO職に就く前にきちんと役割を確認しておこうと専門書を購入し、学ぼうと考えました。ところが書籍が充実しておらず、手に入ったのは経営情報誌の付録のような冊子。その一冊から学んだことは、COO職の役割は明確ではない、ということでした。ただ営業統括部長のような役割、投資を統括するポジション、現場の最高責任者、他の役員が担当しない業務を担うなど、4つのほどの大きなパターンがあることは分かりました。
■そこから林さんは約7年、COOとしてのキャリアを積まれました。そのご経験を踏まえて、改めてCOOとはどのような存在であり、役割をお持ちだと考えますか。
林氏:我々が推進している事業や企業組織のフェーズによって、役割が変わってきたと思います。当社の出発点はソーシャルメディアなど、インターネット上でユーザーが発信する情報のデータを収集・分析し、消費者の本意を見つけ出し、マーケティングに活用するサービスの提供です。そのため私が当社に参画した頃は、社員はほぼエンジニアでした。そうすると私は新サービス開発営業統括部長のようなポジションを担い、顧客先に足を運び要望を汲み取り、いわば手づくり感覚でサービスを作り上げていました。
■つまり入社当初はコンサルタントであると同時に、事業統括部長のような役割を担われていたわけですね。
林氏:しばらくすると先のサービスにおいて、オリジナルソリューションの開発ならびに提供ができる体勢が整います。インターネット上の口コミを分析する「Insight Intelligence」、同じくインターネット上の書き込みを24時間自動的に集める「Social Monitor +」などです。更に事業の成長に伴い、エンジニアだけでなくコンサルタントや営業といった部署が設けられ、組織は拡大していきました。そうすると今度は現場メンバーの統括責任者としてのCOOという役割になりました。組織として目指す方向性を従業員に明確にするなど、皆で力を合わせてビジネスを推し進めていくための役割も担っていました。
■そのようにCOOの役割を遂行していく上で、林さまが大切にされてきた考えをお聞かせ下さい。
林氏:「人間万事塞翁が馬」という考えを大切にしています。人生における幸や不幸は予測しがたい、というのが一般的な解釈ですよね。ですが、私の捉え方は少し違っています。その時ベストだと思う環境に、自らの意思決定で身を置けば、たとえ思いもよらない出来事が起こったとしても、動揺したり気持がブレることはないと考えています。
■運命どうこうではなく、自らの決断に自信を持つことが大切だと?
林氏:ええ。私は中高6年間学んだ母校、桐朋学園でこのような考えを育みました。桐朋学園には多くの学校にあるようないわゆる校則というものは存在しません。あえて言うならば「自主、敬愛、勤労」という3つの教育指針があるのみです。勉強を強要されたことは一度もありませんし、服装や髪型に関しても自由。けれども、自由ではありながらも全て自らの行動には責任が伴うということ。それを自主性として桐朋生には強く根付いています。自らが考え、自らの責任のもとで行動するので皆やりたいことをやって活き活きと学生生活を送っていました。こうした考え方が自らを経営者の道に導いた大きな要因だと思っています。
■なるほど。現在の経営に対する思考のベースは、中高生の頃に身につけたものだと。他にも大切にしている考えなどはございますか。
林氏:先輩経営者に教わった「美点凝視」という考えも大切にしています。相手の長所を見るように心がける姿勢は、経営者としてだけでなく、人としても大切な考えだと思っています。
■御社は2014年に上場を果たしています。その際の役割も大きかったのではありませんか。
林氏:当時は上場の準備に加え、2013年に設立したグループ会社の代表も兼務していました。また他のグループ会社でも役割を担っていたため、正直、かなりハードな時期でした。中でも一番きつかったのは、まわりとの関係性です。代表を務める会社のメンバーにしてみれば、その会社に全勢力を注いでほしいのは当然です。また自分としても代表という立場なので、部分最適を考えるとグループ会社代表の林として意思決定をしたい気持ちもありました。
一方、データセクションのCOOという立場で考えると、上場の準備に追われていましたし、グループの全体最適は何かを考えることが求められました。時に相反する立場であるにも関わらず2役、3役を担うのはもの凄く心苦しくて頭を悩ましました。考えなければいけないことも決して少なくない中で悩んでいるとどんどん時間が過ぎていってしまう。そうすると自らをどんどん悪い方向性に追い込んでいってしまった時期もありました。
その結果、それぞれのポジションにおけるまわりからの期待に応えることができず、メンバーと良好な関係を築くことも出来なくなりました。そんな自分を嫌になった時期もありました。
「ビッグデータ×AI」で新しいビジネスを創造
■グループ会社の代表を他の方に譲られたことで何か変わられたことはありますか。
林氏:大きく変わりました。グループ会社であるソリッドインテリジェンス代表の丸野は学生時代からの繋がりなのです。以前から繋がりがあった上で一緒に事業が出来るのはとても心強いですしワクワクしています。こうして分かり合えるパートナーが居てくれることによって気持ちが前向きになったのは事実です。「これはきっと上手くいける!」という自信にも繋がります。
また、データセクションの新規事業開発担当役員としての役割も担っています。当社は現在、ディープラーニングなどのAI(人工知能)分野にも進出しています。もともとあったビッグデータのマーケティングビジネスに画像解析などのサービスを加えることで、新たなビジネスチャンスやマーケットが生まれると、手ごたえを感じています。
■たとえばどのようなサービスがあるのでしょう。
当社のサービスの特徴として、特定の業界に特化しているわけではない、ということがあります。裏を返せば、幅広い業界にサービスを提供できるということです。実際、医療、農業、教育、金融、自動車といった分野への進出の可能性があると考えています。たとえばドライブレコーダーのデータから、事故防止や自動運転の研究開発をサポートしたり、フィンテック(FinTech)などの分野でも当社の技術力は活かせると考えています。
■つまり、現在は別のフェーズにいらっしゃる。そうなると林さんの役割も、別のフェーズに移ったわけですね。
林氏:中でも特に意識しているのが、今後の事業計画です。大きく3つのイメージを持っていて、1つ目は従来からある既存ビジネスのさらなる開発です。2つ目は既存ビジネスに関連するビジネスにて他社と連携することによる展開。3つ目は、まったく新しい分野への進出です。私の役割は、この3つの事業の優先順位を考えたり、組織としてどう動いていけば最適なのかを考えることだと意識しています。
現場と社長の意思共有もCOOの大切な役割
■現在のCOOの役割において、意識されていることはございますか。
林氏:新規事業開発という視点からするとグループ全体のビジョンを指し示す代表の澤との意識をしっかりと合わせることを意識しています。ただ、弊社が力を入れているAIやDeep Learningの領域は様々な業界に展開できる可能性があります。
なので社内に限らず外部からの協力者の存在が必要不可欠ですよね。情報に精通しているベンチャーキャピタルと情報交換をしたり、新規事業のリーダーとして活躍してくれそうな人材をピックアップしたり、実際に新会社を設立した際はそういう方とデータセクショングループで一緒に事業を行っていったりもします。
■特に国内企業では、CEOとCOOの役割分担が、あまり明確ではない組織が多いかと思います。ですが御社においては、明確化されていると。澤社長との関係性や、他の役割分担などについてもう少し詳しくお聞かせください。
林氏:従業員に対してだけでなく対外的にも、明確な意思や決定事項を示すのは、代表権を持つ社長の役割です。対してCOOは、CEOに比べると現場業務が多いと感じています。もちろん、組織の規模や風土、フェーズによっても違うでしょう。これは私自身がグループ会社の代表を経験したことがあるので分かりますが、“代表”という肩書きは本当に重いものです。責任はもちろん、プレッシャーも半端ではありません。そのような社長の重責を理解しているからこそ、私はできる限り社長をフォローしたいと常々考えています。
■たとえばどのようなフォローをしているのでしょう。
林氏:現場との緩衝材的なことが多いです。2009年に代表の澤含めて当初の取締役員陣で「この事業をやる!」と腹を括ってから、現在の役員も含めて本当に結束力の強いメンバーだなと思っています。仮に橋渡しができなかったとしても、社長や経営陣がお互いに社内で孤立するような状況にならないよう、常に策を講じてきました。社長を始め経営陣のことを心底信じていること、これからも共にビジネスをしていきたいこと、人間的にも好きなことなどを思った通り伝えてきました。日々なかなか忙しいとこうしたことをちゃんと伝えるのって忘れがちですが大事なのではないかなと常々思っています。
■他の取締役との関係性はどうですか。
林氏:当社の役員は常に己のパフォーマンスを最大限発揮し、事業にコミットメントしていると確信しています。また自分のためではなく、組織全体のことを考え動いています。人を欺くようなこともありません。変にこういう場だからというわけではなく役員同士が強い絆で結ばれていると感じていますし、そうした環境で仕事できるのは凄く幸せです。
■旧来型の大企業にありがちな、役員同士の派閥などは御社にはないということですね。ところで今後の林さんの役割は、どのようなフェーズに向かっていくとお考えですか。
林氏:派閥はないですね(笑)。データセクションはかなり組織編成も柔軟で役員からメンバーそれぞれに至るまで臨機応変に役割が変更したりします。上司だったり部署メンバーも適宜変わっていくのでそういうのもあって派閥はできにくいのかもしれません。私の現在担当している新規事業開発という役割も今年の7月からですし(笑)。
今後については常に経営に携わっていたい、という思いはありますが、COOという肩書きには特にこだわっていません。正直、柔軟でいたいと思っています。先ほども少し触れましたが、データセクショングループとしての次なるインスパイアを明確し、従業員に浸透させていくのが、当面の役割だと考えています。
社会にイノベーションを起こす新ビジネスを手がけたい
■林さん個人としての、今後の目標やキャリアパスはいかがでしょう。
林氏:当社の強みは幅広い業界に進出できること、と申し上げました。これは様々な分野で活躍されている優秀な人材と、ビジネスできるチャンスが数多くある、ということです。正直、現在の自分は上司としても経営者としても、まだまだ未熟だと感じています。しかし、成長できる環境が、当社にはあるのです。このような環境にいることを感謝すると共に、さらなる成長を実現し、何か社会にイノベーションを起こすような新しいビジネスを創造できれば、と考えています。
■では最後に、経営者やCOO目指すビジネスパーソンに、メッセージをいただけますか。
林氏:繰り返しになりますが、私自身はCOOという肩書きにこだわっては持っていません。またCOOだから何かをしなくてはいけないと、決めつけることはないと思います。ただ正直なところ若い頃はCOOという肩書きが付くことで、モチベーションアップにもなりましたし、社内外の立ち位置が明確になる、ということメリットはあったのかなと思います。なので、肩書きが人を育てるという側面も多いにあると思うので「自分に対して」、「お客様に対して」、「社会に対して」一番パフォーマンスを発揮できるように気持ちの整理をしながら肩書きを捉えていって欲しいなと思います。