「今を見る、それがCOOの仕事」
株式会社フォトシンス
副社長COO 渡邉 宏明

フォトシンス_TOP最終■略歴
ソフトバンクに入社し、孫社長の後継者育成プログラム「ソフトバンクアカデミア」に入校。
海外企業とのジョイントベンチャー立ち上げを経験。
その後、日本初の来店型O2Oサービスを手がけるスポットライトに移り、新事業の事業開拓に従事。
2014年9月スマートロックロボットAkeurunを開発する株式会社フォトシンスを創業、取締役副社長COOに就任。

■ものが社会を変えることへのワクワク感
Q小さいころからビジネスに興味はおありでしたか。
あまりなかったですね。ただ、特に発明家やライト兄弟、世の中を変えていく偉人の話はすごく好きでした。もの作りそのものよりも、そのものを通じて社会が変わっていくことに、すごくワクワクする感覚が、小学校ぐらいからありました。

Qその後、どのようにして高校や大学などを選ばれたのでしょうか。
小学生のときに地球温暖化が問題になりました。私は福島出身で、自然が大好きで、父にもよく山に連れて行かれましたし、両親の実家は農家ですので、すごく身近に自然がありました。子どもながらに、それがよく分からない理由で壊されていくのは嫌だと思っていました。とはいえ、それを職業につなげるところまでは考えずに高校は普通の進学校に進みました。

Q高校ではいかがでしたか。
なんとなく環境問題の分野でやっていきたいと思って理系を選んだのが、高校1年生のときです。2年生になるとセンター試験に向けて自分の志望校と学部を決めるので、大学や職業について考えざるを得なくなったのですが、そのときに自分はものを発明したいわけではなく、それを通じて社会をどうにかするみたいなことに関心があることに気づきました。足尾銅山鉱毒事件や四大水俣病といった環境問題がなぜ起こり、なぜ防げなかったのかを調べてみると、すでにテクノロジーはあったけれども、それを採用しなかったところに問題があったと本にありました。つまり、テクノロジーを開発したから問題が解決できるわけではなくて、そのテクノロジーを社会にフィットさせることができなければ、世の中をよくすることはできないんだと、私の中では結論付けたんです。ならば、自分は仕組みをつくる側に立ちたい、また当時は環境問題へのアプローチは行政の仕事だと考えて、文系の学部へ転部しました。埼玉大学の社会環境設計学科です。

Q大学に入ってからは、いかがでしたか。
授業では基礎的な部分を学びつつ、外のサークルを探しました。その時に出会ったのが、早稲田のインカレで環境ビジネスをテーマにいわゆるビジネスコンテスト(ビジコン)を主催するサークルです。実は当社の代表の河瀬とはそこで出会って、一緒にビジネスをやれたらいいねという話をしていました。
フォトシンス_1
■ IoTに感じる未来のかたち
Q就職1社目でソフトバンクを選んだ経緯を教えてください。
まずビジネスの世界を選んだのは、そのシンプルさがいいなと思ったからです。たとえば政治だと、下積みがあったりヒエラルキーがあったりして、シンプルではない。ビジネスは、お客さんに価値を提供した分の対価をもらい、その対価でさらなる成長ができ、より社会へのインパクトを強めることができます。その上で、今の時代だからこそのアプローチとしてITや情報通信という切り口で、新しいことにチャレンジできる会社という軸でソフトバンクに決めました。当時はGREE、DeNA、mixiなどSNSのサービスが台頭していて、同時にスマートハウスや、スマートグリットなどの言葉が流行っていましたが、インターネットの中で閉じたサービスよりも、情報通信の方が実業っぽくていいと思ったんです。

Qソフトバンクに入ってからはどんなことをなさったんですか。
最初は法人営業です。固定電話、携帯電話はもちろん、大きな会社の拠点をつなぐ特殊なネットワークや、付随するクラウドのサーバーを販売していました。入社して1年目の年に社内に新規事業の提案制度ができて応募したら決勝まで行くことができて、孫さんの前でプレゼンする機会がありました。結局、厳しい指摘を受けて、全然事業を考える力が足りてないことを痛感しましたね。

Qその後、海外企業であるPayPalとの合弁事業に加わったそうですね。
はい、それも社内公募でした。2年目で新しい事業を任せてもらえたのは、異例の抜擢でした。法人営業での実績なども評価されたポイントだったと思うのですが、実は、1年目は売れなくてすごく苦労したんです。同じ部署に配属された新人7人の下から3番目ぐらい。それがやっぱり悔しくて、考え抜きました。1年目はお客さんの要望をかなえることがすべてだと思っていましたが、そうではなくて相手側の意思決定プロセスの中で、どうしたら最終的な決定がもらえるかをゴールに据えた結果、2年目からは同期で1番になり、目標も100%以上達成できるようになりました。

Q数ある公募の中で、PayPalとの事業を選ばれた理由はなんだったのでしょうか。
PayPalという外資とのジョイントベンチャーだったからです。スマートフォンがクレジットカードの決済端末になるって、すごい革命だなと思っていましたから。そこは、私がIoT(Internet of Things、モノのインターネット)に惹かれているところにつながってくるんですけども、スマートフォンというデバイスを通じて、クレジットカードと決済を簡単に広げられる点に未来を感じました。

QPayPalとの合弁ではどのようなことをなさっていたんですか。
基本はPayPalHereというサービスへの加盟店開拓です。このサービスは、中小の店舗がクレジットカードによる決済サービスを簡単に導入できるのですが、ソフトバンクの法人営業部隊やショップをチャネルとして営業企画を推進する仕事でした。

Qソフトバンクでの営業経験は影響がありましたか。
非常に大きかったですね。営業についてはあまり詳しくない企画畑の人も結構いたんです。私はどうすればソフトバンクの法人営業の人たちがPayPalHereを勧めてくれるかというツボが分かっていたので、それに付随するかたちで、場合によっては営業部門のある程度上位の方々に対する交渉や、場合によっては必要なツールの準備、また提案のプロセスを狭める業務設計あたりをやっていました。フォトシンス_2
■会社設立の後押しとなったユーザーの声
Q次の会社に行こうと思ったきっかけはなんだったんですか。
やっぱりソフトバンクという枠組みの中でやることに限界を感じたんです。3年間やってきて、実績は残せたし、社内で評価も得てましたが、大企業では社内調整の仕事が増えがちで、顧客や社内のために頭を使う時間が減ってしまいがちでした。また最終意思決定者と自分の間の階層が多く、自分の考えと異なる判断がされたときに、なぜその判断になったのかを理解するのが難しい。そんなふうにもどかしく感じていたタイミングで現代表の河瀬たちとディスカッション始めて、転職を考えました。

Qそのディスカッションとはどういう集まりだったのでしょうか。
最初は河瀬と私ともう一人、その後さらに一人加わって男4人で居酒屋で飲んでいて、その時にAkerunのアイデアが生まれたんです。IoTというテーマでやってみたいと話していく中で、なんで鍵ってこんなに不便なんだろう、彼女に合い鍵とか渡したくないよね、これ、デジタル化したら 楽じゃないか、とりあえず作ってみようよっていうかたちでした。

Qスポットライトを転職先に選んだ理由はどんなことでしたか。

PayPalHereをやってリテールの分野はもっと進化していくといいなと感じていました。スポットライトにはO2O(Online to Offline。オンラインとオフラインの購買活動が連携し合うこと)のサービス「スマポ」がありました。これは、超音波を発信する装置を実店舗に設置して、来店したエンドユーザーのスマフォがその音波を感知すると、ポイントがもらえる仕組みです。織り込みチラシに比べたらコストパフォーマンスの高い集客ツールです。これも相手を通じてリアルを変えていくというアプローチがおもしろいなと思っていました。

Q具体的には、どんなことをなさっていたんですか。
楽天と共同でやっていた独自ポイントサービスの営業です。店舗開拓や、楽天と協同で店舗開拓する施策を考えるビジネスデベロップメント(ビジデブ)の役割でしたね。

Qその後の起業には何かきっかけがあったのでしょうか。
Akerunのプロトができたタイミングで日経新聞の取材を受けたんです。プロト段階では鍵ロボットと呼んでいたのですが、せっかくだからと「Akerun」という名前を付けて、ランディングページだけ作ったんですよ。記事が出たら、思った以上に反響があって、「どこで買えるの」「欲しかった」という声をエンドユーザーの方にいただいた。これが一番大きかったですね。また、東芝からも投資の話をいただいて、他の会社の人たちも欲しいと思うなんて事業価値があるんじゃないかということで会社設立を決意しました。

Q今、国内にはソニー、キュリオ、ライナフ などのスマートロックがありますが差別化をどのようにお考えですか。
すべてのスマートロックに共通することですが、Bluetoothのモジュールしか積んでいないため外との接続にはスマートフォンを通じなければなりません。それはIoTの商品としては不完全だと思っています。ちょうど昨日、新しい商品「Akerun Remote」をリリースしたのですが、これは当社の考える一つの未来の鍵のかたちです。

Q最終的にはどのような絵を描いていらっしゃるんですか。
まず鍵という分野に一つプロダクトを展開していますので、鍵の管理、鍵の開け閉めを圧倒的に便利にしていきたいですね。一つのプロダクトをやり切らないと、世の中から本当に必要とされる会社や製品に成り得ないので、本当に必要とされるソリューションとして定着させて、新しいIoTの未来を拓いていきたいです。フォトシンス製品
■自分のできなさを理解して今を見るのがCOO
Q実際に法人登記して、CEOとの役割分担はどのようになさっていますか。
サークルで一緒だった頃からなんとなくの役割分担としてあるのは、CEOがよりビジョンを語り、みんなを引っ張っていく。私は、そのビジョンを基に組織や仕組みを作ることですね。具体的には、社外的及び社外的な未来の発信、PR、提携、新しいプロダクトの開発はCEOの役割で、それに対して、人事、総務、経理や財務、といったバックオフィス全般と営業サイドを見るのが私の役割です。徐々にですけど、採用や提携についてはCEOが、ビジデブや日々の現場レベルについては私が基本的には判断するようになってきています。

Q今後、COOを目指す方へアドバイスをお願いします。
未来を見ていくのがCEOの仕事だと思うんですけど、COOって今を見なきゃいけない仕事だと思うんですよ。それでいうと、一歩引いた目線で会社全体を見ることができる能力が求められます。あとは、やっぱり一人の人間でできる枠は限られているので、いかにスペシャリストを集めて、その人たちに仕事を与えるかがCOOの仕事だと思うので、やっぱり自分のできないことを分かってることは重要なんじゃないかなと思いますね。

Qご自身でできないと思ってるのはどんなことですか。
できないことだらけです。エンジニアではないので、開発ができるわけじゃないですし、。自分で営業し続けるわけにもいかないので、営業のスペシャリストも必要だと思っていますし、財務経理の専門知識を持った方も必要ですね。そうしたスペシャリストをいかに集めて、その人たちに仕事を与えるかがCOOの仕事ですので、やはりビジネス全般を分かっている必要があると思います。フォトシンス_4
Q今後、こんな組織にしていきたいという目標をお聞かせください。
やっぱりフォトシンスの一員として、Akerunを自分で広めていく、もっとよくしていくんだっていう、その思いを全員が持っていることが大切だと考えていますし、これは最低限うちに入ってもらう人の条件です。一人一人が、誰かに決めてもらうのではなく自分が決めにいくくらいの主体的な考え方を持った組織にしたいですね。人数が増えてくるとどうしてもヒエラルキーが生じてしまいがちですが、全員が自分の意見を言い合えるような組織を作っていければと考えています。