「CEOがお父さんならCOOはお母さんかな」
株式会社CMerTV
取締役COO 森 英次郎

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 ■略歴

東京都文京区出身。留学先のアメリカで自動車の個人間売買を手がけたことをきっかけに、大学在学中に並行輸入業の会社を起業。帰国後はフォードの独占販売代理店を経営した後、総合広告代理店DACグループ常務取締役COOとして大幅な収益改善、事業拡大に貢献する。2014年、株式会社CMerTV取締役COOに就任。

Q: まず、森さんのご経歴をお聞かせください。

 僕はもともと一貫教育校に通っていたのですが、ストレートで進学することに迷いを感じ、高校の先生に進路相談をしたんです。そこで海外に行くことを勧められ、アメリカへの留学を決めました。大学での専攻は、ビジネスマネジメントです。高校時代に他校の学生を集めてイベントを主催したり、企業と提携してマーケティングのようなことをしていましたし、当時からマネジメントには少なからず関心がありました。
非常に有意義な毎日を送っていたのですが、3年目に入り、所持金が底をついてしまいました。もともと留学に際し、親から「学費は2年間しか出さない」という条件を出されていたんです。学生ビザは就労時間の制限が厳しいですし、そもそも勉強に追いつくのに必死で働く時間もない状態でした。そこで大学の先生に相談してみたところ「ロスは車社会だから、車を売ればいい」というアドバイスを受け、チャレンジしてみることにしたんです。仲介業者として売買を行う場合はセールスマンシップ・ライセンスが必要だったので古物商のライセンスを取得し、業者オークションの参加権を得ました。20歳の学生がディーラーさん達に混ざって買付けをするのは、日本ではまず見られない光景ですよね(笑)
 自動車販売をするにあたり、僕の強みは日本人ということでした。アメリカでは日本人は車に優秀というイメージが根付いていたので、イメージアップを狙い、日本車をメインに売ることにしたんです。そして、ターゲットに選んだのは自分と同じ留学生です。ロサンゼルスに留学してきた学生にとって、一番困るのが「足」なんです。留学生を探して声をかけ、業者よりも格安で日本車を売っていくうちに学内で噂が広がっていきました。利益はほとんど取りませんでしたが、1台売れば5万円くらい儲かるので学生にとっては十分な金額です。車を売買する上で心配なのが故障ですが、メカニック達と個人契約を結び、安く修理してくれる提携工場も作りました。そうやって、学業の合間を利用して仕事ができるようになったんです。

Q: アメリカでは個人契約が盛んなのですね。

 そうですね。個人契約社会なので、勤務先を通さず自由に契約を結ぶことができます。CtoCマーケティングも当時から活発で、家も車も個人売買が当たり前でした。
 折しも日本ではアメ車ブームで、多くの日本人ブローカーがアメリカに車を買付けに来たのですが、トラブルも起きていました。相場を知らない日本の業者が安い車を高く買って行くものだから、ローカルの人達が車を買えなくなり「日本人が車相場を荒らしている」と噂になっていたんです。そんなある時、大手の日本人ディーラーさんが僕に声をかけてきたので「高く買いすぎですよ」と文句を言ってやりました(笑)すると安い落とし方を聞かれたので、僕が代理としてディーラーさんの想定より10~20万円安く買付けたんです。そのことをきっかけに僕の噂が広まり、日本のディーラーさん達から代行の依頼が来るようになりました。そうやって車を売っていくうちに「ブローカーの幅を広げればもっといろいろなものを輸出できるかもしれない」と考えるようになり、起業してさまざまな品物の並行輸入を始めました。当時日本で流行っていたエンジニアブーツやビーフジャーキーなど、いろいろとチャレンジしましたね。あの頃eコマースが普及していたら、僕は相当力を入れていたと思います。

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Q: アメリカに拠点を築かれた後、帰国に至った経緯をお聞かせいただけますか。

 大きな契機となったのは、フォードに勤めていた知り合いから日本での独占販売権を持ちかけられたことです。フォードとマツダが業務提携してコンバージョン車を作ることになり、世界展開をするにあたって日本人である僕に販売権利を渡したいというビッグチャンスです。日本での独立が条件だったのですぐに帰国して株式会社を立ち上げたのですが、2年半ほどで経営が立ち行かなくなってしまいました。運悪くバブルがはじけて高級車のニーズが下がった上に、指定工場がなく修理もままならないため、顧客が離れていってしまったんです。
 運良く独占販売権を買いたいという人が現れたので会社を畳み、DACグループという老舗の広告代理店に勤めることになりました。古い会社なので執行役員制度などは一切設けていなかったのですが、さまざまな内部統制を独学で勉強しながら導入し、最終的には常務取締役COO、経営戦略室長、上場戦略室長、営業戦略室長を兼務させていただきました。

Q: 長年定着している制度がある中で、新制度の導入は困難ではありませんでしたか?

 確かにハードルは高かったですが、大切なのは徐々に導入していくことです。明確なビジョンを示して原理原則を伝え、生み出される成果を可視化して、しっかりコミュニケーションを取りながら進めていけばどんなことも達成できると思います。僕の場合は、代表のご理解を得ることができたのも大きかったですね。
 5年間アメリカにいたので、僕にとって執行役員制度の導入はごく自然なことでした。日本の企業には取締役制度が古くから根づいていますが、アメリカとは取締役のあり方が異なります。アメリカでは取締役はあくまでも監査的なポジションであって、業務執行には一切関与しません。だからこそ、第三者的な視点から事業を俯瞰することができるんです。一方、日本の取締役は執行に携わっていますから、本来の役割を果たすことは難しいんです。弊社のようなベンチャー企業では仕方ない部分もありますが、会社が大きくなるほど取締役は執行しない方がいいとされています。ですから、前職で取締役に就いていた人は全員執行役員としてステータスを改め、本来の取締役を設置することをイメージして執行役員制度を定着させていきました。

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Q: 執行役員にはさまざまな役職がありますが、なぜCOOを選ばれたのですか?

 その背景にあったのは、旧体制のDACグループが抱えていた問題です。同社ではすべての事業を分社化し、オーナーが全社の代表を務めていました。各事業に1人いる役員が、実質その事業部の社長ということになります。当時DACグループは4事業を展開しており、僕はその1事業のトップでした。
 各事業のトップの上には1人の代表しかいませんから、すべての報告が代表のもとに集まることになります。全国展開もしていたので隅々まで目が行き届かず、事業はほとんど赤字になっていました。独立採算制なので事業間での協力も難しく、かなり厳しい局面に立たされていたんです。
 そこで僕は、全体を把握してハンドリングができるCOOが必要だと考えました。オペレーティングに関してはそれなりに経験を積んできたので何かできるだろうと思い、1つの事業よりも全体を優先してCOOの道を選んだんです。代表に「すべて建て直します」と約束し、初年度に全事業を黒字にしました。それから退社するまでの8年間、赤字を出したことは一度もありません。全事業が増収増益を果たし、10事業に事業を拡大して社員数は約6倍、売上は約10倍に成長しました。

Q: その後、CMerTVに入社されたきっかけを教えてください。

 DACグループは無事に事業拡大し、僕も40歳を迎えて「新しいことにチャレンジするなら今が最後だろう」という思いが芽生えていました。そんな折、以前から付き合いがあった五十嵐(五十嵐彰/株式会社CMerTV 代表取締役社長)に声をかけられたんです。
 僕が呼ばれた理由は、入社して即座にわかりました。会社ではとにかくいろいろなことが起こりますが、特に弊社のようなベンチャー企業は社員が若い分、いい意味で人間性がぶつかり合うんです。執行役員もメンバー達もプロ意識が強いので、サラリーマンというより個人事業主が集まっているようなものですよね。町内会をイメージしていただければわかりやすいと思いますが、皆が自分の意見を主張するので全然まとまらないんです(笑)以前は五十嵐が現場をまとめる役割を担っていたのですが、「今後はうちにもCOOが必要だ」ということで、僕を迎えてくれたんです。

Q: 企業においてCOOがすべきことは何だと思いますか?

 ビジネスハブとして事業をうまく回していくことです。そのためのベースとして、管理部門や事業部門のワークフローを構築することも重要なミッションだと思います。前職の現場にはワークフローが存在しなかったので、現場のメンバーと話し合いながらすべてのワークフローを作成しました。その結果事業の建て直しに成功し、その後の事業拡大やグローバル化に至ったのです。そうやってCOOが現場をまとめることができれば、CEOも全体を把握できるようになります。
 ただし、CEOの最大の役割は未来のビジョンを指し示し、皆を先導することですから、現状にとらわれすぎるのは好ましくありません。僕は前職時代、代表には「先を見てください」と常々言っていました。トラブルはすべて改善させることを約束し、結果も出していましたから、安心して任せていただけたんです。
重要なのは、いいことも悪いことも含めて現状をCEOと共有することと、最終決定権をCEOに委ねることです。さらにCOOは、CEOが描く未来に整合性があるかを的確に判断しなくてはいけません。お互いの方向性に食い違いがある場合は意見交換をして、CEOの意見が正当であれば自分が考えを改める必要があります。
 一見すごいことのように感じますが、僕の基本思考は「ミッションコントローラブル」です。事業を飛行機に例えるなら、COOは管制塔ですね。事故が起きないように常に隅々まで目を行き届かせるのがミッションコントロールであり、COOにとって最も大切なことだと思います。どんな緊急事態にも対応できるよう、日頃からある程度のことを把握しておかなくてはいけません。ただ、全事業のプロフェッショナルになるのは不可能ですし、すべての領域を完璧に理解する必要はないと思います。例えば僕は技術に関しては素人同然ですが、全体の流れを見て、「今はこういうシステム開発をした方がいい」とエンジニアにアドバイスすることはできます。COOには、専門的な知識よりもビジョンに則した判断力が必要ですね。

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Q: 社内での立ち位置もCEOとCOOではかなり違うんですね。

 例えとして適当かわかりませんが、昔ながらの家庭をイメージしてみてください。一家の大黒柱で不器用なお父さんの言葉が子どもにうまく伝わらないとき、お母さんは「お父さんはこういうことを伝えたいんだよ」と子どもに目線を合わせてたしなめます。この場合、お母さんはCOOの立ち位置ですよね。一定以上の集団には、必ずそういう役割の人が現れます。企業においては、事業に対する責任を負うためにCOOという役職名がつけられるのです。
 CEOにはパラダイムシフトを起こすようなことをどんどん進めてほしいですし、それがリーダーのあるべき姿だと思います。未来を見るべき人が現状把握に時間を割いていては、先がなくなってしまいますよね。現場の意見を吸い上げてCEOに知らせ、CEOの意見を社員一人ひとりに目線を合わせて伝える。そうやって社内のモチベーションを高め、皆に最大限のパワーを発揮してもらうのがCOOの役割だと考えています。

Q: 最後に、経営者を目指す人へのアドバイスをお願いします。
 
 自分がどんな立場であっても大切にしている事が人脈です。とくに経営とは想定外の出来事が起こるもの。
しかしながら、その出来事は私にとって初めての出来事であったとしても、年齢に関わらず同じ様な局面に遭遇した経営者の先輩はいます。
その先輩にアドバイスをもらい、乗り越える為に必要な人脈も紹介してもらったりできます。
 また、経営者のとって必要不可欠な事が人材育成です。人材育成がビジネスの成功を左右すると言っても過言ではありません。社員の幸せを真剣に考える事が大切だと思っています。
 今、すぐに出来る事は常に経営者視点で考える癖をつけ、周りをエンロールする力を意識して下さい。
 経営者になった時に必ず役に立ちます。