9敗しても打席に立つ方がいい 株式会社フルセイル/取締役COO 川鍋 裕輔

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■略歴

 リクルートで営業として数々の賞を受賞後、web業界へ転身。モバイル専業SEOベンダーを経て、2010年ベーシックへ入社。複数の事業立ち上げを経験した後、2012年12月にリリースしたゲームアプリ向けCPIアドネットワーク「GAMEFEAT」を1年間で4,000アプリが導入するサービスに育てる。2014年3月、ベーシックよりアプリ事業部門を子会社化する形で株式会社フルセイルを設立し、取締役COOに就任。

 

Q: 川鍋さんのご経歴をお聞かせ頂けますか。

 就職活動をし始めた頃、堀江さんがメディアを賑わせていて自分が将来何をやりたいか、どんな働き方をしたいかを考えた時に「起業家」っていいなと思ったんです。どの会社がそれに一番近いかを考えたら、リクルートかなと。加えて営業力がつきそうだなとも考えていました。大学は筑波大学で、たまたまリクルートHRマーケティング(リクルートの求人媒体系の営業会社)のつくば支社ができたばかりで、そこに就職を決めました。最初はタウンワーク(求人広告媒体)の飛び込み営業1日100件とかもやっていましたよ。(笑)

 元々リクルートで3年やったら転職しようというのは決めていて、東京のベンチャーでWebやIT系の知識を身につけたいと思い、SpeeeというSEOの会社に転職しました。既存クライアントの担当営業をしながらWebの知識やマーケティングの知識をつけ2010年にベーシック(株式会社フルセイルの親会社)に入りました。2011年に社内で新規事業開発室をベーシック代表の秋山、フルセイルの代表をやっている有賀、僕とエンジニアの桜庭の4人で立ち上げました。部署のミッションとしては、何か新しいことをやる事。当時はスマホ・アプリ・ソーシャル領域が盛り上がっていましたね。

Q:事業部を法人化しようというのは、どういう流れ、タイミングだったんですか?

 2011年7月に新規事業室ができ、まず何をやるかを決めていました。2012年はアプリ領域というのをある程度定めた上で色んなサービスを出そうということで、サービスを企画して出しまくっていました。2012年の8月に、カジュアルゲームとして初めて出した『マッチに火をつけろ』というタイトルがヒットして、その後アプリ開発者のマッチングサイト『GrowingApp開発ナビ』や、ゲームアプリ向けの成果報酬型広告『GAMEFEAT』をリリースしました。事業としても成長を続けていましたので子会社化する方向に話が進み、今年(2014年)に入って正式に準備を始め3月にフルセイルを設立しました。

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Q: 『マッチに火をつけろ』のヒットが大きかったんですね。

 2012年はiPhoneアプリのレビューサイト、懸賞サイトなど色々なサービスを出していたのですが、何か自分たちもアプリを出そうと考えるようになった時にちょうどアプリを作れるエンジニアがジョインしてくれたんですよ。当時カジュアルゲームがランキング上位に多数ランクインされていたのを見てカジュアルゲームをやる事にしました。ひたすらマッチを擦るだけのちょっとシュールなアプリです。正直はじめは全然期待してなかったんですが(笑)これが予想以上にヒットして、今では400万ダウンロードされてます。(2014年7月現在)

 実はカジュアルゲームってそんなに儲からないという気がしていたんですね。基本的には広告モデルなので、「100万ダウンロードされても売上100万円」みたいな世界だと聞いていたんですけどこれが2ヶ月で、150万ダウンロードくらいでしたが、700万くらい稼いだんですよ。事業レベルで考えるとそんなに大きな額ではないんですが、今まで聞いてた話よりはまだやりようがあるなと。僕らは二人でこのゲームを作って、トータルで1,000万以上稼いでいますから。

 前に「2ヶ月で700万稼いだスマホアプリ「マッチに火をつけろ」の広告売上から分かった、カジュアルゲームで収益を上げる3つのポイント」という内容のブログを個人でカジュアルゲームを作っている方向けに公開したことがあるんですが多くの方に見て頂けましたね。はてブで1,700くらい。何をやったのかと、自分たちなりに考える要点みたいな事、カジュアルゲームでも稼げるみたいな事を書きました。

■「2ヶ月で700万円を稼いだスマホアプリ「マッチに火をつけろ」の広告売上から分かった、カジュアルゲームで収益を上げる3つのポイント」

Q:その後にゲームアプリ向け広告の『GAMEFEAT』ですね。

 はい。カジュアルゲームをやっていてマネタイズを考えていく中で、通常だと収益を最大化するところで終わっちゃうことが多いと思うんですが「どの広告主さんがお金を使ってくれているのか」というのを各所にヒアリングしながら突き詰めていったんです。そうしたら「ゲーム会社」という結論に至りました。当時だと70%くらいはアプリにゲーム会社が広告を出していたんですよ。いわゆるソーシャルゲーム。うちみたいなゲームアプリから送客しているユーザーって、すごく課金率が良かったり、継続率が高かったりして、うちもその分単価をより高くもらえるようになっているという良い循環があったんですね。じゃあ何かその切り口で広告サービスできないか、と考えるようになりました。また、当時はCPC広告が主流だったんですが、CPI型いわゆる成果報酬型の広告がクライアントのニーズとしてかなりありそうだと感じていました。そういう背景がありゲームに特化したCPI広告事業「GAMEFEAT」を12月に立ち上げました。今はカジュアルゲームとGAMEFEAT、2軸に絞ってやっています。

 

Q:割合としてはアプリより広告のGAMEFEATの方が高いですか?

 そうですね。売上でいうと、約7割がGAMEFEATです。利益で言うと同じくらいですが。GAMEFEATの方は、利益率は基本的に一定なので、売り上げが伸びれば同じ率で利益は伸びるモデルです。一方、アプリ開発の方は、一定のコストを超えると全部利益になるので、利益率が高いんです。ただ、カジュアルゲームは波があるので、アプリがヒットした月はすごく売上が上がるけど、ヒットしないと下がってしまう、いわゆるボラティリティが高い事業です。そういう意味では、広告という安定的な事業基盤がありつつ、ボラティリティの高いゲームアプリを組み合わせてやれているというのは、すごくバランスが良いですね。うちの会社の強みだと思っています。

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Q:有賀さんが社長、川鍋さんがCOOになった経緯は?役割分担などはどのようになっているんですか?

 もともと有賀(株式会社フルセイル・代表取締役)はベーシックの新規事業開発室室長で、僕はビジネスサイド・営業サイド担当、桜庭が開発担当という形で、有賀とは上司・部下の関係だったんです。当時は特に役職もついていませんでしたが、会社設立の流れで有賀が「君がCOOね」「君がCTOね」とつけた感じです(笑)

 役割分担という意味では、有賀が主にサービス側、今の事業でいうとアプリ事業を見ています。有賀は特にWebで色んな新規事業を創ってきたタイプで、何か新しいサービスを作ることや考えること、そしてそのサービスを立ち上げきる、みたいなところはすごく得意です。

 僕はビジネス側、広告事業を見ています。どちらかというと、ベースは営業マンなんです。アプリの企画とかは有賀ほど思いつかないですね(笑)B to B系の事業を考えたりするのは強い方だと思っています。例えば代理店とどう組んでいけばいいか、こうアプローチしていくとビジネスがスケールするな、というところです。ビジネスを作っていく事と組織を作っていくことは自分の領域だと思っていますね。なので社長とCOOといっても、それぞれの強みを活かした責任領域を担当しているので、いわゆる「社長と、社長を補佐するNo.2」というイメージとは少し違うかも知れません。

Q:それぞれのキャラや考え方も違いますか?

 かなり違いますね。有賀はとにかくプロダクトを作ることが本当に好きなんだなと感じさせるくらいのプロダクト思考です。僕はずっと営業の組織で育ったというのもあり、リクルート文化みたいなのが自分の中でベースとして根付いていたりします。「皆、やろうぜ!」みたいに盛り上げる時もありますが有賀はどちらかというと寡黙なタイプですので性格は正反対ですね。

 僕はやはり、営業とかサービス志向がもともと強くて、営業力で何とかしようとしたり、ということをどうしてもやりがちだったんです。でも有賀はそうではなくて、プロダクトをブラッシュアップすることでグロースさせていくことを重視しています。その辺は有賀と仕事をすることですごく学んだことです。

 

Q:全てのアプリやサイトが成功するわけではないと思うのですが、サービス停止のジャッジは誰がどのようにするのですか。

 アプリもサービスも、うまくいかなかったものは無数にあります。アプリ系は有賀が企画することが多いので、やめるときは有賀が自分で決めていますし、僕がやっているものは僕が自分で決めますね。「あ、これダメだな」みたいな(笑)3ヶ月くらいでユーザーの反応はわかるので、それが今後スケールするイメージがわかなかったらやめますね。

 ユニクロの柳井さんが「1勝9敗」と仰ってますが、9敗の中にも学び・経験・気づきはあるので、それを次のサービスに活かせればいいと思っています。自分が作ったから、今まで頑張ってきたから、今までこれだけコストかけたから、といったことには一切固執しないようにしています。今時点での事業を見て、今後スケールするかどうかだけで判断するようにしていますね。

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Q:「1勝9敗」の9敗が糧になっている部分も多いのですね。

 そうですね。それだけ手数を打ったから今があるというのは、本当に実感しています。だからうちの会社は、失敗してもそれを叱責したりは全くしないんです。むしろ打席に立たない方が叱られますね。やってみないと何も得られないし、やる前から良いも悪いも判断できないので。当然、出来る限りのマーケティングはしますが、それでもビジネスのプロフェッショナルたちが一生懸命マーケティングした上で事業を立ち上げても1勝9敗なんですから。「上手くいかなくて当然」とまでは思わないですけど、そのくらいでサービスに向き合っていた方がすごく健全だと思いますね。

 

Q:フルセイルらしさ、組織の文化はどんなものですか。

 パフォーマンスを発揮するのはやっぱり社員一人一人なので、それぞれがやりたいと思えることをやれる環境が理想です。今、フルセイルで営業の人間もいれば、デザイナーもいるし、シュールなアプリの企画をしているチームもありながら(笑)一方で一生懸命テルアポしているメンバーもいます。

 いままで僕はずっと営業会社にいて、割とみんな同じ向きを向いている感じでした。それはそれで居心地は良いものなんですが、多様性をもてる組織というのもすごく居心地が良いし、これがおそらくうちの会社の強みでもあると思ってます。

Q: 失敗してもいい文化は、社内に何か仕組みのようなものがあるんですか?

 ベーシックの話ですが、ビジメッセというのがあります。みんなからビジネスアイディアを募集して事業化するというものです。これがある事でビジネスアイディアを出す環境・雰囲気が作れてるんじゃないかと思っていますね。半年に1回のビジメッセはアイディアを出すきっかけを作っていますが現状半年に1回なのでもう少し増やした方がいいかなと思ったりもしています。

 今のところ、実際にビジネスを考えるのは僕か有賀で現場から出てくるようにするにはもう少し時間が必要な気がしていますね。それでも最近少しは出てきていて、「これってこういう風にしたらいいと思うんですよね。こういうことやってみたいんですよね」「あ、いいじゃん。やってみようよ」「誰がやるんですか」「君だ!」みたいな(笑)これからもそういうのをどんどん増やしたいし、じゃあやろうと言った時に本当にやれる体制を作っていきたいですね。