■略歴
奈良県生まれ。中学生の頃にHTMLに興味を持ち、プログラミングを始める。同志社大学卒業と同時にヤフー(株)に入社。2008年、同社で知り合った金山氏(現、VASILY代表取締役)と共に(株)VASILYを設立。当初は受託開発を行っていたが、2010年にリリースしたオリジナルアプリケーション「iQON」が大ヒット。現在は同サービスに資源を集中し、事業を拡充させている。
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■エンジニアの原点は“よろこび”
Q.技術との出会いはいつ頃だったのですか。
HTMLが流行りはじめた中学2年生の頃だと思います。自分の手で、ホームページのようなものをつくりたいと思い、プログラムを書き始めたのがきっかけです。実家が街の電気屋だったので、店のパソコンを使っていました。プログラミングに夢中になるにつれ、もっと動的なサイトをつくりたいと思うようになりました。
Q.具体的にはどのようなサイトをつくっていたのでしょう。
掲示板とかチャットです。自分が夢中になっていたゲームや学校のファンサイト、音楽バンドの紹介ページなどを作っていました。最初は他のシステムを利用して自分のホームページに埋め込んでいましたが、次第にシステムのコードを調べ、Perlを使いCGIプログラムを書くようになりました。大学生になると大学向けのポータルサイトも手がけるようになり、アルバイトでもプログラミングを行っていました。当時既に100以上のサイトはつくっていたと思います。
Q.その頃からプログラマとしての才能を発揮していたわけですね。ところでサイト制作のどのあたりに魅かれたのでしょうか。
自分がつくったサイトを利用した人からの「すごい便利だね!」という言葉や、よろこばれることに心地良さを感じていました。Yahoo! JAPAN(以下、ヤフー)に入社したのも、日本で最もメジャーなWebサービスを提供している会社だったからです。
Q.より大勢の人によろこびを提供したいと思われたわけですね。ヤフーではどのようなお仕事に携わられていたのですか。
最初に任された仕事は女性向けWebサイトの制作でした。コスメティックやダイエットといった、女性が気になる美容やライフスタイルなどに関する情報を発信するサイトです。しばらくするとファッションをテーマにしたサイトをつくる、というプロジェクトが立ち上がります。当社の代表・金山とは、同プロジェクトを通じて出会いました。
Q.金山ディレクター、今村エンジニアというご関係は、ここから始まったわけですね。そしてその後お2人でVASILYを起業された。
当時、ファッションとWeb技術を融合させたサービスは、国内には見当たりませんでした。いわゆるネット通販程度のものが大半でした。大きなことを言えば、「これまでにないファッションSNSを構築して、イノベーションを起こそう」と、2人で意気投合したわけです。
Q.ヤフーで学ばれたことも大きかったのではないですか。
ヤフーが手がけるWebサービスの利用者数は何千万人という規模です。これだけ大規模のサービスを運用するバックエンドの部分、アーキテクチャーやトラフィックのスムーズなさばき方などを学べたことは、とても大きかったです。
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■女性向けファッションアプリ「iQON」
Q.そうして誕生したのが女性向けファッションサービス「iQON」だと。詳しく説明してください。
お洒落に敏感な女性の多くは、洋服の組合せ(コーディネート。以下、コーデ)やトレンドをとても気にしています。ファッション雑誌では、人気モデルのおすすめコーデといった特集があるほどですからね。iQONでは、このような人気のコーデを紹介すると共に、気になったアイテムをその場で購入できる、というサービスを提供しています。
Q.なるほど。iQONを利用すれば、たくさんのファッションECサイトをネットサーフィンしたり、実店舗を歩きまわることなく、お気に入りのアイテムが手に入るわけですね。
iQONから購入できるファッションブランド数は約1万2000。コーデは延べ300万件以上で、日に2000件以上がアップされています。iQONに来れば、お気に入りのファッションアイテムが必ず見つかるという自負を持ち、サイトを制作・運営しています。
Q.技術的にはどういった感じになるのでしょうか。
ユーザーがほしいアイテムを確実に提供する、ということがポイントです。実際の買物でも、多くの女性は「このシャツ、なんだか魅力的だわ」といった具合に、感覚で買物をしています。そこでその感覚を再現するために、iQON上で行った全ての行動履歴からデータを分析。その結果、ユーザーが求めているアイテムの目安がつく、という仕組みです。
Q.なるほど。店員さんがおすすめの洋服を紹介してくれるように、iQONが自分好みのアイテムやコーデを提示してくれるわけですね。
機械学習などの技術を使い、画像やデータを解析しながら、ユーザーが求めているファッションアイテムをリコメンドしていきます。実際「とても便利です」「自分の好みのアイテムが提示された」と喜びの声をいただくことが多く、手応えを感じています。
Q.サービスを実現している開発環境などをお聞かせいただけますか。
バックエンドは全てRuby、Ruby on Railsを使っていて、サーバーはAWS(Amazon Web Services)を利用しています。ただ最近はディープラーニングなどの機械学習を手がけることも増えてきており、こちらではGCP(Google Cloud Platform)を使用。またデータ解析・分析に関しては同じくGoogleさんのBig Queryを。そのほかビジュアル化作業に強いTableauなども活用しています。GPUに関しては性能の良いボードを購入して、オンプレで使うなど、費用面も考慮しながら開発を進めています。
Q.技術の選定についてはいかがですか。
新しい技術は、必ず事前に私が使って、ある程度自分の中での意見を持つようにしています。あるエンジニアにとって使い勝手がよかったり、あるいは流行りの言語だったりしても、iQONのアーキテクチャーとの相性がありますからね。この部分を吟味したうえで、他のエンジニアも交えて話し合うというスタンスです。
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■「VASILYエンジニアマニフェスト」
Q.それではCTOの役割についてお聞かせてください。
エンジニア自身が己の成長を振り返る機会が少ないと、以前から感じていました。同時に、客観的に評価できる指針もないな、と。新卒者も入社するようになり、エンジニアが15名ほどの規模に拡大した際に、評価体系や指針をきちんと体系化しました。明確にすることにより、VASILYの全エンジニアが目指す姿も、しっかりと具現化できると思いました。
Q.つまりVASILYでは、全エンジニアが同じ目標に向かって進んでいると。
それぞれ個性はあっていいと思いますし、実際、当社のエンジニアは皆個性の強い者ばかりです。しかし、個性をそれぞれ伸ばすための指標は必要だと思っています。また組織の中での役割を確認することも大切です。これらを共有するためにつくったのが「VASILYエンジニアマニフェスト」になります。
Q. 「VASILYエンジニアマニフェスト」について、詳しく説明していただけますか。
マニフェストは5つの内容から構成されています。1つ目は、技術でユーザーの課題を解決する、ということ。2つ目は、技術的なチャレンジをする。3つ目は、品質とスピード。4つ目が誰にも負けない分野を持つことであり、5つ目がインターネット社会に貢献する、という内容です。当社ではこのマニフェストを、全エンジニアの目標に掲げるだけでなく、定期的に達成度をチェックすることで、評価にも活用しています。
Q.エンジニアの評価にも活用されているんですね。
最も重要視しているのは2番目の技術的チャレンジです。これは私自身の経験からでもあり、今現在思っていることでもありますが、エンジニアは成長を止めてはいけません。成長のない仕事は単なる作業であり、そこからイノベーティブなものは生まれないと思っています。
Q.他のマニフェストはいかがでしょう。
インターネット社会に貢献するというテーマも大切にしています。エンジニアはインターネットエコシステムの一員であることを、忘れないでほしいと思っています。具合的には、オープンソースから得たノウハウを、インターネットに還元するようすすめています。実際、VASILYの半分以上のエンジニアはOSSのコミッターです。自分でつくったライブラリを公開しているエンジニアもいます。またこのような情報発信を行うことは、市場におけるエンジニアの価値を高めることにもつながると考えています。
Q.マニフェスト達成度はいかがですか。
全て完璧に、というエンジニアはいません。しかし、四半期・半年ごとなどに評価をしていると、着実に成長が見えてきます。評価するためにはふだんから一人ひとりのエンジニアの成長を見る必要があるので、現場と経営のつながりという観点からも、マニフェストを導入して得たものは大きいと思っています。
Q.現場で直接エンジニアを指導する機会も多そうですね。
新卒達に関しては、現状の自分たちの技術レベルより少し上の技術だったりスキルが必要な仕事を設定する、ということを意識しています。頑張って努力すれば、達成できるレベルの案件を与えています。先の話と重なりますが、チャレンジが成長につながるとの考えからです。
Q.一人ひとりのエンジニアに、常日頃から接しているからこそできるマネジメントだと思います。
仕事の責任感についても意識して伝えています。ユーザーからの問い合わせメールをエンジニアにも見せたり、トラブルが起きた際、実際どれだけ多くのユーザーに迷惑がかかったかを分かりやすく伝えています。たとえば3万人と一言で片付けるのではなく、「大きな野球場にいるお客さん全員に迷惑がかかっている」といった具合です。エンジニアはユーザーとダイレクトにつながる感覚が希薄な者が多いですから、その部分を意識的に持ってもらうよう、働きがけています。
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■CTOになるにはエンジニアとしてのリーダーシップが重要
Q.ところで、どのようなエンジニアがCTOに向いている、あるいはなれるとお考えですか。
色々なタイプのCTOがいますが、明確に言えることが1つあります。それは「社内の全エンジニアの中で一番技術が好きで、情報に明るい」ということです。好きだからこそ最新の情報を気にしますし、寝る間を惜しんでコーディングもする。実際、私は帰宅してから朝の4時頃までコードを書くことがありますし、休日中も朝から晩までずっと書いていることもざらです。iQONに関しては、当初は自分1人でコーディングしていたので、まるで娘のような感覚ですからね。CTOとなった現在でもテクニカルマネージャーとして、常に現場を見ています。
Q.そのような日々の勉強や意識の高さが、CTOに必要な要素だと。
ただ、技術は一番でなくてもいいんです。大切なのは意識。実際、当社のエンジニアには、私よりSwiftをうまく書く者や、データ計算に優れた社員がたくさんいます。しかし、好きであることや、誰にも負けないという気概の部分が、CTOになるには必要だと思います。
Q.なるほど。ではマネジメントの能力についてはどうですか。
当社ならびに私のマネジメントについては、先ほどお話したとおりです。自分も含めた一人ひとりのエンジニアの成長を意識することで、組織としてレベルアップできると考えています。しかし、全くマネジメントしないCTOが多いのも事実です。このような状況から考えても、CTOに必要なのは技術への興味や、エンジニアとしてのリーダーシップだと私は思います。
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