「若者を全力で潰して来たエンジニアに聞く、生き抜くための力とは」 株式会社クラウドワークス 執行役員CTO 大場光一郎

略歴
2001年に伊藤忠テクノソリューションズ株式会社へ入社。
Rubyを用いたクラウドサービスの開発・運用に従事する。
その後、拡大期のグリー株式会社へ。
2014年1月より株式会社クラウドワークスに参画し、執行役員CTOを務める。


Q:次世代のエンジニアの方に、活躍する方法を伝えるという主旨のインタビューなのですが?


ああ、僕、若者は全力で潰す主義なんですよね(笑)


Q:え?潰すんですか?


だって、僕らはエンジニアですから。

技術で食っている訳ですから。
年長者とか、経験の長い人が上から見ているようでは生きていけないですよ。

実際、前職はグリーという会社で、みなさんご存知とかと思いますが、多くの優秀な技術者を採用していた会社でした。一時は、新卒でも優秀な技術者には最大1500万円の年収を出すといって巷を騒がせましたが。

そこで出会った優秀なエンジニアというのは、本当に20代でも凄いスキルを持っている人も居ました。
自分が技術者であり、年齢なんて関係ないと思っていても、改めて気が引き締まる思いを何度もしました。

たとえば、IPAが認定したスーパーハッカー、スーパークリエイターとかも在籍していて。
本当に優秀で、情報収集力も高く、何が今イケてる技術なのかとか学ばせていただく側でもありました。
経験を重ねているから知っていることもありますが、若いからこその情報の収集力や技術の吸収力なんて、すごいと思うことが多かったです。
むしろ若い人に教えていただくくらいの気持ちが大事だと思っている。

そういう意味で、若者であろうとガチで勝負する気持ちもありますし、学ばせて頂く気持ちもありますし、僕に出来ることであれば教える気持ちだってあります。

 

Q:本当に潰す訳ではないのですね?


本当に潰しちゃダメでしょ(笑)
僕自身、最初に入った会社は「ザ・ブラック企業」でしたので、潰されそうな環境で成長はさせてもらいましたが。

大場さん 写真②

 

Q:「ザ・ブラック企業」のことも詳しく教えて頂けますか?


最初に就職したソフトハウスは、10人も居ない小さな会社でした。
あまり詳細は言えませんが、発言力のある営業部長がいらっしゃって、
開発側のコンセンサスを得ずに、短納期・低い単価で案件をとってくるんですよ。
そして「俺が仕事取ってやったんだからありがたくお前らやれ」という感じでした。
それで、先輩と3人でチームを組んで、パソコン2台並べて2人がコーディングして、1人が後ろでダンボールを敷いて仮眠する、
トリプルコーディングと呼ぶ独自体制で、死ぬ気でやりました。

時代を先取りしたアジャイルプラクティスでしたねww

それで納期に間に合ってしまったものだから、営業部長は「やればできるじゃん」と調子付いてさらにひどくなっちゃいました。営業同行もして、RFPから提案書かいて要件定義して設計して実装もしてで、デバックもして、ユーザートレーニングで一ヶ月くらいお客さんのところに常駐して、戻ってきてユーザーサポートまでする。
ある意味、ソフトウェアライフサイクルをすべて経験できました。

 

Q:ブラック企業に入ったことを振り返ると


振り返ってみれば覚えているのは良いことばかり。
技術に関しても、精神的にタフになることも、こうやってインタビューのネタになることも(笑)
ただ身体を壊しては意味がないので、それはケアする必要があると思います。
仕事としては無駄になったことは何もないので良かったけど、
身体を壊してしまうと本末転倒。
今は別にわざわざブラック企業を選ばずとも成長できる環境は選べると思いますので、勧めるかというと、まったく勧められないですね(笑)

大場さん 写真③

 

Q:その後、どうやって技術力を磨いたのですか?


4年ほどその会社で鍛えられて、CTC(伊藤忠テクノソリューションズ)に転職しました。
CTCは、僕にとって、あらゆる意味ですばらしい会社でした。
大手ですから、やれる案件の幅も広いですし、社会人としてとか、ITを使って社会がどのように動いているかは非常に勉強になりました。

あと、社員数が多い(正社員で7000名)なので、社内政治みたいなのとか規模が大きくなると調整業務の重要さとか。
好きか嫌いは別にして、規模が大きくなると避けられない事実だというのは受け止めることが出来ました。

受託開発の会社ですけど、僕は受託以外も経験させてもらいました。
具体的には、CTCが使う技術の標準化ですとか、
Webサービスの開発にも携わらせていただきました。
Rubyに出会ったのもCTCで、社内での情報共有のためにRubyを使って構築しました。

CTC在籍中の大きな転機は2010年。
年度方針で社長が突然、「クラウド」という言葉を使ったことでした。
これからはクラウドの時代だということで、
僕自身もクラウドサービスをつくる部署に異動しました。
Amazon EC2のようなシステムをイメージして貰えると近いのですが、
CTCもクラウドに参入しようという事でRuby使って半年くらいで、
パブリッククラウドサービスを立ち上げました。
3〜4人のチームで。
300人月で1年、2年かけるようなプロジェクトを回している会社の中で僕らとしては、早く作ったつもりだけど社長には「遅かったね」って言われちゃって(笑)
高い要求には終わりがないですね。

Webサービスなので、リリースしてからが勝負なんですけど、当時はなかなか理解してもらえませんでした。
SIerなので、完成したら終わりという文化が強かったんですね。
リリースした後もサービスを拡張していくと思ったら、逆にプロジェクトメンバーを削減されて僕ひとりになったので、
Webサービスの運用はそういうことではないということを説得してまわったのですが、「分かった、じゃああと何人月必要なんだ?」って言われて(笑)

共通言語を持てないまま形だけサービス開発しても厳しいということを痛感しました。

大場さん 写真④

 

Q:それが、グリーへ転職のきっかけですか?


あと、そのとき震災があって。僕は実家が東北で、津波の影響で実家が住めなくなりまして、文字通り、実家を建て直す必要も出てきました。

それで、CTCは良い会社だけど、うえに上っていくには・・・ということも考えました。当時36歳でしたけど、どこの部署に行っても「若手が来た」って言われるくらいでしたから、
上にあがるには先が長いなあと。

実家を立て直すのに、どれくらいかかる?とも思いました。

 

Q:グリーに転職して実家は立て直せたのですか?


お陰さまで立て直すことができました。グリーには本当に感謝しています。ただ別にそれだけが目的ではないですよ(笑)

やはり、技術者として「サービスをつくりたい」という気持ちもありました。B2Cの経験はなかったので、
いきなりB2Cに飛び込むよりは、B2Bもやっているプラットフォーム事業の会社の方が自分の力を発揮できるとも思いました。

実際、グリーに転職してからは、グリーの中のエンジニアが効率よく開発できるように開発環境の整備をしたり、その延長でGitHub Enterpriseを導入したりや、
開発してできたソースコードをいかに効率よくリリースするかというデプロイメントを支援するようなシステムを開発したりしました。

あと面白いところでは、東京ゲームショウの裏方で会場内だけで動くミニGREEみたいのを作ったりとか。

ほかにグリーのエンジニアが、自分の作ったライブラリやフレームワークをオープンソースしたいという要望が多くて、ライセンスをどうするかとか、きれいな形でグリーのソースコードを外に公開できるような仕組みを整えたりもしました。

 

Q:グリーで学んだことは?


入社当時のグリーは急激に伸びている状況でした。

グリーで言う「同期入社」という言葉は「同じ年に入社した仲間」ではなく「同じ月に入社した仲間」を意味するくらい、ビジネスもサービスも組織も急成長していました。
そこに集まる本当に優秀な技術者と仕事を出来ることは、
成長には最高の環境でした。
伸びている業界で、伸びている会社で、伸びている技術で。成長に近道なんてないのですが、自分にとって素晴らしい環境であったと思います。

例えば、MySQLに関しては誰にも負けないくらい詳しいエキスパートの人がいて、MySQLのエラーログを見ただけでPHP側の「きっとこのあたりが間違っている」と気付いてしまうような、
本当のエキスパートな職人さんとかも居ました。

一方で、急激に人を増やしたこともあり「普通の会社」にせざるを得ない部分もあり、手続きや調整業務が増えてきたり、残業を無くしたり、
勤怠を整えたり、急激な制度化によって制度に従うことが仕事になっていったり。

僕自身、ブラック企業を経験しているので、就業環境を整えることは大事なことだと思いますが、技術者にとってフレキシブルな環境とのバランスは、歯がゆい思いもしました。

 

Q:もう少し具体的に教えて頂けますか?


例えば、本当のエキスパートなエンジニアで、18時に出社して、26時に退社する方がパフォーマンス高いなんて人もいたりするんですよ(笑)
でも、一流の企業として残業禁止とか勤怠の厳密化を求めなきゃいけない。なんて壁はありましたね。それはグリーに限らずで、これからの企業が抱えている問題なのですけど。

 

Q:そこで、クラウドワークスだと(笑)


うまいオチですね(笑)

大場さん 写真⑤


でも、エンジニアの働き方に多様性を与えていきたいという想いは、自分にとってもクラウドワークスにとっても大きな挑戦の一つです。

クラウドワークスに参画してやっているのは、成長重視で開発してきたシステムを整理して、ユーザー100万人になっても安定稼働するように先手を打てる体制を整えること。
あとは、クラウドワークス自体が硬直的な組織にならないように、リーンスタートアップを取り入れるなど、成功している企業の事例を取り入れながら、
ミッションに共感する精鋭で運用する体制を構築したいです。

具体的には、GitHub社はモデルにしたい事例の一つです。世界中に技術者が散らばりながら、課題ごとにバーチャルでプロジェクトチームを組んで解決していく。
僕自身の挑戦であり、クラウドワークスの挑戦でもあります。

 

Q:じゃあ、大場さんにとってクラウドワークスは、いまの人生の全てですね?


はい!娘の次くらいに可愛いです(笑)

大場さん 写真⑥