■略歴
桜美林大学卒業。在学中に起業を経験し、夜間は飲食店の経営、昼間は省エネコンサルティング事業に従事。その後LIFE STYLE株式会社の創業メンバーとして、Googleストリートビュー事業普及に貢献する。2014年株式会社エージェント入社。同社の派遣事業立ち上げに携わり、人事部門立ち上げにおいても中心的役割を果たした。現在は、新卒、中途、アルバイト、人事制度と人事部門全体の責任者を務める。
起業体験を経て人事マネージャーに。派遣事業、人事部門の立ち上げに尽力
■ エージェント入社前に起業のご経験があるとうかがいました。入社までのキャリアについてお聞かせいただけますか。
八並氏:元々起業するつもりは全くなく、プロサッカー選手をめざしていました。しかしプロスポーツの道を極めていく難しさと自分の限界に気づき、諦めたんです。これから何をしよう? と考えた時にビジネスでトップをめざそう、せっかくなら起業をしてみたいと思い立ちました。
それからは大学に通いながら飲食店を経営したり、イベントのオーガナイズをやったり、海外へ留学したりといろいろと模索していましたね。大学4年生になると、あるベンチャー企業でインターンも始めました。夜は飲食店の経営、昼はインターンとして働く生活です。インターンを終えたら役員として入社予定だったため無休で頑張りましたが、事情があってその話はなくなりました。
就職活動もしていませんでしたからもう一度自分でやってみようと、新宿に小さなオフィスを借りて通信系の代理店を始めました。その後、代理店の仲間とVR(ヴァーチャル・リアリティー)関連事業を手がける会社を立ち上げます。その後、僕を支援してくれていた弁護士さんから「面白い経営者がいるよ」と紹介していただいたのが、弊社代表の四宮だったんです。
■入社の決め手は何だったのでしょうか。
八並氏:私は何事も「人」を中心に考えるんです。会社を創るのも人ですし、事業を推進するのも人。「人」を軸に仕事をつくっていきたいとの思いがありました。そうなるとめざす仕事は人材育成や起業家育成といった分野に絞られてきます。エージェントならこの分野で大きな仕事ができるのではないかと感じました。
エージェントは「次代を創る」をミッションとして掲げ、過去の先人に感謝しつつ次世代を支援するヒューマンソリューションカンパニーをめざして活動しています。自分には四宮のようなビジョンは描けませんでしたし、またエージェントはビジョンだけでなく、一歩一歩それを着実に実現してきた実績がある。
ここでなら志ある仕事をやれると思いました。複数の会社からお声掛けを頂いていましたが、エージェントの本気度と成長性は他社に比べても群を抜いていました。それが決め手となりました。
■しっかりしたビジョンがあり、そこに向かって着実な成果を上げているのがポイントだったのですね。入社直後はどのような仕事を担当されたのでしょうか。
八並氏:まず派遣事業の立ち上げに関わりました。弊社は人材派遣業許可免許を持っていたにも関わらず、派遣業務には未着手だったのです。責任者として派遣法や労働法などを一から勉強して事業内容を詰めていきました。半年ほども経つと事業規模が年商1億円ほどになる見込みがつきましたので、次はアルバイト採用のマーケティング担当を兼任しました。
その後、関わったのが人事部門の立ち上げです。会社も成長してきたため、社員採用に本腰を入れる必要が生じたのです。それまでは代表が経営の傍ら人事も見ていたのですが、それではとても追いつかない段階にきていました。まずは、マネージャーとして着任し、現在はヒューマンリソース事業部の責任者として採用業務や社員教育、人事制度設計などを統括しています。
3つの行動原則を基準に。人事考課の仕組みを整備
■アーリーステージのベンチャーでは代表が人事部門も管掌することがあります。八並さんのマネージャー就任後、四宮代表と共に人事部門で新たに始めた取り組みはありますか。
八並氏:きちんとした研修プログラムがなかったので、まずは代表と共に自社の研修プログラムづくりを行いました。弊社はベンチャーでリソースに限りがあるので、使えるものは何でも利用しようと、外部の動画コンテンツやセミナーなども活用しつつ、弊社のコアコンピタンスに関わる部分は自前のプログラムで教育する方法を採りました。
また弊社では3つの行動原則①「期待を超える」、②「謙虚と感謝」、③「7S」を設けています。
①「期待を超える」は、“頼まれごと”とは“試されごと”であり、いかに相手の期待を超えるかを常に考えなさいという意味です。②「謙虚と感謝」は誰からも、何事からも学ぶことを常に忘れないでほしいということ。③「7S」は整理、整頓、清潔、清掃、躾の5Sに、制御と作法を加えたものです。
当たり前のことをきちんとできている人は意外と少ないため、そこに注意を促す意味があります。これらの行動原則を基に人事考課制度を整備しており、評価が各人の給料に反映される仕組みになっています。
■差し支えなければ詳しくお聞きしたいです。
八並氏:主要なもので言いますと、月1回の人事面談と3カ月に一度の人事考課があります。先にご説明した3つの行動原則を基に各人が目標設定を行い、それが考課につながる設計となっています。人事考課時の面談では社員が自社をテーマにプレゼンする機会も設けました。プレゼン準備や本番を通じて、全社員が定期的に会社のグランドビジョンや現状、自分の役割や立ち位置を理解するのがねらいです。
■新たな制度や仕組みをつくったもののうまく機能しないという話もよく聞きます。御社で運用にあたって工夫したことはありますか。
八並氏:全社員アンケートですね。3カ月に一度、経営メンバーが参加する経営合宿があるのですが、そこで全社員アンケートの結果を検討するようにしています。アンケートには会社の施策や人事制度、給料の査定方法などへの意見、要望、時には不満も出てきます。これを基に常にPDCAを回して良いところは残し、悪いところはどんどん改善していくのです。また、半年に一度の全マネージャー合宿で各現場の意見を吸い上げて課題を共有し、人事戦略にも活かしています。
■現場の声を聴く機会を意識的に設けていらっしゃる、非常に風通しの良い会社という印象です。
八並氏:社内の人間関係がフラットになるよう、会社としても常に意識をしています。定期的に全社規模の懇親会が開催されていますし、私自身も社員とランチや飲みに行くなどして現場の忌憚のない声を聴くようにしています。また、弊社は部署単位で独立採算制を採用していますから、放っておくとセクショナリズムに陥りかねません。それを防ぐために全社規模のイベントを企画したり、社内システムの改善案を考えるチームをつくったり。ふだん関わりのない社員同士が分野横断的につながるプロジェクトをセッティングするよう心がけています。おかげで部門を超えた一体感が社内に生まれていると感じます。
「人が会社をつくる」を実感できるのが人事の醍醐味
■御社の強みである「人」、その人材の能力が最大限に発揮されるようあらゆる面からサポートするのが八並さんの業務なのですね。
八並氏:人事は「経営」そのものだと思います。人事だけを考えるのではなく、会社をどう経営していくか、そのために採用や人員配置はどうあるべきかという経営視点で考えるのです。何といっても、会社を作るのは人です。人材が「人財」になるか「人罪」になるか、全ては人次第だと思っています。会社の基盤となる「人」を司り、そのパフォーマンスを上げていく立場として日々責任の重さを実感しています。
■人事部門のマネージャーとして御社の社員に望むことはありますか。
八並氏:弊社からたくさんの経営者が生まれてほしいですね。各人が成し遂げたい目標を達成し、理想の自分に近づくチャレンジを応援する会社でありたいと思っています。志のある社員をコーポレートベンチャーのような形で支援することも考えています。
■志の高い人材を育てていくための工夫はありますか。
八並氏:いろいろありますが、一つ挙げるとすれば月1の人事面談でしょうか。
日々の業務で忙しくしていると目の前の仕事に追われてしまい、その先にあるビジョンや目標を忘れがちになりますよね。そうならないよう、各マネージャーがメンバーに対して、面談を通して自分がどこへ向かっていて何をしたいのか、なぜ入社したのかに立ち戻ってもらい、その上で仕事に向き合えるよう支援しています。
また、入社時の研修で「人生理念」を考えるようにしています。その「人生理念」をマネージャーに共有し、円滑なマネジメントやモチベーション設計ができるように工夫しています。
若手だけでなくマネージャー陣も同様です。研修時のワークショップなどを活用して会社の中長期の目標をフィードバックし、自分に求められる役割は何か、今何をすべきかを意識してもらう工夫をしています。また、弊社では入社年数に関係なく、やる気と能力さえあれば責任者として活躍できる人事制度も整えています。将来は起業制度も整備していきたいですね。
■八並さんの考える人事担当者の醍醐味は何でしょうか。
八並氏:“人が会社をつくるさま”をダイナミックに感じられること、これに尽きます。弊社はベンチャーで、限られたリソースで会社を回しているため、特にそれを実感します。入社時の売上規模と比べると、今は当時の4〜5倍ほどにまで成長しました。たった一人の人間がいるだけで会社の雰囲気も業績もガラッと変わることがあります。
■大変興味深いお話しですね。ひとつ気になったのですが、八並さん自身はご自身の価値基準をどこに置いていらっしゃいますか。入社する会社や専門領域、人生の選択など、あらゆる場面に通じるような基準があれば教えてください。
八並氏:ひと言でいうと「わくわくできるかどうか」です。これによって日本がこう変わるとか、世界を相手にこんなことができそうなど、変化が見えるかどうか、それによって喜ぶ人を思い浮かべられるかどうかを基準にしてきた気がします。特に採用においては「この人といっしょにわくわくする未来を作れるかどうか」は大きな要素です。弊社の内定式をご存知ですか?
■いえ存じ上げないです。どんな式なんですか?
八並氏:弊社では、内定式の前に「運動会」をやるんです。学生と社会人には大きな壁があるように感じられます。 かっちりとした式をやって新入社員が決意表明をするのもいいですが、それだと笑顔の見られる場面は結構少なくないでしょうか。 運動会なら皆と顔見知りになって打ち解けられるし、チームで勝った時の喜びも味わえてとてもいいんです。 弊社の経営理念は「All Smile」です。新入社員にも周りを笑顔にすることの喜びを早い段階で知ってほしいですし、それがひいては仕事にもつながっていくことを理解してもらいたいと思っています。
■仰る通りですね。一方、なかなかそのマインドを啓蒙することは難易度が高いことでもあるかと思います。そうしたお考えに至ったのには何かきっかけがあったのでしょうか。
八並氏:昔はどちらかといえば独りよがりで自分のことばかり考える人間だったと思います。そうすると自分は満足しても周りが離れていく。そういう失敗もたくさん味わってきました。しかし起業やイベントでの成功を振り返ってみると、人に喜んでもらってこそ皆の喜ぶ顔も見られるし、対価を頂けることがわかりました。そこに気づいてからは考えが変わりましたね。
■八並さんのされていたサッカーもそうだと思いますが、勝ちたいからといって一人で突っ走ってもだめなんですよね。それだと結局勝てない。皆と協力してこそ勝ちもつかめるし、チームに笑顔も生まれるということをこれまでの体験で学んだということでしょうか。
八並氏:まさしくそうです。一人でできることには限界があります。仲間を巻き込まなければ成功できないのだと実体験から学びました。これからも全社員でビジョンを共有してお互いの強みを生かし弱みを補い、相手を敬いながら仕事をすることでチーム力を最大化できるような企業風土をつくっていきたいと考えています。
■時には代表と意見の食い違いが発生することもあるかと思います。その際に、 方向性のすり合わはどのようにして行っていますか。
八並氏:食い違いの大きな部分については、特に対面で納得いくまで何回でもすり合わせをすることが大切です。ふだんから週1ぐらいのペースでディスカッションをしていますね。これは強い組織をつくるためには欠かせないプロセスです。また、人事担当者は代表と同じぐらいのレベルで会社のことを考えなければと思っています。人事の質が会社の質といっても過言ではないと思っています。会社が成長できれば、私の責任ですね・・・(笑)
先程もお伝えしましたが、人事って「経営」なんです。会社の現況や今後の展望、人材の採用や配置、採用予算、あらゆるレベルのことを把握し、戦略を練らなければなりません。どこに強みを置くかより、全ての業務に通じた上で個々のバランスをしっかりとって仕事をするのが大切だと思います。
■八並さんには人事マネージャーと経営者の二つの側面があるように感じます。
八並氏:「人事担当者こそ経営者であるべき」と思っています。人事の枠にとらわれず、社内で足りないリソースがあれば積極的に関わるようにしていますね。営業をしたり、アライアンスの話を持ってきたり。新規事業として外国人就労支援事業の準備もしています。人事だからその分野だけ知っていればいいというのではなく、人事以外の部分での強みを持つことが大切だと思います。営業が強い人事、CFO的な観点を持った数字に強い人事、何でもいいんです。そうした経験や幅のある人事担当者のほうが結果的にいい仕事ができるのではないかという気がします。
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株式会社エージェント GM 八並 嶺一氏