ベンチャー社長を「滅茶苦茶」にしている真犯人

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突然、新サービスを始めると言い出す。
突然、身の丈に合わない大きなビジョンを語りだす。
突然、これまで積み上げてきたプロジェクトをひっくり返す。

ベンチャー社長の多くは、そういう滅茶苦茶な人だったりします。

4年間のサラリーマンを経験し、7年間の創業COO(副社長みたいなもの)を経験し、創業社長8年目にして、「ベンチャー社長を滅茶苦茶にしている真犯人」について、自分なりに解明できたので記しておきたいと思います。

会社が大きくなると滅茶苦茶になってきた社長

僕は27歳のとき、ある先輩(前々職での雇われ社長)と二人で起業をしました。
彼が社長で、僕はCOOとして、6年間で社員70名くらいまで成長させました。

最初は何もかも手作りながら、二人で汗と涙を流して、「これまでにない新しくて素敵な会社」を作ろうと夢を語り合っていました。
社長は、得意・不得意が偏ったタイプの人間だったこともあり、僕は経験のある営業やコンサルティング、採用活動から、経験の無い経理や総務法務、更にはシステムまで、会社経営に伴う幅広い実務を経験させてもらいました。

おかげで、自分で言うのもおこがましいですが、業務全般に精通した、最も会社全体が見渡せる人になっていきました。社員からも親しまれ、テレビ取材も何度も受け、就職人気ランキングにも上位にランクインするようになりました。

しかし、僕が業務に精通し、社員に親しまれる一方で、社長はだんだんおかしくなっていきました。

勝手に大きな出資を決めてきたリ、シリコンバレーに出張に行って意味不明な提携をしたり、事業シナジーがあるとは思えない新分野への進出を決めたり。

会社が大きくなるにしたがって、徐々に滅茶苦茶なことをするようになっていき、お世辞にも社員の人心掌握が出来ているとは言えない状況になっていきました。

しわ寄せは自分にやってきた

前述した社長の滅茶苦茶な行動に対して、僕は、なるべく自由にさせていたいと思っていました。
しかし、いくつかのプロジェクトでは関わった社員が辞めていったり、赤字を垂れ流し続けたりしました。
そして結局、ほとんどの事業やプロジェクトをCOOである僕が尻拭いをしていました。

ますます僕は、「良い人、理解ある常識人、会社のために尽くす人、社長の尻拭いをする人」として、多くの社員に信用され、社外のパートナーからも高い評価を受けました。

僕は、創業当時の社長は、もう少しまともな人だったのに、会社が大きくなると人が変わってしまったと、悲しい気持ちになり、「自分が会社を支えなきゃ」と思っていました。

いまでも前職の仲間と会うと、僕は良い人で、社長は滅茶苦茶な人だったというレッテルを貼られている気がします。

反省を生かして二度目の起業へ

その後、いろいろと訳あって、34歳のときにその会社を退任し、2度目の起業をすることにしました。
創業時は、前職で反省したことを紙に書き出して、同じ轍は踏まないぞと多くの自分ルールを設定しての起業となりました。

二度目とはいえ、やはり起業は大変でした。
しかし、総じて過去の経験が生き、多くの失敗を回避することが出来たと思います。
堅実に、会社が成長してからも「創業時の苦労」や「前職の失敗」を忘れずにやっていこうと何度も自分に言い聞かせました。

また営業からコンサルティング、人事・総務・経理・法務・システム・マーケティングなどと、ほぼ全ての実務は経験していたので、とにかくマルチで頼りになる創業社長だったと思います。
社内では役職はあれどもフラットに、創業社長と新卒社員が一緒に釣りや旅行にいく、素敵な関係の会社でした。

しかし、実務に精通しているがゆえに任せることが下手で、多くのことを責任者として抱え込み、幹部育成が出来ずにいました。それでも社員からは「実務に精通した頼りになる人」として、社長としての威厳を保っていました。

起業して5年くらいした頃、成長が鈍化してきたときにボトルネックは「任せてない自分」であることに気付き、思い切って権限を委譲し始めました。
当初は社内が混乱し、「社長は現場を把握してない」と批判されたりしましたが、1~2年もすると責任者が育ってきて、会社は再び成長を始めました。

しかし、この後、僕は「滅茶苦茶な社長」になっていくのでした。

業績や組織は拡大しているが、平凡な中小企業になってしまう

権限委譲して会社は再び成長を始めたのですが、実は会社はとんでもない状況になっていました。

業績や組織は拡大していたのですが、サービスの品質や、理念の浸透が徐々に薄れていっていたのです。それまで当たり前だったことが、とても疎かになっていたり、社員から「日々の仕事が企業理念と繋がっている実感がない」と不安を聞くようになりました。

その頃、ある大御所経営者の講演を聞きにいったとき、自分が犯していた過ちに気付かされたのでした。

「ベンチャー企業には、創業者以上の競争力はない」
「創業者は理念と業績の矛盾した両方を追いかけられる」
「幹部は業績を伸ばせるが、創業者以上に矛盾した両方を追うことが出来ない」

創業者の多くは、矛盾した滅茶苦茶な理念を持っています。
有名な例としては、「うまい、やすい、はやい」の吉野家です。
「美味しくて、安くて、早い」というのは、現実的に考えると滅茶苦茶な要求なのです。
それを諦めずに追及することが創業者の役割で、創業者の唱える無茶を叶えるのが幹部の役割なのです。

これは、まさに自分の会社の置かれている状況だと思いました。
その頃、任せている幹部はとても優秀で、僕が責任者をしている以上に業績を伸ばしていました。しかし、業績が良くても、理念がなければ平凡な中小企業となり朽ちていく。
これに関しては、創業者である僕が最も取り組むべきことであり、妥協してはいけないと覚悟したのでした。

そして、業務に関しては任せつつも、様々な分野でトップダウンの指示を出していきました。
2週間かかることを1週間でしろと無理を言ったり、サービス品質に厳しい要求をしたり、広報の内容にNGを出して急きょストップしたり。
更には、社員には理解しがたい提携話を持ってきたリ、事業シナジーがあるとは思えない新分野への進出を検討したり(これはまだ検討レベルですが)、気が付けば前職の社長と同じような滅茶苦茶をしていました。

社長を滅茶苦茶にしている真犯人

いまでも僕は滅茶苦茶な社長を続けています。
それは自社を「平凡な中小企業」にしたくないからです。

しかしそれは、以前は出来ないことでした。
なぜなら、高い水準を目指したくても、実務責任者が他でもない自分なので「困難な理由」を知っている。すると、高い水準を目指せない理由を、論理的に説明できてしまう。

今は、僕よりも有能は幹部がいます。
有能な幹部たちが、僕では思いつかない解決策を立案してくれます。

幹部に負荷がかかることは申し訳ないと思いますが、「平凡な中小企業」に向かうのはもっと申し訳ないので、心を鬼にして厳しい要求をし続けています。
その厳しい要求が、社員や幹部の理解に至らないとき、僕は「滅茶苦茶な社長」として映っていることでしょう。

つまり、社長を滅茶苦茶にしている真犯人は「有能な幹部」なのです。
幹部が有能であるからこそ、社長は「滅茶苦茶」という競争力を発揮して、ベンチャー企業として成長していくのです。

逆に、あなたの会社の社長が「常識的で頼りになる社長」だとしたら、実は社長本人は任せられる幹部が居ないと苦しんでいるのかもしれません。

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ABOUTこの記事をかいた人

蔵元 二郎

蔵元 二郎(くらもと じろう) 1975年生 鹿児島県出身 株式会社BNGパートナーズ 代表取締役会長。 大手金融機関にて人事・経営企画に従事した後、株式会社グッドウィル・キャリアにて新規事業責任者、 社長室長に従事。2002年、株式会社ジェイブレイン創業、取締役最高執行責任者就任。 同社をベンチャー企業幹部サーチにて国内ナンバーワンに成長させる。2009年、株式会社BNGパートナーズ設立、代表取締役就任。400名以上のベンチャー企業経営者を輩出。毎年3,000名以上の学生に講演をし、次世代アントレプレナー育成にも従事。著書に「仕事論-できない理由に興味はない」など。