ーニューヨークと東京にオフィスを構え、大手企業からもバイネームで仕事を受けているスタートアップがある。
広告界隈の出身者が集い設立されたこの会社はテクノロジーとデザインを掛け合わせ、柔軟かつ奔放に事業展開をしている。
事業ドメインはない。自分たちの心のシグナルに触れたものこそが彼らの事業となり、革新的なプロダクトを生み出している。
なぜ次々に面白いプロダクトを開発できるのか?
PARTYとはいったい何者なのか?
今回はPARTYの自社プロダクトであるDeeplooksを手がける宮本氏に話を伺ってきた。
宮本優一(みやもと ゆういち)
学生時代にVR(バーチャルリアリティ)の研究を行い、World Haptics Conference 2009, Siggraph Asia 2009 出展。
カシオ計算機株式会社にてキャリアをスタートし画像処理研究に従事する。
2015年PARTYに入社。リサーチエンジニアとして「Deeplooks」をはじめとした自社プロダクトの開発と技術的視点に立ったクライアントへのコンサルティングを行う。
■INDEX
ー「不思議なものが好き」。大手からPARTYへ
ーPARTYはなぜ面白いのか? 革新性が生まれる理由
ー多様性のサイクルを生み出す
ー美しさを数値化する技術「Deeplooks」とは
「不思議なものが好き」。大手からPARTYへ
ーーまずは、読者の方々に宮本様のご紹介をしたいと思います。現在はPARTY内でリサーチエンジニアをしながら、自社開発されたプロダクトを担当していらっしゃるとのことですが、学生時代からの宮本さんのキャリアに関してご説明いただけますか?
学生時代はVR(バーチャルリアリティ)の研究をしていました。
普通、バーチャルリアリティと言うとCGの世界をイメージされるかもしれません。しかしそちらではなく、触感を再現する分野の研究に所属していました。
具体的にいうと、博物館などにはガラスで仕切られている展示物がありますよね。そのような手で触れることができない物体を、リアルタイムでセンシング(センサーを利用して物理量や音・光・圧力・温度などを計測・判別すること。)し、手元の装置で感触を再現するという研究です。
ーー興味深い研究内容ですね。
僕は幼いころから不思議なものが好きでした。
大学ではマジックサークルに入っていました。とくに、日常では経験できないようなことが好きなので、バーチャルリアリティのような非日常の体験に惹かれました。
ただ、今ほどはVR市場が盛り上がってはなかったので、就職活動においては、VRの企業ではなくカシオに入社しました。
大学の授業で画像処理の体験をしていたことがきっかけです。画像処理技術を用いてコンシューマ向けの製品に携われるというのが大きな決め手でした。
ーーカシオではどのような業務に従事されていたのですか?
カシオには5年ほど在籍し、研究開発の部門に所属していました。
当初は写真の不要部分を自然に消す技術などを開発していました。
Photoshopなどである機能ですが、周囲の画像を調整し、写真をキレイに整えてくれるような技術です。
また、画像処理の仕事をしつつ、機械学習の勉強もしていました。もともと、画像処理と機械学習は組み合わせて行うことが多いのです。たとえば、顔認識技術でしたり、画像から身体の動きを判別するようなものでしたり。
ーーPARTYに入社したきっかけは何だったのですか?
ご存知の通り、カシオという企業は大企業です。
そのため、研究開発から実際の製品化までには多くの人間が携わり、プロダクトがリリースされるまでには多くの段階がありました。そのため、いいものを作ってもなかなか世の中に送り出せない状況があったのです。
たとえば僕の研究領域であったデジカメにおいても、僕が入社した2010年をピークに需要は下がり続け、研究していたものがいざ製品化へ、というステップになったとしても既に世の中の熱は下がり、製品化までは辿りつけませんでした。
そのようなことから転職を考えていたところ、画像処理の技術を活かせる会社としてPARTYを知りました。
ーー大手からベンチャーへ転職する理由として意思決定プロセスの遅さがある、というのはよく耳にすることですね。
一方、宮本さんは研究者であり技術者なので、同じ職種で働いている人間のタイプとしてはそのような意思決定をする方は少ないですよね。
特にPARTYさんのような少数精鋭だと更にそのスピード感は際立つ印象です。転職にあたって不安はありませんでしたか?
作ったものを出すタイミングがこれまで以上に早くなることは明白だったので、やはり「スピード感」に対する心配はありました。事実、求められるスピードは早かったです。これは職種に限らずベンチャーに転職するうえで皆さん意識した方がいいことかもしれませんね。
PARTYはなぜ面白いのか? 革新性が生まれる理由
ーー宮本さんから見る「PARTY」とはどのような会社ですか?
ホームページには、“最新テクノロジーとストーリーテーリングを融合し、未来の体験をデザインする会社”という標語を掲げていますが、率直に言って中にいる人間から見てもまさにその通りの会社だと思います。
世界中の企業さんからお話をいただき、課題を見つけるところから、プロダクトやサービスの共同開発、コーポレートブランディングまで、無から有を一気通貫で多岐にわたり創り出しています。
コンサルティングとしての立場のみではなく、パートナー企業様の強みを活かせるような企画を生み出すために、常に思考を巡らせて仕事をしています。
会社の特徴としては、東京オフィスには25人しかスタッフがいないので、お互いの距離感がとても近いですね。エンジニアやデザイナー、プロデューサーが双方向にやり取りし、コミュニケーションを楽しみながら仕事をしています。
ーー職能によって部署を分ける事業部制ではなく、独立採算制にすることで業務効率化や権限委譲を意識したカンパニー制で業務を行っているということですね。社内にはどのような方がいらっしゃるのですか?
エンジニアで言うと、それぞれ専門分野が異なります。基本的には、「1分野ごとに1人担当」というイメージです。ウェブのフロントエンジニア、バックエンドエンジニア、ハードウェア、そして僕という4人体制です。
ーー1分野1人体制というのは驚きです。
業務を行っていくうえで、「1分野1人体制」ということにどんなメリットを感じますか?
メリットとしては、本当に自由度が高いことですね。
仕事をしていると自由な環境下でなければ生まれない発想やソリューションが頻繁にあると感じています。
また、常に他のスキルをもった人材と仕事をするため自身の業務領域を意識しつつも、他のチームメンバーの業務領域に関心を持つことができ、常に新しい刺激があります。
デメリットとしては、やはり業務量が多くなったときに、そもそもの人的リソースの点で苦しいなということがときどきありますね。笑
多様性のサイクルを生み出す
ーー東京とニューヨークに拠点があることもPARTYさんの特徴ですよね。海外に拠点があることで感じることはありますか。
ニューヨーク拠点との関係性でいうと、海外から依頼がきたものを、東京のスタッフも一緒に作るということが多いです。
僕の場合で言うと、Spotify(※1)の「サウス・バイ・サウスウエスト(※2)」というイベントで出した製品があります。
その製品はジューク・ボックスにカメラを仕込み、来場者のバンドTシャツを認識し、バンドの音楽を流すものなのですが、海外の現地スタッフともやり取りしながら製作しました。
メリットとしては、受け入れられる製品の幅が広がることですね。
日本の国内市場だけだと受け入れられない製品も、海外では受け入れてもらえる可能性があります。これは既知の事実だとは思いますが、国によってエンドユーザーの感性は驚くほど変化するので、開発側からすると国内だけでプロダクトを作るよりも、挑戦できる幅が広がります。
ジューク・ボックスの製品に関しても、日本ではあまり馴染まないかもしれませんが、海外であれば受け入れられやすい。
そのように、日本以外に製品を発表できる場所があるというのは、開発側にとって良いことだと思っています。
ーーそれぞれのメンバーが多様性の尊重を意識しながらも、適切な距離感で刺激を与え続けられている、ということがPARTYのプロダクト開発の特徴なのですね。
そのような御社の文化を表す制度や福利厚生などはありますか?
「クリエイティブお小遣い」という制度があります。これは、クリエイティブな発想につながるであろう物事に関して、月額3万円まで自由に使えるという制度です。たとえば、本を買ったり、映画を見たり、小旅行に行ってみたりですね。
あとは、就業時間の自由度が高いことだと思います。そもそもタイムカードを打つような文化がありませんので。だからこそ、公私の境目がフワッとしているかもしれませんね。
プロジェクトの状況に応じて、余裕があれば1日数時間だけ出社するということもありますし、立て込んでいる時は土日でも連絡を取り合うことがあります。自由だからこそ、それぞれが責任をもって仕事をしているという環境です。
ーー宮本さんは週末には何をされておられるのですか?
僕はロボット作りが趣味なので、休みの日にはロボットを作っています。
過去に「三味線自動演奏機」というロボットをつくったこともります。もともと僕は沖縄の出身で、家に三味線がありましたので。そのようなロボットを、年に1回開催されるメーカーフェアに出品するなどしています。
人の美しさを数値化する技術「Deeplooks」とは
ーー宮本さんはディープラーニングをベースとした技術である「Deeplooks」に関してプロダクトオーナーをしていますよね。Deeplooksとは、具体的にどのようなプロダクトなのですか?
Deeplooksはディープラーニングの技術を用いて、人や物の「見た目」に対して抱く抽象的な感覚を評価できる仕組みです。
よくある、性別や年齢ではなく人の「美しさ」や「印象」にいたる概念を数値化します。
ーーとても可能性を感じるプロダクトですね。
入って最初に清水(Chief Creative Technical Director)から「こんなことできないか?」と言われ、「とりあえず面白そうだから出してみよう」という感じで初期の段階は作り始めました。
そもそもディープラーニングは、「正解が決まっているもの」に対して使われる技術です。たとえば特定画像の分類であったり、がんの発見であったり。何らかの正解データがあり、それと画像を組み合わせて使用します。
一方でDeeplooksは、「人の美しさを数値化する技術」です。
物事を整理するにはまず正解を定義しなければなりません。
ですので、初期の頃はどうやって正解データを用意しようか悩みました。
色々試行錯誤したのですが、結果的に数万枚の人の顔画像を用意して、多くの人に「この顔は何点ですか?」という質問をして作りました。多くの人のデータを集め、解析し、独自のパラメータやアルゴリズムを設計開発し、納得感の得られるところまでつめました。
ーー膨大な作業を繰り返し、「美しさ」という見えないものを見えるようにしたのですね。
ーー今後、Deeplooksの技術を用いて、どんな未来が作り出せるのでしょうか。
たとえばファッションや家の景観など、「人がどう感じるか?」印象を数値化したい分野において、Deeplooksの技術が活用できます。
身近なところでいうと、客観的にみてその方にもっとも似合う髪形やアクセサリーなどを論理的に導き出せるようになります。
ビジネス的な観点でいうと、企業のウェブサイトを訪れた方の心理分析や街や建造物などの空間デザインなど様々なところに応用できます。
ーー最後に、読者に向けて今後のPARTYの行く先に関してメッセージをお願いします。
いつもの日常にテクノロジーが入るだけで、生活は大きく変わります。便利になるというものそうですし、何より面白くなる。
ーー「体験をデザインする」。まさにPARTYさんのコーポレートアイデンティティですね。
はい。PARTYの意味はドラクエでいう『PARTYを組む』に由来しており、「1人1職能を持ったメンバーが集まり、プロダクトを作る組織でありたい」という想いが込められているんです。
だから僕らはあくまで、ものづくりにこだわりつづけた組織でありたいと思っています。
ディープラーニングに関して言えば、とくに強いのはアメリカと中国ですが、ものづくり技術に関して言えば、まだまだ日本には多くの強みがあるかと思います。
ですので、これまでの知見と現在の技術を組み合わせれば、できることはあると思っています。たとえば、クルマやロボットの分野などですね。PARTYでは、ものづくりを通してそのような体験をデザインしていければと考えています。
技術的な部分はもちろん、デザインにも配慮することで、より身近に感じていただけるような製品をローンチしていければいいですね。ユーザーとしても、クライアントとしても、ぜひPARTYに関わってもらえれば嬉しいです。