2017年に予想される米国ビジネス界の動向

2017年まで残すところわずかとなりました。

来年のビジネス界には、どのような動向が予想されるのでしょうか。
米国版ビジネス誌Forbesに紹介された、今後の米国ビジネスの動向を紹介しながら、今後の日本のマーケットの展開を占ってみたいと思います。

今回の調査は経営者、コンサルティングファーム、NPO団体、リサーチ会社など、多彩な団体の調査を基に作成されています。

2016年の米国ビジネスの主要テーマは以下のようなものでした。

・Z世代(1990年末~2010年初めに生まれた世代)の台頭
・オンデマンド労働へのシフト
・優秀な人材の獲得競争の激化
・時間外労働賃金改訂

これらは何れも今後の経済動向への希望的観測を含んだ動向であり、今後の経済マーケットの拡大へ向けて、多くのプレイヤーが労働力生産性の最大化を睨んでいることが伺えます。

一方、大統領選以降米国の情勢は混乱を極めており、トランプ新大統領の政策の行方次第で雇用の凍結もあり得る、という見方が大方の予想となっています。

そのような混乱の中、2017年の米国ビジネス界では以下のようなトレンドが起きることが予想されています。

1. 「顧客満足度」から「従業員満足度」へと焦点がシフトする

これまで多くの企業は、収益を上げるために顧客満足度の最大化を行うことに注力してきました。
顧客に満足してもらい、支持を集めることこそが、企業活動の理由だったからです。
しかし2017年にはその動向が大きく変わることが予想されています。
最近の調査では、米国の求職者の6割以上が求職中になんらかの不快な体験をし、そのうちの7割以上が自身の体験をレビューサイトなどネット上で共有していることがわかっています。

言うまでもなくこれらは企業にとって大きなマイナス要因となります。
「マーケティング3.0」(供給者主導の1.0、消費者中心の2.0、共感を得ることが目的の3.0という、フィリップ・コトラーの説いたマーケティングの変遷)の観点からも、SNSが人々の生活の一部となった現代において、こうした特定の求職者の負の経験は、企業の採用力を低下させるだけでなく、自身の顧客をも追い払い、結果的に企業の潜在的収益にも損失をもたらします。

英国のメディア企業Virginには毎年15万人もの求職者が押し寄せるそうですが、雇用するに至らなかった何万人もの求職者にあえてポジティブな体験を作り出すことで、収益損失を防止しているそうです。 2015年、同社の採用過程に不満を持った志願者約7,500人が不買運動を行ったのをきっかけに、同社は採用過程がもとで、年間約6百万ドル(約7億円)の収益損失がもたらされていたことを突き止めました。

「いかにして、縁がなかった求職者に自社のファンでいてもらい続けるか?」

この答えを追求するために、候補者を調査して彼らの感情の流れをつかみ、ネガティブな感情を改善する方法を緻密に研究。
企業が候補者一人一人を気にかけていることを示すコミュニケーション方法を探索して、会社側に間違いがあった場合は素早く修正、雇用に空きが出た場合に即座に候補者をトラックして連絡できる仕組み作りや、候補者の努力をねぎらうための商業的オファーを与えることなどを実践して、求職者に最も愛される企業へと生まれ変わったのです。

そのほか、従業員との卓越した関係性を構築し、透明性の高い企業文化で有名なGoogleや、メンバー同士の話し合いをベースとした企業文化を構築しているグランドハイアットホテルグループなど、 従業員満足度を最大化した企業に学べという動きが至るところで見られ、社内ツアーが積極的に組まれています。
今日の米国企業では人事担当者の8割以上が、企業成長のカギとして「従業員の満足度の最大化」が重要であると認識しているそうです。

2. ダイバーシティ労働の上昇

5年ほど前から、ギグエコノミー (gig economy – インターネットを通じて単発仕事を受発注する就業形態) はグローバルな働き方に多大な影響を与えています。
米メディアWorkplaceTrends.comの調査では、すでに9割以上の企業が、プロジェクト毎にフリーランサーを募り、ともにプロジェクトを進めているといいます。
またソフトウェアを販売する米イントゥイット社は、今後の数年間で米国の労働人口の少なくとも4割がフリーランサーになるだろうと予測していますし、スマートフォンを活用した配車サービスを展開する米ウーバーテクノロジーズは、運転者を従業員ではなく個人事業主として扱っており、運転手として月に4回以上働く労働者は40万人以上にのぼっています。

3. 年次業績評価の撤廃と短期レビューの普及

米国ではこれまで、年に一度行われる業績評価が労働者の業務改善の指針となってきました。
ですが、労働力がTwitterやFacebookなどのソーシャルネットワークに慣れたミレニアル世代やZ世代(1980年~2000年代初期に生まれた世代、現在米国人口の約3割を占める)にシフトするにつれ、業務上でのフィードバックも即座に返すことが好まれるようになってきています。

これを受けて、GEやAdobeなどの大企業はすでに年次レビューを廃止しています。 Adobeは、「明確なゴール設定」、「迅速なフィードバック」、「個々のメンバーの成長」について焦点を当てた会話のできる社内システムを新たに導入して、できる限り短期でのフィードバックができるようシフトしています。

4. ミレニアル世代と Z 世代が職場で交じり合う

2016年はZ世代が職場に初めて登場した年でした。 少し年上のミレニアル世代は、すでにその3分の1ほどがマネジャーの肩書を持つようになっています。
これらの若い世代は、職場を変え、報酬を上げ、より柔軟性を導入するよう企業に働きかけています。 米国でどのようにミレニアル世代と仕事をすべきかが、日常的に取りざたされています。 この世代は日本でいうところの「ゆとり世代」ですが、米国では悲観的な目で見るというよりも、「いかに彼らが働きやすい環境を作ることができるか」に焦点が当たっています。

5. VR (バーチャルリアリティ)が、職場に革命をもたらす

FacebookによるOculus社の買収、Appleの3D表示システムの特許取得、ポケモンGOの拡張リアリティアプリの成功を見ても、2017年がこれらの技術の年になることは間違いないと言えるでしょう。
先進的な事例でいうと、米国軍がDismounted Soldier Training System(DSTS)という軍事トレーニングプログラムにVRヘッドセットを使い、市街戦や敵地戦のシュミレーションや、爆発物処理の訓練を行っています。 また米食品会社のGeneral MillsがオフィスのVRツアーをミレニアム世代のリクルーティング戦略として実施するという事例もあります。
また米医学論文誌のFrontiers in Neuroscienceによると幻肢痛 (手足を失った人が実際には無いはずの手足に痛みを感じる症状) の治療では、脳からの神経信号を読み取るセンサを使い、患者にバーチャルな手足を使うゲームをプレイさせるそうです。

6. 勤続年数の早期化

スマートフォンやSNSサービスの普及によって、以前にも増して優れた人材を探し、獲得できるようになった昨今、米国労働者の平均在任期間は4.6年、ミレニアル世代に至っては、わずか2年ということが最近の調査でわかっています。
なんと米国のフルタイム就業者の76%が積極的に仕事を探していると言われ、48%の企業がスキルギャップや高い人員減少率のために、欠員補給ができないでいるそうです。 今後、ミレニアル世代はパラレルワーカーとして複数の企業を兼務し、また勤続年数は短くなっていくことが予想されています。 7. 職場がよりカジュアルになる 若い世代の職場への進出と、リモートワーカーの増加から、米国の職場は服装から文化に至るまで、ますますカジュアル化されていきます。 米国労働統計局によると、米国の全労働者の約30%以上が自宅からリモートワークを行っています。 日本企業でのカジュアルなドレスコードは、一部の業種を除いてまだ難しいことでしょうが、この先のリモートワークの普及で変わってくるかもしれません。どちらにしても、日本人らしさを失わないドレスコードが保たれるのではないでしょうか。

参照:10 Workplace Trends You’ll See In 2017

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中東のシリコンバレー、イスラエル在住。同時逐次通訳・翻訳業とジャーナリズムに携わる。邦訳書3冊。通訳者とビジネスコーディネーター仲間で作る、日本-イスラエル間のビジネス応援サイトを運営。2年前より再開した日本語での執筆がもたらす新しい出会いが楽しいこの頃。