「キャッシュがコモディティ化してきている」
20年以上投資の世界に身を置いている某有名投資家が、最近絶っていたというお酒を口に運びながら呟いた。
その言葉を聞いて、筆者はかねてからの持論「資本主義の終焉」を話した。
10年ほど前から「資本主義の終焉」という持論を論じてきたが、なかなか賛同を得られなかった。おそらく表現が悪かったのだろう。
某投資家の「キャッシュがコモディティ化してきている」という表現の方が伝わりやすいと思ったので、これから来るであろう「資本主義の終焉」を、改めてここで説明したいと思う。
- 資本主義の終焉の意味
- キャッシュがコモディティ化しているの意味
- これからの世界
1.資本主義の終焉の意味
かつて、特に産業革命以降、資本家は経済の頂点に居た。
貨幣が最も価値のあるもので、出資者がもっとも支配できるという意味だ。
貨幣は様々な価値の尺度として測られ、貨幣によって富を得、富を測り、すべてのものを支配してきた。
しかし、物質的に満たされた人類は、精神的な豊かさを求めるようになってきた。
いまでも、これからも精神的な豊かさの大半は貨幣で得られるだろうが、なかにはそうでないものも出てくる。
経験・信用などが、その中心だ。
なので筆者は、資本主義が終焉し、クレジット(信用)社会の到来と呼んでいた。
具体的には、これまで資本で支配できたものの一部が、資本以外のもの(多くはクレジット)により支配される。クレジットの価値が、貨幣の価値を凌駕する時代が来ると信じていた。
2.キャッシュがコモディティ化しているの意味
これを具体的な事象として説明できるのが、「キャッシュがコモディティ化している」という現象だと思っている。
コモディティとは一般化したため差別化が困難となった製品やサービスのことをいう。つまりキャッシュを獲得するのが、他の何かを得るより簡単になっているという意味だ。
かつて、投資を得ることは困難だった。
しかし、様々な要因により、現在では簡単に投資を得られるようになった。特に投資のメインフィールドともいえるインターネット界隈では、お金がダブついていて、投資をしたい人よりも、投資を受けたい人が少ない過当競争になっている。
そして、かつてでは考えられない評価額で投資が行われるようになっている。いわゆるユニコーンベンチャーが多数存在している。
某投資家の話によると、すでに投資界隈では、サービスも事業計画もないタイミングで、経営者の魅力だけで投資を行うのが一般的になっているという。
担保ありきで融資する銀行の体質からしたら全く考えられないことだ。
余談だが10年くらい前に、某メガバンクの先輩に「僕の経営実績だけで融資をしてもらうことは出来ないだろうか?」と相談したら一笑されたことを思い出した。
これは採用市場でも同じことが言える。
かつては給与が入社の意思決定のトップシェアだったものが、今では経営者の魅力、ビジネスの魅力、事業の成長性などにトップを奪われている。
実績と魅力のある起業家が麗しいビジョンを掲げることが出来れば、資金も幹部人材も簡単に集まる。逆に、どんなに資金があっても、ビジョンや信用が無ければビジネスは成功しづらい環境になってきている。
つまり、支配階級にあったキャッシュが、「最も大事なもの」ではなくなっているというのが、コモディティ化しているという意味になる。
3.これからの世界
ここまで説明すれば割愛しても良いが、これからの予測も最後に付け加えておく。
キャッシュが頂点だったころは、貯金や投資をしてキャッシュの最大化をすることが、成功への近道だった。
しかし、クレジットが頂点に立つこれからの世界では、キャッシュよりも信用や実績、自分の魅力を磨くことが大事になってくる。
具体的には、良好な人間関係を構築し、周囲に対して誠実であることが最も大事になると言える。
他にも、年収を維持することよりも、年収ダウンしてでも新たな成長分野に身を投じること。自己成長の為に、読書やセミナーに出るなどの学習を怠らないこと。などが大事になってくる。
財産を管理することよりも、キャリアを管理することの方が大事になる。
経営者は銀行以上に、人材会社と良好な関係を築くことに力を注ぐようになる。
多少言い過ぎな部分はあるかもしれないが、そういう世界が既にすぐ近くまで来ていることを筆者は強く痛感している。