ベンチャー×ダイバーシティマネジメントのリアル ~多様性を実現する組織の条件~

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昨今、ベンチャー企業の間でも「ダイバーシティマネジメント」の注目度が高まっている中、先進的な取り組みを行っている企業がある。
グローバルにアプリケーションを開発しているモンスター・ラボ社とVR事業を展開するLIFE STYLE社だ。
今回は、外国人メンバー採用を中心とした両社の取り組みとベンチャー企業におけるダイバーシティマネジメントについてお話をうかがった。

 


■Company Profile

<株式会社モンスター・ラボ>
2006年2月設立。「多様性を活かす仕組みを創る」、「テクノロジーで世界を変える」をミッションに、国内160名、グローバルで700名のエンジニア・クリエイター集団として、Webサービス・アプリ開発等のサービス開発事業、音楽サービス事業、モバイルゲーム事業を世界9カ国17拠点で展開。東京オフィスの従業員数160名のうち外国人の割合は20%強。

<LIFE STYLE株式会社>
2014年3月設立。Googleストリートビューの事業を基点に、現在は実写VRに特化したVRクリエイターの支援事業を展開。「世界のVRを生み出すエコシステムの創造」をテーマに、VRを学ぶ・企画する・作るという3つ機会を提供するサービスも新たに開始し、VRを生み出すエコシステムを形成することによって感動をより多くの顧客に届けることを目指す。従業員数50名のうち外個人の割合は10%弱。


■Speaker Profile

<椎葉 育美>|株式会社モンスター・ラボ 執行役員 人事部長
デンマーク留学後にリトアニアで日本政府関連業務に従事、その後外資系ホテルで広報・マーケティング責任者を担当。「多様性を生かす仕組みを世の中に創り出すことに貢献したい」との理由からモンスター・ラボ社にジョイン。
<ショボン・ロザリオ>|株式会社モンスター・ラボ テクノロジスト
バングラデシュ出身。2015年にダッカを訪れたモンスター・ラボ代表鮄川氏に出会い、モンスター・ラボにジョイン。日本語を半年間独学で学び来日。現在はクライアントワークに携わる。
<冨山 亮太>|LIFE STYLE株式会社 取締役 事業統括本部長
大学卒業後イギリスのマーケティング会社へ。日本市場での市場開拓とマーケティング業務を担当。2014年、友人を通じて現LIFE STYLE創業者と出会い意気投合。「将来の夢を達成するための近道」との理由から創業メンバーとして立ち上げに参加。
<クリス・マーレー>|LIFE STYLE株式会社 VRプロデューサー
スコットランド出身。スコットランドにてドキュメンタリー撮影と編集者として勤務後、2010年日本語教師として働くため来日。友人に誘われたことがきっかけでLIFESTYLEと出会い、参画。現在はVRプロデューサーとして勤務。
■INDEX
―私たちが「ダイバーシティ」を実践する理由
―「お客様のダイバーシティを実現するために、自分たちがダイバーシティでいたい」。ダイバーシティを実現する方法。
―諸外国、地方自治体と連携し外国人採用を実現する。
―これからの時代における企業体の在り方とは?

■私たちが「ダイバーシティ」を実践する理由

―本日はお忙しいところありがとうございます。今回は、ダイバーシティ実践の先駆者たる2つの企業からゲストをお招きし、その対談から「ダイバーシティを実践するために企業はどうあるべきか」を探っていきたいと思います。ざっくばらんにお話頂ければ幸いです。

両社ともに一定以上の割合で外国人の方々を採用されていらっしゃいますが、日本のベンチャー企業において外国人採用はまだまだ一般的ではないと思います。まずは外国人採用を始められた経緯やその背景となる考え方の部分をお伺いできますでしょうか?

椎葉:はい。理由は大きく2つあると思います。一つは創業者のパーソナリティですね。創業者のいな川は国籍や人種など、そういった事柄で人をまったく分け隔てしないタイプでして、創業の段階から当たり前に外国人がいたんです。実はとくに外国人を採用しようというモチベーションがあったわけではなく、彼が全員に対して門戸を開放しただけにすぎません。創業の段階であっても「社員は日本人でなければならない」という暗黙の固定観念がなかったというのが一つ目の理由です。

二つ目はそういった経営者の哲学が会社の仕組みに上手く反映されているところでしょうか。当社ではどのポジションに於いても日本人のポジション・外国人のポジションというものがありません。ですから戦略的に外国人を採用したという実績もないんです。

ごく最近になってから、ベトナム拠点でブリッジとなる人材を置いたら事業が発展しやすいのではないか、という理由で、ベトナムの大学と連携して必要な人材を採用したという例はありますが、やはりすべてのポジションにおいて国籍などを問わないことが幅広い国籍の人材を採用できている理由なのではないでしょうか。

冨山:当社にも代表のパーソナリティの影響はあるでしょうね。ただし、具体的に外国人採用を開始することになったのは僕が単独で動きました。とにかく世界中の優秀な人材と一緒に働ける環境を作りたいという思いからでしたね。 まず、私たちにとってグローバルの定義は2つあって、ひとつは「言語」、そしてもうひとつが「場所」でした。企業で言えば英語で仕事ができる環境だったり、本社以外に拠点を持つことですね。

当時から私たちは海外を見据えていたのですが、2つのうち「言語」の部分はすぐにでもチャレンジできると思っていました。勿論、いきなり英語を公用語にしてしまうと国内企業向けには弊害もありますし、そもそも社内に英語を話せる人間が少なかったのですが、「まずは日本語が話せる外国人を入れてみよう」というような話になりました。

しかし、無論日本のメンバーには最初はハードルがあったようで。そこで英語を話すことができ、意欲も高かった僕がまずはやってみせる、みたいなところから始まりました。「とにかく1人連れてくるから」と意気込んで、英語を話す仲間2人とバーベキューやピザパーティーなど誰でも友達を連れてこれるような環境を準備していきました。「今月はそこに何人連れてこようか?」とコミットをして、友達を連れてきて、その友達がさらに友達を誘ってみたいな感じで多くの人が集うようになっていったわけです。

―まずはダイバーシティに対する思想があり、実現にコミットする人間をつくった。ということですね。
ロザリオさんとクリスさんはそれぞれどのようなきっかけで入社を決意されたのでしょうか?

ロザリオ:元々バングラデシュの大学で日本語を学んでいました。 元々、バングラデシュだけではなく、グローバルに働いて、様々な文化や人と出会ってみたいという想いがあったのですが、あるとき代表のいな川と話す機会があり、モンスター・ラボでならそれが実現できると思いました。

―来日にあたって不安はありませんでしたか?

ロザリオ:不安も勿論ありました。いまも漢字や独特の日本の文化など、難しい部分はあるのですが、当時はそれ以上にチャレンジしたいという気持ちが強かったです。

―入社後のギャップみたいなものはありましたか?

ロザリオ:いま、モンスター・ラボには12カ国の人が働いていて、良い意味で想像以上にグローバルな環境で働けていると思っています。先日も社内でプログラミングコンテンストがあり、日本+ベトナム、日本+中国、日本+バングラデシュ拠点の海外拠点対抗のチームで争ったのですが、私はベトナム人のエンジニアと一緒にチームになりました。 もともとはあまり話したことがなかったのですが、技術を通して語り合うことができ、多様性に触れることができたと思っています。

<参考:海外4か国+日本の自社拠点全部つないで、10か国籍メンバーで社内ISUCON(M-CON1)をやってみた>

クリス:私も不安よりワクワクの方が強かったです。LIFE SYLEのピザパーティーに行ったときに、冨山さんと話して、こんなことしたい、あんなことしたいと話が止まらなかったんです。

―クリスさんは一人目の外国人メンバーと伺いました。一人目の社員ということで、不安もないことはなかったと思うのですが。

クリス:そうですね。それに関しては、事前にコミュニケーションをしっかり行ったことが、大きくモチベーションを左右したと思います。事前にみんなとコミュニケーションをしっかりとれていたので、みんなの人間性を知ることができていました。

私は日本語が喋れると言っても、前の仕事は茨城県で英語教師をしていて、8割くらい英語の仕事でした。日本語の比率が大きくなるこの仕事では確かに大きなチャレンジでしたが、このメンバーだからこそチャレンジしたいと思うことができたと思います。

 

■「お客様のダイバーシティを実現するために、自分たちがダイバーシティでいたい」ダイバーシティを実現する方法。

―ダイバーシティマネジメントを実現する上でメンバーが気持ちよく働くための制度や取り組みなどはどんなものがありますでしょうか?

椎葉:当社では社内でのオペレーション言語を日本語に統一しています。そのため外国人も日本語が話せることが条件となります。

日本語である理由は、当社の重要事業の一つである受託開発の事業部において、あくまでクライアントファーストでありたいからです。すべてのクライアントさんが英語に堪能という時代になれば、当社も英語を公用語にするかもしれませんが、今は国内クライアントのほとんどは英語をお使いになられません。

当社で働く外国人たちはみな日本語が堪能です。しかし、来日から短期間で飛躍的に日本語力が上がってもそれだけでは評価の対象にはなりません。あくまでそこはみんなフェアに。自分が求められている役割に対するスキルとスタンス、成果で評価をしています。 ご質問いただいたダイバーシティ、私たちが呼ぶところの「ユニバーサル」という考え方では、どんな人種・文化に対しても同じスタンスでいることを重要視しています。

一方でこれとは一見矛盾するように見えるかも知れませんが、「グローバル」つまり海外におけるローカルな点であるそれぞれの文化や習慣、宗教などをリスペクトすることも大切にしています。イスラム教の社員のためにお祈りの部屋を用意したり、ケータリングの際にはハラールの料理を用意したり。やはり重要なのはバランスだと考えています。

また、社内のダイバーシティも重要視していますが、私たちがもっとも大事にするのは「お客様のダイバーシティ」をこの世に生み出していけるのか、ということです。多様なお客様それぞれが私たちの力を使って拡大していくことで社会の中にダイバーシティを広めていく。それが弊社のミッションであり、そのためには私たちもダイバーシティを持った組織でいたいなと。

―「お客様のダイバーシティ」を実現するために、自分たちがダイバーシティを持った組織でありたいと。新たな価値観ですね。

冨山:私たちが創業した時に参考にしたのは、じつはモンスター・ラボさんなんです。社内の行動指針を定める際、「多様性とは何か?」についてメンバー全員で考えたのですが、その時知り合いから紹介されたのがモンスターラボさんでした。いまの椎葉さんのお話を伺っていると、私たちの考え方と非常に共感することが多く、嬉しく思います。

私たちは、具体的な行動としては社員が自分の強みをアウトプットする場所を意識的に作っています。
時間外に外国人メンバーが日本人メンバーへ英語の授業を行ったり、財務に強い社員が財務諸表の読み方などを他の社員に教えるとか。
実際他のベンチャーさんと比較しても、当社はコミュニケーションが取れているほうだと思います。

さらに弊社では入社時に「入社プレゼン」といったものを開催しています。インターンもアルバイトも入社予定のすべての人間が全社員を前に「私はこんなパーソナリティの人間で、LIFE STYLEにこんな価値を還元します」とプレゼンを行うんです。
そうすることで、ただの自己紹介の場ではなく、「この人はこんな価値を持った人間で、この人からはこんなことを学べそうだ」と、組織全体が認識するんです。勿論それは外国人メンバーも一緒です。

言語の部分で言うと、最近業務の中で日本語と英語が交ざってきてどちらかにしようかみたいな話にはなっています。
しかし僕は正直にいうと日本語・英語どちらでもいいと思っているんです。 というのも、言葉はあくまでツールだと考えているからです。また、コミュニケーションの方法って言語だけじゃないと思うんです。もちろんテーマの粒度にはよりますが、「相手に意図を伝える」という目的であれば、何も共通言語を話さなくとも、身体を使ったボディランゲージや、擬音など、アイデア次第でいくらでもコミュニケーションをとることは可能だと考えています。

椎葉:「多様性」と「ランダム」の違いというのはありますよね。
たとえば「社内禁煙はどうなんだ?これは多様性とは違うのか?」とか。笑

まあこれは極端な例かもしれませんが、やはりこのテーマに対してはいろんなことが出てくるわけです。組織の中での多様性を考えると、私たちもベンチャーなので、ある部分で一丸になって頑張らなきゃいけない、というシーンがたくさんあるのですが、個人の自由・個人の考えをどこまで打ち出すかは難しいところで、日々悩みながらも進めています。 一方で当社は「自分のアタマで考えられる人であること」を絶対の採用基準に置いているので、逆に言えば外国人が目立たないんですね。笑

外国人・日本人問わず一人一人のキャラが立ちすぎているきらいもあって、その違いみたいなものはチャレンジしがいのあるテーマだと常々実感しています。

―LIFE STYLEさんの行動指針について具体的にお話し頂けますか?

冨山:「多様性を認識し、尊重し、受け入れろ」というのが弊社の行動指針のひとつです。特徴的なのが、最後の「受け入れろ」だけ命令っぽくなっているところです。笑

これは、「なぜなら人間というものは並大抵のことでは多様性を受け入れることはできない」という私たち自身への戒めがあるからです。
多様性とは何かと言えば、たとえば異なる国籍。性別もそうですし、社歴の違いもそうかもしれない。このように人との違い、私とあなたは違うという認識を持つところから始めければいけないと考えています。

認識をしたら次は尊重しなければなりません。尊重することでいろいろなことが変わってきます。たとえば社歴の違いから経営に対する理解度が違ったとしても、お互いを尊重していれば、「俺は4年もこの会社で働いて社長のことも知っている」というような発言はなくなるんですね。「君はまだ1ヶ月目だから知らなくて当然だよね。でも、だからこそ貴重な存在だよね」と考え方と言動が変わってきます。

そして最終的にもっともハードルが高いのが受け入れる段階なんです。
最終的に人を受け入れた段階で、人はその人のことを好きになります。もっとこの人から学びたい、話しをしたい、理解したいと考えるようになります。
例えば20代前半のメンバーが「この人の子育てを参考にしたい」と思ってパートのママさん社員とプライベートでも交流がはじまるとか、このようなことが弊社ではよくあります。
つまりお互いを認識し、尊重し、受け入れた瞬間こそが本当のダイバーシティが実現されている環境なんだと思います。

―「認識し、尊重し、受け入れる。」素晴らしい考え方ですが、一方でだからこそ簡単ではないことですよね。この姿勢を浸透させていくために行っていることはありますか?

冨山:具体的な施策としては「ごちゃまぜ会議」というものを月に2回開催しています。
全部署の垣根なしに一つのテーマに対して全員でディスカッションする機会を設けます。そして最終的にはチームごとにプレゼンし、優秀チームを表彰するのですが、これが1つのテーマ毎に長いと3ヶ月ぐらいかけています。
1日や1ヶ月でなく3ヶ月行うとなると、生半可な気持ちでは続けれられないですし、ディスカッションの中で自分のオピニオンを表現しなければならなくなるため、外国人メンバーは日本語を頑張るし、日本人メンバーも英語を頑張るわけです。これにより日本人と外国人の垣根は大分低くなりました。

過去、オフィス環境を改革プロジェクトやFacebookで1万いいねを集めるプロジェクトなど、最終的に会社が資金を投入して実現させたものもあります。

また、コミュニケーションの活性化としてひとつユニークな取り組みをしています。組織が拡大し多様化していく中で、常に対面でみんなが集うのは難しくなっていったため、「Web上でどうにかできないか」という話になりました。
そこで、LIFE STYLEの頭文字を取って『LSコミュニティ』というものを立ち上げました。まあ実はこれ、普通にFacebookのグループなんですが。笑 自分のFacebook、LSコミュニティの中でまずは社内からコミュニケーションをWeb上で活性化させようと試みました。
ベンチャーで働いている人々は起きている時間の約75%は仕事に費やしているので、普段の仕事自体が私生活に近くなります。
うちのメンバーもこの限りではないのですが、するとみんなその私生活=仕事内容をFacebookにアップロード、別の言い方をするとアウトプットし始めるんですね。
まずはそのコミュニティの中でアウトプットの仕方を覚え、共有してもらえるようにしています。
その中で、外国人メンバーの一人が、「今こういうプロジェクトでこの人と一緒にいます」なんてアップすると故郷の家族からコメントが入ったりして。リアルタイムでLIFE STYLEの取り組みについて家族同士でやり取りしているのを見たりすると楽しいですね。

椎葉:オンラインのリアルタイム性って面白いんですね。私たちのグループ拠点は全部で14都市(※1)にあるのですが、そのうち日本人に向けたオフショア拠点の大きいところが4つあります。
中国に1つ、ベトナムに2つ、バングラデシュに1つですが、私たちは日本にいながら海外拠点の人たちと、どうコミュニケーションを上手くとってマネジメントしているかとか、プロジェクトを推進ができる力があるかどうか、をマーケティングでは社外の方に証明しなければなりませんからね。実は私は弊社のマーケティングチームも見ており、そのエビデンスをどう作るかについては私も少し頭を悩ませていたところです。

※1インタビュー時は14都市、2017年8月現在は17都(東京・大阪・松江・成都・青島・上海・北京・ハノイ・ダナン・シンガポール・サンフランシスコ・ダッカ・セブ・マニラ・コペンハーゲン・オーフス・ロンドン)

■諸外国、地方自治体と連携し外国人採用を実現する。

―それでは少し話題を変えます。今後の事業拡大を見据えると、優秀な外国人をいかにリクルーティングするかは各社永遠のテーマだったりしますが、両社が実践している具体的な採用手法などありましたらお聞きできますでしょうか。

冨山:採用手法に関しては、当社の場合はリファラルがメインですね。先ほど少し採用のお話をしましたが、弊社では社内で催しているパーティに友達を呼んできて、採用に繋がったらインセンティブを支払う、といったような制度は設けていません。

様々な取り組みを行った結果が社内メンバーの帰属意識を高め、所属しているメンバーみんなが素直に「LIFE STYLEという会社は自分の生き方を表現できる場所なんだ」とアウトプットできるように、と注力してきた結果、こうなっています。

椎葉:外国人採用に関してですが、第一に「外国人採用で特別な方法はとらない」ということを大事にしています。
外国人採用だけをやっているようなエキスパート系に特化したエージェントさんの場合、英語を公用語にしているようなクライアントさんを対象にしている場合が多く、当社は当てはまらないというのも理由としてありますが、当社は基本的にすべてのポジションをすべての人種に対して、性別を問わず、とにかく門戸を開放することを大事にしています。
当社では全部で12ヶ国の国籍の社員が働いてますので、よく「何か特別な手法があるのでは?」と皆様お伺いになります。セネガルとかキプロスとか、採ろうと思ってもなかなか手が出せないので、みなさん「何かある」と思われるのはわかります。笑
しかし、実のところ、そこに関しては何もしていないというのが創業当時からの現状です。

―逆にいうと、そういった特別な施策を行わなくても、ユニバーサルな思想や文化が組織に根付けば、優秀な海外人材の採用は実現できる、ということですね。

椎葉:ただ、先にも申し上げた通り、現状に満足しているわけではなく、新たな方法も昨年ぐらいからいくつか取り組み始めてはいます。一つは外国の大学との連携ですね。
ただ、ここで重要なのは、特定の国の外国人を採りたかったということではなく、優秀な学生を採用したかったからこそ、その国でトップクラスに実績のある工科大学と提携したということです。

その大学で日本語を学ぶ学生さんたちに、日本語教育の資金出資をしている企業さんがあり、その方々が学生のリクルーティングの権利を持っています。当社はその2番手に入らせてもらうよう交渉しまして、その企業さんのリクルーティングイベント終了後にプレゼンを行い、優秀な学生を面接できるという座組みを作ったんです。

冨山:それは大変面白いですね。

椎葉:もう一つは自治体との連携ですね。弊社は島根に開発拠点を開設しているのですが、島根のような人口が減っている地方の場合ですと、外国人採用・外国人の移住というのが割と近々の課題なんです。
IT立県のような取り組みを行っている地方では、海外の自治体と提携して、「海外から人を呼んでこよう」というような試みをしていますが、じつはその後、呼び込んだ外国人を雇用する先の企業がないと聞きます。
やはり地方企業は保守的な面が強いと思われますが、弊社が地方で法人格を持っていることで、地方での雇用促進と、メンバー自身もモンスター・ラボの社員ということで受け入れてもらいやすい環境を作ることができるかもしれません。実際、島根拠点では自治体と協力してインドからエンジニアを1名採用しました。

■これからの時代における企業体の在り方とは?

―昨今、ダイバーシティについては様々な文脈で語られています。
「ダイバーシティ」というワードが一種バズワードになっている中で、改めてお二方に問いかけたいのですが、今後の組織におけるダイバーシティマネジメントの在り方やビジネスパーソンの働き方についてどのようなお考えをお持ちでしょうか。

椎葉:個人的な意見になりますが、マネジメントで言えば、フェアでいること、みなに対して同じスタンスでいること、そして一人一人の個を大事にするということのバランスが常に最適であるかどうかを問うことでしょうか。
実際の行動自体は本当に地味なのですが、そのアクションの積み重ねを面倒くさがってはいけないと思いますね。まずそこが一点目です。

ビジネスパーソンの働き方については、個人的には「常にプロフェッショナルであること」が重要だと考えています。自分の役割や求められている仕事に対して、ある部分では自信を持ってできるところまで到達する必要があると思います。そこに到達するために学び続けるというのが二点目。

そして人をリスペクトするということ。チームメンバーに対して常に言っていることですが、「仕事に重要であるなしの差はない」と私は思います。たとえば私が誰かにお茶を持ってきてもらうとしましょう。たしかにそれは誰がやってもいいことかもしれませんが、私にとってはお茶がないと、社外の方とコミュニケーションを取るという私の仕事がうまくいかないわけです。つまり私にとってはとても重要なことなのです。そうした観点から「どの仕事も重要だから、人をリスペクトすること、お客様をリスペクトすること」と常にメンバーに言っています。

―組織においてダイバーシティを実現するためには、個々人がプロフェッショナルとして考え、行動し、学び続けることが重要ということですね。冨山さんはいかがですか?

冨山:マネジメントにおいては、日本人にありがちな傾向としてすべてを言葉でまとめてしまおうとするのですが、それは思った以上に伝わらないと考えています。
先ほども言ったように、言語はコミュニケーションツールの一つに過ぎませんから、やはり目・耳・鼻・口などすべてを駆使して「伝わっている状態」を目指そうと意識しています。「伝える」ではなく「伝わっている状態を完成させる」ですね。まずはリーダーがそこをやらなきゃいけないし、各自がセルフマネジメントの中でやり始めればコミュニケーションのカタチが言語だけではなくなるはずです。それによりマネジメント自体が楽になると思うんですね。

ビジネスパーソンの働き方について言えば、先ほどの椎葉さんのお話に近いかなと思いますが、プロ集団であることは大事にしています。そもそも個がビジネスパーソンとしてプロフェッショナルであり続ければ、働き方そのものに捉われなくても済むのかなと思うんです。僕らが作りたいと思っているのはいわゆる『プロ契約』。
それぞれがプロとして、お互いが「私はここにコミットする」という形で契約をして、プロジェクトを回していくようなチームができるのが理想ですね。
言い換えると、フィールドプレイヤーが次々とポジションを入れ替えながらゴールを目指すサッカー、そのプロチームのようなカタチです。

また、これはあくまで持論ですが、僕の中では「より大きなコミュニティとの相互関係を掴める活動」みたいなことこそがグローバルだと思っています。一般的に「グローバルに○○する」という言い方をするけれど、それってみなそれぞれ何らかのコミュニティに属しながらの活動のはずです。
家族しかり、住んでいる地域しかり、国しかり、広い意味ですべては地球の一部だと言えるわけです。そう考えれば地球上のどこで仕事をしてもいいわけですし、だからこそ、この地球上に冨山亮太という人間が存在していることを理解してもらうため、「地球上に僕がいるよ」というアウトプットをしていく活動を行っていく必要がある。

これは僕の哲学として大事にしていることですが、言語化して他者に理解してもらうのはすごく難しい。客観的にみんながグローバルをどう捉えているかと言うと、それは冒頭でお話しした「言語」と「土地」なんです。言語に対するチャレンジでメンバーの活性化は見えてきたところなので、次は土地へのチャレンジかなと思っています。その意味でいくと次は「ブランチオフィスを構える」ですかね。笑
今後は「土地」という新たなチャレンジを行っていきたいと思います。

―みなさま、本日は興味深いお話ありがとうございました。今後の更なるご活躍に期待しております。

椎葉・冨山・ロザリオ・クリス:有難うございました。

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