近年、若者がベンチャーを立ち上げる何度目かのブームが巻き起こっている。
楽天やDeNAといった90年代に立ち上がった企業群が第三次ベンチャーブーム、00年代の企業が第四次であり、そして現在は第五次ベンチャーブームだなどと考えられているらしい。
かくいう私も、大学一年の夏に慶應義塾大学を中退し、2008年に最初の起業を経験した。残念ながら初めてとなる事業の立ち上げは実を結ばなかったが、その後もITベンチャーから化粧品メーカーへと領域を移し、挑戦を続けている。
そんな経緯から、ここ10年ほどのIT業界の動向についてはアンテナを張ってきたつもりだし、シリアルアントレプレナーとして何社も成功させているベテランから、(悪い意味ではなく)軽いノリで起業の世界に飛び込んできた中学生や大学生まで実際に交流も持ってきた。
最近ではベンチャー企業のなかでも意欲的に資金調達を実行し、極端な成長角度をもとめてグロースしてゆく新興企業をスタートアップと呼んだりする。優秀な仲間を惹きつけるために、オフィスや福利厚生が先進的であったり、インターンの活用が盛んだったりという特徴がある。
今回は自分の経験をもとに、一般企業でキャリアを積んだ20代〜50代のビジネスマンが成長著しいスタートアップに飛び込むとき、絶対に言ってはいけないセリフを紹介したい。
もちろんスタートアップには社歴の長い企業のような決まりごとは少ないが、しかしながら守るべき独特のTPOがあると私は考えている。
スタートアップに転職してチャレンジすることを志したり、あるいは実際に転職した方々には、ぜひ参考にしてほしい。
「自分は相場よりも低い給与で働いている」
いくら多くの業務をまかされても、事前に提示された通りの給与が支払われているなら、このセリフは口に出すべきではない。スタートアップでの報酬が通常通りの相場だったら、ある意味では別の欠陥を抱えていると言える。
もちろん私が経営者の立場で「安く買い叩きたい」と思っているわけでは決してない。それどころか多くのCEOは、ともに戦ってくれた従業員に対しては本来あるべき給与か、それ以上の待遇で報いたいと心から思っている人が多い。
スタートアップは同時に零細企業でもあるため、様々な理不尽に見舞われ、苦しい思いをすることがある。そんなことは百も承知である。しかし、そのことを自分の給与に照らし合わせて評価してはいけない。
入社前であれば、給与やあるいはストックオプションの交渉をおおいにやるべきだと思うが、いざ内側に入ってから業務と見合わないなどと漏らすのは、スタートアップに向かない性質と言わざるをえない。
「他社ではこうやっています」
担当者は、開発や営業(集客)を考えるとき、どうしても類似企業の手法を参考にしがちだ。
個人的には、裁量のある人物が戦術(企画や施策)を決めるときに事例から判断するのはアリだと思うが、より広い視点で決定すべき「戦略」には、あまり過去のデータや他社の動向を混ぜ込んでも仕方がないと思う。
なぜなら、スタートアップとはそもそも、これまで存在しなかったプロダクトをつくり、そして他社とは比較にならない圧倒的な成果を出すための機関だからである。
つまり、「他社はこうだ、競合はああだ」などという些事にCEOの意識をあんまり向けてしまうと、企業そのものが縮こまってしまう恐れがある。
若いCEOであればあるほど、些細なことは社員で処理し、より俯瞰的な視野と器の広い人物へ育てるべく一同でバックアップしてゆくマインドがほしい。
「現実的に考えてください!」
いくつか抑えるべきスタートアップ業界の不文律でも、これだけは絶対に言ってはいけないというクリティカルな一言である。
たとえば現在、月10万円を売るプロダクトが手元にあったとして、「これを24ヶ月後には10億円に成長させIPOする」と目を輝かせて話すCEOに、あなたはブレーキをかけてはいけないのだ。
そもそも、スタートアップのCEOは誇大妄想ぎみである。そうでなければならない。
孫正義やイーロン・マスクにあてられて起業した彼らには、上記のような宣言ですら「オレはなんてスケールが小さいんだ」と自己嫌悪するタネである。
実際にどうやってその数字を達成するのか、一緒になって考え抜いてくれる仲間こそスタートアップにふさわしい。
その代わりCEOがすべての責任をとる。大株主であればなおさらである。
成熟した企業でスキルを身につけ、キャリアを形成してきたガッツのある人材は、あらゆるスタートアップにとって欠かせないパワーだ。とはいえ、若い力で荒く形づくられてきた会社には想像もしない困難や、未整備な環境がある。そのことを念頭に置いたうえで、柔軟にその力を発揮していただけることを願ってやまない。