〜これまでのエントリー〜
■連載①:カウンセラーのみが知る、部下から信頼される「聴き方」|準備編:相手が話すかどうかは、こちらが聞く前に決まっている。
■連載②:カウンセラーのみが知る、部下から信頼される「聴き方」|基礎編:ヒアリングの王道
ここまでは「聴くこと」についてお話をしてきましたが、実は僕たちカウンセラーにはもう一つ重要な仕事があります。
それは「相手の抱える問題とその解決策を自分で見つけるように導くこと」です。
カウンセラーは多くの人の話を聞き、多くの事例を勉強していますので、その人の話をしっかり聞けば、何が課題でどうすれば解決するのかはだいたいわかります。しかし、そこでカウンセラーが経験にものを言わせて「こうすれば解決しますよ」と教えてあげてしまうと、その解決策を本当に実行する人はほとんどいないのです。
日本の今までの学校教育では「すでにある答えに対して間違いの少なかった人」が評価されてきました。それゆえ私たちは、実生活で直面する課題に対しても「正しい答え」を求めてしまうクセがあります。
しかし実際は、ビジネスでもプライベートでも、起こっている問題への「正しい答え」なんてものは存在せず、自分で見出していくしないことの方が多いものです。
例えば、問題解決を望んでいる部下に対して、上司が「それはこれが原因で、こう改善すればいいだろ」と教えることは一見即効性があるように思えます。
しかし一方で部下が自分で考える機会を奪ってしまうことになり、長期的にはその部下の成長を妨げます。
本人の成長を促す上で大事なのは「自分で考え、自分で解決させる」ことです。
そのためには適切な質問をすることが非常に重要になってくるのです。
「なぜ」よりも「何が原因で」
「なぜこんなことになったんだ?」
毎日毎日起こる問題に対して、「なぜうちのチームはこんな問題ばかり起こるんだ!」とチームを問い詰めてしまったことはないでしょうか。しかし、起こってしまったことをチクチク追求しても解決に進むことはありません。
問題の原因を探る時は、「なぜ」ではなく「何が原因で」と質問する方が効果的です。
「なぜ」は非常に強い質問ですので、「なぜ」で原因を追求されると「自分が悪いことをしたとを責められている」と感じやすく、防衛本能で虚勢を張ったりありもしない嘘で本当の原因を隠したくなります。
一方「何が原因でこうなってしまったんだろう?」と質問すると、自分が非難されていると感じにくいので、客観的に問題を見直し本当の原因を正直に話してくれる可能性が高まります。さらには、本人が自分の頭で考えることによって、本人の成長につながりやすくもなるのです。
解決に向かわせる時は「どうしたらできるか?」を問いかける
「次はこうしてみろ」とアドバイスすることは誰にでもできます。しかし、「次はこうしてみよう」と考えさせられるリーダーは少ないと言えます。
本人に解決策を考えてもらうためには、意識のベクトルを過去に起こったことや今直面している課題から、未来へと向けさせる必要があります。
過去や現在にフォーカスしている質問は、
「なぜ事前にこの問題を回避できなかったんだろう?」
「今までどんな対策をしてきたのか?」
「どうしてできないと思う?」
などの質問が挙げられますが、これは感情として「後悔」や「自責」の念を生み出しやすい質問です。
ところがこれを未来に意識を向けさせる質問にすると
「どうしたらこの問題を回避できるようになるだろう?」
「これからどんな対策をしていけば良いと思うか?」
「どうしたらできると思う?」
という質問に変わります。そうすると未来への「期待」や「希望」の感情が湧いて来やすくなるのです。
そうするとこちらがアドバイスせずとも「こうしたらいいんじゃないか」と自分で考え、自分で行動を起こせるようになっていくのです。
今を知り、未来を描き、差を埋める
人が行動に移せないときは、「何をして良いのかわからない」状態にあることがほとんどです。
逆に、それがわかっていて、解決策もわかっているのであれば、放っておいても人は動き出します。ですから質問をする側は、わからないこととできることを明確にするような質問をしていけば良いのです。
そこで、PDCAサイクルの基礎中の基礎である「ゴール設定」「現状把握」「課題の抽出」を質問をするときにも当てはめてみます。そうすることで、相手が自分で課題を発見し、其の解決策も見つけ出しやすくなります。
「ゴール設定のための質問」
- 目標はどこまで行きたいのか?
- 理想の状態はどんな状態か?
- その時に得られるものは何か?(売上?達成感?自己成長?)
「現状把握のための質問」
- 現状はどこまで進めることができているのか?
- 何が原因でこの状態になってしまったのか?
- 今のチームに足りない物は何か?
「課題のための質問」
- どうすればそこにたどり着けると思うか?
- 誰の力を借りれば解決しそうなのか?
- これからできることは何か?
など、それぞれのテーマで質問をし、理想と現状の「差」がどこにあるのかを明確にしていけば良いのです。差がわかれば、「どうしたらそれができるのか」の質問をしていきます。そうして質問していくことによって「何をしたらいいかわからない状態を、何をすれば解決できるのかわかる状態」にします。
この時、その解決策がたとえ間違っていたとしても、まずはやらせてみることが重要です。上司の過去の経験から「そのやり方は間違っている」と指摘するよりも、自分で考えて自分で実行した結果、間違っているとわかった方が、本人が吸収できるものが全然違うのです。
かの有名な山本五十六も『やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず』と言っています。まさに金言ではないでしょうか。部下からすると、上司からの「信頼しているぞ」というメッセージほど、上司を信頼したくなるものはないではないでしょうか。
準備編・基礎編・応用編まとめ
さて、三回にわたって解説してきました、部下から信頼される「聴き方」ですが、いかがでしたでしょうか。カウンセラーとして培ってきたヒアリングのコツが、エグゼクティブの皆様のお役に立てば嬉しいです。最後に要点を振り返って終わりにしたいと思います。
- スキルよりもテクニックよりも「相手を理解しよう」という真摯な姿勢が大事
- 「オープンクエスチョン」「オウム返し」「共感」で相手の価値観を掘り出せ
- 「アドバイス」ではなく「本人に考えさせ、本人に実行させる」指導を
以上のことができれば、人は話を聴いてくれた人に絶大な信頼をおいてくれます。上手に活用していただけると嬉しく思います。
最後までご精読ありがとうございました。