カウンセラーのみが知る、部下から信頼される「聴き方」|準備編:相手が話すかどうかは、こちらが聞く前に決まっている。

カウンセラーのみが知る、部下から信頼される「聴き方」|準備編:相手が話すかどうかは、こちらが聞く前に決まっている。
Pocket

1.  仕事における「聴くこと」の重要性

僕はカウンセラーという仕事の経験上、様々な職業の人の人間関係や仕事に関する悩みなどの相談に乗ってきました。その中で、多くの人が語る「上司との人間関係」の悩みには、反面教師になるような共通の事例がいくつもありました。

上司とのコミュニケーションに悩む人は、どう思われるかを気にするあまり、よく見せようと取り繕った報告、本音ではないうわべだけの会話、自分の意見ではない無難な提案をしてしまうことになります。

逆に、部下から上司が信頼されている場合は、当たり前ではありますが、飾らない嘘偽りのない報告、本音でのコミュニケーション、活発な意見交換ができるということです。

その人間関係が作れるかどうか、話し手の本音を引き出せるかどうかの境目は、確かにその「引き出し方」も重要ですが、それよりも前に実は、話を聞く側の「態度」で決まっていることが多いのです。

私がカウンセラーとして多くの人の話を聞いてきたからこそわかる、信頼される上司のポイントとなる「態度」を3つご紹介したいと思います。

2. 「コンサルティング」と「カウンセリング」の違い

「聞くこと」と「聴くこと」は全く違います。前者は「意識しなくても聞こえてくる音を耳が拾う」状態であるのに対して、後者は「意識して集中して耳を傾ける」という意味合いを持ちます。

「ねぇ、あなたちょっと聞いてるの!」と言われて、「そんな大声出さなくても聞こえてるよ!」と返すときは「聞いている」状態、「ねぇ、あなたちょっと聞いてほしいことがあるの」と言われて、「一体どうしたんだい?」と返すときは「聴いている」状態です。

カウンセラーとして相手の話を「聴いている」時は、「自分の考えは一旦横において、相手のことを理解するという意識に全てをフォーカスしている」状態です。一切自分の意見を挟んだり、自分の話をし始めることなく、ひたすら相手の話を聴きます。

もし意見を言う必要のあるときは、カウンセラーではなく、コンサルタントとして振舞うことを心懸けています。

そこは明確に線引きをし、切り替える必要があるのです。

では、ここで質問です。あなたが上司として部下の話を聴くとき、カウンセラーとしてもしくはコンサルタントとして、どちらの立場で話をきいているでしょうか?

カウンセリングは「問題に気づかせ、解決策を見つけさせる」のが目的であるのに対して、コンサルティングは「問題に気づき、解決策を提示する」のが目的です。大事なことはどちらがいい悪いではなく、話す相手がどちらの振る舞いを聞き手に求めているのか、ということです。

コンサルタントとしてアドバイスをし、その通りに部下が動き変わっていくなら、人間関係は問題ないと言えるでしょう。しかし、その手前に「この人の言うことなら素直に聞いてみよう」と思わせるのは、こちらのカウンセラーとしての振る舞いなのです。

人は自分の価値観を否定しない人・認めてくれる人・共感してくれる人にしか本音を出すことができません。ですからカウンセラーは「人間は一人一人違った価値観を持ち、誰一人として同じ人間はいない」という信念を持ち、その人に真摯に向き合わなくてはいけません。

この時「それは違う」「私はこう思う」とコンサルティングしてしまったが最後、相手の心はシャットダウンしてしまい、本音は心の扉の向こうにしまわれてしまうのです。相手の心を開かせるには「この人は私の価値観を受け入れてくれている」という認識を持たれることが非常に重要であり、それを達成するにはカウンセラーとしての振る舞いが必要不可欠なのです。

3. いますぐにできる「ラポールの築き方」

臨床心理の世界では「クライアントとのラポールを築け」と口を酸っぱくして教えられます。

ラポールとは、「相互を信頼し合い、安心して自由に振る舞ったり感情の交流を行える関係が成立している状態」のことを言います。

ラポールが築けていれば、相手も本音でぶつかってきてくれますし、自分の意見もきちんと受け取ってくれます。逆にラポールが築けていない状態では、相手の本音を聴くことも、相手に自分の話を聴いてもらうこともできません。

ではラポールを築くにはどうしたらいいのか?数あるアプローチの中で、もっとも簡単でもっとも効果があり、そしてもっとも軽視しがちなのが「笑顔」です。D・カーネギーは名著『人を動かす』の中で笑顔の持つ力についてこのように書いています。

「笑顔を見せる人は、見せない人よりも、経営、販売、教育などの面で効果をあげるように思う。(中略)笑顔は好意のメッセンジャーだ。受け取る人々の生活を明るくする。しかめっ面、ふくれ面、それに、わざと顔を背けるような人々の中で、あなたの笑顔は雲のあいだからあらわれた太陽のように見えるものだ。」(D・カーネギー『人を動かす』創元社、1999年)

それがあるだけで心を許してしまいそうになるほど、笑顔の力は強力です。たとえこちらが真剣に聴いていても、その表情が仏頂面だと、安心して話をすることができません。逆に自然な笑顔さえ作れていれば、相手が心を開いてくれる可能性が格段に上がります。

一度、自分の笑顔を外から見るとどう見えるのか?写真や動画で客観的に確認してみてください。自分にとっては無理して作っていると感じる笑顔でも、他人からみるとビックリするくらい爽やかなイメージに映ることもあります。逆に、自分は笑っているつもりでも、相手には強い印象を与えていることすらあるので、注意してください。

あなたの姿勢がどんなに「相手の価値観を受け入れる」ことに真摯に向き合っていても、その顔が怖けれ全て台無し。逆に笑顔を徹底するだけでも、あなたに心を開いて本音を話してくれる人はどんどん増えていきます。

4. 求める前に与えよ、自己開示の返報性について

お客さんの中には、どうしてもカウンセラーが上で、自分が下の上下関係にあるというイメージが拭えない人がいます。僕たちはただ相手の話を聴いているだけですので、本来は対等な立場です。上も下もありません。ですが、話し手側が警戒していたり萎縮していたりする場合は、その関係性をまずフラットにすることから始めなくてはいけません。

どうしても相手が心を開いてくれていない。そう感じた時に効果的なのが「自己開示」です。自己開示は、自分のことをさらけ出しながらも、それに対する相手の反応や見返りを期待しないありのままを伝えることを言います。

部下と上司の関係であれば、上司が「いかに自分がダメダメな人間であったか」「どれだけの失敗をしてきたか」などの経験談を語ることによって、部下が親近感を覚えてくれることはよくあります。

「ダサい」「かっこ悪い」「非常識だ」と思われるようなことでも自分から開示すると、本来は見られたくないであろう部分を開示してくれた相手に対して、自分も応えようという気持ちが働きます。これを心理学の世界では自己開示の返報性と言います。これにより相手の心も少しずつ開いてくるのです。

コミュニケーションだってギブアンドテイク。相手の本音が欲しければ、まずこちらから本音を晒け出さなければなりません。与えよ、さらば与えられん、ですね。

まとめ

相手の本音を引き出すためには、「聴き方や質問の内容」を見直すよりも前に重要なことがあります。それは「この人にだったら心のうちを話してもいいなと思える安心感の構築」です。

その安心感は「とにかく相手の話に集中し、全てを受け入れる心構え」×「笑顔」×「自己開示」のかけ算によって得られます。どんなに本質的な質問をしても、どんなにコミュニケーションテクニックを駆使しても、この3つの土台なくして、相手の話を引き出すことはできません。

そして人間関係は鏡です。自分の話を周囲の人が聴いてくれない時は、自分が周囲の話を聴いていない時ですし、相手が心のうちをさらけ出してくれない時は、自分が相手に心のうちをさらけ出していない時なのです。

もし、あなたがチームや部下との人間関係に悩むことがあるようでしたら、自分で自分のセルフカウンセリングをしてみてください。自分ができていると思っていても、相手が変わっていなかったら「できていない」ということです。

相手の話を「聴く」という行為の本質は、その反応によって自分の内面との対話をすること、すなわち自分自身の本心を「聴く」ことにあります。それにより自分のあり方を変えることでしか、相手が変わってくれることはないのです。

 

Pocket