会社を売って旅に出よう ― 起業家なんて誰でもなれる【連続起業家シリーズ #2】

― 当たり前とされている生き方を疑い、「働くか働かないかを意思決定すること」の重要性を投げかけた前回に続き、シリアルアントレプレナーシリーズ2本目となる今回は、起業家は特別でなく誰でもできるという事実、そしてその具体的な方法について正田氏自身の体験を交え説明していく。

【連続起業家シリーズ バックナンバー】
#1:連続起業家のすすめ ― シリアルアントレプレナーとは何者か?
#2:会社を売って旅に出よう ― 起業家なんて誰でもなれる
#3:起業のリスクはほとんどが考え過ぎ ― 事業をはじめるリスクについて考えてみる
#4:事業計画と資金調達のルール ― 教科書に載っていないTips
#5:経営者が必ず間違える創業期の人材採用 ― スタートアップにはスタートアップの採用を
#6:サクッと起業してサクッと売却する ― 人生に「シリアルアントレプレナー」という選択を

*書籍化しました!『サクッと起業して サクッと売却する』 (CCCメディアハウス)

INDEX
■ 僕の最初の売却体験
■ 会社を売ったら旅に出よう
■ 会社売却で「目立つ色の付箋」が貼られる
■ 起業家なんて誰でもなれる
■ 「ニッチで尖ったビジネスモデル」なんてまず無理
■ 「完全コピペ」で成功したドイツ企業
■ toBとtoCを選択する

僕の最初の売却体験

僕は15歳で起業した。
以来、これまでの人生を連続起業家として生きてきた。

前回の記事で僕は人生において働く時間と働かない時間をあなた自身の責任で選択すべきだ、と話した。

連続起業家のすすめ ― シリアルアントレプレナーとは何者か?【連続起業家シリーズ #1】

なぜ僕が「働かない時間」の獲得をすすめるのか。

僕には働かない時間を取ってよかった、と心から思った瞬間がある。

それは最初の会社を売却したときだ。

僕は19歳のとき、15歳で立ち上げたインターネットビジネスの会社を1億5000万円で売却した。

ここだけの話、会社を売ることには正直抵抗があった。
起業家にとって自身の会社は我が子同然ともいえるものだからだ。
無論、僕も同様で僕にとって当時経営していた会社は自身のそれまでの数年間の全てを注ぎ込んだものであり、僕の人生の証明とも言えるものだった。

だけど、そんな大切なものでさえ手放そうと、僕の背中を押したのは、
「事業を辞めて一度リセットする時間をつくりたい」
という切実な思いだった。

言うのもはばかられるのだが、会社の成長とともに、僕は自分の会社が手がけている事業の技術面を理解できなくなっていった。

ここでプログラミングを学んだり、システム系の能力を伸ばすのも一つの選択肢だ。実際そうする人もいるだろう。

ただ、僕はそれをしたくなかった。
もっと自分に向いていること、やりたいことがあるはずだ、という思いが拭えなかった。
「自分に向いていること」を見極めるには仕事に追われる日々から離れ、自分とじっくり対話することが必要だった。
そのためには働かなくても生活していけるだけのお金がいる。また新しい会社を興すにしても資金が欠かせないだろうと考えた。結果、思い切ってM&Aで会社を売却することを決断した。

 

会社を売ったら旅に出よう

M&Aで会社を売却すると当面やることがなくなってしまう。
僕はいずれの売却後も、今後について考える時間を取った。

「人生を考える」というと大げさかもしれないが、実際いろいろなことを考えた。

海外留学も考えたし、よその会社を買い取ってオーナーになる、不動産を買ってその家賃でセミリタイアすることなども検討した。次のビジネスの計画を練ることもした。
海外旅行にも行ったし、まとまった時間を利用して公認会計士の勉強もした。僕は買い物にあまり興味がないのだが、妻はここぞとばかりに「大物買い」をしていた。
ふだんならお金をかけないところにかけてみるのも、新しい発見があるかもしれない。

まずは旅の話をしよう。
海外旅行にはよく出かけた。香港、マカオ、ロサンゼルス、ニューヨーク、ドバイは仕事でもプライベートでも何度も訪れた。
海外へ行くとあらゆることから刺激を受ける。買い物一つから食べ物一つとっても、何から何までもの珍しい。
たとえばドバイへ行くと、日本企業のドバイへの進出がこれほど進んでいるのかと肌感覚で知ることができる。
現地へ行くまでは「砂漠」のイメージしかなかったドバイだが、街中を走るタクシーの車内は非常にきれいで、道路もきちんと舗装されている。
日本の道路のほうがよほど粗末で、「日本は本当に先進国なのか?」と疑問を抱いてしまうほどだ。

現地の情報に触れたことで新しいビジネスを思いつく、なんて都合のいいことはめったに起こらない。
ただ、それでも視野が広がり、日本からだけの一方的な物の見方をしなくなる。
今まで微塵も疑うことのなかった常識を疑い始める。こうした体験は間接的にその後のビジネスに役立っていると思う。

会社を売却した後、旅に出る起業家もいる。
なかでも有名なのは、スマートフォンで簡単に出品・購入ができるフリマアプリで知られる株式会社メルカリの創業者、山田進太郎氏(同社代表取締役会長兼CEO)だ。

山田氏は早稲田大学在学中に楽天株式会社にインターンとして入社した。
楽天オークションの立ち上げに従事した後、大学卒業後に同社の内定を辞退し、株式会社ウノウを設立する。
ウノウで「映画生活」「フォト蔵」「まちつく!」などのインターネットサービスを立ち上げ、2010年には同社を米・サンフランシスコのソーシャルゲーム会社、ジンガに売却した。

山田氏はジンガ・ジャパンを退社後に新たな起業を予定していたというが、その前に旅に出ることを決めた。
もともと旅好きだった彼は「これを機会に訪れたことのないアフリカや南米を旅したい。今行かなければいつ行けるかわからない」と考えた。
帰国後に立ち上げたメルカリの国内外での大躍進は誰もが知るところだろう。
僕が思うに、山田氏はジンガ・ジャパンを退社後、その気があればウノウの売却益ですぐにでも新しい会社を興せたはずだ。

ところがそれをせず、1年間の旅に出た。さらにいうと、また起業するにしてもあらゆる業種が可能性としてあったはずだが、やはりインターネットサービスの分野で再度ビジネスを立ち上げている。

山田氏は世界一周の経験をこう振り返っている。

「資源をもっと大事に使っていく必要があると思っているし、途上国の人も循環的な社会でみんなが総体として豊かになれる。
もしここで成功すれば、すごく大きなマーケット、ビジネスになるのではと思ったので、失敗するかもしれないけど、
ヒットをねらうというよりホームランをねらって、三振したらまた違うことをやればいいと始めた」

これは僕の想像にすぎないが、山田氏は旅を楽しみながらも、次に自分が会社を興すとすればどんな業種が最適か、自分が何をやりたいのか、考えるともなく考えていたのではないだろうか。

会社を売り、旅をしたことで、ふだんは仕事に追われて改めて問い直すことのないようなことがらもじっくりと考える時間がふんだんにあったと思う。

「自分の得意なこと、本当にやりたいことが何なのか。」
「自分はこの業界に向いているのか、もっと違うことができるのではないか。」
「同じインターネットサービス事業を立ち上げるにしても、もっとうまいやり方があるのではないか―。」

こういうことは、まったくの自由な時間がなければなかなか腰を落ち着けて考えられるものではない。
人間は影響を受けやすい生き物だ。
今勤めている会社や周りの環境にどうしても自分の意思決定が引っ張られてしまう。周りの目が気になる。
その枠から飛び出して発想したり、生き方を変えるのは至難の業だ。

だから山田氏のように、働き方を考えるための「働かない期間」を意識的に取るべきだ。

会社を売って毎日決まった時間に出社して仕事をする必要がなくなり、生活費を考えなくてすむ状況をつくろう。

筋トレは適切なインターバル(休憩時間)を取ったほうが筋力増強に効果的なことが知られている。人生も筋トレと同じだ。戦略的にインターバルを取ることで、人生の中身は格段に濃くなる。

会社売却で「目立つ色の付箋」が貼られる

会社を売却すると、急に「フォロワー」のような人が増えたのにも驚いた。
僕は相手のことを知らないのに「正田さんのこと、聞いていますよ」「こういうイグジットを経験されましたよね」などと言われる。
仕事の打ち合わせでも過去の経験や経緯をいちいち説明する必要がなくなり、話がスムーズに進む場面が増えた。

著名な起業家を見ても、売却経験のある人に対しては社会が大きな期待を寄せていることがよくわかる。
まだ何もしていないのに「次はこういうことをやろうと思います」と表明するだけで取材が来たり、情報が拡散されたり、ベンチャーキャピタル(VC)が出資を申し出てきたりする。自然と人が寄ってくるのだ。
このように自分の認知度が上がることは、ベンチャー企業にとっては得がたい、大きなアドバンテージになる。
情報過多の今、ベンチャー企業がプレスリリースを出してもすぐに他の情報に埋もれてしまうし、ツイッターやフェイスブックで情報発信しても、あっという間にかき消されてしまう。
しかしM&Aイグジット経験があると、膨大な紙の束の中に一つ、「目立つ色の付箋」が貼りつけられたような状態になる。

つまり、人目につきやすくなるのだ。

僕のエピソードなどはレベルが低いが、アパレル系通販サイト、ZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイ代表取締役の前澤友作氏は「最強に目立つ色の付箋」が貼られた経営者の一人であるといえるだろう。

正確にいうと前澤氏はM&Aイグジットではなく、東証一部へのIPO経験をもつ人物だ。
IPOの実現のみならず、創業からわずか10年足らずで時価総額1兆円を突破したことがさらに前澤氏の認知度とカリスマ性を上げている。
前澤氏の一挙手一投足に世間が注目している。

先日リリースされ、大きな話題を生んだ「ZOZOSUIT」に関しても、発売前から「プライベートブランドに関するある製品の生産を開始する」とツイッターで予告し、まだ商品も完成していない段階で大きくメディアで取り上げられた。

ベンチャーはとくに立ち上げ当初、人、モノ、金がないがゆえに苦戦することが多い。信頼もほとんどないから、取引を始めるにも苦労する。
ところがM&AイグジットやIPO経験のある起業家が新しいことを始めようとすると、新会社ではまだ何の実績もないのに人が勝手に自分を見つけてくれる。
人がどんどん向こうから寄ってきて、出資や協力を申し出てくれる。
会社を売却するとこんなメリットもあるのだ。
それゆえ起業家として生きていきたい人には、ある程度のところで一度会社を売ってみることを僕はおすすめする。

人生は長い。

最初に立ち上げた会社に固執せず、一度売るという体験をしてみよう。人間誰もが最初に出会った人と添い遂げるわけではないのと同じだ。もっと気軽に考えよう。

起業と売却を繰り返せば経験値は上がり、社会的評価も上がる。ちょっと情報発信するだけで周りが気にしてくれるようになる。シリアルアントレプレナーは得なことばかりである。

再度起業するにしても就職するにしても、会社を売却した経験はあなたの経歴を彩る、トラックレコードになるはずだ。

起業家なんて誰でもなれる

起業して、会社を売って、見たこともない利益と圧倒的な自由時間を手に入れよう。
そして、旅に出よう。 これが、僕の持論だ。

ここで、起業に対するよくある思い込みを解きたいと思う。

「特別な、才能のある選ばれた人にしかできるわけない」
「世界を変える画期的なアイデアなんてない」
「すごく難しいんでしょ」

あなたもこんなふうに思い込んではいないだろうか?

断言する。 答えは「ノー」だ。

まず起業家のキャラクターについての誤解を解こう。
確かに強烈なキャラクターの持ち主もいないわけではない。
ただ、そういう人は目に付きやすいだけで、数として多いとは思わない。
周りを見渡してみると、起業家というのは意外と常識的な感覚を持つ人たちだと僕は思う。

起業家を「雲の上の存在」にしか思えないのなら、起業家と実際に接触を図ってみてはどうだろう。実際に会ってしまえば自分と変わらない人間だとわかる。僕はしばらく前に、創業して1年で会社を1億円で売ったという若者と会ったことがある。
どんな切れ者が出てくるかと思っていたら、見た目はそのあたりの新卒と変わらない。
実際に付き合ってみると遅刻をすることもあるし、知らないこともたくさんあるし、服のボタンをかけ違えて現れたこともある。この人もふつうの人なんだな、と思ったものだ。

僕が15歳にもかかわらず「自分にも会社を経営できるかもしれない」と思ったのは、同級生の親がきっかけだった。
当時、僕は中高一貫の私立校に通っており、クラスメイトの父親はたいがいが会社経営者か医者だった。
友人宅で親も交えていっしょに食事をすると、大人のくせに嫌いな野菜があったり、奥さんにくだらないことで叱られたりと、どこにでもいるただの「おっちゃん」である。とても企業の経営者には見えなかった。
「これなら、俺にも会社経営はできる」と思った僕も僕だが、その感覚はあながち間違ってはいないと思う。

起業経験ゼロで、これから会社を興して軌道に乗せて売却すると考えると、とんでもなく険しい道のりに感じられるかもしれない。
だけど、あるビジネスに可能性を見出し自分でやってみるのはとてもエキサイティングだし、才能がなくても達成可能なことだ。
できない理由を並べ立てるより、自分には何ができるかなと考えて動くほうが人生楽しくなる。

実際、会社をつくるのはそう難しいことではない。
インターネット検索すれば多数出てくる雛形を利用して定款(会社のルールを定めたもの)を用意し、
登記書類を作成し、法務局で会社設立登記をして収入印紙代や登録免許税、手数料を払えば終わりだ。費用は20万円ちょっとあればできる。
はじめのうちはオフィスをわざわざ借りる必要もない。
登記するのは自宅でいいのだ。
あとは名刺を作り、「代表取締役社長」と印刷すれば、あなたも簡単に社長になれる。

「ニッチで尖ったビジネスモデル」なんてまず無理

このように、会社をつくること自体は簡単だ。
もちろん、利益を出し、会社を経営していく過程では大変なことも出てくるが、会社経営にもコツはある。それは追々紹介していきたい。
それでも「どんな事業をすればいいかわからない」「起業のアイデアがないから会社経営なんてできない」という人もいるだろう。僕に言わせれば、この点についても心配はない。
なぜなら、起業にアイデアは必要ないからだ。
特別な才能をもった人だけが起業するわけではないし、世界を変える画期的なアイデアや独創性、創造力もなくていい。
起業するときはまず儲かっている商売、成功している人の「真似」から入るのが正解だと僕は思っている。

ここで大切なのが、間違っても「自分で気の利いたアイデアを思いつこうとしない」ことだ。

起業経験もない人間が儲かるビジネスのアイデアを思いつくわけがない。
ビジネスモデル塾のようなところへ通えば、事業のつくり方を教えてくれるだろう。そういうスクールでは、「ニッチな分野で、刺さる尖ったビジネスモデルをつくれ」と指導されるはずだ。
この考え方自体は間違っていない。けれどそういったビジネスモデルを起業経験ゼロの人が思いつくのはまず無理だと僕は言いたい。

気の利いたアイデアだと自分では思っていても、自分が知らないだけで実現している会社がすでにあったり、そのビジネスモデルがうまくいかないことがすでに証明されていいて今はもう撤退していたりという場合が多い。
素人の思いつくレベルはだいたいそんなものだ。

では、どう真似すればいいか。
まずは身近なサービス、身近で儲かっている会社を探してみる。

さらに、その探し方にもコツがある。
上場企業の「有価証券報告書」や、それらをインターネット上で閲覧できる金融庁の「EDINET」、ビジネス系データベースの「日経テレコン」
世界中のベンチャー企業の情報がストックされているデータベース「cranchbase」など、いろいろなツールがあるからどんどん活用すべきだ。

なかでも僕のおすすめは「帝国データバンク」を本のように読んでビジネスのネタを探すことだ。
帝国データバンクのいいところは、読めば専門知識がなくても理解できることだ。

これで、儲かっている会社とそうでない会社を見つけていく。
自分がよく利用する身近なサービスを提供している会社、儲かっていそうな会社、最近頻繁に名前を耳にする気になる会社のデータを複数社分取り寄せてみる。
自分のやってみたい商売、なりたい社長像から会社をピックアップしてみてもいい。
そのような中で、派手に儲かっているイメージがあったものの、データを見てみると意外と儲かっていない会社がある。
地味だけれど儲かっている会社もあるとわかる。

じっくりと見て、気になる会社のホームページや検索で引っかかる記事を読んでいくうちに出資先や主要な仕入先や取引先にも気がつくようになり、
儲かっている会社の商売の全体像が見えてくるはずだ。

起業に必要なのは突飛なアイデアや独創性、想像力ではない。業界や業界構造に関する知識、市場のニーズに対する認識力、状況を分析し、意思決定する判断力だと思う。

まずはこうして、真似したくなる会社や事業を探してみる。
そしていいと思った会社やそのビジネスモデルを積極的に真似していく。
すでに儲かっている会社の型を学び、半年なり1年なりその通りにやってみることで、この分野ならこう工夫しよう、
この事業ではシェアを取れなかったけどここにニッチな需要がありそうだ、などと見えてくるものがあるはずだ。

「完全コピペ」で成功したドイツ企業

ここで、徹底的に真似をすることで成功をおさめている例を紹介したい。
2007年に創業し、インターネットビジネスのスタートアップを200社以上手がけてきた「ロケット・インターネット」は、既存サービスの完全コピー、つまり「真似」で有名なドイツのベンチャーキャピタル(VC)だ。

参考:驚愕 世界中のビジネスを「コピペ」して丸儲け!|ドイツ「ロケット・インターネット」戦略の全貌(COURRIER)
https://courrier.jp/news/archives/82356/

オンライン小売大手のアマゾン、靴のサイトとして知られるザッポス、民泊サービス、Airbnbの真似としか思えないeコマース事業を世界各国で立ち上げ、成功をおさめてきた。
日本のアパレルECサイト、ロコンドも同社から出資を受けて設立された。

ロケット・インターネットは年間10社以上の企業を立ち上げるそうだが、半年以上真似してもうまくいかなければさっさと見切りをつけ、
また新たに儲かりそうなビジネスモデルを立ち上げる。
もちろん、これらも既存サービスの真似だ。

一見反感を買いそうなビジネスのスタンスだが、これがうまくいっている。

断言しよう。

起業にアイデアはいらない。

こうなるとさっそく事業を立ち上げたいところだが、ここで注意したいのが、起業早々に事業分野を絞り込まないことだ。

ニッチで尖ったビジネスモデルがいいからといって絞り込み過ぎたり、複雑なビジネスプランを立てたりすると、
予想が外れてうまくいかないときに方向転換ができなくなる。つまり、非常にリスクが大きい。

立ち上げてからしばらくは事業の間口を浅く広く取っておこう。はじめは単純で包括的なプランでいいのだ。
大切なのはシンプルなビジネスモデルにすることだ。

「これからは動画が来そうだから、動画の事業にする」
「今後はスマートフォンが普及するからアプリをつくる事業をやる」

最初は、これくらいのゆるい感覚で決める。

事業がうまくいき、業界の状況がわかってきたらニッチなところに絞り込めばよい。
ただし、方向性自体が間違っていると、いくら間口が広い事業でも致命的となる。大きなトレンドだけは見誤らないようにしたい。
そのためには人口推計など、短期間で大幅に変わることのないデータ、信憑性の高い指標を参考にして事業を考えるのもおすすめだ。
「今後は少子高齢化が進むから○○○なビジネスモデルをつくろう」

こんな感じでやったほうが予想が外れにくい分、手堅いビジネスモデルを描けると思う。
起業当初はざっくりとした事業内容にしておく。
事業を進める中で方向転換を柔軟に繰り返し、小さな成功を積み重ねながら最適な事業内容を探っていくことをおすすめしたい。
僕が15歳のときに起業したインターネットビジネスの会社は当時、アフィリエイトやSEO対策をメインとしていた。
今思えば、これでも分野を絞り過ぎていたと反省している。

toBとtoCを選択する

もう一つ、起業にあたって意識してほしいことがある。
それはどの分野で起業するのか、さらにいえば、自分の手がける事業が「toB向け」なのか、「toC向け」なのかということだ。

僕がこれまで経営してきた会社はtoB向けの事業がほとんどだった。実際、僕が得意なのもtoB向けの分野である。
toB向けの事業は、認知されるのにとても時間がかかる。とくに法人の特定の部署で使われるサービスだとなおさら認知が広がりづらい。

たとえば、僕の会社が今AIの開発で業務提携している会社に株式会社サンブリッジという企業がある。
この会社が一般に幅広く知られているかというとそうではないだろう。それはサンブリッジがtoB向けの事業、つまり法人向けのサービスを提供している会社だからだ。

ただし、toB向け事業はその需要がある業界で認知が進み、商品やサービスが気に入られれば、長く使ってもらえる可能性がある。
単価も高く、ものによっては年間に1件受注できれば黒字にできる場合もあるだろう。

かたやtoC向けの事業は、toB向けと比較して認知はされやすいかもしれない。メルカリもtoC向けのサービスだが、今「メルカリ」と聞いて知らない人はほとんどいないのではないだろうか。
しかし、toC向けは当たり外れが大きい。外したときに目立ってしまい、マイナスのイメージがすぐについてしまうデメリットもある。

これはどちらがビジネスモデルとしていいか、という話ではなく、起業家によってはっきりと得意・不得意が分かれるということ話だ。

事業を本格的に始める前にじっくり考えてから決めよう。
起業にあたり、覚えていたほうがいいことを下記にまとめよう。

  1. まず、自分で考えるのはやめること。
  2. 儲かっている事業を見つけて「堂々と」真似すること。
  3. 会社立ち上げ後しばらくは事業間口は浅く広く取っておくこと。

僕は多くの人に自分の人生を能動的に決定し、豊かな時間を過ごすことの喜びを知ってほしい。だからこそ、あなたには起業のはじめの一歩でつまずいてほしくない。

あえてもう一度言おう。

起業は難しくなんかない。

「起業は難しいという思い込み」からまず自由になろう。

※今回の記事は正田氏へのインタビューをもとに、ライター側で編集を加えたものとなります。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

書籍化しました!

『サクッと起業して サクッと売却する』
(CCCメディアハウス)


▽Amazon先行予約URL
https://www.amazon.co.jp/dp/4484182025

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

ABOUTこの記事をかいた人

正田 圭(まさだ・けい) 1986年奈良県出身。15歳でインターネット関連事業会社を起業。インターネット事業を売却後、M&Aサービスを展開。事業再生の計画策定や企業価値評価業務に従事。2011年にTIGALA株式会社設立、代表取締役就任。テクノロジーを用いてストラクチャードファイナンスや企業グループ内再編等の投資銀行サービスを提供。著書に『ファイナンスこそが最強の意思決定術である』『ビジネスの世界で戦うのならファイナンスから始めなさい』『15歳で起業したぼくが社長になって学んだこと』(いずれもCCCメディアハウス)がある。