「“黒子のベンチャー”全ては成果のために」
リンカーズ株式会社 代表取締役COO
加福 秀亙

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■略歴
株式会社 野村総合研究所 コンサルティング事業本部に入社。製造業、エネルギー産業を中心に市場/技術調査、事業戦略立案、技術戦略立案、海外展開支援などのコンサルティングに従事。2013年4月Distty株式会社(現リンカーズ株式会社)代表取締役COO就任

■宇宙への憧れがものづくり産業を変える仕事へ
Q:これまでの経歴を聞かせてください。
A:生まれは神奈川県の田舎で、本当に普通の小学生でしたね。山で遊ぶことが好きでした。中学からは、中高一貫の私立で理系が強い学校に行きました。もともと理科、数学に興味がありましたし、『下町ロケット』のような感じでずっと宇宙が好きだったんで、航空宇宙工学に行きたい、一人暮らししたい、スキーがしたい、ということで東北大学に進みました。

Q:宇宙に興味を持ったのはいつ頃ですか。
A:高校生ぐらいですね。アメリカの物理学者が書いた宇宙に関する本を読んで、人類の向かうべき方向だ、宇宙は偉大だと大きな志を持ちました。それが大学3年4年になると、日本には航空宇宙産業が小さいことや、卒業生はメーカーのエンジニアに就職することがわかってきて、違った世界も見たいと感じるようになりました。

Q:それから大学院へ進んだんですよね。
A:せっかくだから別のところに行こうと、東大の大学院へ進みました。研究していたのは数値流体力学と呼ばれる分野です。ただ、数値流体力学ってすごくマニアックで、ひたすら数学とコンピューターと向き合う世界なんです。それで、もっと広い分野を見て世の中を変えるような仕事をしたいと思うようになりました。

Q:そこからどのような経緯で今の会社へ?
A:就職を考えた2002年は、ちょうど日本の製造業が厳しくなり始めた時期です。メーカーに行くのではなくて、ものづくり産業そのものを変える仕事ができないかと考え始めました。まずは広い世界を見るために野村総研に入りました。最初から、日本のものづくりを変えたいと考えて、コンサルの中でも、ずっと製造業セクターを担当してきました。海外展開の支援をしたり、事業戦略や技術戦略作ったり、一歩踏み込んで技術調査もやりました。ただ、全体を見ると、日本の製造業はやはり中国・韓国にキャッチアップされつつあって、強みを生かし切れていない。そもそも、日本のものづくりの強みは現場にあります。そこをもっと、生かせる仕組みを作れないかと会社を辞めて独立しました。

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■中小企業技術のプラットフォームとして

Q:御社の事業についてご説明ください。
A:一言で言うとものづくりのマッチングです。大企業が新規事業を立ち上げる、あるいは新商品を作るとき、必ず新しい技術が必要になります。その際に、自分たちでオーガニックにやるか、もしくは外から引っ張ってくるか、この二つしか方法はありません。海外では、オープンイノベーションといって外部との連携を行い、それで成功する企業が出はじめています。一方、日本企業はこれまでずっと自分たちでやってきたので、どうやって外部の連携先を探し、どうやって付き合えばいいのか、分からないんですよね。そこを手助けするのが弊社です。コーディネーターと呼ばれる人たちを束ねたビジネスモデルは、基本的には他にありません。

Q:具体的には、どのような仕組みでしょうか。
A:まず大企業が新規事業を始めるとします。その際、やろうとしていることをほかに知られたくない会社が多いんです。そこで、弊社は発注企業が求める優良な提携先や技術を、弊社が束ねているコーディネーターという目利きの方々によって、水面下で探し出します。コーディネーターは全国に約1,300人います。彼らが所属するのは主に公的機関で、地元のネットワークやその交流を通じて、普通では得られない情報をすでに持っています。でも、だからこそ必要な企業や技術を見付けることができるんです。そうした流れを弊社はプラットフォーム化して、簡単に使える仕組みに整えました。

Q:プラットフォームですか。
A:今、いろいろな分野の、いろいろなノウハウを持った中小企業との接点ができていますが、もったいなことに、各社独自に動いているんです。例えば海外企業への営業は、小さな会社ではなかなか難しい。将来はそれを弊社が商社のように束ねて、それぞれの技術をソリューション化して売り込んでいこうと考えています。本当は大手商社がやればいいのかもしれませんが、基本的に大手商社は小さな案件をやりたがりません。じゃ、専門商社かというと、扱う範囲から出てしまったらできなくなってしまう。弊社はそこをボーダレスにし、いろいろな会社と手を組み、バーチャル体として一つの会社組織のようにして海外に売り込んでいきたいと考えています。

Q:海外に売り込めるものが日本にはある、ということですね。
A:日本は、研究開発力もありますし、本当は現場の生産技術力もあるんです。そこをフルに生かせば、今、中国に流れているような案件もどんどん日本に持ち込めると考えています。例えば、アメリカのベンチャー企業が開発しているIoT絡みのものづくりの多くは、中国の深圳に丸投げしていますが、実際にはいいものができずに、失敗するケースが多いんです。一方日本は、誰に頼めばいいか、窓口がよく分からない。だから流れてこないんです。そこを弊社が窓口になって、日本の中小企業をもっとプロモーションしたい。まずは欧米等の先進国にネットワークを作って、お客さまを開拓し、日本の技術を求める人を探してきたいと考えています。

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■人の行動に伴うのがその人の考え
Q:代表取締役COOというお立場についてご説明ください。
A:正直、最初はそれほど深い意味ではなかったんです。2番手なのでとりあえずCOOで、運営は頑張りますという位置付けでした。アイデアマンで突破力のある代表が示した方向性に向かって、私は道を作っていく、そんな役割分担です。ただ、例えば代表としてCEO1人では時間的に対応しきれない場合、私が出ていってもほぼ同じ対応ができるようにしています。

Q:立ち位置についてはいかがですか。
A:ひと言でいうと、業務全般に関する社長の相談役ですね。例えば人材採用も、システム構築の体制も含めて、全体の相談役を受けています。社員10名ぐらいまでは代表がすべて見ていたのですが、営業は営業でプロフェッショナルがいないと回りませんので、営業統括、CTOとどんどん責任を分担していきました。組織的には、CEOがいて、役員がいて、COOである私もその横に並んでいる珍しいパターンかもしれません。私は、個別の営業責任を負いながら、社長の片腕という立場ですね。

Q:今、組織を作る段階だと思いますが、意識しているポイントを教えてください。
A:先月、今月で6人入ったので、社員が20人を超えてきました。最初はとにかくビジネススキームを固めていかなければいけないので、私も含めてコンサル系の人材や、マルチにできる人が重宝します。だんだんやり方やオペレーションが固まってくるにつれて、営業に特化した人材、システム構築のための人材といったように、業務の役割分担に合わせた人材が必要になってきますね。

Q:これまで人の入れ替わりなどはいかがでしたか。
A:ほかのベンチャーに比べると入れ替わりは多くはないと思います。それは、オペレーションがちゃんと固まるまでは人をあまり採らないようにしようと、慎重だったからかもしれません。

Q:入り口戦略というか、採用の際に見ているポイントはありますか。
A:最近は、結果的に素直な人を選んでいますね。弊社はBtoBの結構堅いビジネスです。ベンチャー企業でITなら、例えば多少言葉づかいや挨拶にそれほど気を使わない人がいてもいいと思うのですが、弊社ではそれだと厳しい。BtoBの経験があって、素直にお客さまと向き合える人を選んでいます。

Q:どういうところで素直さを見極めるのでしょうか。
A:基本的にはまず経歴です。結局、何をしてきたかについて聞けば、その人がどういうやり方でやってきたかが見えてきます。営業で成績を伸ばしたという人であれば、どう考えて、どう行動をしたのかを聞くようにしますね。考えがあれば、それに行動が伴うものですから。

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■コミュニケーションに重要なのは繰り返すこと
Q:理想のCOOを聞かせてください。
A:やはり黒子になるというところだと思います。今は意識的にCEOをメディアに出していますので、それをいかに支えるかがポイントになります。黒子というのは、現DeNA会長の春田真さんが書いた『黒子の流儀』から来ています。その前に、前会長の南場智子さんが書いた『不格好経営』を読み、2冊を読んで、なるほど、こういうペアかと思いました。私も、もともとコンサルをやっていた頃から裏で支援するのが得意で、ずっとそういうことをやってきたので、ある意味、私に合っていたのかもしれませんね。

Q:黒子として特に気を付けていることはありますか。
A:黒子って、要は言われなくても動くことがすごく重要だと思うんです。ですので、ちゃんとベクトルを合わせるよう注意しています。特にベンチャー企業の経営は、考え方がすぐ変わります。例えば、昨日まではこれが重要だと思っていたけれども、今日はそうじゃない、ということがあります。それを常にキャッチアップしておくことは重要ですね。

Q:CEOとはどのようにしてコミュニケーションを取っていますか。
A:出張などですれ違いになることもあるので、社内で一緒の時はなるべく晩ご飯を食べに行ったり、土曜日に出てきて議論したりするようにしています。

Q:現場とのコミュニケーションについてはいかがですか。
A:もともとSNSをやろうとしていたこともあって、実は社内にチャットシステムがあるんです。それを使って、かなり密にコミュニケーションを取っています。社員同士は基本的にはチャットですね。週1~2回は対面でミーティングをやって、状況を確認したり、議論して解決策まで落とし込んだり、というふうにしています。

Q:コミュニケーションは重要ですね。
A:その通りですね。組織を強くするには、社長の考えている方向に社員のベクトルを合わせることが重要です。けれども、人が違うわけですから、一回言っただけでは絶対にベクトルなんて合いません。だから同じ話であっても、言い方をいろいろ変えて10回以上するんです。やはりコミュニケーションというのは、繰り返しが重要ですし、そうやって考え方のベクトルを合わせていくものだと思います。

Q:最後に、COOを目指す方へのメッセージをお願いします。
A:難しいですね。私自身は、COOを目指してキャリアを積んできたわけではありません。ただ、やってみて思うことはあります。特にベンチャーの経営はなんでもやらなければいけないので、いかに柔軟に仕事を進められるかが重要です。一つのことだけをこうやらなきゃダメだというのではなくて、手を変え品を変え、トライ・アンド・エラーを含めて、柔軟に繰り返していく。そう考えると、柔軟性が求められる環境に身を置くといいように思います。例えば、コンサルの世界は、まさにそういったことができる環境でした。こうやったらもっとお客さんが喜ぶかな、こうやったらもっといいアウトプット出るかな、というかたちで、手を変え品を変えということができました。そこで柔軟性が養えたように思います。ただ、これはベンチャー企業ならでは、の必要性だと思いますね。

Q:そのほか、役立っていることなどありますか。
A:弊社はものづくりのお客さんが対象である以上、技術とは絶対に切っても切り離せません。実は、野村総研のときに技術の素を追いかける仕事をやった経験があるのですが、それが役に立っていますね。例えば、エンジニアから信頼されるには彼らと対等に議論できることが大切です。弊社は若いベンチャーではありませんが、だからこそ、過去の経験や業界、技術的な知見が役に立つ場面があると思います。
--ありがとうございました。

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