6ヶ月後に会社が潰れるのが確実になった時、ベンチャー企業のCFOがやるべきこと 【とあるCFOの独白】

あるCFOの独白
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ベンチャー企業でCFOをしようとする人間はよほど物好きな人間だと思っている。

それ以上に変わり者が多いのはCEOだが、変わり者の上に強気一辺倒で攻めるCEOの場合とは異なり、CFOのポジションはいつも資金繰りに追われ、夢の中まで追いかけてくるCF計算書の悪夢に苦しめられている人も多いのではないだろうか。

今から10年ほど前、そんなポジションでCFOをしていた。

社長はベンチャー企業の経営者と言うには異色の50代後半。

30年の歴史があり、売上50億円、従業員数700名あまり(うち、パートアルバイト500名程度)を抱える地域では知られた中堅企業で、業界の規制緩和で先進的な事業に取り組み始め、第二の創業を迎えている時だった。

鼻の利くVC(ベンチャーキャピタル)が集まり多くの会社が出資していたものの、CFOポジションが不在のため事業の正確な状態が把握できず、メイン銀行系VCの投資部長から誘いを受けたのがその会社のCFOになった経緯だ。

社長とは親子に近い年齢差があったものの、お互いに飲み歩くのが好きですぐに打ち解け、迷うことがあったら一番に意見を求められる、実を伴ったCFOになるのに時間は掛からなかった。

一代で売上50億円のメーカーを築き上げた社長だけに、強い意志と人を惹きつける魅力があり尊敬できる人だったが、困った事が2つある人だった。

一つは、肩書や経歴を盲信しすぐに幹部クラスの人間を高給で採用してしまうこと。

しかも黙って。

もう一つは、巨額の設備投資に積極的でありながら営業計画の進捗管理に甘く、事実上運転資金見合いの増資をせざるを得ない状況に何度か追い込まれるほどの状況だったことだ。

そんな状況が数年も続くとさすがに株主の支援は次第に消極的になり始め、損益計算書は無残な状況になり銀行借入もままならず、運転資金の底が見え始めた。

稼働率が低くとも、工場の最低限の機能を維持するためには固定的な人件費がどうしても必要になる。

投資をしてしまった以上、減価償却費は重くのしかかりガッチリと固定費になっている。

大企業の幹部だったという触れ込みで高給で雇った幹部は、自ら行動する、ベンチャー企業に最低限求められる習慣すら身についていない。

つまり、CF上でも損益計算書上でも容易に黒字転換する見込みがない状況に追い込まれていた。

さらに、業界大手から引き抜いたという営業部長は新規受注を獲得できない日々がもう何ヶ月も続いており、粗利の段階で赤字が出るベンチャー事業が預金を食い潰し、会社は確実に資金ショートに向かっていた。

このまま行けば残り6ヶ月。

どれだけ希望的観測の営業数字を積み上げても、状況が劇的に改善するめどが立たない。

「倒産」の二文字が頭に浮かぶ。

しかしその冷酷な現実を定量的に把握しているのは幹部の中でCFOの自分だけだ。

正確には、社長も理解しているはずだったが真の大物なのか秘策でも持ち合わせているのか、数字を理解しても特段の行動を起こす気配は無く、週末になるといつも通りに私を飲みに誘ってきた。

そんな状況に立たされた時、CFOにできることは何があるのか。

皆さん自身であれば、どう行動しようとするだろうか。

今から思えば知識も経験も足りず、社長を十分サポートできずにそのような状況を招いた責任の多くは、CFOの自分にあったと思っている。

みすみす会社を失う事になったとしても、「良い敗け方」はきっとあったはずだ。

本稿では私のそんな拙い経験を通して、ベンチャー企業を支えるCFOの人たちが、潰れるとは言わないまでも会社が厳しい状況に追い込まれた時に何をどう考え、そして行動するべきなのか。

そんなことを考えるきっかけの一つになって貰えればと思い筆を進めている。

■何がCFを食い潰しているのか

営業計画が予定の半分も行かず、キャッシュインを大きく上回るキャッシュアウトが続く。

もはや損益計算書を意識している段階ではなく、手段を選ばずキャッシュの流出を止めなければ固定費だけでも現金が食い潰される。それは言わずもがな「倒産」へのデスマーチを進んでいる真っ只中だった。

だが特段特効薬はなく、解決策は「キャッシュインを増やしてキャシュアウトを減らす」という当り前の方法しか無い。

6ヶ月前ならまだ行動を起こす時間があるので、まずはこの状況の中で何が出来るのかを見つけ出そうとした。

製造原価計算書、損益計算書、キャッシュフロー内訳書の勘定科目をエクセルでソートし、過去1年、直近半年、先月の3つで支出項目の多い順番に並べ替える。

そして、実行の当否を考えず、手段を選ばなければ削減できるものでかつ支出上位10項目ぐらいを改めて見つめ直した。

やはり上位に来るのは材料費、製造労務費、水道光熱費、販管人件費といったお決まりの項目だが、水道代、電気代、ガス代を数百万円単位で使用していることは明るい材料だ。

借入金返済のキャッシュアウトは巨額だが、銀行にリスケ(リスケジュール、返済の繰り延べ)を申し入れると全方面にハッタリが効かなくなるので躊躇い検討をやめた。

この場合の「検討」は、私の段階で考えることを止め、役員会への提案を見送ることを意味している。

減価償却費も巨額だったが、土地・建物を売却し賃貸・リースを受ける形に切り替える資金調達は不調に終わっており、当時の自分の能力では手詰まりだった。

結果として、この段階で役員会に提案し経費削減に着手を始めたのは以下の項目だ。

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・材料費の一律10%コスト削減

・製造労務費のトータル10%削減

・販管人件費の一律5%給与カット

・幹部クラス以上は10%の給与または役員報酬のカット

・水道代、電気代、ガス代はCFOである自分の特別担当として、経費削減方法を探る
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材料費は既に業界平均より低い数字だったので厳しいことはわかっていたが、それでも10%コストカットを数字ありきの目標にして、具体的な実現方法はまず部門責任者で考えることになった。

製造労務費も同様に既に安い水準であることは理解していたが、製造要員の給与には手を付けず、製造効率を上げることでパート・アルバイトの稼働時間を抑え、トータルで10%の削減を達成する方法を部門長で考える方針をまとめた。

販管人件費は部門長に頭を下げて貰い、部下と個別面談の上、一律の5%給与カットに応じてもらうことになった。

幹部・役員の10%報酬カットは当然のこととして、このままでは追加カットも避けられない状況を率直に伝えた。

水道光熱費は非常に多額のコストを使っていたので必ず何か出来ることがあるはずだと思い、自分が直接担当することにした。

これとは別に、営業担当役員には今の営業状況では会社がもたず潰れてしまうことを数字で念入りに説明し、社長直轄で毎日営業の進捗を管理してもらい、必達数字を期限内にあげることを役員会の総意として強く要請した。

自分の水道光熱費の削減結果次第だが、全ての数字が楽観的な予測側に振れれば2~3ヶ月の延命は出来る見込みが立ち、そうなれば施策に選択肢も出てくるはずだと少しだけ気分が楽になった。

しかし、もちろんそう簡単に話は進まなかった。

■CFOの役割を勘違いしていないか

役員会の方針が決まると役員・幹部はそれぞれの持ち場に帰っていったが、すぐにとんぼ返りで私を訪ねてきた。

役員・幹部の言うことは皆同じで、

・今、うちの部門の数字はどうなっているのか
・具体的に何にお金を使っているのか教えて欲しい
・もう一杯いっぱいで経費を削減する方法なんかない

と言ったような内容だ。

数字のことなので、前向きなこともクレームに近いことも私のところに持ってこようと言うことだと思うが、この時私は初めて、自分が重大な間違いをしているのではないかと思い始めた。

それまで、私が考えるCFOの役割とは、概ね以下のようなものだと認識していた。

・CEOの方針に従い経営計画立案の中心的な役割を果たすこと

・予実(予算と実績)を定量的に管理し乖離が発生すれば原因を分析して役員会に報告すること

・部門別損益をタイムリーに把握できる仕組みを作り経営判断に必要な情報を提供すること

・経営計画の実現を資金面から支えること

・ステークホルダーと良い関係を築き、効果的なディスクローズを行い味方に取り込むこと

・より効率的な資本とキャッシュの運用を考えること

・ステークホルダーに対し魅力的な出口を用意すること(出口戦略を考えること)

IPO(株式の新規上場)を意識し、外部からエクイティを受け入れている会社のCFOであれば「これはCFOの仕事ではない」という人はいないのではないだろうか。

そして、恐らく本稿を読んで頂いているCFOの多くの人にとっても、もっともプライオリティの高い仕事ばかりだと思う。

しかしそれは、大きな間違いだと断言できる。

少なくとも、数名程度の役員で経営の意志を決め、10数名程度の幹部社員で運営されているような組織のCFOのもっとも重要な仕事ではない。

例えば私のところに、「具体的に何にお金を使っているのか教えて欲しい」と聞きに来た製造部門の責任者と話をした時の話だ。

彼は毎月、幹部会議で製造労務費に関する予実の結果を聞き、その比率を聞き、それが目標に対してどの程度乖離もしくは一致しているかはしっかりと把握していた。

しかし、なぜそうなったのかは理解できておらず、それを調整する方法といえば、何となくパートやアルバイトが多いと思えばシフトを減らし、忙しくなると思えばたくさんのパートやアルバイトにシフトに入って貰っていただけだった。

状況は把握できたので、私はすぐに製造部門の前月分タイムカードを全員分取り寄せ、経理部の社員に手伝ってもらいながら社員とパート・アルバイトの勤務日数と勤務時間を日別・個人別に全てエクセルで一覧表にした。

そして、日別の生産実績と重ね合わせた結果、生産総数と投入された総労働時間は全く相関関係になっていなかったことが明らかになった。

むしろそれどころか、暇なことが予想される曜日や日時にパートやアルバイトの出勤が増え、月末など忙しいことが予想される時にパートやアルバイトの出勤が減り、社員の残業代支給が増えている事実が浮かび上がった。

その他にも、設計部門では完成品ごとの材料費がいくらかかっているのかを把握しているものはおらず、在庫管理の担当者は原材料ごとの棚卸しを実施しておらず部材は持ち出し放題だった。

この状況に私は本当に驚いたが、もちろん幹部社員に対してではない。

驚いたのは、マクロの数字で帳尻が何となく合っていれば予実管理が出来ていると考えていた、CFOとしての自分の頭の悪さと現場グリップ力の低さに対してだ。

事業部門には事業部長がおり、その下には課長もいる。

ならばCFOとしての自分の役割はマクロの予実管理であって、部門ごとの業務の改善や利益率の向上は事業部門長が責任を持つものだと考えていた。

これが上場企業や大手家電メーカーならそれで良いかもしれない。

しかしベンチャー企業に、定量的に状況を分析して事業を可視化する事ができる人材がどれほどいるのか。

「ベンチャー企業では、やれる人間がやる 肩書は目安」

こんな当たり前のことを本当に理解できていれば、ベンチャー企業のCFOの大事な役割の一つは、事業部長の領域に、時には製造課長の領域に立ち入って一緒に状況を把握できる仕組みを作ることだと、もっと早くに気が付けただろう。

恥ずかしながら、製造部門でアナログなタイムカードが使用されており、定量的データとして分析できるような仕組みになっていないことすら、この時に知った。

こんな何も見えない手探りの状態の中で、マクロの数字をそれなりに予算に合わせてきた製造部門長はむしろ素晴らしい努力をしてくれていた事に今さら気がついた。

そんな当り前のことに気がつくと、私はすぐに全ての生産部門を周り、時には数日間製造ラインに入って、定量的に数字を把握することができる仕組みづくりに着手し始めた。

■最後までアテにできる役員・幹部は誰か

問題の本質を理解できた気がしたものの、状況がすぐに良くなるわけではもちろんない。

そして、定量的に数字を把握できる仕組みを提供できなかったことを申し訳なく思うものの、追い詰められるまでそのことを言い出せない事業部長や幹部社員への怒りがないわけでは無かった。

ベンチャー企業では、経営幹部の素養がない場合でも部門責任者に誰かを据えなければならないことはよくある話だが、出来ないこと、わからないことを素直に言い合えてお互いの力量を理解し合えることが前提だ。

間違った美徳を持ち、困ったことがあっても口に出さず誰にも相談しないような価値観を持つ人物がベンチャー企業で部門長になった場合、それは取り返しのつかないレベルで問題になって吹き出す。

立派な肩書と経歴をひっさげ高給で入社してきた一部の役員・幹部はまさにそういった美徳を抱えており、あるいは口に出すと力量を低く見られることを恐れたのか、いずれにせよこのチームは危機に際して経営の意思を統一できる状態ではなかった。

私には昔から一つの思い込みがある。

それは、人はもっとも正確な判断力を必要とされる危機的なピンチに追い込まれた時ほど正常な判断力を失うというもの。

平時には立派に仕事をこなし部下を統率する幹部社員であっても、想定外の事態が起き危機に遭遇すると周囲を見て誰か頼れそうな人間を探し、その意志に従おうとする人物が少なくない、というものだ。

意志を失った人間は能動的に動けないので、経営幹部としてのコミュニケーションが出来ない。

1日が無駄に出来ない状況にあって、自分の意志を表出できない人物とは体を預け合うことは絶対にできない。

つまり、6ヶ月前の今なら意思疎通ができないことは致命的であっても回復不可能ではないが、同じことが1ヶ月前に起きていれば私に製造現場に行く余裕は無く、社長と二人で弁護士に会社の善後策の指示を仰ぎに行くことになってしまうだろう。

非常に厳しいことだが、私はこの段階で、この先どんな状況になっても必要な経営の意志決定を下し共有することが出来る役員以外は更迭すべきだと考え始めていた。

そして意志を共有することが難しい幹部社員も全て降格もしくは作業者になってもらうべきだと考えていた。

しかしながら実はこの時、私は役員・幹部社員の中で圧倒的に若かった。

まだ30代前半で、私の次に若い役員は47歳だった。

プライドの高い一流企業にいた人たちに降格を勧告しても素直に聞くわけがなく、何より私がその任にあたるのも、一義的には自然とは言えない。

社長にこのような考えを具申しても受け入れられず、むしろ私とは反対の意見で、危機的な状況にあって役員や幹部を更迭すると状況がさらに悪化すると却下された。

この先、社長とは何度も意見が対立しつかみ合いに近い状態になることもあったが、これがその最初のハードルだった。

会社や社長、従業員を守るために自分の考えは正しいと確信していた私は考えを譲る気は一切なかったが、しかしこの状況で私が何かをすればそれこそ経営の意志はバラバラになってしまう。

最後までアテに出来る役員・幹部社員を見極め、かつ不適任者には適切なポジションまで下がってもらえるような方法はないか。

すでにまともなCFOとしての職権を越えており、そもそもそんなことを本当にするべきか。

世の中のCFOと呼ばれる仕事をしている人たちに理解してもらえるとは思えないが、私はここで少し卑怯な奇策に打って出た。

■どんな手段を使ってでもCEOを動かす

そこまで考えるのはCFOの仕事じゃないと思われるかもしれない。

しかし、警報が鳴り響く飛行機のコクピットで機長が間違った判断をしたという確信があるなら、私は副操縦士でも機長から操縦桿を奪うだろう。

組織の序列よりも守るべきものは明らかだからだ。

この時私が考えた卑怯な方法とは、今の状況を敢えてステークホルダーにディスクローズすることだった。

ただし私の中には僅かながら定量的に明るい兆しが見えていたので、経営の立て直し策とセットでディスクローズする用意ができる自信もあった。

このディスクローズはもちろん裏でコソコソとはやらない。

月1回の幹部会議を役員会と兼ね、その会議にステークホルダーを招き、今の状況に対し役員と幹部が何に対してどのような意志と責任を持つのか。

数億円の出資を預かっている株主の前で、役員・幹部として自分の役割を本当に約束できるのか。

そして表明した約束に対し寄せられるであろう厳しい質問や追求に耐えられるかどうかで、自然と役員と幹部の立ち位置はふるいに掛けられるだろうと考えた。

迎えた会議当日。

役員会は17時から2時間程度行い、幹部社員と株主はオブザーバーの立場で見学してもらった。

役員会では会社をめぐる定量的な厳しい状況を報告し、先だって決定した製造経費と労務費、それに販管人件費を削減する方針について具体的な数字と見通しを説明した。

続けて、その実行計画と営業計画について詳しくはこの後の幹部会議で担当役員・幹部から報告させることとし、その他の議題を消化して役員会は終了した。

夕食を挟み始まった幹部会議には、数億円の出資を受けていた大手証券会社系シンクタンクの担当者と、約1億円の出資を受けていた独立系VC担当者の2名が残った。

どちらも大株主でかなり厳しい担当者だったが、この両名が残るであろうことは予定通りだった。

いつもは自分が前面に立ち、幹部社員は接することがない株主の厳しい意見。

その厳しい意見に社長とCFO以外の幹部を晒すことには賛成できない方も多いかもしれない。

ある意味で私は職務を放棄した卑怯者だと思う。

しかし、組織の意識を変えるには「外圧」しかないと考え、このタイミングで大株主には役員・幹部社員と同じ円卓を囲んでもらい、自由な発言で会議に参加してもらうことを要請し、幹部会議が始まった。

結論から言うと、この会議は相当な大荒れになった。

特に証券シンクタンク担当者の追求は厳しく、曖昧な回答を一切許さなかった。

VCの担当者が終電間際、深夜0時前に止む無く帰る旨を伝えてもシンクタンク担当者は会議の継続を要求し、会議は未明の3時まで及んだ。

「詳細は次回の会議までに・・・」「次回までって、あなたはこの状態でもまだあなたと会社に次回があると思っているんですか?」

「部下一同頑張って目標に取り組み・・・」

「頑張る必要はありません、結果を出し潰れない方法を説明して下さい」

「寝ないでやれば達成できる可能性が・・・」

「精神論は止めて下さい。十分な睡眠を取りながら正しい努力をして下さい。私はその正しい努力の内容をお聞きしているのです」

幹部社員によっては、このように噛み合わない議論に終止することがあり、明らかに精神的に追い詰められていった。

一方である程度予想できたことだが、生え抜きの幹部は強かった。

製造現場の幹部は苦手な定量的質問に対しても、

「俺はアホやから数字に置き換えて説明とか無理やけど、材料費を安く済ませてなるべく品質を維持するには○○を使えばいいんちゃうか」「どの程度単価が違うんですか?」

「正確にはわからんけど、多分50円や」

「総量でどれくらい生産していますか?」

「月産10000個はあるで」

などのように、知識と経験が肌感覚になっている幹部社員には株主の追求はむしろ良いアイデアを出すためのきっかけにすらなり、実のある前向きな議論になった。

結局この会議では、深夜2時過ぎに取締役事業部長の1人が

「責任取って辞めたら良いんやろ!」と言い捨て会議室を飛び出し、それ以来会社に現れることはなかった。

そして社長と私以外の取締役から翌日辞任届が出され、生え抜き以外の幹部社員は1人を残して自ら降格を願い出てきた。

結果として私は、自分の考えていたことをほぼ達成できたと思うが、本当にここまでする必要があるのか、きっと意見は分かれると思う。

ただ私は、CFOであれば絶対に言ってほしくないことがある。

それは、「CEOの決定だから仕方ない」という、重大な意志決定から逃げる言動だ。

CEOの意志とCFOの意志が一致しない状態から逃げれば、ベンチャー企業は絶対にもたない。

■まだ虚勢は張れる バレない自信はある

経費削減と営業計画の徹底管理は決めたが、やはり増資に応じてくれる株主や取引先があればとても嬉しい。

地獄に仏、という諺はきっとこういう時のためにあるのだろうと思う。

リスケこそ申し入れていなかったものの、銀行はすでに手の引き方しか考えておらず、追加融資のお願いは子供を諭すように断られている。

VC系の既存株主にも全て追加投資を断られたが、唯一、証券シンクタンク系の担当者だけは最後まで追加投資の取り付けに奔走してくれた。

鬼の形相で役員・幹部を追求した彼も、一方で当社と心中する覚悟で真剣勝負をしてくれているからこそと、中途半端な意志しか持ち合わせない人間がこの空気に関わるのはやはり酷に過ぎることを改めて思った。

ほどなくして証券シンクタンクからは条件付きで第三者割当に応じられる可能性があることを打診された。

それは、追加で7000万円の投資をする、というものと、そのための条件として総額で1億円以上が集まること、と言うものだった。

つまり、最低あと1社はこの計画を信じてくれる仲間を見つけることと、最低でも1億円無ければ会社はもたないので手を引く、という意思表示だ。

こうなると、証券シンクタンクですら投資してくれる前向きな状況、という虚勢を張り、それを呼び水にして別の投資を呼び込む事ができる。

別の投資を呼び込むことができれば、本丸の7000万円も取り込むことが出来る。

VC系の既存株主は既に様子見だったこともあり、ここで頼りになるのは取引先などの事業会社だ。

事業会社は投資で飯を食っているわけではなく、本業との相乗効果があれば投資を検討してくれる。

人間関係さえできていれば、極論すれば「義理人情」で投資をしてくれることすらある。

幸いその時、持株比率はわずか1%程度だったものの、株主には業界を代表する一部上場企業がいた。

社長はとても義理人情に厚い人で、投資担当の常務取締役とは個人的な付き合いを重ねていたので、十分勝ち目はある。

人の好意を不誠実に利用するようで後ろめたさが無いわけではなかったが、私は会社の状況を大まかに伝え、悪い情報は控えめに、良い情報は努めて明るく伝える悪徳投資会社のセールスマンのような売り込みをして、追加投資を引き出そうとした。

今から思えば、若造の猿芝居が海千山千の経営者に通用していたとは思えない。

もしかしたら、若いモンが必死になってかわいいじゃないか、騙されてやれ、ということだったのかもしれない。

今となっては本当のところはわからないが、その事業会社はすぐに3000万円を出してくれた。

しかしその一方で、証券系シンクタンクは追加投資の内示を取り下げた。

抗議をしたものの、空手形を信じる方が明らかに悪く決定が覆るはずもない。

結局、事業会社には言い訳の出来ない形で、3000万円だけの第三者割当増資を実施し、わずかに会社の延命を確実にできた。

会社があと6ヶ月というところで始めた経営の立て直し策。

CFOとして当たり前のことができていなかったこともあれば、CFOがそこまでやるのはおかしい、ということまでいろいろなことをしたと思う。

そんな中で、自分の拙い経験から得た教訓はどこまで言っても、

「ベンチャー企業では、やれる人間がやる 肩書は目安」

という当り前のことだと思っている。

豪華客船のような大手企業と違い、ベンチャー企業は高波で転覆するボートのようなもので、船を動かすクルーはわずかだ。

その船で危機的な浸水が始まった時に、「自分は通信手ですから」と平然と言い排水作業に参加しようとしないクルーがいたら、船長の判断を待たず海に突き落とし沈没までの時間を稼いでいいと思う。

そんな価値観を持つ人間がCFOになったらこんなことをやらかした、という一つの話として、僅かでも参考にして頂ければ幸いだ。

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ABOUTこの記事をかいた人

1973年生まれ。とある企業の経営者。 大手証券会社からキャリアをスタートし、広告代理店やメーカーなどを経験する。 CEOを2社、CFOを3社ほど経験し、現在はマーケティングと人材開発を主なサービスとした企業を経営している。