証券市場から見える日本経済の実体と産業構造

証券市場から見える日本経済の実体と産業構造
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普段私達が目にするニュースや新聞記事。

これらを伝える媒体は話題性の大きさでニュースの取捨選択を行っており、そしてその判断基準は「視聴者や読者に興味を持ってもらえるか」であって、もっとあからさまに言えば「売れるかどうか」だ。
そのためこれら受け身でしか入ってこないニュースは、時にどうでもいいようなことが重要なことであるかのように印象操作され、また重大なニュースであるにも関わらずどの社も報じないということも決して珍しくない。

経済ニュースに至ってはさらに程度が低いことが多く、テレビで目にするような話題はどれもマクロの日本経済から見れば瑣末なことばかりであり、枝葉末節に無理やりニュース性を持たせて報じているものばかりだ。
私たちの生活に関わりがあるような分野でも、この傾向は一段とひどい。
あるいはベンチャー企業の経営者で、特に技術系の会社を経営している人であれば一度くらいはその洗礼を受けたことがあるのでないだろうか。
日本を代表するような経済専門の日刊紙の記者ですら、取材した際に話した内容と実際の記事ではかけ離れた内容になっており、唖然とした経験は多くの人がお持ちだろう。
今さら日本の新聞やメディアなどの媒体に「事実を掘り下げ真実を解説する」ジャーナリズムを期待しているわけでもないが、最低限人の話をまとめるくらいの教養は身につけて欲しいと切に願うばかりだ。

その一方で、CFOやCEOにとってはビジネスがまさにプロであり、中にはありふれたものやサービスにすら付加価値をつけ、人を喜ばせ社会の役に立っている、素晴らしい経営者がいるかもしれない。
しかしそんな私達でも、今現在の日本経済の正しい姿を知っているかといえば、かなり怪しいのではないだろうか。

少しなぞなぞをしてみたい。
携帯やネット通信を始めとした情報通信業、建設業、卸売業、自動車産業などが含まれる輸送機器業、鉄道などの運輸業の5つ。
2014年度の名目GDPにおいて、これらの産業界の業界規模を大きい順に並べることはできるだろうか。

イメージ的にはおそらく、自動車産業が含まれる輸送機器は我が国経済の柱であり、1位に来そうだ。
卸売業は「苦戦している業界」なので、この中ではおそらく最下位であろうか。
建設業などの順位も悩ましいと感じるところだろう。

しかし事実は、これらの業界のGDP規模は大きい方の順番で記載のとおりである。
特に情報通信業は2000年代に入ってから我が国の名目GDPで1位であり続けており、その他の順位も多少の変動はあるが、大きな差はない。

この数字から読み取れることは、日本のGDPは内需によって作り出されており、ヒト・モノ・カネは我が国国内で多くの部分が循環している、という事実だ。
情報通信業も、建設業も、卸売業も、運輸業も内需が中心の業界であり、外需の比率が比較的大きいと言えそうなものは輸送機器業くらいであろうか。
これでは20年以上前から、経済学部の1年生が最初に習う知識のままで何も変わっていない。
当時は、日本のGDPは「6割が個人消費、3割が企業支出、1割が公共部門」と言われていたが、産業構造は驚くほど変わっていないといえるだろう。

一方で、もう一つの鏡である証券市場。

その鏡を通してみると、2016年10月現在で時価総額が最も大きな業界は電気機器業である。
名目GDPでは上位5社にも入っていない電気機器の業界が、証券市場ではもっとも大きな存在感を持っているというのは一体どういうことなのだろうか。
投資家の思惑と日本経済の実態は、実はこれほどまでにかけ離れているということなのだろか。

目の前にある数字の意味をどのように解釈するか、という能力は経営者にとってもっとも鍛えられなければならない能力の一つだ。
マーケティングでも決算収支でも、日々Webページにアクセスしてくる顧客のgoogleアナリティクスの数字にしてもそうだが、誰にとっても同じ数字が並んでいるはずなのに、そこから読み取る「真実」は人によって驚くほど違う。

そのようなことを念頭に本コラムでは、GDPから読み取れる我が国経済の実態と、証券市場の数字から読み取れる日本経済の実態について、私なりの解釈を説明しながらその数字をご提供してみたい。
その数字から、私とは全く違う事実を読み取る読者もおそらく多くいると思われるが、普段あまり考えることがない日本経済やマーケットの実相について、少しでも考えるきっかけにしてもらえれば幸いだ。

INDEX
GDPからみた日本経済の構造
東証一部上場企業から見える日本経済の実相
上場企業数から見える日本経済の実相

GDPからみた日本経済の構造

総務省政策白書平成28年(2014年)度版によると、我が国の名目GDPはおよそ964兆円。

もっとも大きな産業は情報通信産業でその占有率は8.7%、84.1兆円になっている。
以下、建設業6.3%(60.3兆円)、卸売業5.9%(57.0兆円)、輸送機器5.3%(51.5兆円)、運輸4.5%(43.7兆円)、小売3.8%(37.0兆円)、鉄鋼3.1%(29.8兆円)、電気機器3.1%(29.6兆円)、その他の産業59.2%というのが、まずは単純な数字の羅列だ。

これとは別に、総務省「ICTの経済分析に関する調査」(平成28年)の資料を見ると更に驚くべきことがわかり、これらの主要産業の順位は2000年以降ほとんど変わっていないだけでなく、ほぼ全産業において名目GDPの数字が横ばいになっており、ほとんど成長していない。
※1参照

建設業に至っては、1995年に90兆円あった生産額が2014年には60兆円に落ち込んでいるにも関わらず、全体としては2番目の存在感を示している。
情報通信業は携帯電話の発達やインターネットの普及及びサービスの多様化でこの数字は全く違和感がなく妥当だが、建設業はかなり違和感のある数字だろう。

実生活の中で建設業にお世話になると実感することは、一般市民にはほとんどない。
税収の落ち込みとともに全体の生産額を減らし、その後2011年から3年連続で回復基調にあることを考えると、建設業の数字のもとにあるのは明らかに国策投資だ。
税収の落ち込みで予算がカットされ続け、そして東日本震災の影響でV字回復を続けていると考えるのが数字の解釈としてはもっとも自然であろう。
数字が大きく影響力のある業界なので、政府はおそらくこのまま東京五輪まで支出を維持し続け建設業で人手不足を演出し続ける「モデル業界」になり、インフレを牽引させる役割を担わせるはずだ。

東京都の小池知事が就任したばかりの頃、東京五輪の見積もり予算が膨らみ続けていることが話題になり、その総額を小池知事がカットすると繰り返し述べてメディアを騒がせていたが、結局目立った成果を挙げることはできなかった。

しかしこれが初めから予算ありきのGDP対策であり国策支出であったとすれば、この領域に手を付けることは不可能であり、余り無茶をすると小説やドラマのようなトラブルが実際に起きる業界、と考えるべきであろうか。

内需有りきの我が国の経済政策であるとは言え、いつまでも建設業がGDPの2位に居続けるという状況は、我が国のアントレプレナーはまだまだ育っているとは言えない社会状況であり、また国策としても育てる意志が低いと言われても仕方ないであろう。
情報通信業においても、国策から支出される補助金や国策投資に関する審査はかなりグレーだ。
事実上、特定の人物に支出や選出の権限が与えられていることもあり、運用上やむを得ない事情があるとは言え、本当に将来性が有り突破力のある経営者の利用実績はほとんど無いと言っても言い過ぎではない。
むしろこの分野の補助金は、補助金で飯を食っている「生活保護企業」を量産しており、そしてやりすぎた企業が懲罰的に摘発されている事例も目立つ。

何れにせよ、GDP上位2つの業界は、我が国経済を支える代表的な分野であるにも関わらずお粗末な政策で支えられている一面が大きい。

いろいろと興味深い業界は多くあるが、スペースの都合もあり、もう1つだけ、電気機器業に触れてみたい。
白物家電に代表される電気機器は我が国経済の牽引車であり、パナソニックや東芝など、日本人の誇りで有り続けた業界だが、今となっては往時の姿をみることはできない。
唯一、パナソニックが早々に完成品メーカーとしての路線に見切りをつけ、デバイスプロバイダーとしての生き残りに活路を見いだして業績を維持しているくらいであろうか。
この生き残り策は、多額の先行投資をして新製品をマーケットに投入してもすぐに韓国や台湾勢にキャッチアップされ、投資回収前に廉価品が市場を席巻してしまい、やむなく撤退に追い込まれ大赤字を出すという過去の苦い教訓から考え出された戦略だ。
最終完成品メーカーにならず、新製品の製造に不可欠で高性能なデバイスのプロバイダーになること。

このように戦えば、その時々で一番勢いのあるアッセンブリー(セット)メーカーと手を組み、利益を出すことができる。
シャープを買収し、さらに東芝の半導体部門まで席巻しようとしているホンハイ精密工業は世界最大の下請け企業であり、そしてアッセンブリーメーカーだが、シャープを買収し東芝の半導体部門まで傘下に収めようというのは、自社開発の完成品メーカーになりたいという悲願の現れだ。

一方で、完成品メーカーとして世界を席巻し、今なおブランド力に定評があるパナソニックはデバイスプロバイダーへとその経営の比重をシフトしているのはとても興味深い。
このような状況の中で、シャープに代表されるように電気機器業界の業績は総じて明るいとはいえない。

そして、その最も大きな要因は日本経済の持つ特殊性にあるといえるだろう。
その特殊性とは、無理をして海外に出なくても、日本国内に1億人を越える巨大マーケットが有り、そして世界3位の消費市場があるということだ。
そしてこの巨大な消費マーケットは、近年まで世界2位で有り続けた。
このようなマーケットのニーズを相手に戦っていると自然とそのニーズはガラパゴス化し、視点は内向きになる。

期待される機能が単一的であり細かなニーズの分析が必要ない家電、例えば洗濯機や冷蔵庫などの白物家電や、ICT時代を迎える前の自動車やテレビといった単一機能の家電では、日本は1億人の「サンプルマーケット」で積み上げたノウハウを元に、世界で無類の強さを発揮した。

しかしICT時代にあっては、どんな単純な家電製品すら単一機能ということは考えられない時代になりつつある。
世界で戦うには、多様性を導入し様々な価値観で戦う準備が必要だが、日本の家電業界はこの考え方で完全に立ち遅れたと言えるだろう。

 

東証一部上場企業から見える日本経済の実相

次に、日本の産業構造をある意味において代表していると言っても良い東証一部上場企業とその業界を、数字の上から見てみたい。
政権の思惑や特定少数の人物が仕掛ける流行り廃りと違い、不特定多数のプレイヤーが集まる証券取引所は、まさに日本経済を映し出している。
正確に言えば、この市場には政権の思惑も入り込んでおり、またその意向を嗅ぎ取った多くの投資家が虚実入り乱れる中でマネーゲームを行うので、虚と実までが反映された日本の近未来の縮図であるといえるだろう。

その東京証券取引所の2016年10月末現在の数字だが、時価総額合計は516.2兆円。
日本の2014年度のGDPが964兆円であるのに対し、東証1部に上場している企業全ての価値はその53%余りということになる。
※2参照

その東証一部市場で、もっとも時価総額が大きいのは先述の通り電気機器業だ。
その時価総額は実に59.5兆円であり、占有率で言うと11.5%ということになる。
GDPの上では8番目の業界に位置し、占有率では3.1%を占めるに過ぎず29.6兆円あまりの業界ということになるが、東証1部では最も時価総額が大きく、時価総額の11%以上の評価を受けていることになる。

以下、輸送用機器53兆円(10.3%)、情報通信業52兆円(10.1%)、銀行業37兆円(7.1%)、化学33兆円(6.4%)、小売業30兆円(5.9%)、医薬品27兆円(5.2%)、食料品25兆円(4.8%)、機械24兆円(4.7%)、サービス業22兆円(4.3%)までが上位10業界の、とりあえずの数字の羅列だ。

ちなみにGDPでは3位に位置し存在感を出している卸売業は、11位で21兆円(4.1%)となっている。
GDPは過去の数字であり、証券市場における時価総額は将来への期待値だ。

そういう意味では、日本経済はまだまだ電気機器業界に多くの期待を寄せており、不特定多数の投資家が虎の子である資産を最も多く、この業界に投じている実相が見えてくる。

表にするとこのような感じだ。

※1参照

業種GDP順位

(2014年度)

占有率東証1部時価総額順位

(2016年10月)

占有率
情報・通信業18.7%310.1%
建設26.3%132.9%
卸売業35.9%114.1%
輸送用機器45.3%210.3%
運輸54.5%240.8%
小売業63.8%65.9%
鉄鋼73.1%201.1%
電気機器83.1%111.5%
銀行業圏外47.1%
化学圏外56.4%
医薬品圏外75.2%
食料品圏外84.8%
機械圏外94.7%
サービス業圏外104.3%
注1:GDPを集計する産業区分と東証1部の産業区分は完全には一致しない
注2:東証1部では運輸業は空運、海運、倉庫・運輸関連と分かれているため、上記図表ではこれらを合算し運輸に算入。
注3:銀行業のGDP集計はやや特殊であり、GDP順位は考慮にいれるべきではない

注記の通り、GDPを集計する産業区分と東証1部の産業区分は必ずしも一致しないが、大きな経済分析をする上で障害になることはないだろう。
その上で、日本経済を支えているはずのGDP上位の業種は、東証1部の時価総額ではほとんど評価されておらず、一方で、東証の時価総額で上位に評価されている業種は、GDPの上で大した影響力はないということになる。

これはかなり不思議な数字に映るが、数字の世界で生きている経営者にはどのように見えるだろうか。
以下、GDPの実相と東証1部の実相で概ね傾向が一致しているようにみえるもの、乖離しているように見えるものを順に確認してみたい。

情報通信産業、これは名実ともに我が国と世界で大きく取り組まれている現在進行系の産業であり、特段の違和感はない。
自動車産業などが属する輸送用機器も、GDPの存在感よりもむしろ東証1部での存在感のほうが大きいのは納得だ。
政策的な面を考えても、このセクターに公的資金の「買い」が入っていないわけがなく、時価総額はもっと押し上げられてもおかしくないだろう。
一方で建設、卸売、鉄鋼は、GDPの存在感に比べると、明らかに市場で評価されていない。

今現在、付加価値(GDP)を稼ぎ出しているにも関わらず時価総額が低迷しているという現象は、個別の銘柄で考えた場合、投資家がその企業の将来性を悲観しているということだ。
今現在は利益を稼げているものの、先細りだと考えられている会社は必ず買い叩かれ、時価総額は安くなる。
この分析は個別銘柄ではなく業種別の数字ではあるが、個別銘柄の値動きは業種のトレンドに逆らうことが出来ないというのが投資家の原則的な考え方だ。

時価総額の小さな上場したてのベンチャー企業であれば話は別だが、東証1部に上場し株価もこなれている会社である場合、大きくは業種のトレンドという呪縛からは逃れ難い。
そういう意味において、建設、卸売、鉄鋼の業界は、GDPの存在感が示すほどには投資家から期待されておらず、少なくとも成長産業ではないと見なされていると分析して間違いないだろう。

しかしこの分析はまだ十分ではない。

もう一度、今度は東証時価総額の順位に注目して上記の図を見てもらいたい。
2位が輸送用機器で3位が情報通信、4位以下は銀行、化学、小売、医薬と続くが、何か違和感はないだろうか。
私にはこれは、寡占業界もしくは参入が規制されている業界のように見える。

1位の電気機器業界は特段の違和感はないが、2位の輸送用機器は参入障壁が極めて高い寡占的な状態にある業界だ。
3位の情報通信は規制業界であり、銀行や医薬は言うまでもない。

どこかで聞いたような気がする単語だが、「岩盤規制」に守られた業種が「今現在も」「将来も」儲かると見なされている業種であるならば、なかなかおもしろくない話だ。

しかしこれだけでは情報不足であり、まだ正しいとは言えない。
なぜなら、東証1部に上場している企業の数、という側面を忘れているからだ。
その業種に属している企業の数も併せて分析しなければ、投資家がその業種をどのように評価しているのか。

その正しい姿は見えてこないであろう。

 

上場企業数から見える日本経済の実相

下記は2016年10月現在の東証1部上場全業種の業界別1社あたりの時価総額ランキングだ。
まずはこれを見てもらいたい。

※2参照

順位業種上場企業数時価総額1社あたりの時価総額
1保険業911,270,3751,252,264
2輸送用機器6453,001,789828,153
3空運業32,188,896729,632
4医薬品3926,739,857685,637
5陸運業4120,165,503491,842
6銀行業8636,806,090427,978
7ゴム製品114,601,857418,351
8電気・ガス業218,385,646399,316
9電気機器16259,476,181367,137
10その他金融業227,307,889332,177
11情報・通信業16152,291,894324,794
12食料品7724,579,372319,213
13精密機器286,977,099249,182
14鉱業71,720,707245,815
15化学14032,828,503234,489
16石油・石炭製品112,437,468221,588
17不動産業6012,632,791210,547
18証券、商品先物取引業234,606,720200,292
19機械13324,233,695182,208
20その他製品559,732,569176,956
21鉄鋼325,622,419175,701
22非鉄金属243,988,995166,208
23小売業19130,373,825159,025
24建設業9914,899,326150,498
25ガラス・土石製品324,464,297139,509
26サービス業16222,193,535136,997
27海運業81,052,238131,530
28卸売業16321,353,165131,001
29パルプ・紙121,405,050117,088
30金属製品403,702,37892,559
31繊維製品393,470,04888,976
32水産・農林業7580,30382,900
33倉庫・運輸関連業221,117,14350,779
合計1984516,207,623260,185

(単位:百万円)

GDPの順位とも、株式の時価総額とも異なる、また別の日本経済の実相が見えてくるように感じられるのではないだろうか。
幾つかの切り口があるが、まずは「過去の日本経済」を象徴する数字から見てみたい。

株式の時価総額で東証1部の業種別時価総額1位である電気機器業の上場企業数は162社と、同数で3番目の上場企業数の多さだ。
かつて日本経済を牽引した電気機器業は、業界としての影響力は大きく時価総額は大きいものの、上場企業数が圧倒的に多く1社あたりの規模感は小さくなっている。
「合併を考えない頭取はいない」と言われる銀行業や、規模の効率性を考慮して大きくまとまった保険業界に比べ、この粒の小ささは注目に値する数字だ。
三洋が、同根であり兄弟会社のパナソニックに吸収された事例はあるが、日本の大手電気機器業界の親和性の無さは相当なものがある。
日本の電気機器業界は、独立性を強固に守る余り小規模な部隊が個別に国際競争の舞台で戦い、そして各個撃破されている状況といえるだろう。

また、GDPの規模では3位に位置している卸売業も特徴的な数字を示している。
時価総額順位は11位に沈む上に、上場企業数で言うと、小売業に次いで東証で2番目に多い163社の上場企業数。
もちろん、1社あたりの時価総額で言うと全33業種中で28番目まで落ち込む。

小売業の191社と併せ、この卸売業の上場企業の多さと粒の小ささは、かつての日本経済を色濃く反映し、また脱皮しきれず新しい産業構造に転換できない日本経済の実相を表しているといえるだろう。

かつての日本経済は内需の順調な成長で先が見えないほどに肥大化し、バブルの頂点を極めた。
この過程に至るまで、卸売業と小売業は時代の中でどんどん大きくなり、そして多くの上場企業が生まれ、名実ともに日本経済の代表的な企業に育っていった。
ダイエー創業者の中内功氏などは、このトレンドの中で一気に坂を駆け上り、このトレンドの中で一気に坂を駆け下りた、代表的な人物と言えるだろう。
電気機器業も同様であり、日本の白物家電が世界を席巻する間、東証では多くの電気機器業の上場企業が生まれた。
そして十分な資金調達を繰り返し、調達した資金を投資に回し成長を加速させ、多くの会社が名実ともに世界を代表する企業に育ったが、今や東証1部の電気機器業にかつての面影はない。
上場企業数こそ多く、そして業界別時価総額では1位と堂々としているように見えるが、1社あたりの時価総額で見ると9位まで落ち込んできた。
卸売業や小売業もそうであるが、日本の証券市場には「かつての大企業」がこれほど多いということだ。

もちろん、上場廃止基準に抵触しない以上、上場は維持されるべきかもしれないが、問題は「日経平均株価」というシロモノにある。

この日経平均株価は225銘柄の平均値と言うことになっているが、建前上は年に1回の銘柄入れ替え措置が取られることになっているものの、平均株価指数継続性の観点から特別な場合を除きほとんど入れ替えが無い。

つまり、成長性が見込めないかつての大企業が今なお多く集計されている日経225が大きく成長することは考えづらく、一般に「株価の平均値」と認識されている値は、劇的に上げるわけがないということだ。
これではまさに「負の印象操作」が為されていると言っても言い過ぎではないだろう。
さらに言うと、株式には「01銘柄」という極めて非合理的な言葉が存在する。
東証株式市場に上場している会社には4桁の証券コードが振られているが、これは上2桁が業種を表し、下二桁がその業種での通し番号を表す。

具体的に言うと、証券業界を表す業界コードは86で、その「もっとも代表的な会社」である01番の会社、すなわち証券コード8601は大和証券だ。
言うまでもないが、証券業界を代表する会社は野村證券であり、一人勝ちのガリバー証券だ。
銀行で言えば三菱UFJに相当する巨大さだが、何の因果か証券業界の「01銘柄」には大和証券が選ばれ、そして野村證券は8604という“4番手”に甘んじている。
おそらく証券コードが設定された時代の事情を反映していると思われるが、この「代表的銘柄」が見直され、番号が振り直されることはもちろん無い。

いわば、証券市場を管理する仕組みも証券市場の動向を把握する仕組みも極めて硬直的で、現実を反映する鏡としてはかなり「曇っている」と言われても仕方のない側面があると言えるだろう。

比較として、日経平均と対比される事が多いNYダウ平均の仕組みを検証してみたい。
ニュースでも必ず耳にするニューヨークダウ平均株価というやつだが、この銘柄はわずか30銘柄の平均値で算出されている。
なおかつ、この銘柄に選ばれているのはその時期のアメリカを代表している成長企業ばかりであり、もちろん銘柄の入れ替えも激しく、株価指数に継続性もへったくれもない。

ちなみに、2017年7月現在で採用されている銘柄の一例を挙げると、
アップル、アメリカンエクスプレス、ボーイング、ウォルト・ディズニー、インテル、ゼネラル・エレクトリック(GE)、マイクロソフト、ファイザー、プロクター・アンド・ギャンブル (P&G)、VISA、エクソンモービルなど、アメリカを代表し成長力の見込まれる巨大企業ばかりになっている。

そして、この30銘柄の中でダウ平均の算出が始まった当時から残っている銘柄はわずか1社、GEだけだ。
言い換えれば、NYダウはそれほど頻繁に銘柄を入れ替え、アメリカを代表する最新の、勢いのある会社ばかりで「平均株価」を算出する仕組みになっていると言えるだろう。
このような事実を知った上でのことなのだろうか、2017年現在の日本のメディアは

「ダウ平均株価が連日の史上最高値」

「好景気に沸くアメリカ」

「日経平均株価は伸び悩み」

と言った論調でマーケットを報じていることが多い。

(もっとも、日経平均も5年前からのトレンドで見ると相当な成長をしているのだが)
しかしこれは明らかに、比較するものが間違っている。

ダウ平均株価が、アメリカを牽引する少数精鋭銘柄の「元気指数」であるとすれば、日経平均は「かつての大御所」の影響が極めて大きい、東京証券取引所の過去寄りの状態を表す指数だ。

コンセプトも違えば、市場の何を表しているのか、という考え方も根本から違うにも関わらず、日本のメディアではこの違いを指摘して論じ、本質を突く記事を見かけることなど皆無であろう。
今更、日本のメディアで筆を執る記者の頭の悪さはどうすることも出来ないだろうが、大事なことは情報を取捨選択する受け手側のメディアリテラシーを向上させることだ。
市場の実相を理解し、IPOなどの仕掛けどころを冷静に見極め、今の東証は活況であるのか、それとも不振に苦しんでいる状況にあるのか。
今市場に出ていけば大きく資金調達ができる可能性があるのか、それとも公募割れをする可能性すらある状況なのか。
メディアの報じる情報は参考にしながらも、鵜呑みにしてはならない。

東証では、このレポートでも採用した各種統計データをかなり細かく発表しているので、その数字を冷静に分析し、自分なりの「真実」を見極める能力を磨くことが、IPOを目指す経営者にとって重要なことだと言えるだろう。

もちろん、ここで示した数字の解釈は一つの考え方であり、的はずれなことも多々あるかもしれない。
もしそのように感じた場合は、ひとりひとりの立場で、本当は何が正しいのかをぜひ発見し、SNS上などで議論を活発にして欲しい。

日本経済の実相と証券市場を理解する上で、一つの考え方を提起できたのであれば幸いだ。

※1 総務省経済白書 基本データと政策動向http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h28/html/nc251110.html

※2  東京証券取引所 株式時価総額 (2016年10月31日)
http://www.jpx.co.jp/markets/statistics-equities/misc/nlsgeu0000020grb-att/201610.pdf

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