「世界中にある、あらゆる読むに値するものをデジタルに」 
旅路の先、果て無き図書館で夢を語る

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経常対昨年利益150%

「世界中にある、あらゆる読むに値するものをデジタルに」
旅路の先、果て無き図書館で夢を語る

世界中を渡り歩き、人よりも多くの業種を見聞し、やがて行きついたのは自分のオリジンを進化させた“電子書籍”業界だった―。株式会社イーブックイニシアティブジャパン代表取締役社長、小出 斉が語るのはあっけないほどシンプルな成功ロジックだ。それはただ、“好きだから伸びる”ということ―。新業界の先駆けかつ急成長を叶えた、150%オーバーの思考を紐解く。
イーブックジャパン②

小出:出身は東京ですが、ひとところにじっとしておらず居場所が良く変わっていました。三菱重工に就職して神戸に赴任し、東京に戻った後にサウジアラビアに3年。その後2001年に渡米、MBAの単位取得後にボストンコンサルティンググループなどでの経営コンサルタントを務め、ネットメディア、電機メーカー、自動車、通信など様々な企業をお手伝いしました。実はコンサルティングに携わる傍ら、いつかは経営そのものに関わりたいという思いを強くしていて、退社直前は次にどんな仕事につくか、大いに考えていましたね。いろんな情報を集める中で注目していたのが、自分のルーツを感じることのできる電子書籍業界でありこの会社です。業界の成長率ややりがいなどがイメージしやすかったことに加え、次期経営者を探していたのもベストタイミングでした。好きなこと、やりたいことなどで彩られたバラバラのピースが、うまくはまった瞬間でしたね。

実は中学生時代から、電気オタクなアキバ系少年だったんです。半田ごてを片手にラジオやアンプを作るのが一番好きなタイプ。アンプに、秋葉原の部品屋で掘り出してきたパーツを取り付けて、いい音はどう出るかの創意工夫を楽しむ学生生活でした。電気好きの新し物好きで、それが高じて、大学時代に情報処理技術者の試験に合格したり、いち早くパソコン通信にトライしたり、PHSが出回ればいち早く手に入れたり、インターネットへの反応も我ながら早かったですよ。そういう方面には人一倍興味がありました。

大学卒業後は、大きな仕事を手掛けたいと三菱重工に入社しましたが、だんだん経営への思いが高まりMBA留学を決意、その後経営コンサルタントとして修行… というルートですね。特にこの会社と出会ってから、新し物好きの電気小僧だった自分がムクムクと湧き上がってきた。どうせやるならこういう業界が面白いし、何より自分が好きなジャンルだ、と思って、今やり続けています。

 


■小出氏が入社した当時からの、御社の強みと弱みとは?

小出:強みは現在まで圧倒的にマンガです。実は、電子書籍市場の8割は漫画やコミックが占めています。ただし2009年ごろは、500億ほどのマーケット規模のうちほとんどが従来型の携帯電話で、売れているジャンルはアダルトコミックばかり。ネット特有の初期需要の盛り上がりでいずれ打ち止めになると分かっていつつも、いち企業としては隣の芝生の青さが気になるはずです。しかし、マーケットに400社あったと言われる競合他社に乱されず、きちんと軸を守るイーブックには感心しましたね。弱みは業務やベクトルなどではなく、ベンチャーゆえのリソースの弱さ。色んなことを同時進行しにくく、常に精一杯な感じはあります。

そんなリソースの狭さがネックと言いながら、イーブックの長所は、立ち上げ直後から手塚プロと契約締結した点にあります。

もともと漫画が好きな会長の鈴木雄介が、起業前の1998年ごろに電子書籍コンソーシアムという団体の発起人になっていました。これは電子書籍の未来や可能性を色んな方に説いて回った結果、出版社、メーカー、キャリア、そして通商産業省(当時)の方が賛同したことで実現した組織です。「ブックオンデマンド総合実証実験」という冠で電子書籍の実用化に向けた社会実験を行っていて、テスターに電子書籍のハードを配布し、ソフトである電子書籍を実際に閲覧できるようにして検証した際、テスターからの反応は圧倒的にマンガが多かったんです。それが立ち上げのベースとなり、ローンチ後すぐに漫画の神様である手塚先生のもとにお願いに行きました。ちなみに契約の手付金は、当時ベンチャーキャピタルに入れて頂いた出資金をほとんどそれだけで使ってしまった…! というほどの額だったそうで。知らない人が聞いたら「馬鹿じゃないの?」と思われてしまうほどの大きな決断でしたが、これが大成功のきっかけとなりました。手塚先生が承諾しているならばと、契約をお受け下さる作家さんが増え、やがて出版社さんも増えていきここに至るという歴史です。

 幸先良く始まったものの、電子書籍には誤解も多く、当時は「海賊版になってしまうのではないか?」、「自分の大切な本が粗雑に扱われるのではないか?」といった勘違いも多いものでした。作家さんには、技術的な保護により作品が海賊版とならないように守られることや、作品のことを第一に考えている「漫画好き集団であること」をご説明し、初めて契約をいただけます。「自分たちが精魂込めて魅力をお伝えする」と誓いつつお願いするわけです。また、値段の誤解については今だにありますね。紙代、印刷代、製本代がかからないだけに安売りされると恐れている方もいらっしゃいますが、値段の仕組みを丁寧にお伝えし、作家のご意向で決めることも出来ると理解して頂く。そういう作家さんの心配事を一つ一つ解決することは我々の大切な使命です。

 ちなみに私が入社したのは2009年なので、ぶっちゃけると私は初期の苦労をしていないんです。他の役員は、作家さんを訪問するにあたって「おまえ誰だ!」「イーブックです」「知らん。帰れ!!!」なんて門前払いを泣くほど経験しており、…お陰様で鈍感力が高まっています(笑)。「“帰れ” 10回くらいは挨拶のうちだ」となかなかの名言を繰り出す人もおりまして、正直、肝っ玉揃いですね。

 


■相互理解が難しいと言われる著作権保護をめぐる、作家と読者の期待値の違いとは?
イーブックジャパン

小出:クラウドを利用して読書する仕組みは2007年から開発していますが、作家さんが大事にしているところと、ユーザーが期待しているところの差がある部分については、バランスが重要と思い、調整しながら開発にかけています。

例えば、PCユーザー目線だと電子書籍は“著作権があるもの”ではなく“本形式のファイル”感覚に近く、自分の持ってるファイルを複数のデバイスで共有・移動してなにがおかしい、という考えが「常識」です。一方作家や出版社の方にとっては、長らく続いたビジネスモデルが、雑誌を売り、単行本を売り、豪華版を売り、コンビニ版を売り...と一作品で何度も稼ぐ方式だったので、電子についても「色々な端末で読むならそのたびにお金を頂くのが普通でしょ。」という考え方でした。そこで我々としては、複数端末で読めるようにはするが、複数端末間で共有は出来ないようにし、読みたいデバイスに移動して閲覧してもらおうと考えました。デバイスは複数だけど同時に読める端末は1つだけに制限することで、手間はかかるがニーズの8割は解決する、それなら作家や出版社の方がぎりぎり納得できるレベルです。
ところが時代が変わり、複数のデバイスでマルチに移動できる上に読めるという他社サービスが増えています。買ったのは1冊分なのに、コピーが出来て使いまわせるのはおかしいだろう、と作家さんからはかなりの反感を持たれています。弊社は作家さんを大事にしているので、今のところそこは解禁していません。ただ全ての作家さんから「新しい時代だしマルチコピーでもいいよ」と許可して頂ければ柔軟に対応できる準備はしてあります。

 


■参画してから打ってきた手だてとは?

小出:まず1つ目は、漫画の品揃えの強化です。前年に初黒字を迎え上場に向け経費抑制モードの中、お金を沢山使う方針には賛否両論ありましたが、そこは気にせずどんどんやりました。特にベンチャーキャピタルから派遣されていた元取締役からは苦い顔をされたものの、社内一丸となって口説いたおかげで、結果、大手出版社との契約が増加しました。
2つ目は2010年、appleのスティーブ・ジョブスによるiPadリリースを受け、受け入れ体制を整えたことです。iPadの登場に私はしびれるような気持でいましたが、当時、社内からの反応はがっくりするほど薄かったんです。だけどこれは確実に時代を変えるものだと説いて回り、iPadベースのアプリだとか、販売ページだとかを増やしました。時代の流れもあり当然結果も付いてきましたが…、この頃からですね、私の言うことをみんなが少しずつ聞き始めたのは(笑)
3番目は、有料の「トランクルームサービス」を無料化したことです。購入した電子書籍データを預けられるクラウド的なサービスを、業界に先がけて2007年にスタートさせたもので、本を外部に預けられるので管理がしやすい点を評価して頂いていました。50冊までが無料でそれ以上は容量に応じた料金設定がありましたが、もっと利用しやすくして欲しいとの要望をたくさんいただき、無料化しました。当社独自のサービスですので集客にもつながるし、長期利用客が増える見込みもあったため、折角の収益源でしたが思い切りました。

 そして書籍のフォーマットについても、漫画に特化して独自開発したオリジナルフォーマットだけで配信していましたが、テキスト型のフォーマットでも出てくる本が増えたので、それらの本も読めるように開発しました。これにより他のサイトさんとの物理的な蔵書の差を埋められると狙いを付けたのです。うちのお客様は30~40代の方が多いため大人買いされやすく、その世代の方はビジネス書や雑誌もお読みになります。漫画とそれらのクロスオーバーセリング実現も見込み、昨年秋に完全対応しました。結果、当時5万8千冊だった蔵書が今では12万冊まで増加し、どこにも見劣りしないレベルとなっています。

 


■切り口をiPadに寄せてゆくにあたって、不安はあったか?
イーブック
小出:新しい端末のポテンシャルを信じきるには勇気が必要なので多少不安はありましたが、同時に時代を変えるものだと確信していたので問題はありませんでした。例えば、キーボードというものが本を読む上では障害だと考えれば、なくても使えるならない方がいい、という人はたくさんいると思えたんです。ボタンがずらずら並んでいるより、使いやすくて受け入れられやすいですからね。“ない方がいい”意味ってすごくあると思っています。
が当然、社内に反対派もいましたので、一人ずつ説得していきました。まず誤解で反対しているケース、もっともな理由で反対しているケース、反対だけど論理がおかしいケースなどパターンがありますので、対処を決めて解決してゆくことで最終的には理解して頂けました。

 


■前期比の実績が経常利益150%、前々期比だと400%以上だが、成長のカギは?

小出:運ですね。iPadのタイミングも含め。加えてそういった流れをいち早く見つけ、具現化する力はこの会社の潜在能力であり、嗅覚の鋭さだと言えます。
今後成長していくに当たり、電子書籍で新時代を拓きたいですね。読むに値する世界中のあらゆるものをどんどんデジタル化し、お客様の読書欲を刺激するような品揃えを目指します。また、書棚感覚で管理しやすく、更に収集欲を満たせるような体裁に整えたいと考えています。

 日本の本は非常に素晴らしいカルチャーです。駄作から名作までありますが、10年後に評価が逆転していたり、ようやく日の目を見たり、と存在のバリエーションが非常に豊か。世界に通用するハイクラスな知識やエンターテインメントを内包しているのが日本の本たちだと感じます。ですが現在、リアルな書店では物理的なスペースの都合もあり、新刊も定番も売れる本しか置けません。つまり作家さんも短期間で売れるものしか書かなくなります。となると僕が重要視しているバリエーションを大きく狭める原因になり、書籍文化が衰退する原因になりうるのです。ですが電子書籍ならスペースや期間を気にせず、永久的に書棚に並べることが出来る。バリエーションが広がり、文化発展に貢献する施策だと思っています。

 


■御社の今後のビジョンは?
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小出:今後は早かれ遅かれ業界の淘汰が進みます。そして最後には、1番になれば高収益、2番は損益トントン、3番以下はサヨナラ、という構図となる筈です。つまりトップを獲るための正確な道筋がますます必要になっていくでしょうね。今後、合従連衡が多発するでしょうし、そうなったらパートナーと良い関係を築きつつ、しっかりと成長していければと感じています。
こんな何かと世知辛い世の中において、電子書籍業界は広がりを約束されている数少ない業界です。その中でリーディング・カンパニーの当社では様々なチャレンジが可能です。新たな挑戦で新たな時代を切り開く志と行動力のある方には、是非仲間に加わって欲しいと思っています。


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