「ゴールを見据え、そこにたどりつく方法だけを考える」
ロケットベンチャー株式会社 CTO 桑山友美

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■Webサービスの可能性に、心からワクワクしました

 

Q:まずは、桑山さんがプログラミングなどIT技術に関わるようになった経緯を。

A:もともと典型的な文系で、大学に入るまでプログラミングなどの経験はまったくありませんでした。実は、双子の妹(桑山好美CMO)と龍川(誠CEO)が同じ大学で、大学時代に3人で一緒に話をしているうちに意気投合し、「一緒に仕事をしてみようか!」ということになったんです。当時、化粧品の通販事業などいろいろなビジネスに挑戦していく中で、IllustratorやPhotoshopに触れるようになり、同じ頃にDreamweaverなどを使ってwebサイトをつくるようになりました。そのうちに、「もっと動的なサイトを作ってみたい」「新しいウェブサービスを運営したい」とやりたいことが増えて、スキル面での欲も出てきて。それから技術書を読んだりネットの情報を参照しながら独学でプログラミングを勉強し、色々なサイトやサービスを試行錯誤しながら作るようになった、という流れです。

Q:学生時代からビジネス活動をされてきましたが、もともと早いうちからキャリアを積んでいきたいという希望があったのですか。

A:もともと好奇心は旺盛で、様々なことに興味があったので、「社会で活躍する女性になりたいな」という漠然とした夢は持っていました。大学時代に今の創業メンバーで仕事を始めてからは、龍川が根っからの起業家気質だったのもあり、どんどんビジネスが楽しくなってしまって。次はこれをやりたい、その次はこれ、という風に、ビジネスやサービスづくりの楽しさに魅了されていきました。そんな中で、自分もサービスを通して世の中にインパクトを与えられる人間になりたい、という思いが強くなっていきました。

Q:それで、就職するという選択肢もある中で、卒業=創業を選ばれて。

A:就職活動にも興味はあったのですが、とにかく何をするにも常にワクワクしていたい!という気持ちが強かったので、どこかの会社で大人しく“お勤め”している自分があまり想像できなくて。同じメンバーで新しいことにチャレンジし続けていく方が絶対に楽しいし、ウェブサービスの未来に無限の可能性やワクワク感を感じていたので、あまり悩まずに決めた感じですね。

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■「システム的に難しい」とは、絶対に言いたくないんです

Q:ロケットベンチャーさんが掲げているコンセプト、いいですよね。「世界中の女子を可愛くする。」って。普通に男性でも「おもしろい」と思います。

A:ありがとうございます。「4meee!」は主に20代女子のためのメディアで、「4yuuu!」がママや主婦の方向けのメディアです。中国語版の「4meee!」もあるのですが、すべての女性に共通している願いって、やっぱり「もっと可愛くなりたい!」「もっとキレイになりたい!」なんですよ。そこで、女性たちがまず何をするかというと、必ず情報を集めるんです。雑誌を見たり、ネットを見たり、友だちから話を聞くというのもそうですし。そういった、“第一歩”の力になれるものを目指しています。

Q:すごく操作が軽やかで驚きました。デザインも“4コマ”を基本形としていてユニークで見やすいのですが、こういったアイディアも桑山さんが考えられたんですか。

A:最初は「3コマがいいんじゃない?」とも言っていたのですが、4や5や6など、いろいろ試してみて、結果4コマに落ち着きました。「4コマ(=4つの画像と4つの文章)」とコンセプトが明確だったので、初期のシステムはすべて4コマに最適化して設計し、構築しました。でも、ある時点から「内容によってはもうちょっと長い構成にしたい記事もあるし、逆に少ないコマの方がいい記事もあるよね」という流れになってきたので、構成制約をなくしてもっと自由で柔軟に記事を作成できるように変更しました。このときのシステム側の改変は思いのほか大規模になってしまい、結構大変だったんですけど(笑)。

Q:そのあたりは、ご自身がユーザーになりきって「もっとこうしたい」と感じたことを取り入れているのですか。

A:そうですね、4meee!も4yuuu!も私自身がターゲット層でもあるので、「こうだったらもっと良くなるのに」と感じたことはすぐに取り入れたくなります。こだわりたいポイントはたくさんありますが、デザインとUI/UXは特に大切にしています。エンジニア的な視点で見ると、工数や実装方法を中心に考えてしまいがちなんですが、「何が一番大切なんだっけ?」と基本に立ち返ることをいつも意識しています。サービスを作る上で、「ビジネス視点」「ユーザー視点」「エンジニア視点」の3つがあるとしたら、エンジニア視点は一番後回しにするべきだと思っているので、「システム的に難しい」とか、絶対に言いたくないんです。なぜなら、それはビジネスにもユーザーにも関係のないことだから。

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■とにかく早く、スピード重視で。良いものをたくさん見て、よく考える

Q:あくまでユーザー視点、ビジネス視点を優先されると。

A:はい。とくに女性は、色やフォントの種類といったことはもちろん、男性だとあまり気にしないちょっとした余白の取り方の違和感などにも敏感です。誘導方法にしても、「この年代の女子だったら、ここに置いたらきっとこう動いてくれるよね」という“女性ならでは”の仮説と検証を何度も繰り返しています。周囲の女の子たちにもよく聞きますね。「こういう意図があって、こういう風にしたいんだけど、このUIでわかる?」って。それで、わかりやすいとか難しいとかフィードバックを受けて、また改善して。

Q:わからなくて離脱されてしまうというのは大きいですものね。直帰率を下げるとか。

A:そうなんです。直感的に仕組みがわかって、ストレスなく感覚的にササッと使えることが重要です。ユーザーの感覚は理論ではないので、A/Bテスト以前に、良いものかどうかこちらが感覚的にわからないといけない。男性は機械操作に慣れているので、UI/UXが少しくらい難解でもわかってしまうことも多いですが、女性は少しでもわかりにくかったり面倒くさいと感じると、すぐに離脱してしまいやすいですしね。

Q:そういった感覚的なところはどうやって磨かれるのですか。

A:いろいろなものを見ることでしょうか。他のサービス、いま一番伸びているものとか、人気があるものをたくさん見て、どこが良いのか考えたり、一方でここは少し違和感があるかも、と感じた部分を突き詰めてみたり。日々、よく見て、よく考えます。そうしていると、ふとした時に「あ、これってこういうことかも」とわかる瞬間があるんですよね。昔だったら見ただけでは気づけなかったことも、積み重ねでわかるようになってくる。直感的に、でも確信を持って「良い」とか「イケてない」とかわかるようになっていくんです。

Q:他に、サービスを差別化するために取り組んでこられたのはどんなことですか。

A:早さ、でしょうか。どんなときもスピード感は常に意識しています。

Q:それは、ユーザーが使ったときのスピード感ですか?

A:それもありますが、こちら側の開発するスピード、改善するスピード、判断するスピードをとにかく早く。「こうなりたい」という姿が見えていれば、意識しなくてもスピードは上がっていきます。目的地が決まっていて、早く到着しないといけないとわかっている状況で、悠長なことは言ってられないので。

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■メガサイトをまわすたった2人のエンジニア

Q:ちなみに、言語の方はPHPで開発されているんですか。

A:そうです。PHPを選んだ理由は、初期段階でやりたいことを実現するのに一番開発スピードが早いと判断したからです。現在では、違う言語やフレームワークに変更しても構わないのですが、いまは差し迫った必要性があるわけでもないので、現状維持がベターというところです。

Q:創業後、急速にサービスが伸びられましたよね。

A:実は、サービスが一番伸びたときは、自分が予想したスピードをはるかに上回ってしまい、大変でした。あらかじめサーバーの強化もしていたのですが、成長速度がそれを超えてしまって(笑)。当時はかなり苦労もしたので、今は自動化できるところはすべて自動化したりと、少人数なりの工夫をしています。

Q:バックエンドも含めて、最初はご自身でコーディングまでされていたそうですが。

A:最初に限らず、長いあいだずっと一人でやっていました。デザインを含めたフロントエンドから、サーバーはAWSを使っているのですが、そこまでまるっと。フルスタックですべての開発を担当してきた感じです。今、エンジニアは2名体制なんですが、相変わらず私も作っていて、一人あたりの裁量は大きいですね。

Q:それは、やはりベンチャーだからという理由で?

A:それもありますが、一緒にやってくれる人とは事業の将来像や、目的意識、「こういうことをやっていきたいよね!」といった思いを共有したいんです。タスクをただこなしてもらうのではなく、「これを実現するためにはこういう工夫ができるよね」「こういうやり方もあるよ」とどんどん提案してもらいたいので、スピードやクオリティを上げていくのに、いまは少人数のほうが効率がよいと考えています。

Q:業界大手のメディアを2人のエンジニアでまわされているんですか。

A:そうですね・・・よく驚かれますが(笑)。守備範囲は確かに大きいですが、基本的にほぼすべての構成や構造を把握しているので、1人でババッとやる方が早いんです。いずれ、カバーしきれないフェーズはやってくると思うので、そのときはまた変わってくると思うのですが。

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■まだまだ足りない。人と比べてではなく、自分の理想像に近づきたい。

Q:将来像として、チーム運営に力を入れていく姿も見えているということですね。

A:はい。ただ、その前に、今はもっと自分のスキルを上げたいです。私は他社さんのCTOと比べてエンジニアとしてのキャリアも浅いですし、まだまだ知識量が足りていないな、と痛感するときもあります。「まだ足りない、もっともっと」という気持ちが、プログラミングを始めた頃からずっと続いている感じなんです。

Q:とはいえ、30歳ぐらいからエンジニアとしてのキャリアを歩み始めた方もいますよ。桑山さんがおっしゃる「足りない」というのは何と比較してなんでしょう。

A:人と比べてどうというのではなく、(小さな円を描いて)今このくらいできているとしたら、(大きな円を描いて)本当はもっとこのくらいになりたいんです。私がいなくても回る組織作りをした方がいいのかもしれませんが、現在の局面でロケットベンチャーの事業をもっと伸ばしたいと思うと、まず私自身がもっと成長した方がいいと感じるんです。今のうちにもっと私が成長すれば、チームを作ったときにメンバーに伝えられることも増えますし。

Q:なるほど。逆に桑山さんが一緒に働きたいのはどんなエンジニアですか。

A:技術力が高いこともそうですが、それ以上に、素直さや柔軟性を兼ね備えていて、一緒に感覚を共有できる方だと嬉しいですね。私が「こういう意図があるので、こうしたい」と伝えたときに、「なるほど、それならこうするといいかも」って、一緒に考えて同じ方向を見て走って行ける人が理想です。

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■エンジニアは実は女性に向いている職業

Q:女性エンジニアでCTOまで務められている方はあまりいらっしゃいませんが、この現状を桑山さんはどう感じていますか。

A:私、エンジニアという職業は、実はとても女性向きだと思ってるんです。デザインやUI/UX設計も女性向き。そして、デザインとプログラミング、この2つのスキルがあれば、活躍できるフィールドはかなり広いですよね。しかも、いずれも知識や経験を積み重ねていける職種で、成功体験はもちろん、失敗した経験もその後の仕事にどんどん生かせる。出産したり子育てに専念したりしても、知識や経験はリセットされるものではないので、個人的には「こんなにいい職業はないんじゃないか」と思うくらいです(笑)。もっとたくさん、エンジニアを目指す女性が出てきてもいいのに、と思います。

Q:確かにそうですよね。時間や場所の制約もなくすことができますし。

A:そう思います。あと「エンジニアです」というと、未だによく「理系なんですか?」と聞かれますが、実はエンジニアって文系・理系あまり関係ないんです。そのあたりをもっと多くの女性に知ってもらうためにも、さらに頑張っていきたいですね。

Q:では、男性女性関係なく、今後CTOを目指す方にもメッセージを。

A:恐れ多すぎて、私から言えることなんてないですよ(笑)。私の場合、当初3人で起業したので、自分がCTOという役割を担った、という経緯ですし。ただ、個人的には、常に視座は高く、物事を一歩引いてみることは意識しています。目の前のことで頭がいっぱいになってしまうと、何が一番大切なのかが見えなくなってしまいますから。事業の広がりとともに視点もどんどん上げて、ビジネス面でも個人のキャリア面でも「どう進んでいきたいのか」ということを見据えながら、そこに到達する方法を考え、チャレンジし続けたいと思っています。

Q:ありがとうございました。

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