「思いを仕組みに」すべては顧客成果のために – 株式会社パートナーエージェント 代表取締役社長 佐藤 茂氏

株式会社パートナーエージェント 代表取締役社長 佐藤 茂氏
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 入会者の90%が結婚をしないで辞めていくサービスを宣伝することに疑問を感じ、2006年ウェディング事業を展開していた一部上場企業の子会社として(株)パートナーエージェント設立、出向。翌年代表取締役に就任、2008年5月、MEBOにて独立。「顧客成果にこだわる」ということを一貫してやり続け10期~11期目に150%成長を果たす。真の「顧客成果」を追求し、業界の健全化と信頼への貢献を実現する秘訣とは?

■略歴
1973年、東京都世田谷生まれ。
大学在学中から広告代理店に勤め、就職。その後結婚相談所の大手企業に転職。
2006年9月、ウェディング事業を展開していた一部上場企業の子会社として
(株)パートナーエージェント設立・出向。
2007年6月より同社代表取締役。
2008年5月、MEBOにて独立。

⚫90%が辞めていくサービスへの疑問

Q:まず社会人になってからのご経歴をお話しいただけますでしょうか。

A:大学時代に入った広告代理店には、アルバイト時代も含めて5年半いました。その後、大手結婚相談所に6年、今のパートナーエージェントの立ち上げのためにウエディングプロデュース企業に移って1年半でMBEO(経営陣が株式を買い取る形式の企業買収)して、7年半になります。

Q:学生時代から広告代理店に入ったのはどういう経緯だったのでしょうか。

A:学生時代にやっていたアルバイトはいつも営業の仕事を選んでいました。その広告代理店でも営業を募集していたので、最初は派遣で行って、そのまま社員になりました。その後に入った大手結婚相談所には委託で入る予定が、当時そういった雇用形態がなく、社員として入社しました。そして1年目で取締役に、2年目で常務になり、6年在籍しました。

Q:そのスピード感で、役員に就任できた秘訣はどのようなものでしたか。

A:婚活ビジネスの業界では、広告が重要です。ダイレクトレスポンス広告で、売上に占める広告費は当時の会社で30%、弊社でも25%と非常に大きく、まさに顧客獲得の入り口のリードワークとなります。私は広告代理店時代、2年間ネット広告に携わっていたのですが、今度は逆にバイイングする立場になって、そこで業績に貢献して取締役になりました。

Q:ウエディングプロデュース企業に移った経緯を教えてください。

A:まさに今の会社の立ち上げのきっかけでもあるのですが、婚活業界は入会した方の成婚率がとても低い。私は顧客開発担当として、90%の人が結婚をしないで辞めていくサービスを宣伝することに疑問を感じていました。その時期に、子会社の社長から結婚相談所をやるから手伝ってくれと言われました。

 写真①

Q:その後、MEBOに至ったわけですね。

A:はい。2006年の9月にパートナーエージェントを設立して出向して1年半後に2008年の5月に資本独立しました。サブプライムローンの破綻、リーマン・ショックなど金融業界の不況の波も影響しています。

⚫思いが伝わる仕組みづくり

Q:今は株式の約50%を持っていらっしゃいますが、この時はいかがでしたか?

A:100%でした。そもそもその年の営業利益がマイナス4億、月次でも3,000万ほどの赤字の時代がありました。手元の資金はたかが知れていて、数カ月しか見ることができません。4月、5月は自分で見て、6月7月は広告代理店時代の創業者から借金して、8月に取引先から出資をしてもらって、それでも足りなくて取引先の支払いを1カ月から90日に変えました。

Q:黒字化するまでに、どのくらいかかりましたか。

A:単月黒字になったのは半年後ですね。計画では次の年の1月でしたが、コストを下げたり、営業が頑張ったりして、前倒しにできたところでマイナスが止まりました。今持っている50%の株式も、もともと私が資金調達したのは30%でしたので、あとは社員と、役員と個人ですね。

Q:150%成長したのは、10期から11期目でしたね!

A:それまではずっと出店コストがかさんでいました。今年、利益が出たのは、上場準備もあって去年は出店を2店舗に抑えたこと、また、今年出店した店舗が30~40坪ぐらいの小さな店舗だったので、大きな出店投資の回収ができて利益が上がりました。いままでの積み重ねが実を結んだんだと思います。

Q:組織が拡大する中、マニュアルを導入するにあたって気をつけたことはありますか。

A:私たちは常々「思いを仕組みに」を意識しています。そもそもマニュアルのない組織にマニュアルだけを導入しても、理念や考え方は浸透していきません。実現したいことがあるならば思いだけではうまくいきません。きちんと仕組み化して定着させないとその思いは継続させることができない。思いを継続するためには、体系化とその浸透がとても重要だと私は考えています。

Q:その思いを社員やマネジャーにどのように伝えていますか。

A:一通りの研修です。まず入社したら6週間の研修期間があります。年2回、4人の研修専任トレーナーが店舗を回って研修を行います。マネジャーは一つ一つの事象に基づいてしっかりコミュニケーションを取ります。というのも、私には組織風土づくりで絶対に外せないと思う信念があります。それは「業務を通じた教訓でなければ人は覚えない。理解しない」ということです。研修の題材を作って面白いと思う研修や座学で何かをやったとしても、概念がわかるだけに過ぎません。結局、理念や風土の浸透は一つ一つの事象事例を基にして相手に対する伝達が必要だと思います。特に、弊社では理念を大事にしていますので、理念に基づいた育成や組織風土づくりは欠かせません。

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⚫顧客成果を追い続ける

Q:御社は業界の中で比較的遅い参入でしたが、ポジショニングに狙いはありましたか。

A:もともと弊社は、同業他社の成婚率が低すぎるので、もっと顧客成果にこだわっていこうという思いで創業しました。その思いを具体的にしたのが弊社のビジョンや経営計画です。結果、事業ドメインやニッチ戦略という表現に当てはめればこれがそうかもしれませんが弊社はあくまで、自分たちが実現したいこと、「顧客成果にこだわる」ということを一貫してやり続けています。

Q:成婚率が高いのであれば、他社より高単価に、といった議論があるのでは?

A:確かに他社と比較して、成婚率は2〜2.5倍です。ただ、弊社は売り上げや会員数を伸ばしていくことや利益率を最大化することが目的ではありません。あくまで顧客に費用対効果を提供するという事業ドメインです。例えば、年間で掛かる費用を結婚できる確率で割ると、もうちょっとうちの会社は利益率行くのではないかという議論は社内で出ますが、私たちの存在意義に照らし合わせると、適正利益と、顧客還元と、収益還元が判断軸になります。

Q:利益を追わなくなったのは、どういうタイミングだったのですか。

A:創業時は、そもそも事業が顧客に求められるかどうかが事業存続の大基本なので、資金や利益とはそれほど関係ありません。弊社もそれは同様で、サービスが顧客に求められるのかが最初でした。そして、サービスが顧客に受け入れられて初めて、PL(損益計算書)、BS(貸借対照表)、資金繰りといった概念が出てきます。独立した直後は本当に火の車でしたので、そこではやはりある程度の営業計画を達成しなければなりませんでした。その時だけは、正直な話入会数や売上、利益に注力した時期もありました。でも、それ以外、創業以来9年間、現場に対して、売上、利益、会員数ということを一切言ったことがありません。

Q:それはすごいですね!

A:むしろ私が繰り返し伝えていたのは、契約後のクーリングオフ率の低下です。婚活業界におけるクーリングオフ率は、業界平均で10%あります。なぜ30万円の契約までして、入会してから3カ月以内に10人に1人が解約してしまうのか。私としては、これは営業行為に問題があると考えていますが、このクーリングンオフ率をなくしていくよう、ずっと求めてきました。これは社内に浸透するまでに3年ぐらいかかりました。

Q:長期的な取り組みだったのですね。

A:MEBOが終わったとき、クーリングオフ率は12%でした。これを減らしていこうと伝えたとき、社内からは反発が起きたこともありました。でも、時間をかけて説明をして、まずは目標を8%に設定し、段階的に下げ、今では4%になりました。さらに顧客が申し出たクーリングオフはすべて受け入れるという方針でした。これも、業界の健全化と信頼への貢献という考えから来ています。ようやく最近、マネジャーが部下に言える状態になりました。まさに顧客視点で2、3年かけて浸透した理念の最たる例ですね。

写真③

⚫徹底して動機と目的を考える

Q:最終的に実現したい会社の未来像はどんなものですか。

A:この業界はいろいろな解釈をされやすいかもしれませんが、40年前から必要としている方がいる産業でもあります。私が実現したいのは、この必要とされる業界のサービスを通じて、顧客や社会に貢献することです。上場したのも事業として継続させていくためです。

Q:経営をする上で大切にしている考え方を教えていただけますか。

A:よくマネジャーに話すのは、昔花王の副社長だった新保民八の言葉です。「正しきによりて滅ぶ店あらば滅びて良し、断じて滅びず」。元は幕末の国学者・平田篤胤が「正しきによりて滅ぶ国あらば滅びて良し、断じて滅びず」と歌ったのを商業版に置き換えたものだそうです。つまり、現代に置き換えて言うなら、「正しいことをやって会社がつぶれるなら別にそれで構わない。だけど、正しいことをすれば決してつぶれない」といった意味でしょうか。前の上司に教わった私の大好きな言葉ですね。

Q:最後に、今、起業を考えている方々にメッセージをお願いします!

A:私はやはり動機が大事だと思います。起業するにしても何をやるにしても、「何のためにやるか」という目的が大切だと考えます。15年間、私は競合他社ができないことを徹底しようと言い続けているのですが、どうしても成婚率と顧客満足度の高いサービス実現したいと思っているからです。これから起業したいと考えている方も、かならずしも事業がなくても、困っている人を助けたい、こんなサービスや製品でソリューションしたいといったことでもいいと思います。でも、動機の強さ、実現したい像を明確にすること大事です。何のために成し遂げたいのか、目的・動機を強く持つこと。それがなければ、経営者になり、事業を継続させていくということは簡単ではないと思います。

それから、私は、人間、生きていく上で、誰もが社会に何かしら貢献しているものだと考えています。社会の一員として、自分がどんな役に立っているかを、きちんと考えていくことが大事だと思います。どんな小さなことでも、確実に誰かのためになっている。実現したいことがあれば、その目的を明確にする。例えば、社会的名声と金銭欲があったとして、なんで名声と金が必要なのか、それはどうしてなのかどんどん掘り下げて行ったら、もしかすると別に経営者じゃなくてもいいというところに行き着くかもしれない。それでもその自分の中にある確固たる真実を見つけることこそが大事かなと思います。

———ありがとうございました。

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~急成長企業のトップは何を考えているのか~

「思いを仕組みに」すべては顧客成果のために
株式会社パートナーエージェント代表取締役社長 佐藤 茂

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ABOUTこの記事をかいた人

樋田 和正

樋田 和正(とよだ かずまさ) 長野県出身。大学卒業後、バーデンダーを経て、2014年BNGパートナーズに参画し、コンサルティング事業部にてマネージャーとしてIT系スタートアップを中心に多数のCxO採用に携わった後、2017年メディア戦略室長就任。執行役員 メディア戦略室長 / エグゼクティブキャリア総研編集長を経験。2018年同社退職。