「プロダクトをまず形にすること」と「チームビルディング」こそが勝敗を握る鍵

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■経歴

私は未知の物が大好きで宇宙に興味を持って大学に入学したんですが、教授の話を聞く中で正直ワクワクしなくなってしまったんですよ。だって宇宙ってあまりにも遠くて手元に無いじゃないですか。実際にやってみた後でわかった事でもあるんですが、僕はすぐに結果が出るものや白黒はっきり出るものが好きだったんですね。その後宇宙よりも身近な生物学に専攻を変更し研究していました。たまたま研究室にパソコンがあって自分でプログラミングしたり、サーバー立てたり無料で使ってました。当時じゃなければあり得ないですけどね(笑)大学院2年の時にiモードが開始されてすぐにiモード端末を買ってみたんですよ。これまで部屋でしか使えなかったインターネットが手元で誰もが使えるという事に衝撃を受けてモバイルインターネットの世界に挑戦したいと思いましたね。iモード端末を買ったからには実際にiモードサイトを作ってみようということで、最初は居酒屋の検索サイトとかを作ってました。大学生らしいですよね(笑)その後サイトを運営しながら新卒でIBMシステムエンジニアリング、IBMのグループ会社に入りました。

 

自分で運営していた居酒屋の検索サイトもある程度アクセスがあって、当時IBMの仕事をしながら運営費用払ってたんですよ。考えてもみてください。毎月の給与で20万円しかもらえないのにサーバー代で毎月数万円の出費があるんですよ?しかも広告収入はゼロ。なにやってるんだ?ってなりません?(笑)IBMの新人研修中だった8月に石川篤さん(サイバーエージェント創業期メンバー)と会う機会がありました。あわよくばサイバーエージェントに広告を売ってもらおうという下心もあったのですが、話していくうちに「小野さんのサイトは買えませんが、小野さんごとシーエー・モバイルに来ませんか?」と打診を受けました。このチャンスをみすみす逃す理由はない、と思い、打診を受けてから1週間後に入社しました。

 

 

シーエー・モバイルに入社して初めて知ったのですが、そもそも正社員はまだ誰もおらず、私が第一号でした。騙されましたね(笑)ビジネスモデルも売上もほぼゼロな状態で、本当にゼロからの立上げでした。当時PCサイトのみでサービス提供していた『サイバークリック』をモバイルにも展開した『アイクリック』などのモバイル広告事業立上げや、着メロなどのモバイルコンテンツ事業、そしてモバイルコマース事業などの立上げをして、最大売上約200億円、従業員約600名まで拡大することができました。事業を拡大していく中で、中国にも進出しようと2回ほど挑戦しましたが、あまりに早すぎてうまく行きませんでした。しかし中国は巨大なマーケットなので、時機を見て再度チャレンジしたいと思っていた時、小林雅と田中章雄(現インフィニティーベンチャーズLLP(以下IVP)の共同代表)に出会い、日本と中国でベンチャーキャピタルを立ち上げるアイデアを聞いて「これは面白い」と思い、共同でインフィニティ・ベンチャーズの立ち上げに加わりました。

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■投資実績・投資背景

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会社:株式会社ジモティ―
設立:2011年2月
代表:代表取締役 加藤貴博
事業:クラシファイドサイト「ジモティー」の企画・開発・運営

 

クラシファイドサービスは、米国だけでなく中国でも人気があり、『58.com』というサービスはテンセント・ホールディングスから7億米ドル以上の出資を受けるほどの規模になっており、成功しています。しかし、日本だと絶対に成功しないと言われていたんです。しかも、CtoCのビジネスモデルとして考えた場合、立上げから軌道に乗るまでに3〜5年ほど必要です。資金的な問題などもあり、日本ではそこまでリスクと時間をかけてやる人がいなかったんですね。立ち上げ当初は「アイディア」「自分たちのファンドの資金」「小野がいる」というその3つだけでスタートしました(笑)私が社長に就いて会社をひとまず立ちあげたのですが、一番優先順位の高い仕事は『自分の代わりの社長を探す事』でした。私はシーエーモバイルの立ち上げを行っていた経験もあったので、この案件に関しては事業立ち上げから関わったケースでした。新社長が決まった段階で私は社長のポジションを降りました。今は元リクルートの加藤さんに任せています。(現ジモティー株式会社代表取締役.加藤貴博氏)。

 

 

我々の投資のスタイルとして、投資家として意見を言うことはありますが、「こういう方法論があるんじゃないか」とアイディアを提示することがメインで、具体的なアドバイスをして強制することはありません。社長が自ら考えて、判断しないと会社の成長はないと思っていますので。また、事業にコミットしてもらうためにもある一定のシェアを持ってもらう事にしています。その結果もあり、ジモティーも順調に成長を続けてきております。


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会社:株式会社クーポッド→現:グルーポン・ジャパン株式会社
設立:2010年6月
代表:代表取締役CEO 瀬戸 恵介
事業:「GROUPON(グルーポン)」の企画・開発・運営

 

 

グルーポンはまだ日本で全く話題になる以前より、共同代表の田中が海外より見つけてきたサービスです。その後似たようなサービスも国内で複数立上がったのですが、まだ日本での勝機があると思っていました。というのも、海外で成功しているモデルを研究していくと、戦略として最も重要なのはネットのマーケティングに加えて、営業ネットワークを作ることだと気づきました。立上げ当初は営業部隊がいなかったので、パクレゼルヴの廣田さんと一緒にクーポッドという名前で会社を立ち上げました。結果、予想は的中してその後すぐに本家グルーポンとの資本提携が決まり、「グルーポン戦争」で後発ながらNo.1のポジションを築くことができました。グルーポン本社と交渉を始めたのは、クーポッドのサイトもまだ完成していない時期でしたが、他の似たようなサービスがすでに先行している中でグルーポンから出資を受けられたのは、我々がグルーポンの戦略の本質を正しく理解していたからだと思っています。

 

 

また、事業立上げには戦略だけでなくチームビルディングも重要です。情報収集・戦略立案・チームビルディングなど一つ一つの勝率を上げる工夫を積み重ねていくことで、勝ちに近づいていけます。この案件はインフィニティ・ベンチャーズの共同代表をしている3人の強み(海外に強い田中、ファイナンスに強い小林、事業に強い私)がバランスよく発揮された案件でもありましたね。


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会社:freee株式会社
設立:2012年7月
代表:代表取締役 佐々木大輔
事業:全自動のクラウド会計ソフト

 

freeeとの最初の出会いは弊社が開催・運営しているインフィニティベンチャーサミット(以下IVS)のLaunch Padという新サービスのデモイベントの審査の時です。審査の段階で面白いビジネスモデルだと思って目をつけていました。投資をしたタイミングはLaunch Padが終了し、freeeが優勝した直後だったのですが、正直言うとfreeeが優勝する前に投資したかったほどです。人気がある会社は他の投資家もたくさん来てしまいますから(笑)。

 

 

freeeが面白いと思った理由は、彼らが対峙している課題です。それは「中小企業の雑務を省力化させる」こと。日本の99.7%は中小企業です。モノを作ったり、売ったりしている人達にとっては、経理等の実務ってやりたくない仕事の一つですよね。特に中小企業には経理の専門知識がある人も少ないですし。いまの経理の実務は、本来デジタルなデータをわざわざ紙に出力して、また手動で入力してデジタルデータにして・・・という無駄の多い作業なんです。それらの工程が自動化できれば、その分の時間を本来の業務、モノを作ったり売ったりすることに回せますよね。freeeはそういう大局的な課題を見てサービス開発をしていました。また経理だけでなく給与計算など、関連サービスを展開していけばさらに大きな価値を産む会社に育っていくことができます。

 

 

これは代表に会って速攻で投資を決めた案件でした。当時は売上もほとんどなく、社員も10名ほど、事務所もマンションの一室でしたが、今はもう40名ほどの規模になっています。

 


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会社:株式会社スマートエデュケーション
設立:2011年6月
代表 :代表取締役 池谷大吾
事業 :学習コンテンツの企画・開発・販売

 

池谷さん(株式会社スマートエデュケーション・代表取締役)は僕のシーエー・モバイル時代の部下だったんですよ。彼がシーエー・モバイルから独立する時に相談にものっていました。彼らの当初のビジネスモデルは未就学児向けの知育アプリと英会話アプリを考えていました。当時(2010年頃)、大人向けの教育アプリ、例えば英会話アプリなどはアプリランキングでもいつも上位に入っていて、ある一定の収益をあげるためにはきっといいビジネスモデルだったでしょう。一方、子供向けの知育アプリは当時ほとんどありませんでした。

 

 

英会話アプリは稼ぎやすそうだけれど、それでもせいぜい売上の天井が予想できる程度でしかなく、何だかワクワクしなかったんですよね。だから池谷さんから未就学児向けアプリと英会話アプリの2軸のビジネスモデルを聞いた際、「未就学児向けの知育アプリの方が未来は大きい。そこに集中すべきでは。もし知育アプリに集中するなら投資を検討する」とアドバイスしました。その結果、池谷さんは他の経営幹部と二晩考えに考え抜いた結果、ほぼ完成していた英会話アプリを捨てて知育アプリ一本でやる事に決めたんですよ。この時「ここは良いチーム、いい会社になるな」と直感しました。

 

彼らが目指しているものも素晴らしいですし、優秀な人材もいる。さらに、その優秀な人達が多くいる中で、その人達の考えや方向性を動かす事ができる経営陣はすごいなと思いましたね。

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■バリエーション、チームビルディング

freeeへの投資の時は売上はほとんどなかったので企業価値の算定根拠もほぼないに等しかったですね。投資家サイドと経営者サイド、お互いの言い分があった中で折り合いをつけていくしかありません。需給バランスですよ。会社としての初期段階、シード段階であればあるほど企業価値が曖昧に見えるのは当然です。チームビルディングがしっかりできているか、戦略は間違っていないか、さらに経営者や目指すマーケットへの期待、など様々な視点から複合的に考えていく必要があります。freeeはグーグル出身のメンバーが中心となり、少数ながらいいチームが既に出来上がっていました。経営者の人徳がないと人もついてこないですよね。

 

僕らの現時点でのファンド規模は総額で100億円程度です。例えば1社に20億円出資するのは弊社としてもリスクが高いので、ポートフォリオを組んで分散して投資していくしかありません。投資先のシェアの割合も1%と20%では関わり方も違ってきますし、モチベーションも変わってきます。現在新たに100億円規模のファンドの立ち上げを行っています。スタートアップへ500万円規模から出資するTechTempleというシード案件向けの投資育成プログラムも立ち上げていますので、より創業間もない段階の企業にも投資機会が増えていくと考えています。

 

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■投資姿勢 事業家に向けて

投資するかどうかを決定するにあたり、まず既にプロダクトになっている事が大前提ですね。先ほどお話したジモティーやクーポッドはゼロから自分たちで立上げた投資案件ですので例外でしたが、スマートエデュケーションやfreeeに関しては実際に動くデモはありました。例えばですが「Amazonを超えるサービスを作るんです!」と宣言するのは誰にでもできますが、当然簡単ではありません。僕らの投資方針としては、デモの段階でいいので、ある程度できているものがあることを前提としております。アイデアだけで、これから実現しようとしているのと、既に形にしているのでは全然意味合いが違います。

 

 

また、様々なスタートアップの方と会う時に感じることとしては、戦略、ビジネスモデル、ビジネス上の課題などをあまり考えないで来ている人が多いなと感じています。ちょっと指摘をすると何も言い返せなくなってしまう、考えられうる課題をぶつけるとへこんで帰って行くケースが多いです。でも考えてもみてください。サービスを世に出すというのはそんな甘くありません。誰にも使われないでスルーされたり、けなされるなんて日常茶飯事です。何か指摘や課題に出会った際、その場ですぐに考えて反応できる経営者というのは、逆に期待感も持てます。でも、そういった思考力は、普段から自分のビジネスやサービスと向き合って、自分でそれらの課題をアタマの中でシミュレーションしていなければ、なかなか手に入るものではありません。孫さん位のレベルだと「脳がちぎれるくらい考える」ようですが(笑)。

 

 

これから新しいアイデアを実現していきたい事業家の人達には、本気で情熱を向けて実現したいサービスであればこそ、ぜひ普段から必死に考えてサービスと向きあうことをお勧めします。


 

 

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